Stigma



 承太郎の手が、膝を撫でていた。もどかしげに、制服のズボンの上から、じかに触れたいと思っているのが、指先の動きでわかる。
 絶対に、明るいところで体を見るなと、そう最初に言ってある。理由を訊くかと思ったけれど、承太郎はそれに無言でうなずいただけで、欲しいものが手に入るなら、それについては文句は言うまいと、そう殊勝に思ったのかもしれない。
 けれど、この年頃なら、きっとこちらへの思いやりなどかけらもない抱き方をするだろうと思っていたのに、承太郎の手指は存外優しく、いたわるように、膚の上をなめらかな掌が滑るのに、もしかすると、どこかに醜い傷跡や目立つアザでもあると、そう思ってでもいるのかと、闇の中で思う。
 花京院が、こんなことには慣れ切っている態度を、承太郎はどう思っているのだろうか。
 誰といつ、とけれどそんなことを気にする余裕も、もしかしてないのか。
 そんなことはない、自分の独占欲の強さを思い出して、承太郎もきっとそうだろうと、肌を合わせてしまったゆえの、相手の心の透明度を測りながら、花京院はあくまで控え目に---承太郎を、萎縮させたりしないために---、けれどしっかりと、求めるところへ導いてやる。
 躯の奥へ触れられるのはかまわない。そんなところに触れたところで、ほんとうの内側まで透かし見ることができるわけではない。躯を繋げるというのは、ただそれだけのことだ。好意を抱いているということを、具体的に表すために、局地的に親密さを深めるために、ただそうするというだけのことだ。
 好きだの惚れただのは、まともな時に、まともな相手とすればいい。死と向かい合わせの旅の間に、ぎりぎりと引き伸ばされた神経を、少し休めたくなっただけだ。ひとりではないと知れる、とても手軽な、手っ取り早い方法。そうすれば、明日をまた耐えられる。
 そう言い聞かせなければならない、自分の心の先行きを思って、花京院は目を閉じた。
 大きく脚を開いて、そこに承太郎を引き寄せながら、決して手は触れさせないように、承太郎の上半身を、自分の上に引き寄せる。引き寄せて、繋げた躯を、ただ揺する。


 そういう嗜好があることは、知識で知っていた。
 男が男に欲情するとか、少年に欲情するとか、抵抗もできないと知っていて、それでも縛り上げて、踏みつけずにはいられないとか、あるいは、ある種の肌の色や髪の色に、過剰に反応を示すとか、けれど知ってはいても、花京院には関係のない世界での出来事だった。
 友達になろうと、そう言われるまでは。
 金縛りにあったように動けず、東洋人かと言い捨てた彼が、頬に触れて、花京院の長い前髪をその指でかき上げた時に、あまりに近くに寄られたので、思わず吐き気を覚えた。こんなに人の気配が近づくのに、慣れてはいなかった。
 東洋人というのは、ずいぶんと幼く見えるものだな。
 自分自身と比べているのか、それとも過去に、そうして抱き寄せた誰かと比べているのか、長くて太いその腕の中に閉じ込められて、人並みに成長はしているはずの花京院の体は、確かに小さく見えただろう。
 彼からは、邪悪の匂いがした。そして同時に、何かとても真っ直ぐな、痛々しいほど真摯な気配がそこに混じり合っていて、花京院は困惑しながら、その両方に、強く魅かれている自分を感じていた。
 きちんと身に染みついた紳士的振る舞いで、彼は花京院の服を剥ぎ取り、そうして、蛇ににらまれた蛙のように、もう逃げることすら頭に思い浮かばない花京院を、そんな必要もないと訴えたのに、ぎちぎちと縛り上げた。
 正確には、縛り上げろと、彼に仕えている執事に言った。
 様々な形に繋がって縫い合わされた鎖と革の拘束具は、その執事とやらが、わざわざ主人の気に入るように作ったものとかで、彼は、執事が花京院を縛り上げるのを眺めながら、それをどんなに気に入っているか、いちいち花京院に聞かせてくれた。
 執事は無言で無表情で、慇懃無礼に主人に接し、けれどその声の底に、畏怖の念のひそんでいることを、不様に、執事の手で全裸で縛り上げられながら、花京院は聡く聞き取っていた。
 両手足を揃えて、手首と足首を一緒にまとめるところから始まって、縛られた手足を胸の前に引き寄せるように、そのままでは、坐っている以外に体を支える術もなく、肩を蹴り上げられて、丸く床に転がった。
 剥き出しの腿の裏、腰の辺りを不躾に眺められるのが、どれほど羞恥を呼ぶか、実際に触れられるまではわからず、眺められるだけなら、拘束されて、自由に動くことができないことに焦れて、痛みにだけもがいていればよかった。
 その程度に、花京院はまだ稚なかった。
 DIO様、お気をつけ下さい、人間というのは、案外と簡単に壊れてしまうものです。
 まるで自分が人ではないかのように、床に転がった花京院を見下ろして、執事は静かに主人をたしなめた。
 花京院の脚を大きななめらかな掌で撫でながら---とても、優しく---、彼はそちらを見もせずに、とても邪悪な声で笑う。
 子どもに見えても、れっきとしたスタンド使いだ。わたしに逆らうくらいでちょうどいい。
 そうでなければ面白くないと、続けて邪悪な声が言った。
 花京院は、汗を吹き出して、全身に粟を立てた。髪の毛が逆立って、ちりちりと皮膚が焦がされるような痛みを感じた。
 執事は出て行き、彼とふたりきりになる。拘束具に血流を阻まれて、色と体温の変わり始めた花京院の指先や爪先を、彼が静かに撫でた。
 苦労などしたことのない手足だな。不自由ない、恵まれた家庭に育ったのか。運のいいヤツだ。
 運がいいと言われて、初めて反抗心が湧く。スタンドのせいで、どれだけいやな思いをしたか、今の不自由な自分の体の状態とそれが重なって、花京院は知らずに彼をにらみ上げていた。
 ちょっと驚いたように、彼の手が花京院の体を離れる。
 ・・・もっとわたしを憎め。おまえがわたしを憎めば憎むほど、おまえはわたしを愛するようになる。
 彼の言っていることがわからず、花京院は、生来の勝気さを少しだけ取り戻すと、彼から視線を引き剥がして、暗い部屋の中の、あらぬ方向を眺めているふりをした。
 彼は、豪奢な年代ものの椅子にゆったりと腰を下ろして、道化の演技を眺める王のような態度で、感動のひとかけらも示さずに、縛られて転がされている花京院を、ただ眺め続けた。
 次の時は、もっとゆるく縛られて、立ち上がって走るくらいのことはできそうに、けれど、刺すような彼の視線からは逃れられずに、彼の大きな寝台に放り投げられた。
 傷も染みもない肌だな。親に殴られたこともないか。
 問いを投げかけながら、答えなど期待していない証拠に、彼の掌は花京院の喉を押し潰していて、そうしながら、彼の手は下腹を滑り落ちて、花京院の中を探ろうと動いていた。
 何をされているのか、彼の目的がわからず、女ではない花京院を犯すのに、そこにある排泄器官を代わりに使うのだということを、彼はとても優しい声で、邪悪な笑顔を浮かべたまま、説明してくれた。
 逆らう間もなく裏返された体を、腰だけ突き出すように抱え上げられて、そうして、引き裂かれた。声は、寝台に盛り上げられた上掛けの中にこもり、けれど、館中に響いただろう。誰かが様子を見に来ることもなく、彼のやることに誰も口出しをするはずのないここで、花京院は、容赦もなく彼に犯された。
 わずかに動きが時折ゆるむのは、花京院の痛みを気遣ってのことではなく、単に彼が締めつけられすぎて、苦しいからというだけだ。
 まだ早いか。愉しむどころではないな。
 花京院の稚なさを、そんなふうに揶揄しながら、苦痛に羞恥も吹っ飛んでいる花京院は、彼の声に反駁もしない。骨まで引き裂かれるように蹂躙されるのに、気を失わないだけで精一杯だ。
 おまえの肌に傷はないが、こうして、おまえの中に、わたしを刻み込んでやる。
 寝台がきしんだ。彼が体の重みを乗せてきて、花京院は背中を折れるほど反らした。突き込まれて、どれほど深く飲み込まされたのか覚えもなく、脳の中まで血の色に染まったような気がした。
 まさしく、それは愛撫などではなく、憎しみを煽るだけのただの拷問だった。
 なぜ、彼を自分が憎まなければならないのか、それがわからずに、踏みにじられた自分の惨めさに、花京院は知らずに涙を流していた。
 苦痛から逃れるためだけに、躯は従順になってゆく。縛られて犯されることに、羞恥と嫌悪はあっても、人形のように抱かれていれば、いずれ彼は飽きるだろう。一体何の目的か、気まぐれに拾ってきた肉の人形に、こんな冷たい瞳をした邪悪な男が、延々と執着するとも思えなかった。
 見せかけだけの花京院の服従を、けれど彼はさっさと見抜いて、嘲笑う。
 素直なふりなど、似合わないことはやめておけ。
 そうして、花京院を寝台から引きずり下ろすと、あごをつかんで、立ち上がった自分の方へ引き寄せた。
 女優の媚びた笑みなど、わたしは求めていない。わたしが欲しいのは、人に気を許さない、獣の凶暴さと気高さだ。
 言いながら、花京院をもっと辱めるために、唇を開かせる
 やってみろ。丁寧にな。
 いつものように縛られていたから、添えるためにすら手は使えない。目の前に差し出されて、花京院は、思わず目を見開いた。
 決して視線の届かない位置で犯されるなら、痛みは現実であっても、それほどの生々しさはなく、けれど唇に割り込んできたそれは、何もかもがリアルだった。
 こんなものが自分を犯していたのかと、視覚に直結する舌の上や唇の裏側で感じれば、こみ上げる吐き気に、嫌悪よりも恐怖が先に湧く。
 それでも、あごを締めつけられて、噛み切る力さえない。
 花京院は、喉を精一杯開いて、舌を動かした。この拷問を終わらせるには、どんな形であれ、彼を満足させるしかない。
 技巧など、はなから期待などしていない彼は、ただ苦しげに歪む花京院の表情を満足そうに見下ろして、逆らうようにそれを押し戻そうとする舌の動きを愉しみながら、痙攣する喉の粘膜を、容赦もなく侵す。
 狭いだけの排泄器官と違って、こちらはひたすらに暖かく包み込んでくるのが、けれど彼にはあまり気に入らないようだ。
 隠すところもなく、すべてをさらけ出して犯されて、内臓を裏返すような辱めに、けれど花京院は耐えた。発狂しないことを不思議に思いながら、それでも心のどこかで、彼の目的を知りたいと、そう思っている自分に気がついている。
 冷酷さと邪悪さを剥き出しにした彼が、たとえば、ある種の好意のような感情で、花京院を手元にとどめているとは思えず、けれど同時に、そう思いたい自分が、心のどこかにいた。
 ここへ連れて来られてから、身に着けるのを許されているのは、あの悪趣味な拘束具だけだ。
 今日は、椅子に坐らされた。ヨーロッパのどこかで、ずいぶん昔に作られたものなのだろう。色褪せた腰掛けの部分は、けれどなめらかさを保っていて、花京院の裸の熱にぬくもってゆく。
 ゆるやかな曲線を描く肘置きに、執事が、感情のこもらない、ためらいのない手つきで、花京院の脚を開いて乗せた。
 開いた膝の間に、開脚のための棒が渡され、それは、花京院の首に巻かれている革の輪に、金具と鎖で繋がっている。持ち上げられた脚の下で、下腹があますところなくあばかれて、それを確かめると、執事は、花京院の首と膝を繋ぐ鎖の長さを決定した。
 両手は、椅子の背もたれの裏に、ぎりぎりと縛りつけられている。
 彼はいつものように、表情も変えずに、執事の作業を眺めていた。
 執事が、一通り作業を終えて、主人の視界を塞いでしまうことに恐縮したような態度で花京院の真正面に来ると、仕上がったばかりの自分の仕事振りを、検分するように目を細める。人を見ている視線ではなく、ものを眺めている目だ。
 花京院は、羞恥と屈辱に、顔を背けて唇を噛んだ。
 よろしいですか。
 執事が彼に振り返る。彼は鷹揚にうなずいて、自分が坐っている豪奢な椅子の中で、その大きな体をゆったりと伸ばした。
 音もなく椅子の周りを歩いて、執事がまた、花京院の前に戻ってくる。彼の視界を塞がない位置で、執事は床にしゃがみ込んだ。花京院の腿に手を添えて、主人の不興を買わないよう慎重に触れる場所を選んで、その手は、指先がぬるぬると濡れている。
 何だと思った時には、その濡れた指が花京院を侵していた。
 馴らすための動きだ。花京院はうなじを粟立てて、初めての指に侵される羞恥に、彼らが聞きたいとそう望む声を上げていた。
 彼のためだ。彼が後で入り込むために、そのために、執事が花京院を馴らしている。けれど息のかかる近さで、執事が花京院を見ている。自分自身で見たこともない、触れたこともない、狭い筋肉の入り口を、執事が、執拗に濡れた指先で開こうとしている。
 羞恥に、躯が火照った。
 わずかに入り込んで、狭さを押し開く。内側に触れて、その柔らかな粘膜を傷つけないように、けれどもっと深くもぐり込んで、軽く曲げた指先で、そこをこすり上げる。
 乱暴に押し入られ、突き上げられるのではない感触が、やわやわと神経を溶かしてゆく。
 いつのまにか、花京院の速くなる呼吸に合わせて、執事が増やした指を、なめらかに出し入れしていた。
 濡れていたのはあれは、抽送を楽にするためのものではなかったのだとわかったのは、執事がようやく指を外して、彼を振り返ってから、少し経った後だった。
 慎みのない声を上げていた花京院の口に、執事が短い棒を噛ませた。端についたベルトが、頭の後ろで固定され、これでもう、うめくことはできても、しゃべることはできない。
 吐息に湿り方が尋常でないことに、自分で気がついていた花京院は、自分の顔に触れた執事を、思わず哀願の表情で見上げる。執事は、一瞬だけ花京院の視線をとらえて、けれどするりと、何の感情も示さないまま、その視線を外してしまった。
 開いた脚の間で、ずっと怯えて萎えていたそれが、何かを求めるように勃ち上がり始めていた。
 あれは、人の躯をこういうふうにさせるものだったのだと、執事の、内壁に何かを塗り込めるようだった指の動きを思い出して、また花京院の躯は熱くなる。
 首を、膝の重さに引っ張られないように、椅子の中で少しでも苦痛の少ない姿勢を取ろうとすれば、自然に物欲しげな腰が、彼の方へ突き出されてゆく。彼の冷たい視線が注がれている。熱さが我慢できずに、花京院は、何度もうめいて、頭を振った。
 執事は、椅子の背に手を乗せて、後ろに静かにたたずんでいる。
 彼が、ようやく椅子から立ち上がった。
 花京院の前に来ると、触れてくれるのかと、知らずに媚びに潤んだ瞳を向ける花京院を、まるきり無視したように、彼はまだ腕すら伸ばさない。
 口枷の中で、花京院は、触ってくれと、言葉にならない叫びを上げていた。
 凍った空気を揺らすのは、淫らに揺れる花京院の躯だけだ。
 わたしの、首の傷が見えるか。
 禍々しく、首を一回りする大きな縫い跡を、彼が指先で撫でて示した。
 わたしを、破滅に近く追い込んだ男の体だ。
 首に触れていた手を、肩の後ろに回す。そこに星のアザがあることを、花京院は知っている。
 わたしを震撼させたこの男に、わたしは尊敬の念すら抱いている。
 そういう彼の声に、深い悲しみの音が混じる。彼は、ようやく花京院のあごの辺りに手を伸ばした。
 ジョースターの血が、おまえに魅かれているらしい。だが、おまえはこのわたしのものだ。そのあかしを、おまえの瑕瑾ひとつない肌の上に、刻んでやろう。
 彼の赤い目が、妖しく光る。執事が、唇を噛んだ気配に、空気がかすかに揺れた。
 薄闇の中で、そうとはっきり見えなかったけれど、彼の瞳に切れ目が入り、そこから、圧力をかけた体液が細く飛び出し、そして、花京院は、骨ごと一瞬で焼かれ尽くしたような激痛に、全身をしなわせて、絶叫した。
 大きく開かされた脚の奥、目を凝らさなければならない辺りに、彼が、何かしるしを刻み込んだ。
 わたしを追ってくるだろうジョースターの末裔に、それを見せてやるがいい。
 がちがちと全身を震わせて、涙すら流している花京院に、彼が涼やかな声で言う。
 それと彼が言ったのは、彼の肩の星のアザそっくりの、焼き印のようなしるしだった。
 こんなふうに脚でも開かなければならないそんなところを、見せるというのはどういう意味かと、今はそれすら考えられず、花京院は肌を焼かれた鋭い痛みと、内側から火照る卑猥な熱に、ほとんど気を失いかけていた。
 口枷のせいであふれた唾液を、彼が指先ですくい取った。そして、その濡れた指を拭うように、硬く尖った胸の突起に、なぶるようなかすかさで触れた。
 また、体が跳ねる。痛みに脳を焼かれながら、けれど下肢は甘く疼いている。
 気配を消している執事が、けれど自分のおぞましいほど乱れた姿を、ちゃんと眺めていると知っているのに、もうそんなことはどうでもよくなっている。
 うめく花京院から、彼が、自分の手でその口枷を取り去った。
 ことんと、似合わない可愛らしい音を立てて、唾液にまみれた口枷が部屋のどこかへ転がった。
 欲しいか・・・。
 真っ赤に血の色を上げた耳を噛みながら、彼が訊く。
 押し開かれて、惨くかき回されたがっている躯を揺すり上げて、花京院は大きくうなずいた。
 それなら、わたしに忠誠を誓え。わたしのために、何でもすると言え。
 赤い瞳が、目の前にあった。それを見据えたまま、花京院は唾液と涙にまみれた顔を歪めて、必死で口を開いた。
 ・・・誓うッ、誓うからッ、早、く・・・欲し・・・いッ。
 がくがくと首を前に折って、それが精一杯の恭順のあかしだった。
 にやりと笑った彼の真っ赤な唇が、耳まで裂けたように見えた。そうして、そのまま頭から食われてしまいそうだと、朦朧と思って、ようやく、彼の躯が繋がってくる。
 反った喉を、悲鳴が裂いた。
 視界いっぱいに広がった、彼の赤い唇と瞳に、脳まで塗り込められて、いつもより深くいきなり入り込んできた彼が、椅子ごと花京院を揺すぶり上げてくる。
 血の色が濃さを増して、全身を駆けめぐる。待ちあぐねていた躯は、呆気もなく彼の手の中に堕ちて、もっともっとと、物足りなげに、むしろ彼に躯をこすりつけてゆく。
 彼がこすり上げる躯の内側が、荒々しさをなだめるどころか煽り立てるように、知らずにうごめいていた。
 赤く染まった脳が、注がれる熱に溶けて、白い核を剥き出しにする。そして、花京院がまた一際高く叫ぶと同時に、その核も、弾けて砕けた。
 ジョースターの血を、断って来い。そうしてここに戻って来たら、今度は、おまえの肩に、同じしるしを刻んでやる。
 まだ躯を外さずに、彼は花京院を揺すりながら、まだ焼きつけられたばかりのあの星の形を、指先で手探りに撫でた。
 奥深い、その際どい位置に、花京院は、羞恥を甦らせながら、突然湧き上がった熱情に、彼の唇に、自分の唇を押し当てていた。彼の唇は血の匂いがして、尖った牙が、花京院の唇を刺した。
 しるしに触れられた痛みに全身を貫かれて、花京院は、それを悦びにすり替えながら、彼と繋がったまま気を失った。


 薄暗い部屋の中で承太郎に抱かれていると、ふと、彼だと誤解しそうになる。体の形は少し違うけれど、掌への感触は、とてもよく似ている。
 彼のあの体と、承太郎の体は、血で繋がっているのだと、そんなところに自覚しながら、彼に魅かれたのとは、少し違う感覚で、承太郎に魅かれている自分の多情さを、恥じる気持ちは、まだ花京院の中に残っていた。
 出逢った一瞬で、承太郎の瞳が自分の上に据えられた時に、その後に起こることを、花京院は正確に予測した。彼が言った通り、彼を追うジョースターの末裔は、若さを剥き出しにした熱狂を、花京院に隠しもしなかった。
 ひたすらに注がれる想いに、花京院は怯えている。いつか、このしるしを見つければ、承太郎は悟るだろう。これは、花京院が彼のものだった証拠だ。たとえひとときとは言え、彼に身も心も捧げ尽くしたという、消えない証拠だ。
 淫らなほど脚を開いて、そこだと示さなければ見えない位置にあるそれを、承太郎から必死に隠して、けれどいつか、それすら晒して、皮膚の境界を失くして、承太郎と抱き合いたいと、そう願う自分がいる。
 抱き合いたいのではなくて、踏みにじられたいのだ。自由を奪われて、ものにされて、すべてを晒す羞恥に慄える躯を、惨く犯されたいのだと、そんな心の声に、花京院は耳を塞ぐ。
 そんなことを、求めてはいけない。彼の支配から逃れたのなら---承太郎の、おかげで---、その手の中へ戻ることは、絶対に避けなければならない。
 彼は確かに、花京院の中に、彼のしるしを刻み込んでいた。それから逃れようと、花京院は、承太郎にすがりついている。
 目には見えないそのしるしは、けれど一生、花京院の中から消えることはないのだろう。あきらめながら、あきらめきれずに、自分を見つめる承太郎の瞳に浮かぶ熱に、すべて溶かされてしまう日を、花京院は心の底から切望している。
 目覚めてしまった欲望を再び眠らせることは、一体どれほど難しいのかと、正面から抱き合った承太郎の肩に、憩うように、花京院は頭を乗せた。
 そうして、そこにある星のアザを、肉ごと食いちぎって、飲み込んで、そこから消して、自分の中に取り込んでしまいたくて、ぎりぎりと歯を立てる。痛みに声を上げた承太郎の膚の震えに、縛られた自分の淫らな姿が重なって、花京院は、何も見たくなくて、薄闇の中で目を閉じた。


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