ウサベルトせんせェとジェットくん

Act 7



 さて、またジェットがやって来た。
 宿題を抱えて、勉強しに来た、らしいけれど、どうしてだか、大きなレタスを持って来てくれた。
 冷たくて、硬い手触りで、さっそく葉をむいて食べる。
 ぱりぱりぱりぱり。
 ジェットがなぜだか、こちらをじっと見ている。


 ウサベルトせんせェのゴキゲンとりに、レタス持参。せんせェ、レタスも好きらしい。
 両手で、うすいみどりいろの葉を持って、一心不乱に食べるせんせェは、ものすごくかわいい。
 前歯が、ちらりと見える。オレがレタスになりたい。
 ぴくぴく、両耳が動いてる。
 オレはそれを、じっと見ている。


 ぱりぱり。おっと、勉強も教えなきゃ。
 ジェットに教科書を開かせて、まだレタスをぱりぱり食べながら、宿題を始めた。
 英語は、それなりに得意らしい。別に質問もせず、すらすらと空欄をアルファベットで埋めてゆく。
 でも、三単元のsが抜けてる。throwの過去形は、throwedじゃなくてthrew。
 辞書で頭を叩いてやろうかと思ったけれど、体罰は趣味じゃないので、ちょっと左耳をぴくぴくさせただけにした。


 せんせェの耳が、またぴくぴくしてる。
 ウサベルトせんせェ、一体オレの気持ちに気づいてるのかなあ。
 この間押し倒したのも、別にあれから何も言わないけど、まだもしかして、怒ってるのかな。
 怒ってるとしたら、どっちだろう。オレが押し倒しちゃったからか、それとも、オレが途中でやめちゃったからか。
 どっちなんだろう。


 ジェットが、ノートから顔を上げて、こちらをじっと見ている。
 どうしたんだろう。レタスの食べ方が、おかしかったんだろうか。やっぱり、ぱりぱり音を立てて食べるのは下品かな。
 食べかけのレタスの葉を、残りのレタスの上に置いたら、ジェットの手が、右腕に伸びてきた。
 そのまま引き寄せられて、また、キスされた。
 赤い髪が目の前を覆う。また、胸がどきどきして、尻尾がムズムズする。変な気分だ。


 ウサベルトせんせェ、キスしてるのに、目も閉じずに、でもじっとしてる。
 今日はレタス味のキス。今度はもう少し、ロマンチックな味のするくだものにでもしよう。野菜味のキスも、悪くはないけどさ。
 ようやく目を閉じてくれたので、オレは、上目に、せんせェの耳を見た。
 ぴくぴくしてる。両方とも。
 両腕を、せんせェの背中に回して、それから、もう少し、手を下に伸ばした。せんせェの、ふるふるしてる、尻尾に向かって。


 ジェットが、尻尾に触った。どうしてだか、ふんわりした気分になる。
 頬が赤くなってるのが、自分でわかる。どうしたんだろう。
 戸惑いながら、やっと、ジェットの背中に両腕を回した。
 右腕の、機械の方の腕が硬くて、もしかするとジェットはいやかもしれない。
 ちょっとだけ、悲しくなる。


 ウサベルトせんせェの背中は、暖かくて、合わせた胸が、呼吸で動いてるのが、オレに伝わる。
 このまま、せんせェのこと、さらってどこかに行けたらいいのに。
 そういえば、この服(?)って、どうやって脱がすんだろう。
 この間、押し倒した時、確かめる前にやめちゃったもんな、オレ。
 キスしたまま、オレはさりげなく、せんせェの服(?)を脱がせる場所を探した。


 何だかジェットが、背中や腰の辺りを、ごそごそ触っている。
 くすぐったいじゃないか。思わず吹き出しそうになって、キスの最中にそれはまずいので、我慢した。
 それにしても、いいかげんに、終わらせてくれないかな。そろそろ耳のつけ根の辺りがかゆくなってきた。
 むずむず。ああ、我慢できない。思いっ切り、ひっかきたい、左耳のつけ根!
 食べかけのレタスも、何だか気になる。


 げっ、これって、背中全部ボタン? しかも、やたらと小さいみたいだ。げっ。
 オレ、自慢じゃないけど、手先、不器用なんだよな。こんな数の、こんな小さなボタン、外そうと思ったら、1日かかっちゃうよ。でも、これ外さないと、せんせェと、できないし・・・外してるうちに、せんせェ、きっと退屈して、寝ちゃうよ。
 ちょっとずらしたら、何とかできるかなあ、ボタン外さなくても・・・?
 でも、どこをどうしてどうするんだろう、せんせェとするって?


 ジェットがやっと、キスを終わらせてくれた。良かった、やっと深呼吸ができる。
 尻尾がムズムズする。発情期は、一体いつ終わるんだろう。それともジェットが、何とかしてくれるんだろうか。
 ジェットに抱きしめられたまま、まだ、耳のつけ根がかゆいのを気にしていた。
 それから、食べかけのレタスも。
 でも、ジェットとキスするのも、悪くはない。発情期も、そんなにいやじゃないかもしれない。


 ウサベルトせんせェは、キスが終わっても、何も言わずにオレの腕の中にいた。
 かわいいなあ・・・でも今度は、オレンジか何かの味のするキスにしようよ、せんせェ。
 それから、この背中のボタン、何とかしてよね、せんせェ。オレ、こんなの全部外せないよ。
 オレ、いつになったら、せんせェとできるんだろう。練習した方がいいのかなあ、やっぱり。
 せんせェのふるふるする尻尾に、もう一回だけ、さわった。


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