月うさぎは殺風景な腹に孵らない卵を抱いている




月が満ちる
うさぎが踊る
うさぎは月に還りたい
うさぎは月に還れない
白い卵が重すぎて
うさぎは月に還れない
卵の中身はあの少年
びーだまの瞳のあの少年
胎児の微かな脈もなく
卵はきっと孵らない

あの少年に君は似ている
卵の中身はあの少年
びーだまの瞳のあの少年
愛と憎悪を餌にして
卵はきっと孵らない

殺意は微行
哀しい横顔
彼はあまりに無垢すぎた
千億の言葉も今は骸
殺風景な僕の腹
今も抱えた冷たい卵
その少年に君は似ている


のっぽの少年 僕の名を呼ばない少年 少女の名前で呼んだ少年 僕の愛した少年
------あの少女を愛した少年
千億の言葉を預けた少年 羽を与えた少年 魔法をくれた少年
憎んだ少年 殺したかった少年 欲しかった少年 びーだまの瞳のあの少年
まだ探してる まだ愛してる まだ火照ったままだ
殺人未遂を後悔しながら 世界の終末に僕は君の骨を見つける
無数の頭蓋骨の山の中から 君だけが光り輝く 皮膚の下さえ覚えている
びーだまの瞳 あの瞳の色を覚えている



3月うさぎがせつないものは
見知らぬ言葉 きみの指先 その魔法
ふさぎわすれた耳の奥
なみだのかけらがころんと落ちた

きみとうさぎのTime-lag
うさぎは埋めてしまいたい
うさぎは壊してしまいたい
ひとりと思えばふたりに惑う
3月うさぎはひとり、せめてきみの傍

きみの知らないきみの魔法
うさぎの持たないきみの魔法
うさぎのほしい そんなもの




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