DNTシェーンコップ×ヤン
* コプヤンさんには「目をそらさないで」で始まり、「答えはどこにもなかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字程度)でお願いします。

からかい

 「目をそらさないで下さい。」
 シェーンコップがヤンのあごを持ち上げて、ほとんど額の触れそうな近さに顔を寄せて言う。
 ヤンの闇色の瞳に、シェーンコップの灰褐色の瞳が重なって、ヤンは、こんな間近で見るシェーンコップの瞳は、虹彩が色とりどりに彩られ、細かな色の破片の連なりのまばゆさに、目が潰れるのではないかと思った。
 ヤンの瞳は、ただ黒、あるいは濃い茶と表記されるのに、実際には深い蒼味を帯びて、どこか金属めいた、そのくせ丸くつるりとした表面には、確かに人の体温の、ぬくみの湿りが感じられる。その瞳を動かすなとヤンに言いながら、シェーンコップはそれに見入った。
 「別に傷などはないようですな。」
 近頃、何だか物が見にくいんだと言ったら、見てあげましょうと突然顔を寄せられて、いやそれなら医者に行くさと言う台詞は、濃いまつ毛の数も数えられそうな近さに近寄った、同盟一との評判に違わないその美男子ぶりに、すべて吸い込まれてしまった。
 息を飲む、と言うのは、ほんとうにそのままのことなのだと、ヤンは思う。
 父親の愛した、骨董品たちを思い出す。ほとんどが偽物だったと言う落ちではあったけれど、それでも間違いなく、ヤンの父はそれを愛し、そして心底愛でた。あれらに触れる手付きにこもる愛情を思い出して、今シェーンコップが自分に触れる手指の静けさが、何だか父親のそれに重なるような気がして、知らず頬の辺りに赤みが散る。
 彼の近くにいる女性たちは、一体どうやって平静を保っているのだろうと、拳の中に親指を握り込んで、少しでもシェーンコップの恐ろしく鋭く通った鼻筋から遠退こうと、ヤンは少しじたばたする。
 「閣下、少しおとなしく──」
 部下に叱られて、仕方なく肩の力を抜いても、ごく自然に瞳が左右にずれて、神の如く美々しい男から焦点を外そうとしていた。
 シェーンコップは、そんなヤンを見て、意地悪くにやっと笑った。その唇の上げ方さえ、ヤンの目には芸術的に映った。
 「もしかして近眼ではありませんか。よく眉間を寄せてらっしゃる。」
 え、と驚いて、ヤンは思わず自分の眉の間へ手を伸ばした。そのヤンの仕草に、シェーンコップがいっそう面白そうに唇の端を吊り上げた。
 「──冗談です。」
 なぜかそう言って動いたシェーンコップの唇を見ていて、ヤンはそのまま額に接吻されそうに思った。
 そうはならずに、シェーンコップの顔が遠ざかり、手指も頬から離れてゆく。からかわれたのだと思った途端、はっきりと首筋から血の色が上がって来る。
 「本の読み過ぎは、目を疲れさせます。どうかお気をつけて。」
 親切ごかしに言って、シェーンコップはヤンに背を向けた。
 ほんとうに近眼の始まりなのか、ごみでも入って目を傷つけでもしたのか、シェーンコップはヤンにとっては目を楽しませてくれる芸術品のようなものなのか、それとも、腕いっぱいに抱き込める、あたたかな愛玩物なのか、ヤンの潤みを増した目の熱さと頬の熱さへの、答えはどこにもなかった。

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