青へ

渡るそよ風の、寂しく吹き通る野に一輪
淋しげな様子はなく立つ花の、空の色を写して揺れる花びら

仰向いて、降り落ちた空の破片のように
底のない蒼さが光を集める小さな花の
微風にまぎれる香りの甘さに
手折るため伸ばした指のためらう先
見つめているだけでは足りず
いずれ枯れるとわかっていても
懐ろに抱きしめずにはいられず
土に張ったか細い根を引きちぎる愚かな己れの手指

空から分かたれたその青さ
呼吸を忘れて見入り、吸い込まれて、飲み込まれる
果てのない青の深さへ溺れてゆく
溺れ果てて、青に染まる
ちぎれた根に絡みつかれ
いずれそこへ張る根へ吸い上げられる己れの命は
青く照り映える花びらの縁ににじむ淡い蒼

青へ、ただ青へ
何もかもを染め上げて、ただ青へ
見上げればそこにある空の色を写して
花びらの儚さとは裏腹のその根の猛々しさ
野の風に吹き揺れて一輪きり
道連れののないその青さで世界を染めて
呼吸すら忘れて眺め続ける後には、唇すら青く染まる
青い唇を噛む、花びらを食む
そして血も青く染まる
染まり果てて、花に還る

青へ、ただ青へ
ただ、その青へ、青へ