* みの字のコプヤンさんには「私は雪の日に死にたい」で始まり、「物語はここから始まる」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字程度)でお願いします。
約束
「わたしは雪の日に死にたい。」できれば、眠るように、と付け加えてヤンが黙る。へえ、と興味のなさそうな相槌を打って、シェーンコップがさりげなく足を組み替える。
「ひとりでですか。」
シェーンコップが、ちょっとからかうように訊いた。ヤンは真顔で、当たり前じゃないかと言ってから、ちょっと考え込むように闇色の瞳をどこかへさまよわせる。
「雪の日は寒いですよ。連れがいた方があたたかく死ねるかもしれませんよ閣下。」
なぜか、そそのかすような声音でシェーンコップが言い足す。
「死ぬのにあったかいも何も関係ないだろう。」
「ありますよ、ひとりで冷たくなるのと、ふたりであたため合いながら冷たくなるのと、どちらがましと思われますか。」
どこか突き放すように言うのに、ヤンはかすかに眉を寄せてシェーンコップを見やる。
「まるで心中の経験があるみたいな言い方だね、シェーンコップ。」
煽るつもりではなく、単なる好奇心で、思ったことが口から出た。シェーンコップの唇の片端が冷笑か自嘲か、見極めにくい歪み方をして、灰褐色の瞳はヤンの上から動かない。まずいことを言ったかと、思って撤回するより先に、シェーンコップが口を開く。
「心中ではありませんが──死に掛けたヤツを、ずっと抱いて看取ったことが何度もありましてね。」
敵のど真ん中に、迂闊に飛び込んでしまった新兵のような表情で、ヤンは喉で声を凍らせる。逆にシェーンコップの表情は、それでわずかにやわらいだ。
「寒がられると、あっためてやりたくなるのが人情ってもんです。」
奇妙に爽やかに微笑んで、シェーンコップは、ヤンから自分の両手へ視線を移した。
握りしめた誰かの、血まみれの手を思い出しているのだと、横顔で分かる。灰褐色の瞳に差す緋色の陰が、沈痛な悲嘆をよぎらせて、すぐに消えた。
「ならわたしが死ぬ時は、君と一緒に死ぬことにしよう。」
戯れ言のつもりで、けれど声には鋭く真剣味がこもる。それを受けて、シェーンコップは清々しい笑みをさらに深めて、ヤンの手を取った。
「仰せの通りに、提督。」
言いながら形の良い唇をヤンの指先へ寄せ、誓いのように口づける。この約束は本気のそれだと、ヤンはなぜか思った。
そして結局、一緒には心中し損ねたふたりは、今はともに生きるために揃って足を踏み出し、様々に語り継がれる物語はここから始まる。