シェーンコップ×ヤン
* コプヤンさんには「謎は謎のままがいい」で始まり、「そんな君がただ愛しかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以内でお願いします。

カカシの恋

 謎は謎のままがいい。一体何がどうなって君に恋してしまったかなんて、今さら理解しようとしてもしょうがない。
 ただ起こってしまったこと、恋に理屈はいらないと、本ばかり相手にして来たわたしは心底思い知って、言葉も知識も経験──ろくにないけれど──も役に立たないあれこれを目の前にして、身動き取れずにただ突っ立っている。まるでカカシだ。
 道の端に立つ、棒きれでできた人の形をしたもの。目鼻をつけてもらえれば、もう少し人間らしくなって、顔に表情すら読み取ってもらえるかもしれない。
 それでも、口をきくことは叶わず、朝夕同じ道を通る君の姿をただそこから眺めるだけの、カカシ。
 君はカカシのわたしに気づいて、ある日には笑い掛けてくれるだろうか。雨の日には、濡れそぼったわたしを、気の毒にと思ってくれるだろうか。寒い日には自分のマフラーを貸そうかと、一瞬だけでも思いついてくれるだろうか。
 君の目にわたしは、一体どんな風に映っているのだろう。
 何の取り柄もない、首から下は役立たずの、軍の穀潰し。それでも君はわたしの傍らにいて、毒舌と皮肉に敬愛をこめる。芝居がかった仕草も口振りも、嫌味でなく板についているのは、帝国生まれの血のせいなのか。
 わたしはみすぼらしいカカシだ。木切れの組み合わさっただけの、どこにも行けずにいずれ朽ち果てるだけの、ひとりぼっちのカカシだ。
 声もなく、君の名を思い浮かべ、いまだ時々迷うその帝国語の複雑な綴りの、Oにつくアクセントの点すらいとおしい。君の名を正しく綴った最後に、ペンの先でつけるその点が、君のふたつの瞳のように思えて、わたしはたった今書いたそれをじっと見つめる。
 カカシの名無しのわたしを、君が横目に通り過ぎる。わたしの、ないも同然の下──君にとっては上──の名前を、君はどうせ正確には発音できず、わたしも口移しに教えられない。
 それでも、提督と言う君の美しい発声をわたしはひとり楽しく誤解して、恋の言葉のように聞きながら、そんな君がただ愛しかった。

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