DAY
相変わらずの、素晴らしい1日だった。1週間前に、絞殺死体で見つかった売春婦は、2人前の情夫が犯人だとわかり、彼女の両親が、変わり果てた娘と、涙の対面を果たした。彼女はまだ17歳で、犯人の情夫によれば、祖父と叔父から性的虐待を受けており、それから逃げ出すために家出をしたのが最初だったということだった。珍しくもなく、少女は路上で生き延びるために手っ取り早く誰かを頼ることを思いつき、その誰かは、躾けと称して彼女を殴ることと、愛の営みと称して彼女を強姦すること以外に何の取り得もなく、次の情夫は、それに加えて売春と薬物中毒を彼女に教え込んだ。
彼女を絞め殺した情夫とやらは、まだ20も半ばの、けれどいっぱしの女衒気取りで、彼女にとっては、4人目の情夫らしかった。
開き直った態度で、椅子に斜めに腰掛け、彼女にどんなことをしたか、させたか、仔細に語る。その話を聞くMunchやFinが、吐き気をこらえている---あるいは、殺意を耐えている---のを、面白がっているらしかった。
午後遅く、OliviaとElliotが、数ヶ月追っていた連続暴行犯逮捕によくやくこぎつけ、逮捕された男の弁護士と、また後味悪くやり合っていた。
犯人には、妻がいて、3人の子どもがいて、社会的地位もあって、彼がそんなことをするようになったのは、幼い頃に通っていた教会の牧師に、長い間性的に玩ばれていたせいだと、彼は、小さな部屋中が満ちるほど、大声で泣き続けた。
4人の子どものいるElliotは、苦渋に満ちた表情で男の話を聞いていたけれど、その拳が机の下で震えていたと、後でOliviaはMunchに言った。
夜になって、ようやく落ち着いたかと思っていたら、この間、人質を取ってアパートメントの洗濯室に立てこもった男を、Finが撃ち殺す羽目になった ---そうでなければ、おそらく人質が殺されていた---件で、その人質本人がわざわざやって来て、Finの横面を張り倒して、足早に去って行った。
人質は、犯人の男に、出会って以来ずっと虐待され続けていた妻だった。
刺されたり撃たれたりしなかっただけマシだぜと、頬を撫でながらFinが言うのに、Munchは黙ってその肩を叩いた。
相変わらず、変わり映えのしない1日だった。目にした死体の数も、そう多くはなかった。強姦されたり、殴られたりした女や男や子どもの数は、いつもよりも少なかったかもしれない。けれど、胃の奥に重苦しくたまっている不快感は、いつもと変わらない。
薄い胃の辺りを撫でながら、MunchはFinに向かってあごをしゃくり、帰ろうぜと目顔で言う。
こんな日には、少し酒を入れて、テレビで古い映画でも見ながら、ふたり並んでソファでくつろぐのがいちばんいい。どうせ、また午前3時には、事件だと呼び出されるのだ。
それまでに、少し眠っておこうと、ふたりは、早々と互いに腕を伸ばす。
殴るためではなく、望まない形に触れられるためではなく、殺すためであるはずもなく、至極健康的に、互いを求めているのだと表すために、ふたりは、裸になって抱き合う。愛し合っているとか、そんなふうにあえて言わずに、今日1日、撃ち殺されることもなく無事に生き延びたことを確かめ合うために、それを喜んでいると、互いに示すために、ふたりは少しばかり騒々しく抱き合う。
1日の終わりと、1日の始まりが、見極めがたく繋がってしまっているふたりの生活の中で、これだけが、1日の他のどの時とも違う、ひと区切りだ。
幸いに、誰かに強姦されたことも、強姦した---多分、きっと---ことも、経験のないふたりだった。それを、幸いだと思わなければならないことの悲しさは、決して口にはせずに、目の前のろくでなしたちを、今日も自分の手で殺したい衝動にはきちんと耐えたことを、互いに誉め合うために、Finが先に、 Munchの下唇に軽く噛みつく。
後で一緒にシャワーを浴びないかと、そうMunchが言いかけた時に、どんな時にも電源を切ることのない携帯が、ベッドの傍で鳴った。
「どっちだ?」
Finが体を起こす。
「・・・俺のらしいな。」
Finの体越しに手を伸ばして、やれやれと携帯を取り上げる。これが終わった途端に、今度はFinのが鳴り出すだろう。
今度は、どこの誰がどんなふうに殺されたのだろうかと思いながら、Munchは電話に応えるついでのように、Finの腰の辺りに腕を伸ばす。血なまぐさい用件に短く相槌を打って、その合間に、Finの厚い唇に、触れるだけのキスを落とした。