Live In A Hole
ここ、感じるの、と、優しい子どもっぽい声で言って、ジョーはくすりと笑った。
ジェットよりさらに、少年じみた、顔つきと声。その下に隠されているのは、邪悪でしかなかったけれど。
大きく足を開いた形に手足を縛られ、ジェットはもう、さっきから、声さえ出なかった。
「すごいね、ジェット、こんなになって。見てる方が恥ずかしいくらいだよ。」
ふ、と、ジェットは肩を硬張らせたまま、細く息を吐いた。力を脱けば、そのまま、自分を解放してしまいそうだったので。
ジョーの、どちらかと言えば細い指先が、濡れた先端をなぶる。そこには到底、指先など入り込むはずもないのに、それでも無理矢理に、まるで傷口でも開くように、指先を差し入れ、ジョーはさらにあふれてくるジェットの体液で、わざと濡れた音を立てる。
「ねえ、ハンイリヒとは、どんなことするの?」
ジェットは、ジョーをにらんで、ぎりっと歯を噛んだ。そんなことには答えないと、引き結んだ唇に言わせ、それでも翻弄するジョーの掌に逆らえず、ふと、声を洩らす。
ふふ、とジョーが軽く嗤った。
体を落とし、ゆっくりと、ジェットに触れる。生暖かい舌が、敏感な皮膚を、ゆるりと滑った。
喉と胸が、思わず大きく反る。
自由の利かない体は、縛られているだけではなく、自由に感じることさえ、今は許されていない。
舌を絡みつかせながら、そっと、ジョーの指が、もっと奥へ触れた。
反らした喉が痛み始め、ジェットは、がくりとあごを胸元へ埋めると、短く息を吐きながら、目を閉じた。そこへ埋まったジョーの表情など、偶然でも見たくはなかった。
指が、ジェットの内側の、柔らかな粘膜に触れる。
さっき、ジョーが指を差し込もうとした、ぬるぬるとする先端に、今は舌先が入り込んでいる。その、紅い筋肉の塊がそこで動くたびに、ジェットは全身の血---ほんとうは、循環液だけれど---が、そこに集まるのを感じた。
ジョーは、何の抵抗もなく滑り込んでしまった指を、もっと深くに潜り込ませ、ジェットの熱い粘膜を、思う存分なぶった。
熱を吐き出してしまうのに、そう時間はかからない。
背骨の中心に、細い衝撃が走り、腰の、もっと奥の辺りに墜落した後、ジェットの全身は、まるで溶岩のように溶けた。骨が砕け散るような感覚に逆らえず、ジェットは、ジョーの口の中に、自分の熱を解放していた。
ジョーは、時間をかけて唇を外すと、わざわざ見せつけるように、ジェットの目の前で、唇を拭った。
「ハインリヒのも、飲んであげるの?」
腕が動けば、撲ってやれるのにと、ジョーの微笑みを見ながら、ジェットは思った。
「それともハインリヒが、キミのを飲んであげるのかな。」
くすくすと、声を立てて笑う。
ジェットは、ぞっと膚を粟立てた。
「ずるいよな、ハインリヒにしか、イイ顔見せないなんて。僕じゃ感じない?」
ジョーの指がまた、入り込んでくる。
なぶられてまた、腰が揺れる。どうしようもない躯の疼きが、背骨の中を、上へ下へ、休みもなく駆け上がり駆け下りてゆく。
「すごいね、こんなに熱くなって。ほら、また勃ってきた。」
空いた手が、腿の内側の、薄い皮膚を撫で上げた。
ひ、と喉の奥で、裂けるように声を上げる。快感は、容易に理性をひきちぎる。おもちゃにされているのだと知っていて、それでもジョーに与えられる快感に、ジェットはもう、そろそろ降伏してしまおうかと、微かに思い始めていた。
みんな、知らないんだよね、キミとハインリヒのこと。
にっこりと笑って、ジョーは言った。いつもの、知らない人間が見れば、邪気のない、いかにも無垢な人間じみて見える、笑顔。それをなぜか、ジェットはいつも恐い表情だと思っていた。
その笑顔の下にある、ある種の意図を感じて、いつも皮膚が、ちりちりと焦げるように痛む。何かを隠している人間に共通する、どこか読み切れない、計り知れない心の奥底。
ハインリヒは、あんまりいい顔しないよね、きっと。もし、みんなに知れたら。
オレだって、わざわざ知らせようなんて、思うもんか。
ジェットは、そう思った。
いざこざは、外の世界だけでたくさんだった。9人しかいない仲間を失うかもしれないことは、できるだけ避けたかった。
だから、ジェットもハインリヒも、言葉には出さず、ふたりのことはふたりだけのことにしようと、そう了解し合っていた。
それなのに。
よりによって、こいつか。
ジェットは、また、声を耐えるために、奥歯を噛み締めた。
ずるいよ、ふたりだけで楽しんで。
ジョーはまるで、どこかに出かけたことを言ってでもいるかのような口調で、言った。
キミでいいよ。そうすれば、みんなにはバレないし、キミも、ハインリヒを怒らせなくてすむだろう?
出かけるのに、ちょっと付き合ってくれないか、そんな頼み事をするような調子で、ジョーはまた、にっこりと笑った。
奸計、というのは、こういうのを言うのだろうか。
ジェットに有利な企てでは、もちろんなかった。
「ねえ、キミは、入れる方が好きなの? それとも入れられる方?」
少年の声で、卑猥な語彙を選んで、ジェットに訊く。
「どっちでも、おまえの好きにしろよ。」
精一杯、静かな声で答えた。
「妬けちゃうなあ、そんなにハインリヒが大事?」
腕についた、縛られた跡が消えるのに、一体どのくらいかかるだろうかと、ジェットは朦朧とした頭の隅で考える。
隠す間に、ハインリヒにばれなければいいと、そんなことばかりが心配だった。
ジョーが、下唇を舌先で湿したのが見えた。
思ったよりもゆっくりと、こちらを伺うようにして、ジョーが入り込んでくる。
「なんだ、指で慣らす必要、なかったみたいだね。簡単入っちゃったよ。それとも、ハインリヒで慣れてて、僕のなんかじゃ足りないかな。」
軽く突き上げて、ジェットの声を楽しみながら、ジョーがまた、意地悪く言った。
ハインリヒとは違う動き。触れる角度も、満たし方も違う。何より、ハインリヒとなら、もっと触れ合って、抱き合える。
自分はおもちゃなのだと、ジョーに侵されながら、ジェットは思い知っていた。
「ねえ、僕でも感じる? それともハインリヒの方がいい?」
執拗に、絡みつくような声で、ジョーが問いを繰り返す。
揺れる肩に、自分も揺さぶられながら、ジェットは激しく首を振った。
快感を起こすのは、ひどく簡単だったから、躯が心を裏切るのを、どうしても止められない。
ふたりの下腹の間で、また勃ち上がったジェットのそれに、ジョーが指を絡みつかせた。
ハインリヒ。
喉の奥で、名前を呼んだ。
自分に触れる躯が、ハインリヒのものだと思おうと、必死になった。
背中を反らして、重苦しい疲労感の中へ墜落して行きながら、ジェットは、自分が泣いているのに気づかなかった。
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