* コプヤンさんには「さよならの前に覚えておきたい」で始まり、「帰る場所はここだった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば2ツイート(280字程度)でお願いします。
予感
さよならの前に覚えておきたい。予感と言うにはあまりにも軽い、ただ目の前に光がひと筋閃いただけのような、そんな感覚。
どうかしましたかと、シェーンコップが隣りから首をねじってくる。
何でもないよと言いながら、ヤンはシェーンコップの顔へ手を伸ばし、頬と鼻筋と唇へ触れてから、目元に指先を置いた。
シェーンコップが目を閉じようとしたのへ、
「あ、そのままにしててくれ。」
慌てて言って、言いながら、自分の顔を近づける。口づけのようなその近さは、ただ、シェーンコップの瞳をもっとよく見るためだった。
見慣れてしまった、そこに映る自分の小さな顔。何も着けない裸の肩や胸も、時々──今も──映るそこへ、ヤンは自分の目を凝らし、この虹彩の複雑な色合いを覚えていられるだろうかと、なぜか思う。
覚えている必要はない。いつだって、こうしてそうしたい時にはじっと覗き込めるのだから。
体を横たえて、互いの肩で腕を回しながら見る、シェーンコップのあごの線や耳の形や生え際の流れ、立って向き合う時とは違うように見える不思議に、気づいたのはごく最近だ。
ふうんと思いながら、ヤンはまだシェーンコップを見つめ、その顔に触れたままでいる。
よく覚えておこうと、また思った。見るだけではなく、指先にも覚え込ませて、いつでも思い出せるように。シェーンコップが目の前にいない時も、そこにいるように思い浮かべられるように。
なぜ人は、口づけの時には目を閉じてしまうのだろうと思いながら、ヤンはごく自然に伏せるまぶたを止めることはできずに、シェーンコップの唇へ自分の唇をかぶせてゆく。
上に乗った自分を抱きしめる長い腕の中に収まって、ごくかすかに震えているシェーンコップの、鬱陶しいほど濃いまつ毛を薄目に見ている。
このひとつびとつをよく覚えておかなければと、ヤンはまた衝動のように思った。
唇に触れると、見えなくなるその瞳の色を惜しんで、ヤンは代わりに開いた唇の中に、シェーンコップの舌先を拐い込んで行く。
逆に舌を絡め取られて、シェーンコップの膚に溶け込むように感じながら、自分の帰る場所はここだったのだと、胸をすり寄せるように太い首に両腕をきつく巻いた。