シェーンコップ×ヤン
* コプヤンさんには「今の状況を冷静に考えてみよう」で始まり、「もう少し生きていようと思う」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば2ツイート(280字)以内でお願いします。

Faith

 今の状況を冷静に考えてみよう。
 エル・ファシルの英雄とやらが、イゼルローンを中から落としてくれと言って来た。面白い冗談だと思ったら、本気の作戦だそうだ。
 最初は何を馬鹿なことをと思って、そしてまた、ローゼンリッターに対する嫌がらせ、つまり行って死んで来いと言ういつものあれかと思った。そんな作戦に出掛けて行って、成功させて生きて戻るのが皮肉の返し方だ。
 そのつもりで話を聞いてやったら、貴官を信用する、だと。裏切り者に、随分な評価だ。失敗すれば、自分も一緒に引きずり降ろされると、分かっているのかいないのか。
 それとも英雄さまは成功続きで、失敗した時の惨めさをご存知ないのか。俺たちを信じた挙句──唇がねじ上がる──に失敗したら・・・なるほど、俺たちは、八つ当たりと責任転嫁のための生贄か。
 成功するはずもない作戦。だったら死んでも構わない奴らにやらせよう。裏切り者の厚顔無恥をぶら下げて生きて戻って来たら、おまえらのせいで失敗したと罵る準備は万端と言うわけか。
 上はいつも正しい。そのさらに上は常に正義だ。悪者は、実際に武器を手に敵と対峙する俺たちだ。成功すれば上の手柄、失敗すれば俺たちの責任。裏切り者の俺たちは、無茶な作戦を成功させてやっと、生きて呼吸をすることを許される。
 また同じことの繰り返しかと思いながら、退役するだの年金だの恒久的平和なんかないだの、呆れた台詞が続いた。そうして、ふっと穏やかな声に戻って、養子の14歳の男の子がと言う。その子が戦場に引き出されるのを見たくない、と。
 ああ、そう言えばそうだった。弱者のために戦うと言うのが建前だった。弱者のための平和を、迎えるための戦い、そうだった、遠い昔に、輝く目でそう語った誰かがいたような気がする。
 なるほど、と思って、正面からその顔を見る。鋭さはどこからも窺えない顔立ちの、けれど宇宙の闇そっくりの瞳が、底なしの昏さでこちらを見ていた。
 裏切り者を信じると言った愚か者の英雄を、信じてみようと思った。
 俺たちがやれば成功すると信じている、闇色の瞳の中の瞬き。まだ面白いものが見れそうだ。もう少し生きていようと思う。この人のために。

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