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Type O Negative/"World Coming Down"実況レビュー
2010/03/16(Tue)
ジャケ裏のPeteに死相が現れてる。ライナーノーツの欝っぷりが半端じゃない。音的には多分いちばんまとまってた頃。ライブの出来が超ステキな頃。

World Coming Down (1999)

イントロ、Skip It。
CDが音飛びしてる音。Kennyの声。

1曲目、White Slavery。
また欝〜っとなる音から始まる。超Black Sabbathっぽい感じ。ねじれた方向にうねってて、ちょっと頭痛がしそう。
何と言うか、床で死に掛けてる感じ。ああ内臓が機能停止し始めてるんだなーって、動かない体で冷静に考えてる感じ。
何かもう、ただひたすら重くて暗い。これが1曲目って正気の沙汰じゃないだろ。
印象としてはむしろアルバム最後の曲って感じかなあ。
途中でちょっと明るくなる。明るくなるというか、音が高くなる。望みが見えると言うよりも、いよいよ死ぬ段になって、「ああやっと逝ける」って微笑してる感じ。あくまでそっち方向。
Gソロが繊細に始まって繊細に終わる。ソロの後でBの音が静かに鳴って、声だけになったところで、また賛美歌みたいな高い音が入る。
相変わらず歌詞は聞き取りにくい部分が割りと多い。Nightmareと繰り返されるところを見ると、明るい内容でないのだけは確か。Pepsi Generationとか入ってるのは、相変わらずのシニカルなジョーク。
どの音も、妙におとなしく(控え目という意味ではない)演ってる印象。葬送歌って感じだ。

Sinus。
女性が笑う声? 笑うというか、狂気じみたはしゃぐ声? 鼻をかむ音? 鼻炎で苦しんでますという気配。叫び声。

2曲目、Everyone I Love Is Dead。
Gのちょっと淋しげな音で始まり。
太くて低い声。丁寧に語るように歌う声。後ろで、シンプルなGのリフがずっとじゃーじゃー鳴ってる。
一時盛り上がり。真っ当にMetalな音。
歌メロはちょっとダサい感じで、垢抜けないというか・・・何と言うかこう、あがいてるような感じ(多分わざと)。
途中で入る、Goddam Itという歌い叫びが何だか悲しい。
サビの部分でちょっと繊細さが増して、何と言うか、何もかも丁寧なのに、投げやり度が増す。
Bの音が妙にメロディアス。
メロドラマ的な部分や妙に大仰に凝った部分がなく、垢抜けないっぽい感じがむしろ素という感じで、妙に胸にしみる。
Goddam Itという歌い叫びと、Everyone I Love Isという控えた声の対比が、ものすごく切ない。
Goddam Itと歌い叫んで終わり。最後に高音のノイズみたいなのが入る。キーボードの音だ。

3曲目、Who Will Save the Sane?。
いきなり3拍子。何だろう、ちょっとだけぽいっけど、ジャズじゃなくて、南部の路上で聞けそうな、妙に凝ったメロディー。
自然に体が揺れる。
Dr.の手数が割りと多い。どのパートもそれぞれメロディアス。うるさくなくて、絡み合いがうねってて気持ち良い。でも全然爽やかじゃなくて、安物ウイスキーで酔っ払ってる感じ。
歌詞に割りと言葉が詰まってて、音楽的にどうこうよりも、とりあえず言いたいことを言ってみましたという感じなのか。
印象としては優しい感じのメロディーなんだけど、穏やかと言ってもいいと思うんだけど、明日の朝二日酔いで大変ですねみたいな、そういう雰囲気。
投げやり、負け犬、そういう言葉が浮かぶ。
Peteがほとんど無理をせずに歌ってる。高音やむちゃくちゃな低音を使わない、ごく自然に出る声だけで歌ってる。
聞かせる曲だなあ。さり気なく凝ってる。でも大仰じゃない。こけおどしじゃない、素直に出た音、という感じ。強引さがない。

Liver。
観客の声? 車から降りて小走り? 病院? 人の声、水音、グラスや何かが触れ合う音? 小さな爆発音? パトカーの音、ピーっという電子音。ドアが閉まる音? 電話が鳴る。眠そうな女性の声が答えて、それから叫び声。落ちてゆく音?

4曲目、World Coming Down。
目の前の闇が、いきなり振り払われるような、そういう印象の始まり。何かとても広大な感じ。空から音が降って来るような。
LPだったら回転数間違えたかなと思うようなテンポ。うっかりリズムに乗り損なう。
中域よりちょっと高い声を使って、歌い上げるような、そういう歌い方。テンポはうんざりするくらいトロいくせに、メロディーのリズムはちょっと前乗り。
Kennyがサビを歌う。Peteの声より華やかで、リズムも実はしっかりしてたりして。
頭上にこう、延々と何かが広がってゆくような、そういうメロディー。
突然地上に降りる。Peteの声とDr.だけ、Gの音がしみるように時々流れる。
導く声というのか何と言うか・・・ほんとに空から語り掛けられてるみたいだ。
なぜか天使が見える。
多分歌詞を読めばそのままだと思うけど、Peteが何もかも、包み隠さず吐き出してるような、そういう印象。告白と言うのか懺悔と言うのか。
なぜか不思議と、切ないとか淋しいとか、そういう感情は湧かない。ただひたすら、両手を広げて、彼を抱きしめたくなる。
珍しくきちんとアルバムの中のあるべき場所へ納められた曲だと思う。すげえ、信じられないくらいに良い曲だ。
人間の、絶対に失うことのできない、優しさのようなものを感じる。包み込まれるみたいな、包み込みたくなるような、ただ人としてそこに在って、互いに抱きしめ合うとか、尖った感情とか誰かを傷つけそうな衝動とか、そういうものが一切ない、悟りの境地みたいな、そんな感じ。
気がついたら泣いてましたとかでもおかしくない。

5曲目、Creepy Green Light。
ちょっと高めのBの音。ちょっと不安になるようなメロディー。
不気味で、でも魅かれずにいられないような、そういう音。
わりと感情的な曲。泣いてるような、わめいてるような、そういう印象。
なぜか、Peteが地面に転げて泣いてる姿が浮かぶ。
特に激しいというわけでもないのに、ざくざく草の生えた地面を切り裂いてるような、そういう圧倒感。暴力的ではなく、ただちょっとかかとをつい後ろに引くような、そういう圧迫感。
オルガンの音。教会の雰囲気。Gの音が割り入る。
ある種の混乱状態を、とりあえず吐き出してみましたという感じなのか。歌詞読んでもよく意味がわからない。悲しんでるらしいことだけはわかる。
誰かにぶつけられる怒りや悲しみではなくて、ただひたすらひとりで耐えるしかない系統。
内容は内向してるけど、音的には外へ向かって拡散してる印象がある。

6曲目、Everything Dies。
カオスな感じのGの音で始まり。みんなでせーので音出してます、みたいな。ちょっと素人臭い。
Peteの低音地を這う声。ただ叫んでるだけ。
突然優しくて切ないGの音と、Bだけになる。
ささやくような、Peteの声。後ろで鳴る、ちょっと叩くようなピアノの音。
ちょっと無理をしてる感じの、Peteの透明な声。似合ってないところが、この曲の不安定さに似合ってる。
音数が少ない(そう聞こえる)せいか、曲の透明感が強調されてる。
シンプルなロック。優しくて、切ない。
下手すると超女々しい。Peteの声で歌われるとたまらん。
力抜いて演ってますというのか、あんまり気負ってない感じ&ある意味成り行きで作ったらこうなりましたみたいな感じで、そのせいかメンバーの素が見える感じ。
途中でいかにもらしく、低音の歌い叫びが挿入、無理矢理っぽさが何だか可愛らしい。
何だろう、妙に可憐な曲。道端に1輪きりで咲いてる、雑草の花って感じ。可憐なままで終わりかと思ったら、音が重くなって、ぶ厚くなって、突然死刑場にでも引きずり出されたかと思った。
可憐な雑草が、大きくて重いブーツに突然踏みにじられたような、そういう印象。突然切れて終わり。

Lung。
男の苦しむ声? 咳。息を吐く音。電子音。女性が泣く声。咳の音。子どもの無邪気な声と女性の泣き声。

7曲目、Pyretta Blaze。
何だかサイケなイントロ。いきなり後ろ頭を軽く殴られたような感じ。
海を渡る風? 妙に爽やかなメロディー。ちょっとらしくないっぽい感じなので、カヴァーかと一瞬思う。
普通にトロい感じの、ちょっと古臭い感じのロック。ザクザク刻むGのリフが浮いてていい感じ。
サビ部分でとってもポップ。何が起こったかと思う。爽やかさが増して、そのせいでよけいにちょっと不気味に感じる。
Dr.がいい。うるさ過ぎず、音が多過ぎず、ちょうどいい感じで後ろで鳴ってる。
ちょっと勘違いした、夏の終わり辺りを表現してみましたみたいな、なぜかそういう印象。
ああ、あんまり怖くないホラーみたいな、そういう感じか。不気味で何となく気味が悪い。でも魅かれずにいられない。
音は安定してるのに、曲の不安定さが最後で増す一方。薄気味悪いなあと思う間にFO。

8曲目、Hallows Eve。
Bがべんべん。のくたろ〜んと始まる。人気のない、夜のどこかの工場の敷地内という印象。
サビを歌ってるのはKennyか。
Peteはわざとまた訛り強調して歌ってるのかなこれ。
曲としては真っ当と言うか、さり気なく重ねた音が凝ってていい感じ。
なんでここでPeteがきれいに歌うのorz 相変わらず不安定と言うか、聞いてると面食らう展開だなあ。
Gのリフが立ってていい感じだ。Peteが歌う後ろで鳴る音が、みんな妙に美しい。不安定な印象のくせに、音のひとつひとつはみんな麗しい。
綺麗な薔薇には棘があるの反対で、美しくないはずのものを美しく感じてしまうその感情に対する戸惑いというのか、そういうのが湧く。
何だか、目の前にいる誰かに、ちょっとバカにされて笑われてるみたいな、でも悔しさよりも悲しさが湧くような、そういう感じ。自分が惨めなのが悲しいというような、そういう感じ。
Dr.のオカズがいいなあと思ってる間にFO。誰かの哄笑が聞こえたかと思った。

9曲目、Day Tripper (Medley) ("Day Tripper" / "If I Needed Someone" / "I Want You (She's So Heavy)")。
いきなり首をくくりたくなるような音で開始orz
Paulが聞いたら怒り狂う予感。ちゃんとMetalだよ! 超冒涜アレンジ! でも気持ちいいよどうしよう!
Day Tripperはぶっちゃけ、歌うのはけっこうめんどくさい曲で、それをつまらなくない感じにしてるアレンジはすごいと思うし、Peteはよく歌ってると思う。本気ですごいと思う。冒涜アレンジだけど。
ビートルズもまた、あのメンバーだからこそ出せた音なんだと、再認識させてくれる。
さらっとオリジナルをなぞってやるとただつまらない曲になる(オリジナルが演ると別)ところを、アレンジと声で聞かせてるのはすごいと思う。
そしてI Want Youはさすがと言うか・・・このまま「オレらの曲でーす」って言ってもおかしくないと思うよ。これはオリジナルこそが、「え?ビートルズ?え?」っていう曲だしな。
うっとりしてたらいきなりブチ切れて終わり。工エエェェ(´д`)ェェエエ工

総評。
始まり方も終わり方も、聞いてる人間を驚かせるための冗談と見た。
相変わらずの構成。1曲目がこれですか、最後はカバーでいきなりブチ切れですか。なんかホントにCDに何かあったのかと思うじゃないか。
重いのもトロいのものたくた〜んぶりも相変わらず。October Rustよりもダサさが見えるようになって、むしろ人間味が増したと言うのか。酔っ払える度も相変わらず。今回はよりヘヴィーに、まさにコカインか何か決めてますという感じで。
傾向としては、自分の内側にいっそう深く向きつつも、そのせいかよけいに実際の「死」(自分のものとは限らず)に近くなって、そのせいで思想の向かう方向がよけいに普遍的になったと言うのか。
個人的度が増してるはずなのに、向かう方向は外へ向かって拡散、というか、テーマがもっと人間の根源に向かってるような気がする。
October Rustの美しさが、ある意味青年になりたての人間の、非の打ち所のない完璧さによるものだとしたら、WCDは、そこから大人になって、成熟したゆえに現れてしまった欠点による不安定さが生み出す安定感と言うか、ORとは別の方向での完璧さとでも言うのか。
まったく完璧ではない。徹頭徹尾不安定さがつきまとう。触れたら切れそうな鋭い美しさではなくて、むしろ手を汚しても触れてみたいと思わせるような、うっかり庇護欲をそそるような、そういう妙な魅力。
アルバムとしてまとまってるのかどうか、それすら今はっきりとはわからない。全編に漂う息苦しさ、闇の中で窒息しているという閉塞感、けれどなぜか、どこかに救いがあると信じられるような、奇妙な爽やかさと広大さ。
「どうせみんないつか死ぬんだ、死んだら焼かれて骨になるだけ、骨になったら誰とも見分けがつかなくなる」とでも言うような、突き抜けたような開き直り。
何だろう、妙な無邪気さを感じる。飾らないと言うか、何かをさっぱり脱ぎ捨ててしまったと言うか、素直と言えば言える、でもどちらかと言えば、ヤケになってめんどくさいことをやめてしまったと言うような、きれいな服を脱いで、みっともない下着姿を晒してるような(裸ではないところがミソ)、そういう印象。
絶望ではなく、諦観。人生とはこういうものだと、若気の至りではなく見切りをつけてしまって、でもまだ実際には若いから、死は遠いという、そういう立ち位置。
もう自殺はしないけれど、代わりに酒と薬に溺れて、消極的に死へ向かうという、そういう態度。
もう(死に対して憧れだけを抱ける)子どもではないのだという、避けようのない淋しさ。
高校生の頃に、自殺未遂(実際に実行したのか、実行以前に見つかったのかは不明)で閉鎖病棟に入院させられてた頃のPeteは、確実に、思春期の不安定さだけのせいではなく、物理的に脳の中のバランスがおかしくなってたと思う。
TONを始めて、30も半ばを過ぎて、頭の中は落ち着いたけれど、それでもいわゆる普通にはなれず、この辺りから人嫌いが若さ特有のものではなくなって、ほんとうにもう1枚の皮膚的な感覚になってしまって、ああやっぱりどこかがおかしい(単なる事実)んだという認識に、本人自身が落ち着いたんじゃないかなと思う。
何と言うか、アルバム全体に流れるトーンは、どこか淋しげだ。孤独を強く感じる。
ほんとうに死を目前にしたら、この人はどういう態度を取るんだろう。
Peteの、人間としての成熟を感じる。ここまで(女々しい)素を、女々しく剥き出しにできるほど強くなったという驚き。
さらけ出した本音が、まとめてみたら偶然うっかり美しくなりました的な、芸術的昇華の点が高い作品。Peteの感じる孤独の深さゆえに、、テーマが結果的に普遍的なものになってしまったという辺り、結局どこまで行っても人は人である、ということなのか。



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