あらし」番外編 by さとみさま




Decadence
− Another "Tempest" −




何を考えてると問われたのは、グレートと激しく交わった後だった。
外国への長期出張から久しぶりに戻った夜は、下着を着けずにシルクのガウンを纏いグレートを待つ。
お互い飢えていたのだと嵐が去ってから、苦笑とともに行為をおもいだす。
「・・・グレート?」
体の中にまだいる彼を優しく締め付けながら、脚を絡め腰を引き寄せる。ふたりの間に遠慮も恥じらいも必要ないように躾けたのは、彼だ。
アルベルトは欲しいものは欲しいと言うように、したいことは態度で示すように、それが当然とおもっていた。夜の行為では。
グレートとの行為を最初にねだったのは、少年だった自分のほうだ。
「・・・・あの赤毛の若者と近頃遊んでるそうじゃないか?」
「あれは違う・・・」
「しけた中年よりも、手のかかる若者のほうが楽しいんじゃないか?」
「あれは・・・何も知らない。若さしかない」
「君から若さを奪ったのは私だからな・・・。気になるか?」
久しぶりにグレートを味わいたいのに、下町の臭いのする若者をグレートとの床に招くのは無粋ではないか。
若者の名前はジェットという。イタリア系の血が流れているらしい。髪は赤く、背は高く細い。
骨格は荒々しく尖り、無駄な肉はひとつも無い。
こちらを何か問いたげにじっと見つめてる。書籍に興味があるのだろうかと最初は考えた。
アルベルトは書店経営者なのだ。
こちらをずっと眺めてたのは会話の糸口を考えていたらしく、書籍よりもむしろ映画をジェットは好むようだった。
「・・・もうおねむか・・・?まだ味わい足りないのだが」
アルベルトの欲を刺激するようにグレートが体を揺さぶる。自分はさぞかし淫らな貌をしてるだろうとおもう。
グレートと一つになること。彼と溶け合うことに何の恥があるというのだろう。
彼がそう望むなら、いくらでも淫売になってやるさ。彼の望みが自分の悦びなのだから。
優しく満たされる行為に溺れる自分もいれば、奪われ辱められる行為に震える自分もいる。
ジェットと一線を越えたのは、偶然ではなく必然かもしれないとアルベルトは考える。
脚を開け、もっと腰を高く上げろ、奥まで見せてみろ。ジェットは命令しか言わない。
違うことを言うとおもえば、あきれた淫売だなとか後ろだけでイケるんだろうとかアルベルトを卑下する台詞しか聞かない。
ジェットとの行為は、アルベルトを性の溺者にするのだ。巻き込まれ必死になり声を出して求める。
ゆりかごの中でまどろむようなグレートとの交わりと正反対だ。
何故、自分の肉体と心は遠く離れてしまうのか。
自分というちっぽけな体の中には、それに似合わない重い泥が沈殿しているうようにアルベルトは思う。






アルベルトを覚醒させたのは、ジェットだった。
専門書ばかり扱うアルベルトの店は、立ち読みをする客はいないに等しい。一人で店番していることが裏目にでた。ジェットは突然現れアルベルトを狭い書庫に押し込み、そこで彼を抱いた。
書庫での淫らな行為は止めてくれと訴えたが、ジェットは何故そんなことを言うとばかりに少し傷ついたという貌をし、アルベルトにしたくないのかと問い、アルベルトがあからさまな問いに口を閉ざせば、あんたを抱きたいと首筋に鼻先を寄せてくる。
ジェットは我儘で気まぐれな動物だ。自分の望みは必ず通り、上目遣いに強請れば落ちない人間はいないと本気でおもっている。
アルベルトはそんな人間は大嫌いなはずだった。がしかし、自分を抱きたいと言う青年との情事は、これで最後と決められないくらい体が悦ぶ。大部分が金属の義肢だというのに、生身の肉体は忌々しいものだとアルベルトはおもう。
「・・・大丈夫か・・・?」
書庫で裸に剥かれ抱かれた後、少し意識が飛んでいたようだ。ジェットが少し心配そうな顔で覗き込んでくる。体にはジェットの上着がかけられていた。
「・・・これは君が・・・?」
「ああ・・・。悪かったよ。無理させて」
我儘な雄猫も反省はするらしい。
「平気さ。だが、ここを使うのは止めて欲しいな」
「やっぱりさ、高価いものばかりあるんだろう?俺は本なんて読まないけどさ」
「・・・値段じゃない。君だって愛してる物があるだろう。服はどこだ・・・?」
「まだその格好でいろって」
「悪趣味だな君は。服はどこだ?」
ジェットは上着をいきなり引っ張り、アルベルトの裸体を日の下に晒した。だらしなく投げ出した両脚を閉じる間も与えない。
「あんた・・・ほんと色白いよな。女以上だ」
侮辱と羞恥でアルベルトは沸騰する。
「どこを見てる。離せ」
「あんた、慣れてるよな男同士でやるの。突っ込まれほうがイイんだろう?・・・あんたの穴・・・俺の離さないくらいぎゅうぎゅう握ってくるんだぜ」
アルベルトの理性を溶けさせようとジェットが淫らに耳元で囁く。冷たい人形のような容貌をただの肉奴隷に堕す行為も、ジェットの欲に火を点けるようだった。
「来いよ。もう一度だ」
荒々しく腰を引っ張られ高く抱え上げられる。
最後の抵抗にと掻き毟った爪に、無造作に積んでいた本が落ちてきた。「ムイシュキン公爵」という単語が飛び込んできて、神の悪意とか偶然があるのなら、今みたいなことを言うのだろうなと、アルベルトは暗く笑った。







 タイトルは、不肖こいつがつけさせていただきましたです〜。
 ちんぴらジェットを、"君"と呼ぶアルベルトに悶絶・・・(笑)。
 いつもとは違う視線で、いつも眺めている世界を見るというのは非常に新鮮でたまりません。
 字書き冥利に尽きまする・・・。
 まだ壊れてないアルベルトと、グレートとジェットの3人の関係に、久しぶりにワクワクしてみたり、と。
 さとみさま、どうもありがとうございました!


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