ウサベルトせんせェとジェットくん

Act 6



 ジェットを、また家に呼んだ。
 今回は、とにかく発情期を何とかするために。だって、仕方がないじゃないか。他に方法なんか思いつかない。
 「せんせェ、これ。」
 家に入るなり、紙袋にいっぱいのリンゴを差し出す。何だ、甘い匂いがすると思ったら、リンゴだったのか。
 おいしそうだったので、さっそく一口。かぷり。しょりしょりしょりしょり。
 季節外れで、実は小さいけれど、甘くておいしい。しょりしょりしょりしょり。
 ジェットがそれを見て、
 「皮むいてあげるよ、せんせェ。」
と、なんだか優しい声で言った。
 どうしたんだろう、胸がどくどくする。ああ、また発情期だ。


 ウサベルトせんせェは、オレが持って来たリンゴを、うれしそうに食べ始めた。
 耳と尻尾がぴくぴくしてる。か、かわいい。一心不乱にリンゴをかじるウサベルトせんせェの前歯、ああ、かわいい。
 オレはせんせェのために、リンゴの皮をむくことにした。リンゴの皮だけは、ちゃんとむけるんだ、オレ。
 小さなリンゴを4つに切って、芯を取って、それから、ウサギリンゴにする。耳になる部分をちゃんと残して皮をむいて、できるたびにせんせェに渡した。
 ウサベルトせんせェは、それをじっと眺めてから、ありがとうと言って、またしょりしょりリンゴを食べる。
 オレはそんなせんせェに、じっと見惚れてた。

 
 しょりしょり、ジェットが皮をむいてくれたリンゴを食べていたら、いきなりジェットが、いたっ、と声を上げた。
 見ると、指をナイフで切って、血が流れている。
 思う間もなく、ジェットの指を取って、口の中に入れた。
 リンゴの甘味の上に広がる、血の匂い。
 傷口に舌を当てて押さえ、血を止めようとしてみた。
 血の味が止まった頃、指を離してジェットを見上げた瞬間、床に押し倒された。


 「せ、せんせェ、オレ、ウサベルトせんせェのこと、本気だから」
とか何とか、支離滅裂なことを言いながら、オレはもう、頭が考えるより先に、動いてしまう体に従って、せんせェを床に押し倒した。
 柔らかいウサベルトせんせェの毛。耳にさわって、キスした。
 ぴくぴく、せんせェの耳が動く。怒ってないよね、怒ってないよね、せんせェ?
 そろそろと手を伸ばして、念願の、ウサベルトせんせェの尻尾にさわった。
 ふわふわの、まるい尻尾。いつも、歩くたびに揺れてて、かわいい尻尾。
 オレの掌の中で、ふるふるしてる。
 せんせェ、オレ、せんせェのこと、このまま食べちゃいたい!


 巣作りはまだすんでないし、準備も完了してないけれど、どうやらそういう態勢に入ったらしいので、驚きながらも、ジェットの好きにさせることにした。
 知識のある相手に任せた方が、こういうことはうまく行く、と思う。
 こんな時は、一体どこを見てればいいんだろう。ジェットの顔を真正面から見たら、何だか胸がどきどきするじゃないか。
 腕は背中に回した方がいいのかな。
 どうして大学は、こういうことはちっとも教えてくれないのだろう。
 ジェットが尻尾に触れてきた。ムズムズする。尻尾だけじゃなく、体中がムズムズする。
 ジェットが何か、ごそごそやってるんだが、一体何なんだ。


 ど、どうしよう。オレ、どうしよう。
 これからどうするんだろう? どうやるんだろう? どうやって、ウサベルトせんせェとゴニョゴニョゴニョ・・・・・。
 オレ、てっきりせんせェが教えてくれるもんだと思ってたのに、せんせェはオレの腕の中でじっとしたまま、何もしてくれないし、何も言ってくれない。
 オレはもう、準備オッケーなんだけど、ここから先は、どうやるんだろう?
 どうするんだっけ?
 あー、どうしてオレ、ちゃんとあのビデオ、見とかなかったかな。ピュンマのヤツが合宿に持って来た、アブないビデオ。もっとも、ボカシだらけで、何にも見えなかったけど。
 どうしよう、オレ。
 ど、どうしよう、また今度って言ったら、せんせェ怒るかなあ・・・。
 今度、ちゃんとオレ、勉強してくるからって・・・せんせェ、怒るかなあ。


 ジェットは、どうしたのか、いきなり起き上がって、またにしようよウサべルトせんせェ、と息を弾ませて言った後、またばたばたと走って出て行ってしまった。
 ふむ。どうしたんだろう。まだ発情期じゃなかったんだろうか。
 胸がどきどきする。ジェットの手が、肩に熱かった。意外と体が大きいんだな。見たより力も強いし。ふん。
 起き上がって、乱れた毛をつくろい直した。耳をきちんと折って、尻尾もちゃんと、忘れずに毛づくろいする。
 胸がまだ、どきどきする。発情期だ。
 ジェットがむいてくれたリンゴが、まだテーブルに残っていて、それをまた、食べ始める。
 しょりしょりしょりしょり。リンゴは、なぜだか、さっきより、もっと甘い気がする。しょりしょりしょりしょり。
 ジェットが持って来て、皮をむいてくれたリンゴ。しょりしょりしょりしょり。
 胸がどきどきする。しょりしょりしょりしょり。どきどきどきどき。しょりしょりしょりしょり。どきどきどきどき。
 ジェットが、今度はきちんと発情期だといいな。


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