冷 蔵 庫 か ら 君 が 見 て い る





冷蔵庫から君が見ている
3日前の瞳のままで冷蔵庫から君が見ている


その瞳の色を覚えている
飛翔の瞬間の自覚は絶望の凝視と行き止まりの呼吸に満たされ
君の皮膚は土の色をしていた


祈りの時間はやって来ない
まだ温かく柔らかなその肉に僕は自らを沈めることに専念する
凍りつく体
君が失った体温を僕が代わりに注いでゆこう


冷蔵庫の扉を開けて君がいる君が見ている
上から2段目のバターの容器のとなりに幻のように君がいる


君は飛び立った
僕はまだここに縫いつけられたままその瞳の色を黙って見ている
3日前の瞳のまま君はそこを動かない
這うための手足の残りはあそこの鍋の中にある


君のままに白い骨は美しい
血と肉と脂肪と骨
君を形造る物質は今は僕の内臓を満たしている
奇跡のように


冷蔵庫から君が見ている
いずれは溶けて水に還るその瞳だけを残してゆく
僕のためにそこにいる
冷蔵庫から君が見ている



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