DNTシェーンコップ×ヤン
* コプヤンさんには「君と秘密を分け合いたい」で始まり、「それだけで伝わった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば10ツイート(1400字)以内でお願いします。

Questioning

 君と秘密を分け合いたい、ヤンは不意にそう思って、隣りに立ったシェーンコップの指先に、自分の指先をそっと伸ばした。
 後ろに誰か来たら丸見えだ。今は他の皆は向こうにいて、後ろには誰もいない。シェーンコップへ手を伸ばして来る前に素早くそれを確かめたヤンの振る舞いに、隣りのシェーンコップが、かすかに可笑しそうに笑い声を立てた。
 そうだ、ふたりは手を繋いだことがなかった。もう何度も夜を分け合って、時々、物陰へ滑り込んで素早い口づけを盗む、そんな際どいこともするくせに、付き合い始めの恋人同士のようには、ふたりは手を繋いだことがない。
 恋人同士だと、何か誓いのようなことを言い交わしていないからかもしれない。気がついたらそうなっていて、これは一体何だと、改めて確かめ合ったことがないからかもしれない。
 わたしが寝るのは君ひとりだが、君の方はどうなのかな。
 軽口でも、そんなことを訊くにはためらいが勝つ。他にも寝る相手はいると言われるのは嫌だったし、あなただけですよとにっこり答えられたところで、それを自分が信じられるかどうか、ヤンは自信がなかった。
 シェーンコップに、華やかな噂がつきまとっているせいよりも、ヤン自身に、浮いた話に縁がなく、惚れたはれたの話についてはからきし自信が持てないせいだ。
 君が、まさか、わたしなんかに──。
 誘って、誘われて、夜を過ごすたびに思う。遊ぶ相手には物足りないだろうし、上官なんて面倒くさい相手をわざわざ選ぶわけはないし、どうしてわたしなんだろうと、ヤンは考える。
 遊びと知りたくはないし、本気と言われても困る。自分はどちらが良いのか、ヤンは決めかねている。
 ヤンが触れただけの指先を、シェーンコップは自分の指先に絡め取って、少しうつむき気味に、ヤンの方は見ずに笑っている。
 たかが指先ひとつ、それなのに、他のどの触れ方よりも親密な気がして、ヤンもうつむいて、頬の辺りが熱いのに思わず眉を寄せた。
 この親密さが一体どういう意味なのか、ヤンは知らず、シェーンコップに訊くこともできず、離れないままの指先に安堵している自分に気づいて、これが答えなのかと、ヤンはずるく考えた。
 言葉ひとつではっきりするのに、はっきりさせたくない自分がいる。どんな答えにしろ、聞きたい知りたい自分と、このままでいたい自分がせめぎ合っている。
 君と、わたしと、一体──。
 大量の人間たちの生殺与奪の権を握るヤンは、自分の心ひとつ決めかねて、戦争の方がよほど気楽だと、物騒なことをぼんやり考えた。
 人の心はままならない。自分の心はもっとだ。本は様々のことをヤンに教えてくれたけれど、こんな気持ちをどうしたらいいのかは教えてくれなかった。
 そして恐らく、こんなことこそシェーンコップに訊くべきなのだろう。
 これは恋なんだろうか、君はどう思う、シェーンコップ。
 真っ直ぐ訊いたら笑われるだろう。そんなこともお分かりになりませんか、閣下。
 そうして、近づいて来て、ヤンを黙らせる唇。ヤンに問うことも答えることも許さない、シェーンコップの唇。
 ああそうか、とヤンは思う。
 知りたくて、知りたくないのは、わたしだけではないのかもしれないね、シェーンコップ。
 この戸惑いは、ヤンだけのものではないのかもしれない。
 もう少しこのまま、この指を繋いだまま、これ以上は触れ合う必要は今はなく、言葉も不要に思えた。
 指先から伝わるぬくもり、伝え合うのはそれだけではなく、分け合う小さな秘密の存在を確かめて、これをきっと恋と呼ぶのだろうと、ヤンは思った。
 わたしは、君のことが──。
 指先に、わずかに力をこめて、応えるように握り返されて、思うことすべてが、それだけで伝わった。

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