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Body Talk

 全部は脱がせなかった。眺めて辱めたいのは、主には下肢だったから。
 よくあるスタイルだ。前は適当にはだけて、胸だけは見えるようにしてある。腕は頭上にまとめて縛る形に、そのまま後ろへ引いて胸を反るように拘束してあった。
 剥き出しの下肢は両脚を大きく開かせて、坐らせた椅子の肘掛けに乗せてある。眺め以上に、案外と坐り心地の悪い姿勢だ。どちらにせよ、縛られて放置されるのは、同じ姿勢を意に反して続けなければならないことが、ひどく体にも心にも負担を掛ける。もちろん、そのためのこんな格好だった。
 怒鳴り声がまったく麗しくも可愛気もなかったので、金属の棒を噛ませる口枷をはめ、これはわざと少しきつめに留め具を締めてある。頬を横切る革紐が見苦しく食い込み、もうよだれがだらだらと口の端から垂れて、それなりに端整な顔立ちが苦しげに歪んで、なかなかな眺めだった。
 開いた両脚の間で、まだ生白いそれは萎えてうなだれ、こんなことがまったく好みではない風に、ぴくりと反応しそうな気配すらない。
 まあいい、とスポーツ・マックスと思った。このガキの反応なんぞどうでもいい。このガキは単なるエサだ。
 スポーツ・マックスは、元々あまり若い獲物にはそそられない。きちんと骨も筋肉も育ち切って、多少手荒に扱っても心配のなさそうな方が好みだった。声変わり前後の甲高い叫び声も、耳障りで嫌いだった。とは言え、ただ野太いだけの、こちらの興を殺いでくれる悲鳴も嫌だ。
 見境なしに手を出しているように見えて、これで案外好みはうるさいのだ。
 この可哀想な若僧──ヴェルサスは、近頃スポーツ・マックスがやっと手に入れた、手に入れた後ももっと求めて止まない、あの恐ろしいほど高潔で淫らなプッチ神父の、大事な友人の忘れ形見だとか何とか、詳しいことはどうでもいい。肝心なのは、プッチが、この若僧を親しく傍に置いていると言うことだった。
 大切な友人に繋がるからと言うのが理由なのか、それともそれ抜きに、この若僧がプッチのお眼鏡にかなったと言うことなのか、スポーツ・マックスの好みではなくても、この若者がそこそこ見目麗しい類いと言うことは否定せず、悪くない趣味だと、スポーツ・マックスはまた、神父に対する好意を心の中で引き上げる。
 神父のすることなら何でも好ましいと言うのが真相にせよ、この青年をエサにして、要はもっと愉しめればいいのだ。


 プッチを同じ部屋に招き入れた時は、なかなかの見物だった。ヴェルサスは当然目を剥いて縛られた椅子の中で暴れ出し、プッチはヴェルサスの方へ駆け寄ろうとして、首に回った首輪から伸びた鎖が、しっかりスポーツ・マックスの手の中に握られていたことを思い出し、よろめいた挙句に床に無様に倒れ、何も着けていない脚を、乱れた神父服の長い裾から露わにする羽目になった。
 「見るだけにしときましょう、神父さま。」
 床に倒れたまま、自分を睨みつけるその濃い茶色の瞳に、スポーツ・マックスはぞくぞくした。
 「外れやしねえ、おとなしくしてろクソガキ。」
 床に倒れたままの神父を心配してか、まだ暴れるのをやめないヴェルサスへ、わざとぞんざいな言葉を投げ、それからスポーツ・マックスは手の中の鎖を手元へ引き寄せる。
 「ついでだ、そのままでいつもみたいにやってもらいましょうか、神父さま。」
 ヴェルサスに聞かせるために言葉を選んで、スポーツ・マックスは、自分とヴェルサスを交互に眺めているプッチへ、先を促すために半歩寄る。
 ぴかぴかに磨かれた、趣味悪く装飾された革靴の、鋭く尖った爪先でほとんど蹴ってしまいそうな近さへ寄ると、また鎖を強く引いて、スポーツ・マックスはプッチの上体が自分へ寄り掛かる姿勢を無理強いした。
 「ほら、いつもみたいにやって下さい。アンタのお気に入りでしょう。」
 腰を軽く突き出すようにして、プッチの顔へこすりつける仕草をすると、そこからまた上目に茶色の瞳が睨みつけて来る。またぞっと背筋を氷の手で撫でられたような気分になりながら、そこには一片、スポーツ・マックスがわざと消さない恐怖が含まれている。
 傍目に、スポーツ・マックスがあれこれ策を弄してプッチ神父を好き勝手に扱っているように見えながら──実際、今のところはその通りではある──、いつかプッチが、耐えられるポイントを超えて、反撃を仕掛けて来るのではないかと、スポーツ・マックスが待っているのはそれだ。
 この、底なしに淫乱の神父が、ほんとうにどこまで底なしなのか見てみたかった。
 こうやって選んだ人間たちを、男女関わらず好き勝手に踏みつけにして、飽きて捨てるか遊びが過ぎて殺すか、今までどちらかだったスポーツ・マックスが、プッチに対してだけはその底なし具合に応えるように、まだ飽きる様子もない。それどころか、ほとんどプッチ神父の存在が自分の嗜虐性に対する挑戦のように思えて、もしかすると引きずり込まれて息も絶え絶えなのは自分の方なのではないか、自分が飽きるより先に、プッチ神父の方がスポーツ・マックスに飽きて、捨てられるのは自分の方ではないのかと、そんなことすら考える。
 そうして、果てには、プッチに応えるために、その足元に這いつくばって、捨てないでくれ──あるいは、殺さずにずっと傍に置いてくれ──と懇願する自分の姿が見えるようで、その想像だけで果ててしまいそうになる。
 オレたちは、もしかするとこの世で最強の組合わせじゃないかと思うんですけど、アンタはどう思います? そう訊いたら、神父は一体どんな風に答えるのだろう。
 見下ろすスポーツ・マックスの視線よりも、目の前に差し出されたそれに負けたように、プッチはのろのろとスポーツ・マックスの腰のベルト辺りへ両手を伸ばし、前の合わせを探ると、ジッパーを下げて両手の中にそれを取り出した。
 プッチの目の前に飛び出すように現れたそれは、すでに半勃ちだった。
 ヴェルサスに背を向けていたプッチをまた引きずり、スポーツ・マックスは、プッチの横顔がよく見えるようにヴェルサスに向けて体の位置を変える。
 ぷっくりとした唇を開き、これも肉厚の舌を差し出して、スポーツ・マックスのそれを口の中へ誘い込むプッチの横顔に、ヴェルサスの視線が釘付けになった。
 青よりは紫がかった瞳に浮かぶ絶望は、けれどプッチの頬へ赤みが差し始めるより早く消え失せ、代わりに、プッチのそれとよく似た欲情の色が、不自然な姿勢に縛られた体全体からあふれ始める。
 プッチはもう、ヴェルサスの方へは視線を投げず、そしてヴェルサスの、さっきまで萎え切っていたそれは、開かれた両脚の間で、今ゆっくりと鎌首をもたげ始めている。
 一度そうやって触れてしまえば、プッチはもう無我夢中で顔を動かし、スポーツ・マックスのそれを舐め溶かすように舌を使う。舌先が這い回り、舌全体が絡みつき、時々触れる頬の裏が慄えて、スポーツ・マックスの熱をそうやって必死の様子で飼い慣らしながら、育ち切って後は爆発するばかりのほとばしりを待って、けれど欲しいのはそこにではない。
 やけどするほど熱く注がれたいのは、舌の奥ではなかった。
 ヴェルサスが、突き通しそうな視線で、プッチの横顔を凝視している。見えはしないプッチの口の中で、今どんなことがどんな風になされているのか、ヴェルサスは自分の身を持って知っている。その、こちらを溶かしそうな熱さを自分の身の上に想像して、ヴェルサスは噛まされた口枷の中で、ひとり喘いでいた。まだ年若い証拠の肉の薄い腹が、短く浅い呼吸に慌ただしく上下している。
 スポーツ・マックスは、今のプッチをそんな風に眺められるヴェルサスを、ほんの少しうらやんだ。
 見下ろして、後ろへ撫でつけきちんと整えられた前髪の線と、なだらかな額の線と、程良く釣り合って鋭い鼻梁と、けれど開き過ぎて歪んだ唇の線、プッチの顔はバランスを崩して今はやや醜く見える。その醜さすら、結局はスポーツ・マックスをいっそう欲情させるのだけれど。
 ここで果てるのはもったいない。先はまだ長いから、急ぐ必要はない。スポーツ・マックスはプッチの肩を押さえて、躯を少し遠ざけた。 プッチの、桃色の唇の間から唾液が糸を引いて、スポーツ・マックスのそれが勢いよく弾んで飛び出した。
 追いすがるように、舌先がちらりと唇の間から覗き、瞳の潤みをまったく裏切らずに、淫靡に蠢くのが見えた。


 プッチの首輪の後ろへ少し細目の鎖を数本繋ぎ、背中へ垂らした短めのそれの先には手首を、長めの方には足首を繋いで、ぺたりと床に坐り込むことは何とかできても、立ち上がることも這って動き回ることもできないようにして、それから、スポーツ・マックスはヴェルサスの口枷を取り替えた。
 棒状のそれから唇と舌が自由になった途端に、ヴェルサスはまたうるさく喚き散らそうとしたけれど、ひと言発した瞬間に、スポーツ・マックスは容赦なくその横面を張った。
 「おまえが騒ぐたびに、神父さまがひどい目に遭うんだぜ? それともひどい目に遭う神父さまが見たいのかおまえ。」
 まるでこの惨劇のすべてが、この浅薄で短慮の青年のせいだとでも言うように、スポーツ・マックスはぴしりと声を投げつけてやる。言われた言葉と声の鋭さに、内容の理不尽さはさっぱりと消え失せ、ヴェルサスは素直に息を飲んで、さらに吐き散らし掛けた言葉を止めた。
 いい子だ、と蛇が舌なめずりでもしているような表情で、スポーツ・マックスはヴェルサスのあごを持ち上げ、
 「心配するな、じきにおまえにもいい目をさせてやるよ。」
 そう言ってにやっと笑ったスポーツ・マックスの顔が、ヴェルサスには耳元まで口の裂けた肉食獣のそれに見える。さっきまで、思いも掛けないプッチの痴態で腹を叩くほど勃ち上がっていたそれは今は再び萎えて、それをちらりと見てスポーツ・マックスがまたにやりと笑う。
 おとなしくなったヴェルサスの口に、スポーツ・マックスは今度は別の形の口枷をはめた。革が顔の下半分を覆い、口にかぶさる部分には丸く穴が開いて、口がその形のまま、開きっ放しになる類いだ。穴の中を覗くと、どうしていいかわからずにただうごめくだけの桃色の舌が見える。
 「舐めろ。」
 ヴェルサスの後ろ頭を押さえるように引き寄せ、さっきプッチが触れたように、口の中へ差し入れようとする。
 「いつもやってるみたいに──それとも突っ込むしか能がないか。」
 口を閉じることはできない。顔を固定されれば、ヴェルサスはただの穴だ。プッチを人質同然にされて、今は抵抗する意味はなかった。ヴェルサスはぎゅっと目を閉じて、口の中へ侵入して来るそれに、できるだけ内部を触れさせまいと無駄な努力をした。
 強引に折り曲げられた首が痛む。ヴェルサスを動かすよりも、スポーツ・マックスが自分で動いて、口の中で跳ねるそれを容赦なく喉の奥へ押し込んで来る。舌の上を滑って行き来し、時々狙いを外して頬の裏へ押しつけられ、穴部分に嵌め込まれた金属の丸い縁には当たらないように気をつけながら、スポーツ・マックスは慣れた仕草でヴェルサスの無防備な口腔を犯している。
 喉へ突き立てられては吐き気を催し、それで反応する粘膜の慄えが、スポーツ・マックスの好みらしい。
 「さっきまで神父さまがしゃぶってたヤツだ。うれしいか?」
 舌の動かし方も、苦痛を避けるための喉の開き方も知らず、ヴェルサスはただ一方的に侵されて、スポーツ・マックスもそんな技巧など最初(はな)から求めてはいず、ただこの生意気そうな若僧が苦しむ姿──しかも、神父の前で──を眺めるのが愉しいだけだ。
 何度目かの喉の震えで、この辺りが限界と思ったのか、スポーツ・マックスは突然ヴェルサスの喉を解放した。口と喉が自由になっても吐き気はすぐには治まらず、ヴェルサスは湿った咳をして、苦しげに胸を上下させる。瞳が潤んで、いつもよりも幼げな表情が浮かんでいた。
 ヴェルサスの瞳が動く。自分の後ろを見ているのだと視線の位置でわかって、自分を間に置いて、後ろのプッチと見つめ合っているのだと悟った。スポーツ・マックスはにたりと笑って後ろを振り返る。プッチがこちら──ヴェルサス──を、心から不憫そうに見上げていた。
 振り返ったスポーツ・マックスに向かって、素早く気の毒な青年から目を外し、プッチはすがるような視線を投げて来る。哀願も媚びも、どちらも偽物だ。ヴェルサスを解放してやってくれと思っているのはほんとうだとしても、スポーツ・マックスをそんな目で見上げて、そこへ浮かぶ表情が、プッチ神父に限って本物であるわけがなかった。
 もしかすると、プッチの本性に気づいているのはスポーツ・マックスだけなのかもしれない。憐みをこめて人を見つめる彼の瞳に、けれどひと筋冷たい光がよぎるのを、知っているのはスポーツ・マックスだけなのだろうか。裏表どころか、二重人格に等しいように、こうやってスポーツ・マックスが踏みつけにしているプッチと、己れのためには人のことなど人とも思わない彼と、どちらも矛盾なく存在させらえれる彼のしたたかさを、スポーツ・マックスは恐ろしいと思うよりも、その冷酷さに思い至るたびに彼に対する欲情は増すばかりだ。
 人を人とも思わないのは、スポーツ・マックスもご同類だ。いつもなら同属嫌悪にしかならないはずなのに、プッチに限っては、スポーツ・マックスの嗜虐性はひと回りして、その真裏の被虐へたどり着く。人を踏みつけにするのは、結局は自分がそうされたいからだ。誰にでもと言うわけではない、このスポーツ・マックスがじきじきに選んだ、特別な誰かにだ。いつかプッチの足元へ這いつくばって、その爪先へ口づけることを想像する。そんなことは今でもたやすい。そうしながら、この瞳が、冷酷さだけに満たされてゆくのを下から仰ぎ見たい。
 いつかオレに、そんな風にしてくれますか。
 スポーツ・マックスはまたにたりと笑って、そして、爬虫類そっくりのあの仕草で舌なめずりをした。


 プッチの両足首と、右手首を鎖の先から外してやる。そして、男にしては丸く盛り上がった──けれど女のそれとはまったく違う──尻を1度平手で叩き、首輪をじかにつかんで体を引きずり上げる。
 自分の傍に立たせてから、ヴェルサスの正面になるように、軽く突き飛ばして足の位置を変えさせる。それから、むしり取るように、神父服の前を大きくはだけさせた。
 言っておいた通り、そこはもう素肌で、剥き出しの胸にはっきりと分かるほど乳首が尖り切って、これから先を期待してかどうか小さく慄えている。言いなりの神父は、スポーツ・マックスが胸元へ掌を添えて、尖った乳首を指先できつくつまみ上げても、喘ぐように声を立てただけでやめろとは言わない。
 ヴェルサスがまた、神父の様子にうるさく騒ぎ始める。
 「うるせぇクソガキ、騒がなくても今度はテメェの番だ。」
 自分の番、と言うのが一体どういう意味かと、言われた途端にヴェルサスの目元に恐怖と困惑の色が走る。
 「アンタも、アイツとヤリたいんでしょう?」
 ヴェルサスには聞こえないように、スポーツ・マックスは神父の耳朶を噛んでいる振りでささやいた。
 唇を噛んで、プッチは答えない。膝の辺りがかすかに動いているのをちらりと認めてから、スポーツ・マックスは、今すぐ腿の裏辺りへ手を差し入れたいと思ったけれど、とりあえず今は耐えた。
 またプッチを引きずって、ヴェルサスの前へ連れて行くと、床へ向かって放り出す。右手だけでは倒れた体を支え切れず、肩でも打ったのかどうか、軽く悲鳴のような声が上がる。それを聞いて、またヴェルサスが騒ぐ。
 「アンタが黙らして下さい。」
 腰の辺りを軽く蹴ると、プッチはのろのろと体を起こして、それから振り向きながらスポーツ・マックスをにらみつけた。
 いい目だと、見下ろしながら、今すぐマスターベーションでも始めたい気分になる。
 「いつもやってることでしょう?」
 動かないプッチの首輪を再びつかんで、スポーツ・マックスはプッチの顔を、スポーツ・マックスの両脚の間へ押しつけるようにした。
 プッチの息が掛かった途端、殴られでもしたようにヴェルサスの体が跳ねて、そしてそれがゆるく勃ち上がり始める。生っ白い、ろくに使ったこともなさそうなそれは、反応だけは一人前に、プッチの鼻先でみるみるうちに大きさを増して来る。プッチの視線が、ほとんどうっとりとそこへ集中した。
 「それもアンタの大好物でしょう。いいですよ、オレの前でやって見せて下さいよ。」
 エサでも見せられた空腹の犬のように、プッチはもう唇を半ば開いて舌をだらりと外へ出し、ついに自由な右手をそっとそこへ添えた。
 ヴェルサス、と小さな声が呼んだような気がしたけれど、スポーツ・マックスの空耳だったのかもしれない。後はむしゃぶりつくように、プッチはもうなりふり構わずそれを深々と飲み込んだ。
 ヴェルサスの喉が面白いほど伸びる。ヴェルサスと違って、プッチは喉の開き方をきちんと心得ている。右手は、時々皮膚の薄いヴェルサスの腿の内側を撫で上げて、また唇の動きを助けに戻る。
 ヴェルサスの爪先が、プッチの動きにつれて、丸まったり伸びたりしている。口枷の中で声をくぐもらせ、それでも喉を裂くような悲鳴はそうと分かる程度に外に漏れていて、相変わらず色気もへったくれもないただの叫びだったけれど、プッチの方はそんな声でも耳には心地良いようだった。
 ヴェルサスの胸や腹が激しく上下している。短い呼吸が途切れながら吐かれ、吸っている時がわからないほど、ヴェルサスはプッチの舌先に翻弄され切っていた。
 スポーツ・マックスは、それを後ろから見ている。
 プッチの、ぺたんと床に投げ出された足の角度や形や、まるで欲しがるような腰の辺りの揺れや、こちらからはきちんと禁欲的に神父服に包まれたままの背中の線や、今すぐ全裸にして縛り上げてやりたいと思いながら、わざとそうせずに自分で自分を焦らしている。
 急ぐ必要はない。この、体力だけは有り余っていそうな若僧なら、もっと長く楽しめるはずだった。
 思った途端に、ヴェルサスがだらしなく叫ぶ。勝手に果てたのか、プッチが顔を上げ、右手の指先で自分の頬の辺りを触っている。
 「オレがいいって言うまで、やめないで下さい神父さま。」
 射精直後に触れられるのは地獄だ。だからスポーツ・マックスはわざとそう言って、プッチの手を休めさせない。プッチはためらないながら、けれど言われた通りまた唇と指先でヴェルサスを責め始める。ヴェルサスの声に、苦痛が混じる。スポーツ・マックスは、耳障りなその声に初めて背骨のつけ根が痺れるような感じがして、下唇を舐めながらひとり小さく喘いだ。
 ふたりを眺めて、自分ひとりで遊んでいてもいいと思っていたけれど、思いがけなくヴェルサスの声に誘われたように、スポーツ・マックスは不意にプッチの背後へ膝を折った。
 「手を止めちゃダメですよ、プッチ神父さま。」
 脚を撫で上げながら言う。プッチは一瞬スポーツ・マックスを振り返り掛けたけれど、諦めたように、あるいは再びエサにむしゃぶりつくように、また元の位置へ顔を戻して、ヴェルサスへ向かって顔を埋めてゆく。
 スポーツ・マックスは神父服の裾を大きく跳ね上げて、初めて下肢を剥き出しにした。深い小麦色の膚。見た目と同じようになめらかで、腰の辺りへ掌を乗せると、吸いつくように向こうから触れて来る感触だ。
 その腰を、両手を添えて持ち上げて、自分の方へ引き寄せた。そうしてもう、後先は考えず、素早く取り出した自分のそれを、何の前触れもなくそこへあてがう。
 喉を断ち切るような細い悲鳴と一緒に、半ば四つん這いにされたプッチの腰が逃げる。それを逃さず、押し付ける。するりと滑ってすぐにはうまく行かず、スポーツ・マックスは楽しく焦りながら、ようやくプッチの中へ押し入った。
 ちょうど、喉の奥へヴェルサスを飲み込んだタイミングだったのか、潰れた声が吐く時のような声になった。
 相変わらずだ。こうやって押し込んだ途端に絡みついて来る。奥行きの底もなく包み込んで、うねうねと軟体動物の胴体のように、見えない内側がうごめいている。
 最初はゆっくりと抜き差しをして、躯がもっと深く馴染むのを待つ。引き抜く時に、追いすがる感触があるレベルへ達するようになるのを確かめてから、スポーツ・マックスは本格的に抽送を始めた。
 内側から熱があふれて来る。時々角度を変えたり、深さを変えたり、一応はプッチの反応を探りながら、スポーツ・マックスはプッチの厚みのある躯を後ろから揺さぶった。
 ちらりと見るヴェルサスは、空ろに潤んだその瞳に何が映っているのかスポーツ・マックスには分からず、それでもプッチの舌と指先へ返す反応は途切れないのか、腹や胸は短い呼吸で上下し続けていた。
 スポーツ・マックスは、プッチの喉へ手を伸ばして、あごの先へそっと触れた。ぬるりと、唾液かヴェルサスの吐き出した精液か、何かわからないけれどその指先へ触れて来る。さらにふっくらとした唇の縁へ触れて、そこを満たしているヴェルサスのそれに、猛烈な嫉妬を感じた。
 こめかみに青い血管が膨れ上がり、奥歯を噛んで軋む音が耳の裏へ響く。今すぐこのクソガキの口と喉を切り裂いて、ついでに股間のそいつも切り取って犬にでも食わせたら、この神父は一体どんな顔をするだろう。得手勝手な嫉妬と憤怒を愉しみながら、スポーツ・マックスはいっそう欲情してゆく自分の、予想通りの反応を、またさらにプッチの内側へ叩き込む。
 ヴェルサスのそれを、スポーツ・マックスがそう言った通り休まず舐めしゃぶりながら、プッチの喉の奥からはずっと甘ったるい喘ぎ声が漏れ続けていた。
 「オレとそのガキと、どっちの方がいい味ですか? アンタ、オレのコレなしで生きて行けるんですか。」
 意地悪く言った途端、プッチの中がスポーツ・マックスを締めつけて来た。息が止まるほどきつく締め上げられて、一瞬動けなくなったスポーツ・マックスへ、プッチがヴェルサスから唇を外して振り向いて来る。
 あの冷たい光が、欲情の上に乗って、カミソリの刃先のように、するりとスポーツ・マックスの瞳の上を滑って行った。
 さあっと血の気が引いたような心地になりながら、スポーツ・マックスは痴呆のように唇をぽかんと開けて、一瞬後には背骨を真っ直ぐに駆け上がって行く熱に全身を貫かれて、危うく果てそうになったのを必死で押しとどめる。
 叩きつけるような欲情の波に、さらわれ掛けたのだとようやく正気に戻ると、またプッチの中に身を沈めて躯の繋がりをいっそう深めた。
 スポーツ・マックスの問いには答えないまま、プッチは唇を自由にしたまま、ヴェルサスの方へ向き直った。そうして、自分を後ろから犯しているスポーツ・マックスへは自分から腰を揺すり押しつけるようにしながら、じりじりと膝を滑らせて、ヴェルサスの胸元へ頬をすり寄せてゆく。
 「・・・ヴェルサス。」
 悲しいほど切ない声が、若者の名を呼んだ。ヴェルサスはぐったりとしたまま、それでも左肩へ寄せていた顔を上げ、声に手繰り寄せられるように、プッチの方へ必死で首を伸ばす。
 だらりと、口枷の中から、そこへたまっていた唾液が垂れた。プッチは、自分の口元へそれが滴るのには一向に構わず、むしろそれを汚いとも思っていないように目を細めて、さらにヴェルサスの方へ顔を近づけて行った。
 合間に、喘ぎ声が小さく漏れ、時々肩の辺りが揺れるプッチに、ヴェルサスがつらそうな表情を浮かべながら、それでもふたりは、間違いなくこの状況に酔っている。
 ヴェルサスは、そこだけが唯一自由に動かせる舌先を、口枷の丸い金具の中から突き出した。細められた桃色の舌先が、必死に差し出される。プッチはほとんど泣き出しそうになり──自分とヴェルサスを憐れんでか、スポーツ・マックスに与えられている快感のせいかはわからない──ながら、その舌へ向かって自分も舌を伸ばして、そして舌先がそっと絡み合う。
 スポーツ・マックスは、それをつぶさに眺めていた。眺めながら、卑しい笑いを口元へ刻み込んで、わざとプッチを責める動きを少しだけゆるめている。
 ヴェルサスの舌先を、プッチは唇の間に挟み込む。それから、傷つけないように、歯列の間でやわらかく噛んだ。
 ふたりを眺めて、淫らなくせに妙に神々しい情景に、スポーツ・マックスはもう遠慮なくプッチの中へ果てる。最奥へ押し込まれて注ぎ込まれて、プッチは頬をヴェルサスの胸へぶつけた。呼吸に上下するヴェルサスの胸に、自分も喘ぎを吐き出して、それから、ふたりの視線はそこで再びぶつかり合った。
 まだプッチから躯は外さず、ふたりの間には決して立ち入れないスポーツ・マックスは、その疎外感に身を灼かれながら、またそれにいっそう欲情して行く。
 どれだけプッチを引きずり落としても、ヴェルサスはどこまでもついて来るだろう。ふたりを切り離すことも引き離すこともできない。もうそうするつもりもない。
 落としたところで堕ち切ることのない神父の、魂の高潔さは、けれど文字通りのものではなく、彼の病的な自己中心から生み出されたものだと知っているスポーツ・マックスは、自分の卑怯さと下劣さがだからこそ神父に反応してこんなにも魅かれ続けているのだと知っている。
 ヴェルサスは違う。このクソガキはただの小者だ。それでも確かに、神父の想い人だ。だからスポーツ・マックスにも、恩情を掛ける余裕がある。
 ヴェルサスの手を離さない神父の、その足に絡みついて離れないスポーツ・マックスだ。
 落ちて、神父の代わりに、地獄の汚泥にまみれたいと思った。泥まみれの自分を、冷たく見下ろして欲しいと、そう願った。
 スポーツ・マックスはまたプッチの中でゆるく甦りながら、淫らな姿勢のまま甘く見つめ合う恋人同士のふたりへ舌なめずりして、口元の裂けた凄まじい笑みを浮かべた。
 ふたりはそれには気づかず、まだ見つめ合ったままでいる。

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