切ない・・・


Roberto
- 初めてのきみに -



きみのことを憶えている
きみの背中の笑い顔
揺れてゆく肩の先
ふわり微笑むきみの唇

ドアの向こう
木々の間
椅子の影
きみがいる
僕が探すきみがいる
きみのいた夏
きみのいない夏
うたかたの緑の季節
立ちすくむ僕は
ここでひとり呼吸を忘れる


 逢えない時間が降り積もる
 吹雪の国と夏の国
 地図をなぞる指先が
 少し震えた2度目の冬

 きみと僕の間
 横たわる海よりも深く
 眠りの底で夢を見る
 手を伸ばせば届くきみが
 今は幻でしかなく
 空の掌をぼくはただ見つめる

 あの頃にはきみがいた
 雪を知らないきみがいた
 長い冬の真ん中で
 夏よりも恋しくきみを想う


窓の向こうと微睡む授業
音なく降る雨きみの幻
ゆらりそびえるきみの背中
くるり振り向くきみの笑顔

ドアをひとつ開けるたび
視界が探すきみの姿
振り向く横顔
きみじゃない誰か

涙の音が聴こえる
ここにひとりきみは幻
心を失う白い瞬間
雨に濡れる緑
微睡みの時間
きみのいないひとりの時間


 心のかけらをひとつ殺した
 忘れてゆくために眠るために
 体温は置き去りにしよう
 記憶の彼方に置き去りにしよう
 穏やかな始まりと静かな終局は
 精一杯の優しさだった

 きみの本になりたかった
 きみの前髪になりたかった
 雪のないクリスマスを
 きみと過ごしたかった
 ゆるゆると季節が終わる
 きみは彼方ぼくは迷子
 今はもう
 海よりも深くきみが遠い



逢えない君へ


また魅かれてゆく海の波打ち
彼方に見える君の笑顔
また同じかもしれない過ちの数
魔女の棲む海
見つめる遥か

"ホテル・カリフォルニア"
繋がってゆく知らない時間
背中にある過去のかけら
繋ぎ合わされてゆく
あの音とともに

増す苦しみと逢えない時間
飲み下してゆく涙の雫
ただ笑って傍にいたい
君に飼われる猫のように
君の傍で鳴いていたい

逢いたい
君の笑顔を見つめていたい
忍び込む冷気
窓の傍
君の音を聴きながら
逢えない君の笑顔を想う

冬の真ん中
舞う雪の中
戸惑う猫は途方に暮れる
さらわれてゆく波の打ち際
あてもなく瞳を閉じて
夢の裏の幻覚の中に
ひととき我を忘れてゆく
君に逢いたい夜
そしてひとり、逢えない夜



"背の君"----貴方へ


貴方が歩く。足を運ぶ。視界が変わる。世界が揺れる。空気が香る。
わたしはひとり佇みながら、舌を切られた小鳥を想う。

貴方を愛した今日を悔やみ、貴方を愛する明日を恐れる。
貴方のしろい、息づく背中。呼吸を飲んで見つめてゆけば、不意の衝動と見知らぬ感覚。
貴方が眠る夢の片隅に、膝を抱えて笑っていたい。夢見る明日の無形の幻覚。

愛することは恐ろしく、愛されることは疎ましい。

7人目のChris。3人目のChristian。
貴方の名を呼ぶ、困惑と戸惑いと逡巡とともに。
貴方が呼ぶわたしの名前、アルファベットの響きが耳に満ちる
意味深く名前を呼び合う、貴方の習い。舌を丸める、わたしの倣い。

貴方に見つけた秘密の名前。わたしの響きの貴方の名前。貴方は知らないその名前。

"貴方"、そして"わたし"、"僕と君"ではなく、"彼女と僕"ですらない。
人の膚にくるまれ、貴方は牙も爪も持たず、言葉を紡いで語りかける。
確実に硬いその躯。骨にしてすら巨きな、貴方の胸と背中の輪郭。
両腕を広げる。春の陽にぬるんだ海の、貴方の腕に抱かれてゆく。

貴方の海。音の海。
言葉はなく、律動の中で正気を滑り落としながら、貴方はただ瞳を閉じる。
貴方の音を満たしてゆくと、瞳の奥が溶けてゆく。わたしはただ見つめてゆく。
生まれて生き続けていることを責められ続ける生を、貴方の海が洗い流す。

今はただ、貴方に逢いたい。同じ月を見上げていたい。
無力に這いずり回りながら、擦り剥けた魂を癒す貴方の掌が、今はただ恋しい。
呼吸を止めたいほどの孤独の中で、貴方の腕が今は欲しい。
逢いたい、逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい ----貴方に逢いたい。


































戻る