シェーンコップ×ヤン

Let's Get It On

 何となくだらだらと、先に進むのが惜しいような気分で、互いの体に腕は巻いてもそれ以上は自分と相手を一緒に焦らし合っているように、先にしびれを切らしたのはヤンの方だった。
 おやおや、とシェーンコップが下から、例の人を食ったにやにや笑いでヤンを見上げて来る。
 ヤンは唇を尖らせて、その唇をそのまま下へ滑らせて行った。たどり着く先は直截に、勃ち上がってはいてもまだ完全ではなく、むしろそこへそそられて、ヤンは開いた口の中へいきなり奥までそれを飲み込んだ。
 舌の上へ滑り込ませた途端、喉の奥へ届く硬さへ成長して、ヤンはむせそうになりながら唇をゆるめて、速度を落として舌を動かす。
 シェーンコップの長い指がヤンの髪を何度もかき上げて、そうしている目元のきちんと見えるようにしながら、次第に息が湿って来る。ヤンは時々シェーンコップの、筋肉ばかりの固い腿へ掌を滑らせながら、同じほど今は硬いそれへ、意地悪する手前まで軽く歯を立てた。
 口の中で一度果てても、もう一度と言うのに大して時間は掛からなくても、そうはしたくないシェーンコップは途中でヤンの体を引き上げ、押さえ込むようにヤンを自分の下へ敷き込む。
 喉の尖りの辺りを噛まれ、鎖骨を噛まれ、ヤンを真似するように、ゆっくりとシェーンコップの唇が下がってゆく。けれどみぞおち辺りで動きを止めて、また焦らすように、シェーンコップはヤンの薄い腹に頬ずりするだけだ。
 ヤンは焦れて、はっきりと先を催促した。それでもシェーンコップは、もう少し、とヤンをなだめ、こんな時にはヤンを赤面させずにはいない美しい笑みを浮かべて、ヤンの物欲しげな唇を親指で撫でながら、もう一方の手をサイドテーブルへ伸ばす。指の先に、ヤンがここに持ち込んだウイスキーのぶ厚いグラス。
 最初から氷抜きだったそれはもうすっかりぬるんで、シェーンコップはグラスをヤンの腹の上で傾け、とぽとぽと濃い琥珀の液体をそこへ注いだ。
 ヤンの皮膚の上で跳ね、水分は少しだけそこで吸われ、それでも一応はある腹筋の線に沿って、アルコールの小さな細いせせらぎを作る。ヤンはシーツへこぼすまいと、下腹へ力を入れた。
 シェーンコップはグラスを元へ戻し、ヤンの腰を抱えて、舌を伸ばして酒を舐める。獣が水を飲む仕草で、ヤンの腹へ舌が触れるか触れないか、そんな動きでウイスキーを舐め取り、すでにぬるい温度がヤンの体温でさらに上がり、シェーンコップの舌へすくい取られるとさらにぬくまる。アルコールの蒸気が、強い香気を持ってシェーンコップの鼻先を打った。
 ヤンは背を反らしたい気持ちになりながら、シーツを汚したくなくて身じろぎしない。シェーンコップの頭を抱えて、ウイスキーと良く似た色の髪の中へ両手の指を差し入れて、自分のせいか酒のせいか、指先に熱いシェーンコップの体温に、自分もいっそう煽られてゆく。
 浅い腹筋の線へ沿って舌を這わせた後に、臍のくぼみに丸く酒が残り、思ったより深さのあるそれを、シェーンコップは唇で覆った。舌先で縁をなぞると、ヤンが上で喉を伸ばして声を上げた。
 腹がわずかに震えて、その小さな小さな泉に波紋を立て、1滴1滴、シェーンコップの舌先が、気の遠くなるような時間を掛けて中身をすくい取ってゆくのに、ヤンはまるで躯の内側でも探られているように深く喘いだ。
 時々甘く歯が立ち、残り少なくなった底へ、シェーンコップは下品な音を立てて吸いつく。やっと飲み尽くして顔を上げ、唇を舐めるところをヤンに見せつけると、見ているのかいないのか、ヤンは焦点の合わない視線をシェーンコップには投げはして、ぎりっと下唇を噛んだのが見えた。
 いらいらしている時にヤンがする仕草だ。焦らし過ぎたかとシェーンコップが思っていると、ヤンはシェーンコップの下から抜け出すように体を起こし、シェーンコップの肩を引き寄せて体の位置を入れ替えた。
 今度はヤンがウイスキーのグラスを取ると、中身を口に含んでそのままシェーンコップへ唇を押し当てて来る。受け取り損ねて、開くのが少し遅かったシェーンコップの唇の外へ半分はこぼれ、それでもシェーンコップは、ヤンが注ぎ込んで来たそれを喉を鳴らして飲み込んだ。
 唇が外れて至近距離で見つめ合いながら、濡れた口元と首筋を拭おうとしたシェーンコップの手を、ヤンがシーツの上に縫い止めるように妨げた。
 少し動けばいくらでも跳ね返せるそれを、シェーンコップは面白がるようにただ受けて、ヤンの上気した顔が再び近づくと、こぼれた酒の跡をヤンの舌が舐めてゆく。喉を焼いた酒よりも、ヤンの舌が熱い。
 酒に濡れた唇をべったりと舐められて、その舌を絡め取ろうとしたのに、それを悟ったヤンに逃げられて、かちんとシェーンコップの歯列が噛み合って鳴る。ヤンの唇から酒の匂いがする。ごくっと、シェーンコップの喉がまた上下した。
 ヤンの体が下がる。再度唇が触れ、覆われて、まだアルコールの残る粘膜に包まれて、酔いが敏感な皮膚から巡って来る。
 シェーンコップがさっきヤンの腹で立てたような、品のない湿った音をさせて、ヤンは顔を動かしながら舐めて、今では口の中に収め切れずに、精一杯開いた唇の両端が痛むのに、時々顔を歪めているのが見えた。
 シェーンコップはそっと体を起こし、ヤンの邪魔はしないように、静かにヤンの腕を引き、体の向きを変えさせる。シーツの上を爪先を滑らせて来たのを自分の方へ引き寄せ、足裏や膝裏へ柔らかく歯を立てながら、ヤンが望む位置へ躯を寄せて来るまで、シェーンコップは辛抱強くヤンの脚を引いた。
 ヤンは相変わらずシェーンコップの下腹へ顔を伏せたまま、つたなさがそそるような動きでシェーンコップへ唇を与えて、シェーンコップはそれに耐えながら、また体を伸ばし、酒のグラスを手に取った。ごく軽く、口の中を湿すだけの量で、それでも口の中にその湿りを残したまま、今度はシェーンコップがヤンへ向かって唇を開く。
 そうして触れた途端、ヤンの腰が跳ねた。手を添え、それを押さえて、ヤンが体を引こうとするのを許さずに、シェーンコップはヤンの動きをそっくりそのまま真似て、舌を動かした。
 ヤンの唇の方は、軽く突き上げてそちらも逃さずに、今度は音を立てずに、シェーンコップはヤンのそれへ唇を這わせる。
 同じ姿勢で、同じ仕草で、同じ愛撫を加えて、シェーンコップがヤンの真似をすれば、ヤンがシェーンコップを真似し返して来る。こういう学び方もあるかと、シェーンコップは動く舌の片隅でこっそり苦笑をこぼして、しばらく後、あまり優秀とは言えない生徒からまず自分の躯を外し、自分も唇をほどいて、力の抜けたヤンを励ますように自分の上へ引き寄せた。
 そこから回った酔いのせいではないだろうけれど、ヤンはいつもよりぼんやりとした表情で、されるままシェーンコップの腰をまたいで上に乗ると、ぬるりとかすめたシェーンコップのそれへ自分で手を添えて、上から躯を繋げて来る。
 シェーンコップの教育のせいかどうか、ヤンは開いた躯を隠しもせず、声も動きも止めずに、シェーンコップはヤンの腰を支え、ただヤンが貪るに任せた。
 躯の奥から音楽が聞こえる。ヤンがそれに合わせて動く。ヤンの声が、歌うようにそれに重なり、いつの間にか、シェーンコップも一緒に歌っている。自分の上で卑猥に踊るヤンを、シェーンコップは目を細めて眺めている。
 ゼリー状の海の中で、手足を取られてもがくしかできずに、肺から出た最後のひと呼吸が泡になってどこかへ消えてゆく。呼吸よりももっと大事な、こすれ合う皮膚の感触に、酒のかすかな酔いが滑り込んで来て、躯を揺するのにヤンはもうそれを自分で支え切れずに、少しずつ後ろへ倒れてゆくのを、シェーンコップは腕を伸ばして受け止めようとした。
 躯を繋げたまま、倒れるヤンへ引かれて体を起こし、シェーンコップはそのままヤンを責めた。膝裏へ掌を当て、そんなことをすれば痛むのを承知でヤンをふたつに折り曲げて、内側を力任せにこすり上げる。
 膝裏の、青白い照りは、薄闇の中ではそうとは見分けられず、活字の印刷された本のページの紙面のようなヤンの膚に、今は血の色が広がり、それへ、シェーンコップは自分の全身をぶつけてゆく。
 筋肉ばかりの硬い体が触れると、ヤンの肉の薄い体は壊れそうに震えるけれど、内側は裏腹の強靭さと柔らかさで、深々とシェーンコップを飲み込んでいた。
 シェーンコップを引きずり込んで、小さな泉と思ったのが底なし沼だったと、気づいてももうシェーンコップは浮かび上がろうとも思わない。
 呼吸などどうでもよかった。もがくようにヤンが腕を振り、やっとたどり着いてシェーンコップの肩へ指先を食い込ませ、筋肉に弾かれても諦めずに、汗に湿った皮膚を滑って、指先がシェーンコップのあごへ触れる。唇を割ったヤンの親指の先を、シェーンコップは甘く噛みながら、舐めた。
 ヤンの内側へ、押し入って押し込んで、底なしに引きずり込まれて、シェーンコップはお返しのように、ヤンの指を舌で絡め取って離さない。ヤンの指が口の中で動く。そのたび、酒の匂いが立った。
 両脚の間で、シェーンコップを抱き込んで、ヤンは上体をうねらせながら、底なしの自分の中へシェーンコップを囚えている。決して逃さないと言いたげに、シェーンコップがこすり上げる粘膜でシェーンコップを絞め上げて、そうしていずれ自分の導く仮死には自覚もないように、自分が主導権を握るこの小さな殺し合いに、ヤンは気づいてもいない。
 全身を、苦とも快とも見極めのつかない感覚に満たされて、ふたつに折り畳まれた体の中で、突き上げられて内臓の押し上げられるのさえ、喉へ至ればただの切れ目のない喘ぎに変わる。
 シェーンコップに舐められたヤンの指は、手首までこぼれた唾液に濡れて、自分の中に出入りするシェーンコップのそれもそっくりに、内側からあふれる熱に濡れそぼっているのが、ヤンに見えるはずもないけれど。
 ひと際深い侵入を果たされて、ヤンが先に、喉を悲鳴で裂いた。叫びの慄えをシェーンコップに伝えて、その後で、シェーンコップが全身を震わせた。その振動が、再びヤンへ伝わった。
 ふたりで紡いだ荒々しい旋律はまだかすかに続いていて、ほどいた躯の間で空気を震わせ続けている。
 静かに、のどかに始めたはずの合奏が、いつの間にか地面を揺るがす戦車のように、互いの躯に軌道を残して、かすかに漂う酒の香りへ、ふたりは今さら照れたように苦笑を交わす。
 唇と手指の跡が、見えずにはっきりと残る互いの膚の上へ、ふたりは名残りを惜しむように腕を回した。
 ヤンはシェーンコップの頭を引き寄せ、額へ唇を押し当てる。くっきりと高い鼻筋をそのまま通り、唇へたどり着くと、酒の湿りはとうに消えた口づけを、ただかすめるような淡々しさで、シェーンコップへ送った。

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