Type O Negative/"October Rust"実況レビュー
2010/03/15(Mon)
前作と打って変わって、過剰な演出はほとんどない、音楽だけのみっしり詰まった1枚。脳が融ける。
October Rust (1996)
Bad Ground。
ズーっというただのノイズ。ある意味イントロに非常に相応しい。Josh曰く、「CDか機械に何かが壊れたかって思わせる冗談」だそうで。まったくもうww
Thanks from the Band。
笑い声。バンドメンバー全員から一言ずつありがとう。こちらこそありがとう。
1曲目、Love You to Death。
そして1曲目がこれかああああああああああorz いきなり欝になれるピアノの音、Peteの低い声。
ライブになると非常にこう、ドス度の増すバラード。アルバムだと、ひたすらのた〜んくた〜んとたるい音が続く。
水死体になって、流れのゆるい川を仰向けに流れてるって感じ。
好みはあるかもだけど、この1曲だけでこのアルバムを聞く価値があると思う。この1曲だけでTONをすごいバンドと言うだけの価値のある曲だと思う。
とにかく延々とたるい、切なくて胸が締めつけられる音が続く。何もかも絶望に満ちた無気力と言うか・・・決して無条件に美しい(だけの)曲ではないと思うけど、こんな美しい曲を聴いたのは10何年ぶりかと思った。
特に盛り上がるようなフレーズもなく、とにかく延々と延々と、地を這うような音が続く。
そして最後に、Peteが少し高くなった声で、Am I Good Enough For You?と繰り返す。この人がこんな言葉を繰り返すというところがまた切なくて泣ける。
最初から最後まで、胸をかきむしるように、ただただ淋しくて切なくて、悲しい曲。
2曲目、Be My Druidess。
ノイズっぽく始まる。べんべんべんなB。サイケというかテクノっぽいとも言うのか、この曲だけ聴くとロックバンドに思えない。
細くて高めの声。普通に歌う声。後ろでBがずっとべろんべろん。脳が揺れそう。
歌詞はまあ、官能小説系なので、歌い方もそういう感じに。Bloody Kissesに比べると、こういう歌い方が板につきつつある。鬱陶しさやわざとらしさが減って、わりと自然に色っぽい。
そして突然声が低音になる。地獄の底ですかと言いたくなるような声で、官能小説な歌詞は勘弁して下さいorz
後ろで鳴ってる音は特に印象的とも思えないけど、途中でちょっと調子が変わる辺りで、妙に耳に残る。
湿った暗い森の中、という感じ。メロディアスではあるけど、ドラマティックな部分は抑え気味。わりと淡々と進んで、淡々と終わる感じ。
メロドラマという印象は非常に薄い。曲としての盛り上がりには欠ける(でも欠点じゃない)けど、やたらと大仰でないところが好感触。
3曲目、Green Man。
何かの作業の音?
爽やかな感じのアコGの音で始まる。そこへ入る、んべべべんなBの音。これもまた爽やかっぽいPeteの声。
優しいGの音、優しいPeteの声、鳥の声も入る。優しい旋律。
穏やかな、透明な空気の匂い、孤独というわけではなくて、ひとりという印象。
歌詞はちょっと自然に関わることなせいか、曲もそういう感じが強い。ただひたすらに穏やかで優しい。ちょっと民俗音楽っぽいフレーズもある。
Peteの歌い方が丁寧。歌い叫ぶとか投げ捨てるような歌い方は一切なし。語るように、ほんとうにギター1本でひとりで歌ってるよみたいな、そういう感じ。
空や地面に向かって声と音が広がってゆく。誰かのためではなくて、誰かに向かってではなくて、内側からあふれて来るものを、外へ向かって放っている、そういう曲。空気の匂いがする。
どの音もでしゃばらない。どの音も全部バランスよく絡まって、何もかも、ただそこに在る、ただそれだけ。
突然ぶつ切れで終わり。
4曲目、Red Water (Christmas Mourning)。
キーボードだと思うけど、ちょっと金管っぽい音で始まる。
水面を叩くような感じのキーボードの音に重なる、ぎーぎー言うGの音。
静かな小さな部屋で、何か床に置いた何か硬いものを、手にした道具で叩いてるような、そういう情景が浮かぶ。その行為に意味はなくて、ただそうしたいから、本人もどうしてかわからないままそれをやってるっていう、そういう感じ。
Gの音は割りと鋭い。
Peteの声は、何と言うか泣くのを耐えてるような、そういう印象。
途中の鈴の音みたいなKeyの後ろで、妙に耳につく音で、Bが鳴る。
淋しくて悲しい。みんながいるところで、ひとりきり。孤独という感覚に襲われる。
Gはぎーぎー後ろで鳴るけど、ほとんど目立たない。誰か、少女らしい誰かが泣いてるような声。教会辺りで聞けそうなコーラス。
きれいで、悲しい曲。聞いてると泣きたくなる。これもブツ切りで終わる。
5曲目、My Girlfriend's Girlfriend。
Dr.の音、妙にファンキーでサイケでキャッチーなKeyで始まる。とにかく奇妙にポップ。
そこへ入る、まるで戦車がガガガみたいな、PeteのドスDeath声。なにごとorz
何と言うか、人工的に着色されたすごく色鮮やかな花壇を踏みにじる戦車って感じorz
歌詞はまあ、つまり「オレの彼女の彼女」とそのまんまで、「3人で手を繋いで街を歩くとみんなが振り返る〜」とかそういう能天気系の、意味は特にない系。ただひたすらにポップでキャッチーなフレーズの後ろで、ザクザクGやらBの音が聞こえる。
真ん中で麗しいフレーズになる。Peteの声も麗しい。
PVも非常にドン引きな意味で印象が強いけど、曲のアレンジだけでもドン引けるすごい曲。
最後近くに入るBのソロ(?)がすげえ好き。かっこよすぎ!
6曲目、Die With Me。
人の声。アナウンスの声? 飛行機の飛ぶ音?
アコGで開始。ささやくようなPeteの声。
優しいラブバラード、なのか? 声もGの音もKey(ピアノ)の音も、全部優しい。背中や頬を撫でる手みたいに、優しい。
別れを嘆いている内容の歌詞と思うんだけど、相手がいわゆる普通の女性なのか、それともこれもお母さんのことなのか、お母さんと思うのはまずいかもだけど。
Peteのマザコンは真性なので、実はお母さんのことですって言われても全然驚かない。この人が(歌の中で)心底優しいのはお母さんに対してだけだしなあ。
いつまでも優しいまま。ただひたすらに優しい。淋しげに、悲しげに、優しい。誰かの穏やかな死を看取るのはこういう感じかと思う。
最後の最後で、Dr.の音が強くなって、ちょっと変わった感じのフレーズが続く。突然ぶちっと終わり。
7曲目、Burnt Flowers Fallen。
ヤギとは羊の鳴き声。
うねうね〜んと始まる音。これもBだな。ちょっと東洋っぽい感じのフレーズ。
Keyが入って、ほんの少しだけうねうね〜ん度が下がる。
Bの音と歌メロのうねうね度のせいか、脳が揺れる。歌メロの後ろで鳴るBの音が何気に超かっこいい。
盛り上がりはあるけど、特にメロディックというわけではなくて、むしろ曲自体は平坦。ただとにかくそのうねうね〜んの繰り返しのせいで、酔っ払える。トリップソング。
これも何だか美しい。花畑で気持ち良く、ちょっと行き過ぎに酔っ払って、ああ空が高いなあ青いなあってぼんやり思ってるような、そういう感じ。
歌詞は4行程度を延々繰り返し。高めの声で歌い方は丁寧。激しさは抑え気味に、ちゃんとそこに在って、Bがさり気なく感情表現豊か。
8曲目、In Praise of Bacchus。
うね〜んとしたGで始まる、うね〜とした高い声が入る。ちょっと突然で面食らう。
割りと普通のスローなロック。ちょっと吐息の混じる、つぶやくような歌い方。声は高い。
リズム隊の音がけっこう低めで、ちょっと音が太くて地を這う感じ。
声はエフェクト掛かってて、こもった音にしてある。後ろで効果音がけっこう鳴ってて、曲のシンプルさとは逆にアレンジは妙にゴージャス。
歌メロ部分は抑え気味(Bloody Kissesまではドラマティック過剰なんだけど)。
歌い方が、下手すると気持ち悪い系。曲全部気持ち悪い系というか、粘着質。でろ〜んどろ〜ん。
ハモンドオルガンの音に、さらにつぶやくように歌う声。そこからサビ部分に戻る。オルガンの音はそのまま後ろで鳴ってる。
Dr.が入って、それなり普通にロックかなという流れに戻って、粘着はそのまま。音とか声がたくさん重ねてある。
突然切れる。情緒もへったくれもないのはなぜ。
9曲目、Cinnamon Girl (Neil Young cover)。
ちょっと元気がいい感じに始まる。これもまた何事、という感じ。
基本のメロディーは爽やかな感じなのに、それをブチ壊すGの音とBの音。ざくざくじゃかーんみたいな。
明るいのか爽やかなのか不気味なのかよくわからないブレンド具合。とりあえずうねうね〜んな音に脳が揺れそう。
Peteの歌は普通。オリジナルよりも色気増しかな。これはこの人の歌い方のせいってことでひとつ。
MGGとは違う意味で、ちょっと可愛らしい感じ。しかしなぜかちょっと不気味な感じもあって、どうしたらいいのか戸惑う。
そしてちょっと真ん中で盛り上げるために(?)ドスDeath声を使うPete。
GとBのザクザク具合は相変わらず。
何と言うか、サイケなDeath Metal風味とでも言うのか。
爽やかに終わり。
10曲目、The Glorious Liberation of the People's Technocratic Republic of Vinnland by the Combined Forces of the United Territories of Europa。
飛行機が飛ぶ音? 重い曲。叫ぶ声。軍歌の響き、みたいな印象の曲。飛行機の飛ぶ音で終わる。インストと言っていいのかこれ。短い。
11曲目、Wolf Moon (Including Zoanthropic Paranoia)。
きれいな、どこか宗教音楽めいた感じの曲。Bの音がうね〜んときれい。麗しい。
重い。暗い。ちょっと不気味。非常に真面目で真っ当なホラー映画のサントラって感じ。馬鹿馬鹿しいとか安っぽい感じは全然なくて、開拓時代のアメリカの夜、辺りのイメージ。
音が全部丸い。尖ってるけど、鋭さはない。穏やかというわけではなくて、物静かと言うか。
非常に麗しい印象。怖くて、きれい。
クラシックっぽい音に聞こえるのは、途中でバイオリンぽかったり、そういう音が入るからなんだろうなあ。
物悲しい、何か人でないものが、淋しいとか切ないとか、そういう感情を表してるような、そういう印象。
物悲しいまま終了。
12曲目、Haunted。
高音の、金属の楽器が鳴ってるような音。
ピアノの音。ゆっくり曲が始まる。
詠唱みたいな歌い方。何もかもうね〜ん。
黒衣、何かに向かって捧げるために歌、感情の昂ぶりらしいものは特にない。
急に暗く重くなる曲。声も低くなる。地の底から聞こえるような低音。不気味な、何か古い弦楽器みたいな音、Peteが歌わずに語る、訛りがきつい。
音が増える。バレエの公演でも見てるみたい。
過剰ではなく、ドラマティック。正直10分あって長いと思うのに、長さにうんざりしない。
不気味で美しい。醜悪で美しい。何と言うか、恍惚となる。引きずり込まれる感覚。
大仰に劇的ではないのに、物語を語られたような、充足感ではないけど、脳がいっぱいになった感じ。
何の情緒もなく突然切れて終わり。
Bye from the Band。
Peteが「じゃあまたな」と言うのが、最後でまたブチっと切れる。ある意味興醒めというか、突然現実に引き戻されて、ちょっとめまいがする。脳の揺れが止まらない。
総評。
Bloody Kisses同様、いきなりこれでアルバム開始ですか、という曲順。最初に雑音とメンバーのしゃべりが入るので、その辺りでちょっと興醒め気味に救われる感じ。
1曲目の1音から暗闇に引きずり込まれる。ここだという盛り上がりのようなものは特になくて、MGG辺りでちょっと明るくなるかと思う程度。CGでもちょっと爽やかに救われるかな。
とにかく全体がどろ〜んぐた〜んうね〜ん、特に後半は全部のっぺりの暗闇の中。
完全ダウナー系。マリファナの酔いでもなくて、何だろう、睡眠薬の飲み過ぎ? 脳ミソが直に揺さぶられてその内融ける。
前作までが怒りを主に歌ってたのと対照的に、October Rustは、タイトルの印象通り物悲しさとか、人生の無常さに対する諦観というのか、そういうのを主に感じる。
物悲しい、切ない、淋しい、でもなぜか、絶望感は薄い。そこはもう突き抜けてしまってるのか、それとも方向性が違う闇なのか。とりあえず生きているという匂いはする。
全般Bの音が激好み。低く鳴る音がたまらない。声よりも感情豊かな気がする。
いわゆるメロドラマ的にドラマティックな部分が薄れて、非常によく出来た、心理描写で盛り上がる(ラストに特に救いはない)長編小説を読んでるようか感覚。
曲調がどれも似てるせいか、アルバムひと続きという印象が強まってて、でも1曲1曲、きちんと差異が際立ってる・・・のは構成のおかげか。
ある部分、まとまり過ぎなくらいによくまとまってると思う。単調だけど、ぎりぎり単調になり切らずに、あちこちに印象的なフレーズがさり気なく、目立たなく差し入れてある。濃淡のある闇、あるいは、闇の中で見える、物の形や影。
これをMetalと言っていいのか、いわゆるGothだのDoomだのに入れてしまっていいのか迷う。かと言って普通のロックではなし。何と言っていいものか迷う。こんな疾走感のないアルバム、よく作ったな。
どの曲も好みどストライクで、アルバム全部同じ曲調って、まるでお気に入りの曲だけ集めた自分用ベストって感じ。個人的には捨て曲が1曲もないって怖すぎる。
Peteの発音は、わざとなのかどうか、非常に聞き取りにくい。Layneとは対照的。歌詞にはほとんど言葉を詰め込んでないのに、歌詞見てもどこを歌ってるのかたまにわからなくなる。
ブルックリン訛りを強調してるという話も聞いたけど、どっちかって言うとロシア語訛りじゃね? ってか、普通に英語に聞こえないんですが。
この声(と発音)と歌い方がTONの顔だと思いつつ、実はこの人のBが超好きだったりして。
メロディーが非常に成熟したなあと思う。前作までの幼稚さがまるっと抜けて、いわゆる大人のためのロックというわけではなく、むしろ内向度は前作の比じゃない。世間の基準ではなく、Peteの個人的基準として、「成熟した」という感じがする。
Peteの個人的事情の発散の方向と、世間の求める方向が偶然一致したと言うか。
メロディーの美しさとかいわゆるバラードの集合体ということを考えれば、売れない方がおかしいと言えなくもないけど、内容の内向性を考えると、どマイナーのままでもおかしくなかったと思う。
売るために作った内容ではなく、ぶっちゃけるとただのPeteの個人的な日記。ただ曲が異様に良い、捨て曲がない、メリハリつけようとか色気を出さずに、これでいいんだと押し切ったところが個性になった、稀有なアルバム。
わざと残したアマチュア臭さと、曲の終わりが時々ブチ切れなのは、多分メンバーの照れ隠し。そういう意味では、恐らくこれはほんとうにある種の素を剥き出しにした作品なんだと思う。
ねじれた方向に美しいアルバム。ただひたすらに醜悪に美しい作品。LYDT1曲だけでも聞く価値のあるアルバム。