DNTシェーンコップ×ヤン
* みの字のコプヤンさんには「それは偶然だった」で始まり、「素敵な色になれたらいい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以内でお願いします。

Eye Candy

 それは偶然だった。ちょうどどこからかの明かりが、シェーンコップの目元へこれ以上ない完璧な角度で差し掛かり、虹彩に複雑に入り組んだ灰色をごく淡く紫色にひらめかせて、いつも以上に稀少な宝石のようにきらめくシェーンコップの灰褐色の瞳だった。
 ヤンは思わず動きを止め、そこへ目を凝らし、見入り、ヤンの視線に気づいたシェーンコップが微笑んで、わずかに細まった瞳に瞬く変化を、ヤンはまた瞬きもせず見つめる。
 ああほんとうに、なんて美しい男だろうと、その瞳の色だけで十分だと思いながら、やっとヤンは視線をシェーンコップの他の部分へも移し、それから固い音でもしそうに目をしばたたかせた。
 「小官の顔に、何かついておりますか。」
 からかうように言って、こちらにやって来る動きすら惚れ惚れするほど美しく、まるで動く美術品だとヤンは思った。
 いや別にと、ベレー帽へ掌を添えてごまかしながら、まさか君があんまりきれいだから見惚れていたんだと本当のことは言えずに、もごもご口の中で何やらつぶやいた振りで、ヤンはそれでもまだシェーンコップから視線を外せなかった。
 シェーンコップ、君は、ほんとうに──。
 きっと、世の女性たちから嫌と言うほど同じ台詞を聞かされて来たことだろう。同性の、しかも上官から言われて喜ぶとも思えず、ヤンは思うだけにしてやっと唇を真っ直ぐに結んだ。
 それでも、ごくかすかな隙間から、感嘆のため息がつい漏れそうになる。
 羽色のとても美しい、きれいに鳴く鳥を、かごに閉じ込めて飼いたいと思う人の気持ちを思い知って、目の前のこの男はもちろん鳥かごになど収まるはずはないし、鳥ではなく四つ足の、夜の森で音もなく獲物を狙う肉食獣だと思いつけば、この男を閉じ込めておける檻などあるはずもないと、ヤンの白昼の夢想に現実が一片忍び込む。
 シェーンコップは、そんな風に美しい男だ。
 わずかに顎を胸元に引きつけてヤンを見下ろし、今はなぜかかすかに潤みを増したように見える瞳に、ヤンは改めて見入ってから、ふとその瞳に掛かる、彼の長い濃いまつ毛の影に気づく。
 瞳の色の淡いせいで、影がはっきりと見える。数が数えられそうにくっきりと、影が色濃くそこへ落ち、また不思議な陰影をヤンに見せ、こんな美しさを銀河のすべてに行き渡らせれば、人は戦争なぞ馬鹿らしい、美しいものを愛でていようと、すぐさま武器を捨てるだろうにとヤンは考える。
 物事はそんな風に単純ではないと分かっていながら、シェーンコップの生み出すこの複雑に組み合わさって現れる美の前には、現実の複雑さは恐ろしく無意味に思えても来る。
 たとえ血まみれになったとしてもこの美しさが損なわれることがないだろうことが、ヤンには奇妙に意味深いことに思えた。
 君はほんとうに、とてもきれいだシェーンコップ准将。
 うっとりと思って、ヤンは自分がこの美しい男の上官であることを再び思い出すと、途端に唇の合わせ目がゆるみ、決まり悪げにその時だけ視線を外しながら、
 「ちょっと、瞬きしないでいてくれないか。」
 ぼそぼそ歯切れ悪く言うのへ、は?と予想通りの反応が来た。
 「あ、いや、10数える間でいいんだ、目を、閉じないでいてくれたら──。」
 シェーンコップの唇の片端が、いかにも可笑しそうに上がる。
 「目を閉じろと言われたことはありますが──。」
 そうしてシェーンコップは、ヤンのために瞳を差し出す。ゆっくりと10数えるその間、ヤンはシェーンコップの瞳を独り占めした。
 ヤンは知らず顔をかすかに斜めに傾け、思う存分その瞳の色を凝視し、そしてふと、そこに映る小さな自分の姿に気づいた。ヤンの今まとうあらゆる色がまた、シェーンコップのこの瞳に新たな変化を与えている。一瞬も同じ色はない。その色のひとつびとつに再び見入り、10数えたシェーンコップがゆっくりと閉じた、まぶたに覆われる瞳を、まるで永遠の別れのように心底惜しんで、ヤンもつられたように、ため息とともに瞬きする。
 ふたりの瞳がまた開き、そこに重なった色違いの瞳と瞳が生み出す色へ、まるでヤンに引きずられたようにシェーンコップが目を細めた。
 宇宙の闇に浮かぶ星々の瞬きのような、ヤンの瞳の中に浮かぶかすかな光へ、シェーンコップもまた吸い寄せられてゆく。
 シェーンコップの見ているものには気づかずに、ヤンは、ゆっくりと開いてゆくシェーンコップの瞳孔を囲む彩りに目を奪われたまま、自分がそこへ差し込む、素敵な色になれたらいいと、また夢のように思った。

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