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Type O Negative/"Origin Of The Feces"実況レビュー
2010/03/08(Mon)
Liveだよん、という設定で録音されたアルバム。観客の声だの中断の様子だの、そういう演出が入ってる。

Origin Of The Feces (1992)

1曲目、I Know You're Fucking Someone Else。
You suckの声援。チケット代のことをPeteがあれこれ言ってる。StupidだのAss Holeだの、観客を煽り続ける。後ろに流れてるのはGlass Walls Of Limboのメロディー部分? 何か機械の音。
うね〜んと曲が始まる。オリジナルはUnsuccessfully Coping With The Natural Beauty Of Infidelityなんだけど、イントロ部分はさらにのろくた〜ん。さて、歌い叫びが始まったよ。
一応似非ライブ設定なので、Dr.がさらに歯切れ良く突っ走る(突っ込むという意味ではなく)。
みんな何かノリ良く演ってるなあ。
なぜか半ばで歌うのをやめて、Peteが妙にきれいな声で(別の曲を)歌い出す。観客のブーイング。そして「Fuck You!」という掛け声。歌うのをやめて「Fuck You, Too」とにこやかに答えるPete。うわあ。
1stの元曲より、わざわざさらにドラマティックに演奏してるなあ。楽しそう。完全に観客(と世間全部)おちょくってますからって感じに。そしてしっかり女性の喘ぎ声(&どうもPeteの喘ぎ声も少し多分orz)も入ってるorz
すいません、これ生で聞いたら赤面するいやまじで。
半ばのコーラス何を叫んでるのかと思ったら、ここで女性に対する卑語の連発かorz
ドスdeath声の歌い叫びの後で、突然普通の声でナルシスティックに歌ってくれるのが何とも。観客全部男(友達)だろうに、この人のこういうサービス精神にはほんとうに感嘆する。
ってかさ、こういう煽りをしておいて、「おれはホモじゃない!おれに近寄るな!」っていうのはなんかさ・・・。
いろいろとほんとうに自業自得だという気がして来たorz
ようするに、似非ライブの会場全部で、「女なんかクソっくらえだよな!そうだろ!」ってことか。うんうん(憐れみの視線)。
観客の声援。Peteがべんべん弾くB。笑い声。

2曲目、Are You Afraid。
ドラマティックで、ちょっとぞくぞくするKeyのイントロ。歌詞通り、ちょっと控え目なPeteの歌。
歌詞が過激な部分は歌い叫び。この部分は、個人的に泣き叫んでるように聞こえる。

3曲目、Gravity。
ぶつっと音が切れて突然始まる、カウントの声と曲。観客の声は聞こえない。
このバージョンは最近のライブでやってる大体そのまま。1stよりもっと洗練されて、曲としてまとまってる印象。
1stでのタイトルはGravitational Constant: G = 6.67x10-8 cm-3gm-1sec-2。
ひたすら能天気な展開。外で裸で踊り狂ってるような印象。内容は殺伐なのに。
また途中で曲が止まる。Peteが「落ち着け」とか観客に行ってる・・・これか、例の架空の爆弾騒ぎがどうのは。
いろいろ効果音入って楽しいってか、曲の妙な明るさとあいまって、おもちゃ箱みたいな印象の曲。
まあ、TONの明るいは、「ヤケになって突き抜けた後のどうしようもない絶望感の上の明るさ」なんだけど。
また曲が止まる。こういうのが好きだねほんとに。ここで爆弾の話(ヨーロッパではナチとして糾弾されてるTONに対して、誰かが抗議の爆弾を仕掛けたとか何とか、そういう設定)をPeteがしてる。騒ぐ声がやや大きくなる。犬の鳴き声。拡声器で呼び掛ける声。

4曲目、Pain。
観客の声。パトカーのサイレンが去ってゆく音。「Here we are again. This is your lucky day, ha?」と言うPeteの声(爆弾はなかった、あるいは無事に取り除かれた、ということか)。
1stのPrelude To Agonyの、Jackhammerape〜Painと題された部分がこの曲。
PTAのいちばん過激な部分。歌詞の内容はまあある女性に対する復讐(の妄想)って感じで。これは10年前だったら聞いた瞬間吐いたと思う。
この場に男しかいなくて、ノリノリで聞いてるんだと思うとカルトみたいで怖い。曲調は素直なハードコアなので、聞く分にはいいんだけど。曲は嫌いじゃないだけに歌詞がなあorz
「(次が)最後の曲なんだぜ!」とPeteが言うと、観客からブーイング。

5曲目、Kill You Tonight。
1stのXero Tolerance。ああ、真ん中の「Into Someone I Don't Know」のところが気持ちいい。
情緒もへったれもなく、突然音が切れて終わり。

6曲目、Hey Pete (music from Jimi Hendrix's "Hey Joe" with new lyrics)。
この曲は、アルバムのきれいな音もいいんだけど、ライブで生で聴いたら、歌詞はともかく後ろに反り返るみたいな感じのリズムが気持ちいいと思う。さすがジミヘン。
Peteは歌い叫びが絶好調になるとRの音が舌を巻く。すでにこの頃からってことは、TON以前もそうだったんだろうな多分。
わりと頑張ってカバーしました的に終わる。

7曲目、Kill You Tonight (Reprise)。
「Baby, tonight, you (will) sleep (at) Kenny's house」とささやく吐息交じりのPeteの声。その後で照れ隠しのようなわざとらしい笑い声。何かこうこいつら何なの?orz
5曲目で唐突に終わってしまったKill You Tonightの続き。
異様に美しくキャッチーなキーボードのフレーズにかぶさる、Kill You!というコーラスに、うっかり心が騒いでしまう自分を何とかしたいorz
Peteのふざけた歌い方にはさらに磨きがかかって、問い詰められても全部冗談で逃げる口実のように聞こえる。まあ、おふざけがすごい分、彼自身の傷つきっぷりがさらに露呈するだけだよね、という見方もできる。
ライブではノリノリでハイになれそうな曲だ。ドラマティックな展開は相変わらず、でもナルシスティック度はまだ低いか。
突然曲は、ピアノっぽい和音(ちょっと乱れた音)で終わる。その後に続く、不快ではない雑音。夜の外の音?

アルバム本編はここで終わり。次は、ジャケ差し替え後に追加されたもの。

8曲目、Paranoid (Black Sabbath Cover)。
これをあの曲だと言われて誰がわかるかっつーの。初めて聞いた時は、同じフレーズ使ったオマージュ?と思った。カバーだとは思わなかったorz
昔風に言うと、シングルの回転数でLP回しちゃいました、になるのか。逆だっけ?
ぶっちゃけ、この曲聴いて、Peteの声が異様に色っぽいのに気づいた。声だけじゃなくてまあ歌い方というか。
これはこういう人なんだよねと思ってたけど、こういう吐息交じりみたいな、自己陶酔タイプの歌い方も、「おまえらこういうのが好きなんだろ?バーカ」という彼らしい揶揄なんだろうなと今は思う。
まあしかし、Bの音もみょーに色っぽい人なので、基本音楽における官能的な部分に、ごく自然に魅かれてしまう人なのかもしれない。
この人の怖いところは、この激ナルシスティックな表現というのが許されてしまう、というか本人の見かけにぴったりで、その点でも受け入れられちゃうという辺りか。本人の冗談が冗談になりませんでした、もう今さらやめるのもできません、的に。
そしてさらに、本人もこういう表現がきらいじゃない、むしろ好きじゃね?というところに気づいてしまってΣ(゚д゚ ;)ガーンとなったに違いない。

総評。
ライブという設定のせいで、演出がいろいろと過剰ww 作ってた本人たちがいちばん楽しかったろうと思われる。
元気にハードコア。自由の国では何を言ってもいいんだ!自己表現だぜ!という感じに。まあ、その自由度すらおちょくってる感がなきにしもあらず。というか、自由というのは他人の自由であって、彼らの自由ではないんだ、という辺りか。
差し替え前のオリジナルのジャケットにすべてが現れてるよ、ということでひとつ。
似非ライブということで、妙に盛り上がる感じが、歌詞の過激さとあいまってちょっと怖い。フレーズのキャッチーさに乗せられて、一緒にKill you!とかI Know You're Fucking Someone Elseとか一緒に歌ってる自分がいちばん怖いですorz
単純に心の底から楽しめないっぽいのは、多分こいつの頭が固いせい。それでも、これを吐かずに一緒にノリノリで歌おうとする辺り、無節操にもほどがあるな自分orz
いわゆる(架空の)ライブでのMCというのを聞いてて、Peteという人は、存在自体がジェンダーに対する幻想というもののパロディなのかもと思う。
2m超えの身長、(染めてるけど)漆黒の腰まで届きそうな長髪、とんでもなく低い声、そういう部分だけ並べれば確実にこの人は超男性で、実際、ホルモン的にも男性部分が過剰らしいし。
そういう外見で、ものすごい情けない歌を歌う。浮気されてフラれた恋人をネタにして、現実には絶対にできないから、妄想の中で彼女を殴り殺したり電動ノコギリやら斧で叩き切ったりする。彼女を貶めて、彼女の相手もついでに同じように貶める。その貶めこそが、彼自身を貶めることだと知ってるかのように、彼女への復讐はやけに具体的で生々しくて、そのくせ結局は現実感が薄い、いかにも妄想めいた文面だったりする。
そして彼女を(妄想の中で)殺した後で、「天国で彼女に会うんだ」と言う辺り、個人的には工エエェェ(´д`;)ェェエエ工って感じだ。
勝手な解釈だけど、自殺の理由に彼女を使ってるだけじゃね?という感じで。
彼女に対して、「おまえは、おれに自分自身を憎ませる、おれは自分が大嫌いだ」と叫ぶ。いや彼女に責任転嫁してんなよにーちゃん。
ここまで来ると、林先生お得意の、「その女性はあなたの妄想の中にだけ存在するのではありませんか」と真顔で訊きたくなる。
まあ、1stに続いて、このアルバムも、基本女性に対する憎悪の部分は全部妄想だよ、という辺りで結論できたら気分が楽だ。
実際にこの彼女という人が浮気したんだろう、ということはまあ信じるとしても、彼がこれほどの憎悪を抱く理由になった、とは思わない。単に、Peteが自己憎悪を深めるきっかけになっただけじゃないかと。
だってさー、「こんなひどい女なんだぜ!」って世界に向けて言うって、「はい、おれは全然女性を見る目がないバカです」って白状するのと同じだぜー。この聡明な人がそれに気づかないってありえない。
女性に振られた→なんでこんな女に→そうかおれがどうしようもない屑だからか→自己憎悪→憎悪を他人に転嫁して表現→その方が自分の痛みは少ないぜヒャッハーという流れじゃないかと。
正直なところ、世間一般で言うところの、「女々しい」という部類に、Peteはあてはまると思う。そして、いわゆる自虐的に自分を切り売り(わかりやすい例としては売春)してるという部分に、こいつは彼の中に(一般的に世間で求められてる)女性性というのを非常に強く感じる。
自分が他人(Peteの場合は、一応異性である女性)に対して性的な感情を抱かせることができる、それを利用して他人の関心を得たり利用したりする、男女どちらもやることだけど、女性の方が、これを(無意識に)やることを社会的に求められる傾向が強いような気がする。
極めて男性的な外見で、"女々しい"心情を吐き出し、女性的(女らしい、という意味ではない)な意味合い濃く性的に振る舞うことを厭わない、彼のやってることは、どれも性向が今ひとつ一致せず、どちらにも向かいつつ、ひとつに絞れずに迷走しまくってるように見える。
まあその迷走っぷりが魅力なんだけど(鬼)。
そしてまた、彼自身も、迷走しながらも自分のやってることはちゃんとわかってるんだろうしな。過剰に男を求める面々を揶揄して、自分を女々しいと言う輩には暴力も厭わないぜという態度で、極端に男らしい外見に、ほんとうに14歳の少女くらいの傷つきやすさを内包して、カテゴライズ大好きアメリカ文化の中で、彼はどこにも入れずにずっと苦しんでるんじゃないかと、そう思う。
歌詞の中で彼女に与えてる生々しい苦痛こそ、彼自身が現実で味わってる苦痛の表現なんじゃないかと、ふと思う。その苦しみの、ちょっとわかりにくい表現が、1stとこの2ndな気がする。
ここで彼が殺したいと思ってるのは、現実に彼を振った現実の女性のことではなく、女性に転化した彼自身なんじゃないだろうか。
Peteの、極端な男性らしさと女性らしさが、(差し替え前の)ジャケットから歌詞から曲調から、何もかもすべてに込められてる、そういうアルバムなのかな、と。いろいろと意味深長に考えられるアルバム。



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