ウサベルトせんせェとジェットくん

Act 8



 「ウサベルトせんせェ、今日誕生日だよね!」
 ジェットが、リンゴとセロリのいっぱい入った箱を抱えて、職員室へやって来た。
 もう放課後で、他の先生たちはもういない。
 リンゴの甘い匂いと、セロリのちょっと苦い匂い。くんくんと、思わず鼻を鳴らした。
 「これ、せんせェに、プレゼント!」
 勢いをつけて箱を差し出した。
 こんなにひとりで食べきれるかな。まあ、いいや、今度またジェットが遊びに(勉強しに)来た時に、皮をむいてもらって、一緒に食べよう。セロリは好きかな。
 箱を受け取って、机に置いて、ありがとうと微笑んで見せる。それだけでジェットは頬を真っ赤にして、うつむいてしまう。
 何だ、また尻尾がムズムズする。胸も、何だかどきどきする。
 思わず胸に手を当てたら、ジェットがその手とつかんできた。
 学校の床って、どうしてこう、固くて冷たいんだろう。押し倒されて、そう思った。椅子で頭を打たなくて良かったなあと思いながら、ジェットがおおいかぶさってくるのに、背中に両腕を回した。


 ウサベルトせんせェの誕生日、オレ、調べたんだ。リンゴとセロリのプレゼント、これでせんせェのハートもばっちり!
 だ、大丈夫かな、背中のボタン・・・あれ、ボタンがない・・・じゃあこれって・・・ゴソゴソあちこち触ってたら、お腹のところから、服が別れてるのを発見!
 そうっとめくり上げて、手を差し入れた。
 ウサベルトせんせェの、素肌。あったかい。
 オレのと同じだなあ、と思いながら、もう少し上に、指を運んだ。
 それから、ちょっとだけ、もう少しだけ、大胆に、せんせェに触った。
 ウサベルトせんせェの心臓が、どきどきしてるのが、掌にわかる。
 せんせェ、なんだ、見た目が同じでも、色々な服、持ってるんだ。良かった、今日のが、あの、背中じゅうボタンだらけのじゃなくて。
 せんせェの、裸の背中に腕を回して、キスした。
 オレはまだ、シャツなんか脱ぐ余裕なくて、でも、シャツ越しに、せんせェの体温がわかる。
 ウサギって、人間より体温高いんだっけ? ウサベルトせんせェ、何だか熱い気がする。


 ジェットが、胸に手を差し入れてきた。
 ふん、別にいやじゃない。でも、何だか変な気分だ。ちくちく、鳥肌が立つみたいな。あ、そんなところに触ったら、くすぐったいじゃないか。硬くなって、とがってるのに、ジェットが指先を触れさせる。肩と首筋が、妙にそそけ立った。
 胸がどきどきする。止まらない。何だか、体中が軽くなって、ふわふわ浮き出すような、そんな感じ。
 ところで、職員室でこんなことは、まずいような気がする。ジェットにそう言って、場所を変えた方がいいんだろうか。それともこの際だから、とにかく好きにさせた方がいいんだろうか。
 どうしよう。ふん。まあいいや、何とかなるだろう。


 ウサベルトせんせェ、オレのシャツ脱がすとか、何にもしてくれないから、オレは仕方なく、自分でシャツを脱いだ。オレ、自慢じゃないけど、肩幅広いんだ。せんせェ、気づいてくれたかな。
 そう言えば、ウサベルトせんせェ、経験あるのかなあ。オレは初めてだけど・・・もしかして、せんせェも初めてなのかなあ。そうすると、どうしてやるのか、せんせェも知らないのかな。訊いたら怒られるかなあ。どうしよう、オレ、またわかんなくなったら。
 ところで、ここ職員室だけど、いいのかな、このまま、せんせェの服(?)、ここで脱がしちゃったりして。せんせェ、何も言わないんだけど・・・オレが始めちゃったんだから、オレが悪いんだけど、でも、いいのかな、オレ、このまま最後までイっちゃっても?
 そう思いながら、オレはそっと、手を下に伸ばした。


 何だかよくわからないんだが、そういうところに、そういう風に、触れるものなのか。ふーん。また尻尾がムズムズする。
 あ、こら、何だか変なことになっちゃってるじゃないか。そんなとこ、そんなことをしたら・・・どうなるんだろう?
 ジェットが、体を下げて、みぞおちの辺りにキスした。また、ざわざわと、皮膚の下に、鳥肌でも立つような、そんな感じがする。
 勉強は出来なくても、こういうことはよく知ってるんだなあ。どこで一体、こんなことを教わるんだろう。
 ジェットが、少しずつ、キスする位置を変える。もっと、ずっと下に、行く。掌は、胸に触れたままだ。
 耳が、ぴん、と立った。
 尻尾が、硬くなって、ふるふるしてるのがわかる。何だか変な気分だ。


 も、もういいかな。ウサベルトせんせェの下、脱がしても、いいかな?
 オレは、恐る恐るせんせェの様子をうかがいながら、下を脱がせようと、両手をかけた。
 あ・・・ぬ、脱げない。尻尾が引っかかって、脱げない!
 あんまり必死になって、この場が白けるのがイヤだったオレは、ちょっと試しに、すそから手を差し入れてみた。
 やった、ちゃんと伸縮自在で、めくるのオッケー!
 こっちからの方が、大丈夫かも。オレは手を差し入れて、せんせェの腰の辺りに、下からじかに触った。
 ・・・・ほんとに、尻尾、ここからじかについてるんだなあ。服(?)の付属品じゃないんだ。ふーん。 
 せんせェの尻尾、ふるふるしてる。
 

 ジェットにうながされて、うつ伏せになった。頬に床が冷たい。変なカッコウさせるんだな。こんな四つん這いになって、どうするんだろう?
 ジェットの手が、腿の辺りに触れる。そこから、もっと上に方に、指先が入り込んできた。
 何だか、その辺りがすうすうする。
 何をするんだ、一体?


 後ろからなんて、オレ、よくわかんないけど、こっちの方が、やりやすそうだから、とりあえず、せんせェにうつ伏せになってもらって・・・うわ、なんてカッコウなんだか。せんせェ、そんな肩越しに、オレのことなんか見ないでよ。
 オレ、もう、準備オッケー。っていうか、せんせェに出逢って以来、ずっといつもこんなだったけど。やっと、やっと、せんせェにさせてもらえるんだ、オレ!
 で、これでいいのかな・・・ここかな? いいのかな、こんなとこに、オレ、しちゃっても・・・大丈夫かな、オレ?


 涙が出るかと思った。声も出なかった。
 もがいたら、背中に乗っていたジェットのあごと鼻に、後ろ頭が当たったらしい。
 そのまま、ジェットは後ろに倒れて、動かなくなった。
 血は出てないけど、ずいぶんひどく当てたのかな。悪かったかな。痛かったかな。
 痛む後頭部に触れると、もっと痛かった。
 一体ジェットは、何をしようとしたんだ、あんなところに。痛いに決まってるじゃないか、あんなところにあんなこと・・・一体何なんだ。目が覚めたらちゃんと叱ってやらないと。
 ジェットが脱いだシャツを、体の前にかけてやって、気がつくまで、待つことにした。
 身支度を整えて、毛づくろいをする。それから、リンゴがあったことに気づいて、それをひとつ、箱から取った。
 ああ、すっかり薄暗くなってる。帰りは送ってやらないと。まったく、いつまでも困った生徒だ。
 しゃりしゃりしゃり。リンゴが甘い。残念だな、ジェットがウサギリンゴにむいてくれなくて。


 やった、と思った瞬間、ウサベルトせんせェの後ろ頭に、顔の全面を強打されて、オレはあっけなく気を失った。
 せんせェ、痛かったみたいだ。そりゃそうだよな、あんなとこにあんなの、痛いの決まってる。でも、だからって、これってちょっと悲しい。
 気を失って、オレは夢を見た。
 ウサベルトせんせェが、オレのむいたウサギリンゴを、両手に持って、おいしそうに食べてた。しゃりしゃりしゃりしゃり。
 どうしてだかせんせェは、ブーツも手袋もつけてるのに、それ以外は裸で、耳と尻尾が、うれしそうにぴくぴくしてた。せんせェの肩とか、胸とか、首筋とか・・・ウサベルトせんせェ、オレ、せんせェのこと、すごい好きだ。
 もうちょっと、ちゃんと勉強して来るから、今度は痛くないようにするから、またしてもいい? そう訊いたら、せんせェはにっこり笑って、いいよって言ってくれた。
 オレは、思わず、せんせェにキスした。
 リンゴの味のする、キス。
 リンゴの甘い匂いが、何だかオレ、幸せだった。


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