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And It Stoned Me

by 水無瀬ミドリさま@Such a Night

 息をつくのも惜しいほどにくちびるを吸いあい、肌を擦りあわせ、徐々に押し開く。熱くほとびるものを、濡れてほころぶ彼の薔薇にあてがうと、それは吸いつくようにうごめき、おれを内側へと、迎え入れてくれた。
 「あ……あぁ……」
 深い吐息をつき、彼は白い喉を紅潮させて、のけぞらせる。みずから腰を揺すり、繋がりを深くしてゆく。抱え上げた右脚がひきつる。膝をそっと愛撫しながら、奧深くをやさしく擦りあげると、くちびるから甘美な声がこぼれはじめた。
 つくりものだというのに、しなやかに、やわらかくふるえる粘膜。くちづけと同じうごきで、おれを絡め取ろうとする。今宵は昇りつめるのが早いかもしれない。そう思ったとき、いきなり耳元で物騒な音が鳴って、一気に血の気がひくのがわかった。
 「で……出ちまう!」
 「え?」
 思わずぎょっとして、腕の中の彼を正視してしまった。なにが起こったのか、認識できない。しかし、動きを止めたおれにじれたのか、彼がふたたび腰を揺すったとき、また耳元で金属音が響いた。そして不自然に、ぶらぶらと肩の上で揺れる彼の右脚。膝下の部分がぶらさがっているのだと気付いたとき、ようやくおれは、今の状況を理解することができた。
 彼はまだ、自分の身に起こったことに気づいていない。おぼろに霞む青灰色のひとみが、ぼんやりとこちらを見上げている。しかし身じろいだ拍子に、おれの先端が彼のひどく敏感な箇所を、強く突いてしまった。途端、彼は弓なりに背骨をたわめ、するどく息を吸い込んだ喉が笛のような音をたてた。
 「はッ……い、いや、出る! 出ちまうよぉ、たすけ……グレート!」
 「だ、だから、なにが」
 「ミサイル! ミサイルが出ちまう、あぁあああああああ……!!」
 ほとんど悲鳴に近い声を張り上げ、身をくねらせる。すさまじい勢いで絞り上げられ、快楽と恐怖に眼が眩んだ。彼の動きがあまりに激しくて、身を退くまでもなく、繋がりはほどけてしまう。それでもなお、波にさらわれたまま髪を振り乱し、身悶えする彼をつかまえてかるく頬を叩くと、ようやく視線がまじわった。
 「アルベルト、おい、アルベルト! 大丈夫か!」
 「……」
 「ちょっと、落ち着かないか。いったいどうしちまったんだ、今夜は?」
 荒い呼吸に胸をあえがせ、彼はごくりと喉を鳴らす。ゆっくりと視線が動き、ある一点に注がれた。そこには彼自身の右脚が、シーツの上に投げ出されている。ミサイルの発射口が完全に開いてしまった膝を、しばらくそのまま感情のない眼で見つめていたが、やがてふるえる両手で、顔を覆った。
 「アルベルト!」
 「……!!」
 かすれた叫び声をあげて、彼はあとじさる。発射口が開いたままの右脚を引きずり寄せると、からだを丸め、火がついたように泣きじゃくりはじめた。強く振り払われながらも、構わず腕を伸ばし、しっかりと抱きしめる。鋼の拳に何度かしたたかに殴られ、眼から火花が散ったが、ひるまず渾身の力で抱きしめ続けた。
 それから、30分ほど後だろうか。引き潮のように、間遠になっていったすすり泣きがようやくおさまり、ぽつりと彼が、呟いたのは。
 「……みせたく、なかった」
 「……え?」
 「いくらあんたでも、あんな姿、みせたくなかったのに。……」
 ガシャ、と腹の下で、音がした。彼が右膝を抱えている。開いたままだった発射口を、手で閉めたのだろう。そのまま彼はまたからだを丸めて、抱えた膝に顔を埋めた。
 「今さらなに言ってんだね、おまえさんは。おれがどろどろの化け物になってる姿だって、何度も見たろうに」
 「セックスの最中にああなる訳じゃないだろう、あんたは。でもぼくは」
 「あまり気に病みなさんな。快楽に負けちまうなんざ、まさに人間である証じゃないか」
 「人間? どこがだよ!」
 昔のようにとげとげしい眼でおれを睨むと、彼は抱えていた右膝を突き出す。また物騒な音がして、発射口が開いた。
 「こんなからだだからこそ、自分のからだを常に制御するのが、おれのつとめだ。なのにさっき、それができなくなった。そういう自分を許せないんだよ! 下手するとグレート、あんたを傷つけるどころか、生命の危険に晒していたかもしれないんだぞ!」
 「ミサイルは入ってないじゃないか。なら事故になりようもない」
 「そういう問題じゃない! そういう問題じゃないんだ!」
 枕を床に叩き付け、彼は吠えた。破裂した枕から、羽根が飛び出して散乱する。
 「また……いやになっちまう。このからだが……」
 「……アルベルト」
 「せっかくあんたに愛されて、ぼくもこのからだを、好きになれていたのに……」
 まなじりが裂けんばかりに見開かれたひとみから、また大粒の涙がこぼれ落ちる。歯を食いしばり、必死に涙を堪えようとする彼を今一度抱き寄せ、ゆっくりと背中を撫でてやった。くぐもった唸り声をあげながら、彼が首筋に、鼻面を押しつけてくる。こういうときは、気が済むまで感情を吐き出させてやったほうがよい。そしてまたひとつ、心の枷をはずしてやる手助けをしてやらなければ。
 「……そうか、まだ気を遣ってたんだなあ、おまえさんは。……」
 「……?」
 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔のまま、彼はぼんやりと、おれを見上げる。かわいい顔してるぞ、今のおまえさんは、と言うと、口角をぐいと下げた。こういう反応ができるなら、大丈夫だ。
 「お互いにからだの中まで明け渡して、誰よりも知ってる仲なんだぞ、おれたちは? いまさら隠し立てしたり、取り繕ったりする必要なんて、どこにもない。ちょっとの間、自制心をなくした姿を晒したって、気にすることもない。長年連れ添った夫婦が、互いの前で屁をこいたりするだろう? あれはうっかり油断してた訳じゃない。してもかまわないから、するんだ」
 「……じゃあなんだ、さっきのは屁をこいたのと、同じこと?」
 「そうだな。おまえさん、昔彼女の前で、しちまったことは?」
 答える代わりに、彼はむっつりとした表情で、そっぽを向く。かっこつけのおまえさんらしい、と言うと、肘でこづかれた。
 「つまりね、おまえさんは自分で思ってるよりもはるかに、気を遣う人間なのさ。肉親や、親しい相手の前ですらね。もしおまえさんが快楽の絶頂で屁をこいちまおうが、マントヒヒみたいな声を出しちまおうが、本当に愛しているなら愛が冷めるなんてことはない。まあ、不幸にしておれたちのこのからだじゃ、屁をこくことはできん訳だが」
 「……」
 「たとえ、きみのからだが昔のように、プラスティックの装甲に覆われていても、その膝のように全身金属が剥き出しでも、……おれがきみをいとおしく思う気持ちは、変わらんよ。きみのこの、美しい姿はもちろん好きだが、きみというひとそのものが、いとしくてならない。見栄っ張りのきみも、自分を愛せないきみも、さみしがりやのきみも」
 「……グレート……」
 「どんなきみであろうと、おれはきみを愛しているよ、アルベルト」
 発射口が開いたままの右膝に、そっとくちづける。すると、彼が小さく、息を呑んだ。
 「……感じる?」
 「……ん」
 照れくさそうにほほえみ。彼が頬を寄せてくる。吸い寄せられるように、触れるだけのくちづけを交わした。
 ミサイルは入っていないとわかっているから、じかに発射口の中を覗き込んだ。磨き上げられた砲身の曲面が、ベッドサイドのあかりを反射して、鈍く光っている。
 「きれいだ。とても」
 「……」
 「中に、触れてみてもいいかね?」
 「感覚は、ないんだけれど」
 触れてくれ、と囁く彼のことばに誘われ、そっとその内側に、指を滑らせる。すると彼の内腿が、ひくりとふるえるのがありありとわかった。
 「あぁ……」
 とろけるような、甘い声だった。思わず手の甲を口に当てて、声を遮ろうとするのを、おしとどめた。発射口にももう一度接吻し、くちびるで縁をなぞりながら、手首が隠れるまで奧深く指を差し入れて、内側から彼を愛撫する。感覚のないはずの場所に触れられて、あきらかに彼は、興奮していた。白い肌をあでやかに上気させ、萎えていたペニスすら、ふくらみはじめている。
 左の膝にも、接吻を捧げた。それだけで、そちらもガシャンと音をたてて、発射口があいてしまう。彼は構わず膝を立てたまま身を横たえ、からだを開いて、ゆったりとほほえむ。砲身を撫でながら、おれは彼の腿にくちびるを伝わせ、ゆっくりとうすももいろの谷間へと、降りてゆく。
 そっと舌先でつついて、襞をなぞると、彼の薔薇はふたたび、花開かんとふるえはじめる。指先はまだ、彼の膝の中にあった。なめらかな砲身が熱を帯びてくるのを感じる。彼が身じろぐたび、両の膝が金属音をたてたが、もはやそれは、互いの官能をたかぶらせるよすがになっていた。
 「アルベルト、あるがままのきみを……愛させておくれ。存分に」
 ゆっくりと、彼の中に入りながら、囁きかける。うるんだひとみを輝かせ、おれをしっとりと包み込む彼が、安堵にも似た吐息とともに、囁く。しなやかに、律動しながら。
 「存分に……グレート。ぼくのすべてを、あんたで、満たしてくれ」

まさに強奪でいただいてしまいました、発射口エロス!! 膝の発射口は大変エロスですね(ニヤニヤ)。
いただいて以来、顔が萌えでゆるみっ放しで困っておりますが(困ってない)、改めて74はエロいですね(*´Д`)
結婚しろとは無理に言わないから、お互いを伴侶呼ばわりしてればいいじゃないかこのふたり。発射口とスキンヘッドを愛で合ってればいいよ!!
大変素敵な74でした。眼福でした。ごちそうさまでしたー!!

* 背景素材@NEO HIMEISM

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