シェーンコップ×ヤン

Missing

 くしゃくしゃの髪、寝起きの腫れぼったいまぶた、毛布を巻きつけて部屋から出て来た姿は、病人かゾンビのようだ。
 上官に対してする描写ではないなと思いながら、シェーンコップはそんなヤンをキッチンから眺めて、割れた毛布の裾から見えるのが素足で裸足なことに気づくと、瞬時に不埒へ傾く自分の思考を、何とか朝のモードのままにしておこうとする。
 その脚を開かせてよく見れば多分、自分のつけた様々な色と形の痕跡が見つかるのだろう。ひとつびとつ、見つけて観察したいと言うのが、ヤンに対する自分の意地の悪い好意の現れだと自覚して、シェーンコップははっきりと、朝の爽やかさにふさわしくない人の悪い笑みを浮かべた。
 「おはようございます。」
 おはようと、寝起きのぼんやりとした声が返って来る。声の割には確かな足取りでさっさとシェーンコップの前へやって来て、額を肩に乗せて来た。
 シェーンコップは、挨拶のキスの代わりにヤンを抱き寄せ、肩から背中、腰から腿の裏側へ掌を滑らせる。そうして、薄い毛布の下にあるのがまったくの素肌だと確かめると、
 「下着くらい着けたらどうです。」
 今すぐこの毛布を剥ぎ取りたい気持ちを抑えて、ヤンを諌める振りで言った。
 「見つからなかったんだ・・・脱がせたのは君だろう。」
 まだ寝ぼけているのか、際どいことを言う。
 脱がせて、どこへ放ったかとシェーンコップは昨夜のことを思い出しながら、ヤンのためにその見つからないと言う下着を探しに行くか、それともいっそ着ないままでいればいいと言うか、どちらが自分のためにはより良いかと、ヤンに触れる手つきは昨夜へ戻りつつあった。
 毛布1枚のその下は、ヤンにその自覚があるのかどうかはともかく、シェーンコップにとっては現世のヴァルハラだ。行ってすぐに戻れるそこへ、今なら時間があると、素早く計算して、シェーンコップはヤンの肩を押した。
 「では、探すのをお手伝いいたしましょう。」
 寝起きでぼんやりしたまま、ヤンはシェーンコップの意図を悟らずに素直に寝室へ体を回す。
 部屋に戻った途端毛布を剥ぎ取られて、ヤンは皮でも剥かれたうさぎのように、慌てて薄い体を両腕で覆い、シェーンコップへ抗議の声を上げた。
 「ちょっと待ってくれ、朝だぞ、仕事だぞ、シェーンコップ、貴官、今を一体何だと──」
 「喚く時間が惜しいと思いませんか。」
 「わたしが惜しいのは、自分の服を探す時間だよ!」
 「1枚くらい足りなくても死にはしませんよ。」
 「下着くらい着けろと言ったのは君じゃないか。」
 「では前言は撤回いたしましょう。そんなもの今は必要ありませんよ提督。」
 押さえ込まれれば勝てはしないし、唇を塞がれればもう降参するしかなかった。
 昨夜の名残りのまだある躯は、膝を割られれば容易に開いて、時間を掛ける必要がないと端から読んでいるのはさすがに手慣れていると、ヤンは妙なところに感心している。
 作戦にせよ訓練にせよ、任せておけば大丈夫と言う信頼は、こんなところにも現れて来る。
 もういい、と、ヤンは投げやりに手足を投げ出して、それでもひと筋冷静に、シェーンコップが手早く脱いだ下着をちらりと視界の隅に引っ掛け、それをさり気なく爪先で床に蹴り落とした。
 床に落ちた足の先でグレーのそれをベッドの下へ押し込み、自分と同じに、後で見つからずに慌てればいいと、子どもっぽい意趣返しを仕掛ける。
 そうしてしまえば、後はもうシェーンコップの素早く動く手指の滑りに没頭して、ヤンは眠気など吹き飛ばして、躯の中を駆け巡る嵐の中心に全身で飛び込んでゆく。
 派手に揺れるベッドの下の薄闇で、色とサイズの違う下着が2枚、持ち主たちと同じにそこで絡まり重なっていた。上で吠え続けている持ち主たちの元へ無事戻れるかどうか決まるまで、あと5分。

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