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* コプヤン、オーベルシュタイン

■ #イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる / リンアテ

やめろと言うのに、こんな時はいつも以上に器用になめらかに動く手に、するりと膚を剥き出しにされて、ひやりと触れる空気に立った鳥肌を消したくて、結局開いだ腕の中に抱き込んで、後は何もかも有耶無耶になる。 腹に近づいた唇がまた完全には触れて来ないのに、早くと急かしたオレの、結局は負け。

時子@psychpomp | 2019/2/27

■ 怖くない、君の為だ怖くない。 / コプヤン

検査は礼儀ですよと言われて、星の数ほど恋人のいた君ならそうだろうねと返しても、めげもせずに詰め寄られて、恋人なんて皆無だったわたしにそんなものは必要ないだろうと言い返したところで、それは信頼の問題ですなと涼しい顔で押し切られるだけだ。
差し出す腕に突き立つ針。注射は大嫌いだ。自分の血が吸い取られるところを見るなんてごめんだ。君のためでなければ、軍医なんて顔も見たくない。

お題bot | 2018/8/1

■ 魔女の愛した一輪の花 / コプ(魔女)ヤン

白い百合が好きなのと、魔女が照れくさそうに言う。似合わないのは知ってるからと、慌てたように付け加える、ほころんだままの口元が、きれいに開いた蒲公英のように見えた。
でも、と言い継いで、赤い薔薇も最近好きになったのと言う魔女の頬に、花びらの赤みが差して見えて、薔薇の騎士の心臓がひと拍跳ねた。

お題bot | 2018/8/1

■ 自由をくれた罪人へ / コプヤン

気弱な笑みを浮かべて、虐殺者が、血まみれなのを気にしながら手を差し伸べて来る。
人殺しがその手を取る。返り血を浴びたままの姿で、血に濡れた掌を重ねる。
騎士然と、人殺しは、築いた屍の山の上に据えた玉座へ虐殺者を導くけれど、彼の人は穏やかにそれを拒絶した。
罪の茨の冠のもたらす自由はどんな味か。
血の匂いにむせながら、人殺しはまたひとつ死体を貢ぎ、高さを増す山を、虐殺者は泣き笑いで振り仰ぐ。

お題bot | 2018/8/1

■ 愛しい愛しい裏切り者 / コプヤン

裏切る者として現れて、嘘も卑怯も平気な顔で、そのくせ気高く頭を上げて、その誇り高さが裏切り者と言う誹りさえはねつける。
自ら選んだ主にだけ膝を折り頭を垂れ、獰猛な獣と言う噂もどこへやら、まるで可愛らしい犬だ。
貴方以外すべてを裏切っても構わないと言い切る瞳に、嘘も誇張もないのが、腑抜けのわたしには恐ろしい。
せいぜいその期待に応えようと、独裁者の途を断つために、今日もわたしは腕を上げる。

お題bot | 2018/8/1

■ 包むてのひら題 / コプヤン

厚い掌が指先をくるみ込んで来る。合わせた掌の間に生まれる熱の、そこから滴り始める血。屍の山からしぼり取った血潮に濡れた互いの手を、重ねて、触れ合わせて、次第に深まる血だまりにともに溺れてゆく。
肺を満たす血の匂いは、けれど互いの体温で薄めて、ほんのひととき、ねばるそれを汗を誤解して、重なったままの掌は人殺しのそれでもあたたかい。

お題bot@ODAIbot_K | 2018/7/26

■ 毛づくろい / コプヤン

マフラーがよれてますよと、すっと襟元へ伸びて来る手。去る時にはついでのように肩の辺りの埃を払い、それだけでは足りずに、ずれたベレー帽まで直してくれる。
余計なお世話だよと言うのに、まるで自身の身繕いのように、上官の身なりを整えて、そうする手指の優美な動きに、思わず見惚れてしまうのだった。
その動きが見たくてわざとマフラーを乱したなんて、絶対に知られたくない。

お題bot@ODAIbot_K | 2018/7/26

■ 紫を纏う / DNTコプヤン

不思議なその紫の影が、何を宿したものかと目を凝らしても、灰褐色の瞳の中に映るのは自分の小さな顔だけで、自分の髪の昏さのせいでただ濃さを増したその瞳の中に、消え去ろうとした紫の影をまた捉える。
自分の瞳にも、その紫の影が映っているだろうかと思いながら、自分の瞳など見ることもできないのが残念で、ふと瞬いて隠れた灰褐色の瞳の、その眼球の完璧な丸さは、けれどこうして見つめる自分だけが見れるのだと思った。

お題bot@ODAIbot_K | 2018/7/26

■ #秘密を作った / コプヤン

物陰に滑り込んで、パズルのように絡め合わせる指先の、骨の鳴りそうに絞め上げる痛み。薄い闇の中で、手探りのようにぼんやり見える輪郭同士を触れ合わせて、近づいて来る足音と気配へ神経を立てて、それでもほどかない唇。
ふざけているにしてはこちらを絞め殺しそうに見つめて来る灰褐色の瞳に、映る自分の頬に差す赤みが、分け合う秘密の重さを伝えて来て、誰にも言えないと、そのためにまた塞ぐ唇。

#秘密を作った | 2018/7/26

■ まぶたの奥の宇宙 / コプヤン

縁がなさ過ぎて、恋の仕方なんか忘れてしまったよとぼやいたら、目を閉じてごらんなさいと言われた。
渋々言う通りにして、誰かがそこに浮かびますかと訊く静かな声に導かれてか、眼球の裏の闇に、ひと際明るい星が現れ、慌てて目を開けたそこには、恐ろしく優美な、可愛らしくも不敵な、とことん人の悪い笑顔。
その瞳に映る、明らかに恋をしている小さな自分の顔。

お題bot@ODAIbot_K | 2018/7/13

■ なみだあめの夜 / コプヤン

 窓に伝う雨を指先でなぞって、それは自分の涙だと思った。まだ泣けない自分の代わりに、空が泣いているのだと思った。
 ろくでもない感傷だと思いながら、いっそ泣き喚いてしまえれば楽になるかと思っても、まだ涙にはならない。
 信じてはいない現実を思い知るのは、自分が死んだその後だ。
 迎えに来て下さるのでしょう。置き去りにしてしまった貴方の犬を、ちゃんと出迎えて下さるのでしょう。
 主を失った、首輪に繋がった鎖の先はだらりと地面に垂れたまま、引きずって歩くみっともない姿すらどうでもいい。
 空が泣き、鎖が土埃を立て、薄汚れて佇めば、人と時がその傍らを通り過ぎてゆく。置き去りにされた自分はただそこにとどまり、足を踏み出すのは、見失った背中を見つけたその時だ。
 血の足跡と匂いをたどって、進む先に待つものが何か、とっくに知っている。
 夜明け前の昏さは、宇宙の闇に似ている。そこに目を凝らし、届くはずもないそれへ手を伸ばす。
 雨音に湿る長い夜の終わりに、空の手を見下ろして見えない血の匂いをかぐ。無数に重なった血の層からたったひとつの匂いをかぎ取り、犬は空ろに微笑む。
 自分の死ぬ日までを数えている。夜明けにはそれにまた1歩近づく。待ち切れずに犬は尾を振り、泣く代わりに、雨の夜空へひと声吠えた。

(創作向けお題bot) | 2018/7/11

■ 終わりは、君にあげる / コプヤン

私に下さいますかと、首筋をなぞられたから、好きにするといいよと答えた。
首から下は無用の長物で、誰も欲しがらないだろうから、君の好きにするといい。死んでしまえば頭だって役立たずだから、君が持って行くといい。
全部君にあげよう。皮膚も骨も肉も内臓も血も髪も爪も眼も何もかも、君のものにするといい。
最期の呼吸も引き取ってくれたら、わたしはきっと笑って死ねるだろう。

(創作向けお題bot) | 2018/7/11

■ 首から下を愛で汚して / コプヤン

息が切れる。しがみつく。ひどく立てた爪の下で、皮膚が裂けた気配がする。
汗の混じった首筋を舐めたら、塩辛くてまた欲しくなった。
穿たれた躯の奥に閉じ込めて、繋がったままでいられたらいいと、埒もないことを考えた。
熱が混じる。汗ではないそれが混じる。腹に吐き出されたそれへ指をひたして、掌を全部汚す。
熱の残滓は命の名残りと、思った途端にいとおしさが増して、もう一度と魂を寄せ合う形に脚と胸を絡めて重ねると、鼓動が紡いだ音がひどく美しく響いた気がした。

(創作向けお題bot) | 2018/7/11

■ あんたの脱け殻 / コプヤン

寒いですかと肩に乗せられた上着から、いい香りがして、思わず肩の方へ頬をすり寄せた。
体温を吸い取ったそれはあたたかく、抱き寄せられたような心地になって、ほんものではなくても悪くはないと思う。
作った繭の中に手足を縮めて閉じこもるように、君の上着の中で眠るように目を閉じた。
夢の中でせめて、皮膚を縫い合わせたようにひとつになれたらと、溶け合うことを阻む、魂の容れ物であるひとの体のことをふと疎ましく思っても、それがなければ触れ合うこともかなわない、生きてゆく者の哀しさへただぼんやりと頭を振る。

お題bot@ODAIbot_K | 2018/7/11

■ 君の体温が私の心を弱くする / コプヤン

 悪夢を見て手足の冷えで目が覚めて、目の前の背中へ抱きついて、首筋に額をこすりつけても目覚めはしないほど深い眠りの中にいる貴方のぬくもりであたたまる。
 貴方を守ると言い続けるその言葉の裏にある、貴方を守ることで自分が貴方に護られたいのだと言う本音を、貴方はとうに聞き取っているのだろう。
 貴方の眠る眠りの中に割り込みたいと思うのも、ただ自分が不安だからだ。貴方と出逢って知った自分の弱さを、けれど受け入れられるほどに自分は強いのだと思い知る。
 貴方の体温は私を弱くするが、私はその弱さによってより強くもなれる。すべて貴方のために。

お題bot | 2018/5/29

■ 冷えた心臓に名を刻む / コプヤン

 もう痛みもない、血も流れないその胸を切り開いて、肋骨すら素手で折り開いて、鼓動のない心臓に触れよう。
 その、休むことなく動き続けた思考機械の脳に、絶え間なく血を送り続けた、魂の在り処かもしれないその心臓を、捧げるように両手の中に取り上げる。血の気の失せた灰色の器官が、命ひとつ分よりも重いくせに掌の中では存在感もなく、放り出せばもう誰のものと見分けもつかない。
 自分の名を刻もうか、それとも貴方の名前を刻んでおこうか。この場から盗み出しても誰のものとすぐに分かるように。貴方の胸の中に戻るように。
 とうに盗まれていた自分の心と引き替えに、さっさと奪えばよかったのだと思ってももう、何もかも遅い。

お題bot | 2018/5/29

■ だって君を愛したんです / コプヤン

 気障で皮肉屋で毒舌ばかりで、口を開けば気に食わないことばかり言うくせに、伸ばして来るその手が優しいのはなぜだろう。
 ほざされたとか流されたとか、言い訳めいてつぶやいても、何となく自分がいやになるだけで、結局は向けられた笑顔に負けてしまう。
 不敗なんて大嘘だ。負け続けで、敗者復活戦もない有様じゃないか。

お題bot | 2018/5/29

■ 21グラムを君に / コプヤン

 最期のひと息が足りなかった。ありがとうとごめんを言おうとして、肺が空になってしまった。
 21g軽くなったのは、ベレー帽がないせいで、たくさん流れた血のせいだ。それから、削り取られてしまった肉が少し。
 わたしを抱え上げて、君はそれに気づくだろうか。少し軽くなってしまったわたしを抱え上げて、君は知るだろうか。
 ごめん、そしてありがとう。ほんとうにありがとう。またいつか会おう。百年くらい後に。

お題bot | 2018/5/29

■ あなたに会う唯一の方法 / コプヤン

 屍の塔を作ろう。登れば貴方に会える。貴方と一緒に私が殺した死体の路をたどれば、きっと貴方に行き着く。
 踏みしめる、もう固くなった動かない肉体。足裏を濡らす血だまり。自ら降らせた血の雨に濡れそぼって、頬が湿るのは決して涙ではない。
 1日1時間1分1秒、あらゆる時間を数えて、隔たった貴方の気配を探って、這いずってでもそこへゆくのだと、血まみれの手を伸ばす。
 鬼でも悪魔でも走狗(いぬ)でも、どんな名もどんな姿も、貴方に会うためなら構わない。
 宇宙の闇色の目がふたつ。そこへ吸い込まれたい命がひとつ。

お題bot | 2018/5/29

■ #物書きのみんな自分の文体でカップ焼きそばの作り方書こうよ / オーベルジュタイン

湯を入れて3分待つのなら、その間に犬を撫でていればよいと思ったのに、ここには犬がいない。
ソースの匂いがこんなにするとは聞いていない。
カイザーに青のりがついていると言われ、先に言わなかった部下を赤い義眼で睨んでおく。

| 2018/2/21

■ 物好きなのはお互い様で / コプヤン

貴方の犬貴方の犬とうるさいから、それなら首輪がいるなと言ったら、どうぞと誇らしげに胸を反らして喉を伸ばして見せる。
どこで躾け方を間違えたろうと、うっかり考えて頭を抱えた。
もう、野良犬でもなく猟犬でもなく番犬でもなく、腹も喉も何もかも無防備に晒す姿は単なる愛犬だ。
犬なんかちっとも好きじゃなかったのに。
飛び出して行っては無事に戻って来る、わたしをいつも心配させる犬なんか嫌いだ。
わたしの犬と呼び返して、ご褒美に頭を撫でてやるだけで充分な犬なんか、大嫌いだ。

お題bot | 2018/3/8

■ 噛み付き奪ってこの手に収めた / コプヤン

薔薇の棘のように、その指に牙を突き立てよう。流れた血を舐め啜って、汚れた唇でにたりと笑おう。
それでも怯まず伸びて来る手。
喉を伸ばし腹を晒し、撫でられる心地好さに過去を忘れた。
誰かの傍らで死ねる歓び。誰かのために死ねる喜び。
与えられた死に甲斐は、首枷の重みと軋み。

お題bot | 2018/3/6

■ ここに居るから、ここで君を待つから / コプヤン

涙を流さずに泣く君が見える。慟哭と言うのは、決して騒がしいものでもないのだと、君の姿を見て思う。
届かないはずの声を、聞き取った君が虚空を見つめる。
ここで待とう。いつか来るその日を。君がやって来るそのいつかを。
わたしの流した血が道標になるだろうか。君は血を流さずに、ここにやって来るだろうか。
わたしたちの手は共に血にまみれ、許されざる罪のために、流す涙すらもうなく、置き去りにする君の悲嘆の遠吠えが、空っぽの空へただ響き渡る。

お題bot | 2018/3/6

■ 愛した分だけ締まる首 / コプヤン

顎を指先に持ち上げられて、代わりに目の前のネクタイを手前に引いた。
他愛もない遊び、こちらは喉首を晒して、あちらは首を締め上げられて。
顎から滑った指が喉の線をなぞって、明らかに急所を狙って指先を止める。
いつでも殺せるのだと知って、飼い犬を試すつもりはないのだろう。
そんなことはしない。起こらない。
より多く愛した方が、勝ちなのか負けなのか。
喉と指のどちらに甘く噛みつくか、決めるまでの5秒間。

お題bot | 2018/3/6

■ 拒絶反応とえぐれた心 / コプヤン

宇宙の闇を凝らせた暗色の瞳が、あらゆる光を拒んで、そこへ時折映る自分の小さな姿の、あえかな皓さに絶望にも似た気分を味わいながら、見つめ続けることを諦められずに、判別し難い瞳孔が自分に向かってかすかに開く時には、落胆の端を淡々しい希望が噛んでゆくのに、長続きするはずもないそれがまた自暴自棄を肥大させて、悲観すらこの恋には勝てずに、ただそのたびえぐられる心の痛みで正気を保っている、この愚かしさにつける薬はない。

お題bot | 2018/2/24

■ ひどい男 / コプヤン

("君のためだけに、なんて綺麗事"へのリプにてお題をいだたいて)

恋は三日坊主の男に、惚れたと言われて落ちるほど純情ではなし、先に惚れたのはこちらだと張り合うほど覇気もない。
面倒くさいことは大嫌いだ。心がかき乱されるのはただ鬱陶しい。
日長一日、誰かさんの姿と声を追っているなんて、わざわざ教えるわけもない。
嘘つきな薔薇の棘に刺されて、全身くまなく回る毒を消せない。
ひどい男はどちらだ。わたしをこんな風にして、ひどい男は一体どちらだ。

by SS名刺 | 2018/2/24

■ 歪な関係だとわかっているのに / コプヤン

 不埒に伸びる手を止められずに、重ねるべきではない皮膚をこすり合わせて、好奇心と惚れたはれた、そして忠誠心の境い目に落ち込む。
 軍服も階級も、取り去ってしまえばだたの人間同士、何が悪いと開き直っても、一方通行の片恋の疑惑が拭えない。
 尻尾を振る野良犬を、気まぐれな戯れで撫でただけか。乾いた寝床を与えるのは、ぬくもりのためだけか。
 飼い主と飼い犬、歪んだ主従の関係、そこから時折顔を出す、決してそうとも言い切れない細やかな交情。
 宇宙の片隅で情動が紡ぐ、奇妙につたないふたりの真摯。

お題bot | 2018/2/24

のためだけに、なんて綺麗事 / コプヤン

始めたのは君だと、嘘を吐く。
この恋が始まった瞬間を、君は知らないだろう。知らせないままがいい。君が、自分が始めたと勘違いしているままで。
卑怯で狡い自分を隠して、流された振りを貫き通す。
仕掛けたのはそちら、応えたのはこちら、盤上で駒を動かすゲームみたいに、ただの勝ち負けにして心は傾けない。
君を傷つけないために。自分が傷つかないために。
君のための、恋と呼ばないわたしの卑劣さ。

お題bot | 2018/2/23

■ 命一つ分の時間制限 / コプヤン

365日、血を吐くように歩いて来て、最後の日に足を掛ける。
命ひとつ分、流れ切る血の重さ分、天上へ近づける。
背中から流れる血で道を作り、道標に斧を投げ捨てる。空手でゆく。そこで待つ人に会いに。喪われてしまった彼の人の元へ。
歓喜の笑みが抑えられずに、少々狂気の色を孕んで、子犬のように足をもつれさせて、あの人の傍ら目指して走ってゆく。
ようやく会える。何も言わずに、先に行ってしまったあの人に。ちょうど1年前のあの日に、現世から永遠に喪われてしまったあの人に。
ヴァルハラへ、後5分。

お題bot | 2018/2/23

■ 君を愛したことを今後悔している / コプヤン

 犬を飼うなら最後まで責任を持つべきだと、ずっとそう思っていたのに、飼い主の方が先に逝くのはルール違反だ。きっと君ならそう言うだろう。わたしもそう思う。
 150まで生きると言った君と、一緒にゆくつもりだったのに、ろくに始まってもいない人生がもう終わりになる。
 後顧の憂いと言うやつが、こんな風にやって来るとは思わなかった。立つ鳥跡を濁さずどころか、辺りは一面血まみれだ。
 この血を踏んで、言葉を失くす君が目に浮かぶ。また野良犬になる君が心配で仕方がない。
 還らないわたしを待ち続ける君は、乾いたあたたかな寝床を探して、これからどこをさまようのだろう。首輪から垂れた鎖を引きずって、その鎖の先を誰に差し出すのだろう。
 君にわたしを喪わせたわたしを、君は恨むだろうか。ひとのぬくもりに慣れてしまった飼い犬が、野良犬に戻れるわけもないと、怒るだろうか。
 どんな君にも、わたしは力なく項垂れるしかない。
 項垂れたまま、血の海で動けなくなる。失われてゆくわたしと、喪ってゆく君と、いっそ出逢わなければ、君にそんな思いをさせることもなかった。君の味わう辛さが、口の中でひどく苦い。広がる鉄の味を、もう飲み下す力もない。狭まる視界に最期に映るのを、君の泣き顔なぞにしたくはなかった。
 君を愛したことを、今後悔している。

お題bot | 2018/2/23

■ 嫌われ者と陽だまりの温度 / コプヤン

野良犬ですからと、思索のベンチへやって来る図々しさを言い訳して、ひょいとこちらの頭を膝に乗せて、長々と体を伸ばす。
邪魔だなと言ってもどこ吹く風、言いながらつい、犬のつもりで頭を撫でた。
血の匂いを立てる男を飼い犬にして、虐殺者の貌はうたた寝の奥へ隠して、日向でぬくぬくと、束の間味わう平和が、かりそめと分かっていて、ふたりで演じる午睡の絵空事。

お題bot | 2018/2/21

■ 君は血を吐くように私の名を呼ぶ / コプヤン

この血だまりの中で、その声を聞くとは思わなかった。
ぬくもりを返せない腕から力が抜けてゆく。
少し先にゆくけれど、後からゆっくり来るといい。どうせまた会える。いつか。
迷子になる心配はないだろう。多分。
眠りと死はとても良く似ている。ただ、分け合うぬくもりがないだけだ。
君の流す涙は、透明な血のようだ。血だまりに落ちて混じって、同じ染みをそこに残す。
最期に君を呼んだわたしの声は、きっと君には届かなかった。
代わりに、今君が、血を吐くようにわたしの名を呼ぶ。

お題bot | 2018/2/21

■ 香 / コプヤン

君は知らないんだろう、あの日強く立ったコーヒーの香りに、なぜかひどく魅かれてしまったことを。
気づかなければよかったと思った時にはもう手遅れだった。言葉と思考が奪い取られて、ただの無能者に成り下がる。
ただの泥水と思っていたのに、あの香りに君が結びついて以来、うっかり差し出されて、断る手が一瞬躊躇う。
紅茶のカップに寄せる唇の、あごの角度が見上げる時に似ていると気づいて、頬が染まるのは注ぎ過ぎたブランデーのせいだ。

by SS名刺 / 同音漢字@原生地 | 2018/1/17

■ 無題 / コプヤン

殺意はなく、害意もなく、けれど自分は虐殺者なのだとのたまう彼の、稚なじみた横顔の、そこだけ底なしに見える瞳の色は宇宙の闇色にそっくりだ。
まばゆい光を際限もなく吸い取るその瞳に、映る自分の血まみれの姿は、まるで彼には見えないように。
錆びないうちにトマホークの刃を磨く。脳ばかり冴え切った彼の、鈍い熱さを秘めた皮膚の感触を想像しながら。
冷たくて熱い、指先すら伸ばせない彼の皮膚を想いながら。

by SS名刺 | 2018/1/17

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