* コプヤンさんには「夏が始まる」で始まり、「今なら告げられる」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字)以上でお願いします。
Not So Long
夏が始まる。6月が終わり、次第に上昇してゆく気温には容赦なく夏の気配が忍び寄り、太陽の白っぽい光は涙を乾かして、否応なしに時間の流れの中の現実を引きずり出す。ああ夏だと、シェーンコップは思った。時間は確かに流れている。6月以来、何もかもが動きと音を失い、そこにとどまっているように感じていたのに、汗の吹き出す額を拭って、今が確かに7月なのだと思い知ると、シェーンコップはふと肩越しに後ろを振り返って、夢のように過ぎた6月の頼りなさへ心を馳せるのだった。
6月は過ぎてしまった。いつ始まったと記憶の消えている6月は、確かにあり、1日1日と過ぎ、終わり、カレンダーをめくってしまえばもう跡形もなく、ああ1年が半分終わったと、シェーンコップはぼんやりと考える。
ヤンのいない6月を、自分が一体どんな風に過ごしたのか、よく憶えていない。そもそもその間、自分がきちんと生きていたのかどうかも定かではない。呼吸はしていたのだろう。心臓も動いていたのだろう。多分。きっと。手足が動き、人が自分を見る時に奇妙な顔をしなかったのだから、自分はきちんと、人として機能していたのだろう。ただ、そのどれをも憶えていないだけだ。
夏の日差しに皮膚を焼かれて、流れる汗に目を細めて、知らぬ間に過ぎ去ってしまった6月の、その個性の無さに苦笑をこぼして、激しい夏の後にやって来る秋の美しさと、冬の厳しさと、春の穏やかさと、そして再び訪れる6月の色のなさへ、その退屈さに耐えられるだろうかと、シェーンコップはふと不安になる。
何もない6月。個性のない、抑揚のない日々に埋もれて、どの日がどの日と見極めのつかない30日間を、自分は今度はどんな風に過ごすのだろうかと、ただぼんやりと考えた。
心配しなくていい方法もある。思いついて、いたずらっぽく、唇の端が上がった。
まあ、どうでもいいさ。ひとりごちて、ああ7月だと、シェーンコップはまた思った。
無色透明の6月をやり過ごす方法──ああ、いい考えだと、ひとりで喜んで、シェーンコップは突然、夏の日差しの明るさに感謝するように顔を上げる。
その明るさに負けない笑みを晴れ晴れと浮かべて、けれど灰褐色の瞳に、奥行きのない平たい黒い影が差したのを、誰も見なかった。
貴方を、そう待たせはしませんよ。シェーンコップの唇の端が、いっそう大きく上がる。
今なら告げられる。そう告げたい本人は、ここにはいないのだけれど。
そう長くは待たせません。唇だけを動かして、シェーンコップは近頃にない軽快さで足を前に踏み出した。