ここからふたりではじめよう - 番外編その2

愛しくて



 ジェットはもう、すっかり服を脱いでしまっていた。
 ベッドの上に坐った彼の膝をまたぐ形で、彼の首に両腕を回し、アルベルトは目を閉じた。
 ジェットの息が、胸元にかかる。
 するりと、もう剥き出しになった下半身に、両手が伸びる。
 アルベルトは、もっと強く、ジェットの首にしがみついた。
 すうっと、撫でるように触れる。
 それだけでもう、体中が震えた。期待ではなく、不安で。
 ジェットの指先が、探り当てて、ゆっくりと入り込んでくる。
 アルベルトは、歯を食い縛った。
 音が、微かに聞こえる。
 ジェットの指が動くたび、アルベルトは、ぎりぎりと彼の首筋に爪を立てた。
 何度目かの後、深く、ジェットの指が入り込んだ。
 あ、と声を上げて、体を浮かせた。
 異物感に、思わず肌があわ立つ。
 「ジェ・・・・・・・ト。」
 声が、裏返った。
 ジェットが、首を伸ばして、アルベルトの唇の触れてきた。
 待っていたように唇を開き、舌を誘い込む。
 神経のすべてが、体液で水浸しになっているような、そんな気がした。
 舌が絡まり、濡れた音を立てる。あちこちで。
 次第に荒くなる息に、自分が煽られ、声が高くなっているのに気付かない。
 悪寒に似た感覚の隙間に、ふと、腰の辺りが甘く疼く。そのたび、奇妙な形に躯が跳ねた。
 「せんせェのここ、オレの指、入ってるの、わかる?」
 唾液が、ふたりの間で糸を引いた。
 しびれて動かない舌を、むりやり動かして、アルベルトは、ようやく、ああ、とだけ返した。
 「3本、ムリ?」
 触れながら、いたずらっぽくジェットが訊く。
 「・・・殺す気か・・・」
 ジェットが、いきなり指を動かした。
 ひ、と悲鳴が喉を裂いて、躯が大きく跳ねる。
 「もっと、声出して、せんせェ。」
 促されるまでもなく、もう、アルベルトは声を抑える自制もなかった。
 入り込んだジェットの長い指が、遠慮もなく、奥に入り込んでくる。慣らされたそこは、もう易々と、ジェットの指を受け入れていた。
 冷静になれば、自分の首を締めてしまいたいほどの媚態で、アルベルトはジェットの胸に、躯をこすりつけている。
 解放してしまいたくて仕方のない熱が、体中を駆け巡っていた。
 ふと、ジェットが指を外して、せんせェ、と言った。
 「シャツ、脱いでよ。」
 潤んだ目で、ジェットが、アルベルトを見上げて言った。
 「せんせェ、見たい、オレ。じかに、せんせェに触れたい。」
 真っ暗ではない部屋の中で、脱げば、機械の腕を見られるのに、躊躇があった。
 それでも、ジェットの、濡れたような淡い緑の瞳にこもった熱に、そそのかされたように、アルベルトは、震える指先で、ゆっくりと、シャツのボタンを外した。
 全裸を、こんなふうに誰かの前に晒すのは、一体いつ以来だろう。こんなふうに、じかに誰かと、隔てる何もなく触れ合うのは、一体いつぶりだろう。
 アルベルトは、まるで初めて他人と触れ合う少年のように、恥じらいに頬を赤く染めた。
 シャツを、シーツの上に落とし、それを、ジェットが、まるで呆けたように見ていた。
 「せんせェ・・・」
 抱き合って、また、腕を伸ばす。
 ジェットの汗に、機械の腕が濡れる感触が、奇妙だった。
 深く接吻を繰り返しながら、また、ジェットの指が、快感を連れてくる。
 欲しがるように、腰が揺れた。
 「せんせェ、気持ちいい?」
 我に返って、躯の動きを止める。ジェットが、耳元でくすくすと笑った。
 「せんせェの、オレのに当たってる・・・・」
 アルベルトは、思わず恥ずかしさに目を伏せた。
 「ねえ、オレ、入れてもいい?」
 「・・・・無茶、するなよ。」
 シーツの上に、無防備に横たわり、アルベルトは顔を背けた。とても正気で、ジェットの顔を見れそうには、なかったので。
 ジェットが、躯を伏せて来て、アルベルトの、機械の方の肩に、口づける。
 体が、震えた。
 生身の方の手を、さり気なく頬に乗せて、顔を隠す。
 ジェットが、躯を滑り込ませてきて、ゆっくりと、両足を抱え上げた。
 そんなところまで、見せ合うことの羞恥に、アルベルトは思わず唇を噛んだ。
 ジェットが、触れる。それから、ゆっくりと、入り込んでくる。
 指でもう、慣らされていたから、あまり痛みはなかった。それでも、こんな風に躯を繋げる感覚に、思わずからだが硬張る。
 満たされてしまうと、ジェットが、躯の動きを止めた。
 視線を元に戻すと、ジェットが、じっと見下ろしていた。
 「どうしよう、オレ、せんせェのこと、すげぇ好きだ。」
 ふと、愛しさが湧く。
 何もかもを、真っ直ぐに言葉にして、浴びせかける、まだ大人になりきっていないこの少年を、アルベルトは愛しいと思った。
 両腕を伸ばして、ジェットの胸に触れた。平らな、薄く筋肉のついた、体。両方の掌を滑らせて、アルベルトは、精一杯の想いを込めて、ジェットを見つめ返した。
 「オレ、せんせェとこうしたくて、でも、せんせェのこと、傷つけちゃうかもしれないから・・・だから・・・」
 その先を言わせずに、アルベルトは自分の唇で、ジェットの、まだ何か言おうと開きかけた唇を、塞いでしまった。
 繋がったままの躯が、急に動いて、少し痛む。それでも、上体を起こしてジェットの首に両腕を巻きつけたまま、アルベルトは、自分から唇を開いた。
 ジェットが、慌てて腰に腕を回し、それから、ゆっくりと動き始める。
 胸を合わせて、躯を揺らす。
 ふたりとも、もう声を抑えることはしなかった。
 体にかかる負担のせいなのか、気づくと、目尻から、涙があふれていた。
 それを、ジェットが舌で舐め取った。
 また全身を震わせて、アルベルトは、ひときわ高く声を放った。
 ジェットの躯を、全身で感じながら、アルベルトは、ジェットが放つ熱を感じながら、自分も、失墜感の中に漂い始めていた。


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