* 戻る / 上に追加 / CP混在 / 大体140字 / 日付はまとめた日
* シャッキリ / ペキリ / リーマン / バイムザ / ザキリ / カンポタ / フィアキリ
■ 愛を願った私の負け / ペキリ
より多く愛してしまった方の負けだ。足元に這いつくばって、どうか愛してくれとすがりつく自分の姿が容易に想像できる程度に、私は恋に落ちている。
惨めさよりも、心臓の高鳴る音へ耳をすませたい気持ちの方が勝って、私は自分をより惨めにする。
愛を返してはくれない、請うても一瞥もされず、それならいっそ憎まれたいと、その瞳に小さく映る自分の姿を夢見た。
最期の時に、それは叶ったろうか。
愛を願った私は負けたが、おまえは確かに私を見た。
お題bot @odai_bot00 | 2018/3/1
■ 隣で眠れるのなら / シャッキリ
何もしなくていい。触れ合うことすらせずに、ただ寝息の聞こえる傍らで、同じ夜を過ごせるのなら。
1枚の毛布を分け合って、寒さをただ避けるためだけに体温を集めて、それだけでいい。
朝陽とともに目覚めて、見た夢を語り合う必要もなく、夜露に濡れていた髪の青さの記憶だけでいい。
お題bot @ODAIbot_K | 2016/12/17
■ 黄色の水仙 / ペキリ
水際にその姿を映す花の、凛とした花弁の色の爽やかさに清々しく目を洗われて、古傷に痛む眼球の奥へひと筋に突き通ってゆくような、わずかに甘い、香り。
あるともしれない微風に揺れて、けれどこちらへ向くことはない素振りが、愛しい人を思い出させた。
空の青さが、ひと際目に染みた。
お題bot @ODAIbot_K | 2016/12/17
■ 「おまえのわたし」は実在しません / ペキリ
私の、と思わず呼ぶと、青い瞳が細まった。
ほんとうは違う。傷だらけのそのブーツの足元へ全身を投げ出して、私のおまえではなく、おまえの私でありたいのだとそんな本音を吐けもせず、長いコートの裾が埃まみれの耐圧服の膝の辺りへ触れるのを、ミラーグラスの隙間からじっと見ている。
お題bot @ODAIbot_K | 2016/12/17
■ 慣れてしまった。/ シャッキリ
皮膚に触れる掌、頬と首筋を流れてゆく手指、少し乾いてざらついた唇が、触れ合ううちに湿って取り戻す、本来の柔らかさ、舌先から伝わるぬくもり、互いにしか聞こえない囁き、少し伸びた爪の引っかかる小さな痛み、近々と見つめ合って見える眼球の丸み。
知らなかった頃を、もう思い出せない。
お題bot @ODAIbot_K | 2016/12/17
■ 恋につける薬なし / ペキリ
火傷に掛ける水のような、熱い額に乗せる氷のような、この胸を焦がす恋を鎮める手立てはないものかと、無表情を保って考える。
有象無象の中の、ただひとりの人。冷たくこちらを睨めつける青い瞳にあるのは、ただ憎悪だけだと言うのに。
恋の炎に舐め尽くされて、その腕の中で死んでしまいたい。
(創作向けお題bot) @utislove | 2016/12/17
■ 紅茶はすっかり冷めていた。/ ペキリ
そうではないと、後ろから手が伸びて来る。湯気のあふれる薬缶の持ち手に、掛かる手が今はふたつ。
肩と首筋に息が掛かったのは、最初はその意図ではなかった。
耳朶へ唇が触れた時には、もう薬缶ではなく互いに触れている。
冷える湯の代わりに頬に熱が上がり、淹れない紅茶はすっかり冷めていた。
【紅茶はすっかり冷めていた。】で終わる140文字小説 | 2016/8/1
■ 宝石 / ペキリ
時折不思議な色に光る瞳が宝石のようで、稀少ゆえに価値があるならこれほど高価な石もないだろうと、指輪など着けたこともない自分の指の根元へ触れる。
右目をそちらへ、左目をこちらへ、必死に分け合おうとする未来はその抉った眼球のように血まみれで、架空の誓いは空の眼窩のように空疎だった。
お題bot*@0daib0t | 2016/5/21
■ 埋葬 / ペキリ
息絶えたその体を、埋(うず)める穴を用意しよう。
首筋に触れ手首に触れ、鼓動のないことを執拗に確認した後で、額に額を重ねて膚の冷たさを確かめた。
土に包まれていずれ腐り果てる皮膚と肉と、そこへ咲く花の根へ吸い上げられ別の命になる。
残った骨の間を通り過ぎる風の音を、ひとり聴いた。
お題bot*@0daib0t | 2016/5/21
■ パレード / ペキリ
恐らく神と同じほど傲慢な男へ向かって、鋼のような視線を送る。
鉄の棺桶へ閉じ込められて死にに行った戦場から生き延びて還る奇跡を何度起こしたとしても、玩ばれるために生き残ったわけではない。
誰にも従わないと、聞かせる気もない呟きを歓迎の音楽に紛れさせてそれきり、沈み込む無関心の沈黙。
お題bot*@0daib0t | 2016/5/21
■ お気に召すまま / ペキリ
自分では使わないと言い、手渡して来る指輪やシガレットケースの類い、こちらも使い途などないと素っ気なく突き返す。
そんなやり取りの間に触れる手指の、その感触のために、飽きもせず繰り返される、「おまえにやる」「いらない」。
物などどうでもいい、欲しいのはおまえだとはまだ言えない。
選択お題 | 2016/5/7
■ 導火線 / シャッキリ
火を点けたのはどちらだったのか。熱気も湿気も言い訳にならずに、指先の触れた後に掌は重なったままだった。
うだるような暑さに、滑るのは汗だけではなく、無我夢中のまま、始まりと終わりの見極めもつかずに、燃える火を鎮める術もなく朝がやって来る。
冷える空気に、火だけが燻り続けている。
選択お題 | 2016/5/7
■ あいた右手、繋げない左手 / シャッキリ&神の子、ココナ
泣き止まない赤ん坊を交代で抱いて、抱き取った数分はおとなしくなるのに、5分もせずにまた泣き出す。キリコはうんざりの気分を顔に出さないようにしながら、よこせと差し出されたシャッコの長い腕へ、助かったと言う表情を一瞬隠し切れずに赤子を渡した。
シャッコを見上げて3拍分だけ静かになる。そしてまた泣き出して、小さな拳でシャッコの胸を叩いていた。
「AT置き場に寝かせるか」
半ば冗談でなく言うと、シャッコが眉を片方だけ上げて、やや反対と言う表情を作る。そうだろうなとキリコがため息をこぼそうとした時、
「あーダメダメ、そっち側じゃなくて、こっち!」
ココナが向こうの部屋からやって来て、乱暴に見える手つきだけれど丁寧に、シャッコの腕の中で赤ん坊の頭の位置を逆にした。
「心臓の音が聞こえた方が安心するから」
ココナの声を赤子の瞳が追う。そうして、泣き声を治めてシャッコの左胸へ頭を傾け、それきりほんとうに静かになった。
ATに乗れば負け知らずでも、小さな赤ん坊ひとりまともに扱えず、親になれるのは一体いつのことかと、キリコはうとうとし始めた赤子を覗き込む。シャッコがそこへ、淡く苦笑を落とす。
それでもこの暴君に、ひとりきりで立ち向かう必要はないのだと思って、キリコは今は赤ん坊に占領されているシャッコの手へ、自分の指先を軽く引っ掛けた。
赤ん坊と分け合う互いの腕が、互いのために空くのはもう少し先だった。
少し切ない3つの恋のお題 | 2016/2/29
■ 筋書き通り / シャッキリ
会いたかったと、抱きしめる腕が言う。おれもだと、抱き返す腕に言わせて、誰かとこうして触れ合うのはいつぶりかと、キリコは黙って考えている。
シャッコの広い肩が熱い。重なる胸の間に体温がたまる。できれば直に膚に触れたいと思ったけれど、今は時間がなく、焦るくせに腕にこもる力は一向にほどけない。
言葉なく引き寄せて、拒まれる心配のない相手だったのだと、抱きしめられてから思い出す。抱き寄せたかったのはシャッコだけではなく、キリコも伸び上がってシャッコに体を添わせながら、時間の流れを忘れさせる自分同様、この男にも時間はそれほど作用はしないのだと、そんなことも思い出していた。
今度は、刹那ではない予感があった。この男の腕の中に、思ったよりもずっと長く憩えるかもしれないと、ただ感じる。
これも、誰かが書いた筋書きなのかもしれない。見えない糸に操られている自分に、けれど今だけは嫌悪は湧かず、無心にシャッコの体温を貪るだけだ。
思わずこぼれたため息を聞き取ったのかどうか、それを塞ぐための唇が近づいて来て、キリコは素直に喉を伸ばし、シャッコの首へ両腕を巻きつけた。
少し切ない3つの恋のお題 | 2016/2/29
■ 背中の爪痕 / シャッキリ
シャワーの湯のしみた背中に、着掛けたシャツがこすれて確かに痛む。食い込んだ爪の跡だろうと、見て確かめはせずに見当をつけて、キリコはそれをそのままシャツで覆い隠した。
つけたシャッコも多分憶えてはいない。記憶が飛んだのは自分も同じだと思いながら、丸めた背中にかすかに走る痛みへ向かって肩越しに指先を伸ばす。
痛みが呼び戻す熱さが、まだ皮膚の下に漂っていた。無我夢中になって、そう言えばシャッコの肩口へ噛みついたような気がする。それはシャッコの膚の上に残っているだろうか。湯に叩かれて痛むそれを、シャッコも同じように指先に探るだろうか。
熱はまた取り戻せる。それでも、見てそうと分かるこのシャッコの残した傷──キリコ自身には見えないにせよ──が、今日の終わりにはすっかり治って消えてしまうだろうことを、キリコは残念に思った。
少し切ない3つの恋のお題 | 2016/2/29
■ 声は途切れて / ペキリ
紅茶とコーヒーを両方とも用意させて、それだけではテーブルが淋しくて、少々子どもっぽい、色鮮やかな菓子も一緒に並べさせた。
キリコは黙ってコーヒーに手を伸ばし、紅茶を抱えて、ペールゼンも言葉少なにただ近況を尋ねた。
元気だったかと訊けば、死にはしなかったと物騒な言い方を返して来る。それすらいとおしくて、ペールゼンは思わず唇の端にだけ微笑みを刷いた。
何も入れないコーヒーを飲みながら、菓子の色に魅かれたのかどうか、キリコは皿へ手を伸ばして脳の溶けるほど甘いそれをひとつ、ころんと口の中へ放り込む。舌の上に転がす仕草が頬の丸みに出て、甘さを気に入ったのかどうか、キリコはそれきり黙り込んで菓子を舐めている。
口の中で転がる菓子が、かちんかちんとキリコの歯に当たる。ペールゼンはその音へ黙って耳をすましている。
ふたりきりのお茶会に、言葉は必要ないようだった。
小説用お題ったー。 | 2016/2/29
■ 死にたいわけじゃない / ペキリ
近々と視線を合わせて、額を触れそうに寄せて、汗の流れる頬へキリコが掌を乗せた。
繋げた躯をやや忙(せわ)しく動かしながら、体温は上がっても一向に昂ぶることのないキリコのそれを、ペールゼンは下腹に感じて、貪るのは自分だけかと心のどこかで恥じはしても、キリコの奥へ入り込む動きは決して止めない。
キリコに触れたい気持ちと躯は一致はせず、思い通りにならないことに内心歯噛みしながら、自分に添って来るくせにどこかよそよそしさは消さないキリコへ、面憎さばかりがつのる。
憎いと愛しいが同じところに同じ分量で混ざり合い、それはただキリコが欲しいと言う気持ちになる。
欲しがる先で、時折、こうしながらキリコの上で心臓を止める自分を想像する。繋がったままキリコに抱かれて死に、すべてを失う無様な死に様だと言うのに、これほど幸せな死に方はないと、ペールゼンはふと思う。
私が死んだらおまえは泣くかと、浅い呼吸に半開きになったキリコの唇へ、愚かな問いを封じ込めるために自分の唇を押し当てた。
小説用お題ったー。 | 2016/2/29
■ 泣き声は届かない / ペキリ
終わった後はいつもそうだ。肌と肌の間に滑り込んで来る空気の冷たさに、どうしようもなく自分が孤(ひと)りだと言うことを感じて、もう一度触れたくなる。
キリコは起き上がる前にことさら強く唇を引き結んで、そうしなければ隣りで眠るペールゼンの肩を揺すって呼び掛けてしまいそうで、視線をずらしたまま床へ両足を下ろした。
暗さに慣れた目に、重なり絡まって床に散らばるふたり分の衣服が映る。嵩高い耐圧服と裾の長い軍コート。暗いオレンジと上品なベージュが、ふたりきりになってようやく抱き合った自分たちの姿そのままに見えて、キリコはそこから自分の耐圧服をそっと取り上げながら、これから別れ別れになるのもそのままだと思った。
キリコはまた前線に送られ、ペールゼンは無表情にキリコの安否を思うだろう。案じる言葉を口にするわけもなく、互いに無事でまた会えるのだと、根拠もなく信じるだけだ。
呼ぶ声は届かない。想う気持ちも届かない。肩を並べて歩くことさえできないふたりだった。
それでもと、もう身支度を整えて立ち去る準備をしながら、もう一度ベッドへ振り返る。背中を向ける前に、また、と言う代わりに、口の中でだけ呼んだ。ヨランと、眠っているペールゼンが聞き取るはずもなく、夢は破られないまま、キリコは足音を消して去ってゆく。
この恋が破れる時に、泣くのはペールゼンの方だろうと思いながら扉を閉め、生きてその声を聞ける保証もない自分の、明日の朝送られる戦地へ、もうキリコの心は飛んでいた。
小説用お題ったー。 | 2016/2/29
■ 夜まで待てない / 真面目な君だから / ペキリ
部下たちが姿を消して、ふたりきりになった一瞬の間に、もたれてもびくともしない机の陰へ押し倒す。軍帽が床を転がり、絨毯の上で止まった。
素早く盗む接吻の続きに、高い襟の際に歯を立てる。今跡を残す勇気は互いにない。生真面目だからと言い訳をしても、互いに溺れる夜まで待てない。
ちょいエロシチュで140字お題 | 2015/11/18
■ 痛いくらいでいい / 夢の中では / キリコ (多分シャッキリ)
抱いているのが誰の背中なのか分からなかった。
開き切った脚が痛みを訴えて、それでも早く終われとは思わなかった。
開いた躯の内側で疼く熱には憶えがある。
夢の中では痛いくらいでいい。もっととそそのかすように、足首を重ねて引き寄せる。
触れた頬骨の高さに目を細めて、おまえか、と思った。
ちょいエロシチュで140字お題 | 2015/11/18
■ 水葬 / フィアキリ
星の間を漂い流れてゆく光の帯を視線が追う。
弔いの儀式は生者のためなのだと、見送って知る。
見覚えのある姿を保って、それ自体が星のように、果てのない空の端を漂い続ける。
逝く者と逝かれた者。引き裂かれた川縁に立ち竦み、届かない手が空回るだけと承知で、伸ばし続ける以外術を知らない。
お題bot*@0daib0t | 2015/11/18
■ 昨日の恋 / フィアキリ
あれは昨日のことだ。暑苦しい緑にむせながら、ひどく速かった鼓動の感触を掌に思い出す。
明後日のことも分からない自分の、遠い過去の昨日。忘れられてしまったのだと思って、忘れるしかないと思った。
見つめ合った瞳の色も触れ合った手も、何もかも忘れるために埋もれる、緑の中の硝煙の匂い。
お題bot*@0daib0t | 2015/11/18
■ あなたの横顔 / ペキリ
見つめて、水彩画がいいと、そう思ったのは、油絵では空色の髪の透ける様が表わし切れないだろうと思ったからだ。
見つめて、浮かぶ言葉の断片を繋ぎ合せて出来上がる詩まがいのそれは、時折光る瞳の色の不思議さに近づけもせず、もたつく唇から漏れるのはため息だけだ。
ペンを持つ手が、ただ震えた。
お題bot*@0daib0t | 2015/11/18
■ 抱きしめたい / シャッキリ
(シャッコの隣に座って10分くらい黙りっぱなしのままコーヒー飲んでたキリコが、聞こえるか聞こえないかくらいの声で「抱き締めてくれ」と呟いたときのシャッコの心情を、と言う話から)
触れ合うことがそれほど珍しくもなくなった今頃、わざわざそんなことを口にするのに驚いて、少しの間考えた。
理由を探ろうとするほどの熱意ではなくても、何かあったのだろうと言う程度のことには思い至って、相手の体に腕を巻くと言う行為に一体どれほどの意味があるのかと考えながら、黙ってその肩へ腕を伸ばした。
輪にしかけた両腕へ、自分から入り込んで来るように体の向きを変えて、こちらへ寄り添って来るのに、不意に胸の奥を突かれたように感じて、気がついたら腕に力が入っている。言われた通り抱きしめているだけだと思う間に指先まで力がこもった。
それが返礼のように、キリコの腕も背中へ回って来る。その腕の輪も少し縮まり、そうして、誰かを抱きしめると言うことは、自分も抱きしめられると言うことだと悟った。
抱きしめられたいよりも、キリコ自身が誰かを抱きしめたかったのかもしれないと、その時思った。
誰にも、そんな時はある。
2015/7/30
■ なんでもない / シャッキリ
ふと気配を感じて見やると、自分とじっと見つめる青い瞳と出会う。
何だと訊くと何でもないと返すくせに、瞳の位置は動かない。
珍しく同じ高さの目線の、距離だけを詰めて、にらみ合うごっこ遊びのように、瞬きもせずにいずれ触れ合う額。
何だと訊かれ何でもないと返して、かすめさせる唇。
お題bot*@0daib0t | 2015/6/4
■ 大空 / シャッキリ
見上げて来るその目の青さに、思わず目を細めた。
真っ暗な谷底からいつも振り仰いでいた空に似た青さの、色の明るさに似ない暗さにも、もうその時魅かれていた。
空のかけらのようだと思った瞳から、けれど連想するのは肌を焦がす強烈な日差しの太陽だった。
果てのない空へ、旅立つとは思わずに
お題bot*@0daib0t | 2015/6/4
■ リング / シャッキリ
夫婦の約束とやらでつける指輪を、幼な子が不思議そうに見る。
おもちゃじゃないからと、ココナが触らせず、大切な人と交換する大事なものなのだと言う説明が、まだ通じるはずもない。
ATの部品を交換し合うのが、さしずめAT乗り同士の約束と言うものかと茶化すつもりで考えて、ふと頬が熱い。
お題bot*@0daib0t | 2015/6/4
■ 視線 / ペキリ
項の辺りへちりちりと当たる視線。ミラーグラス越しの、睨むようでもない見下すようでもない、ただ自分を見つめるだけの視線。
裸の目を見れば、見つめ合うことに耐え切れずに、瞬きの続きの振りで唇を寄せる。
見つめられていた仕返しのように噛みついた項に香るコロンが、前線から遥かに遠い。
お題bot*@0daib0t | 2015/6/4
■ 行為 / ペキリ
これを何と呼ぶ。恋ではなく愛のはずもなく、交わりの先には何もない。皮膚に生まれる熱をただこすり合わせて、交じる汗も乾けば跡形もない。
何も為さず、何も残さず、離れた胸の間にただ冷たい空気が入り込む。
愛のような恋のような、湧いたのは確かにいとおしさだったのに、行き果てる先は地獄。
お題bot*@0daib0t | 2015/6/4
■ 被害者 / リーマン&ペールゼン
手の中であんなにもいとおしんだシガレットケースの、叩き潰してひしゃげた姿を目の端に引っ掛けても、もう動く心もなかった。
献身も忠誠も、何ひとつ届いてはいなかったのだと思った時に、冷え切った心だけが残るくせに、乱れた髪のまま悄然とうなだれたその背を痛々しく見つめずにはいられない。
お題bot*@0daib0t | 2015/6/4
■ 過剰 / バイムザ&キリコ
素っ気無い振りをするくせに、視線はいつも同じ場所にある。投げつける言葉の、殺伐さや皮肉っぽさが、けれど伝えたいのはまるきり逆のことなのだと、常に気遣うような瞳の色にはっきりと表れていた。
伝えることはできない想いの切なさには覚えがある。耐えるために噛んだ唇に浮く、鉄の味にも。
お題bot*@0daib0t | 2015/6/4
■ ふたりぼっち / ザキリ
広い広い宇宙の片隅を眠りながら漂う。
連れはすでに冷たく息絶え、胸に開いた穴から流れる血もとうに終わっている。
自分に当たれと祈った弾は、潰れてひしゃげて、乾いた血にまみれて、さっきまで視界の端に浮かんでいた。
死と背中合わせに眠りながら、望んだのは目覚めではなく、永遠の仮死。
お題bot*@0daib0t | 2015/6/4
■ 灰色 / キリコ
雨に濡れて歩きながら、水の滴る足元へ視線を落とす。水たまりに映る空と同じ色に塗りつぶされた心の、感じる痛みも喜びもない空洞めいたそこへ、雨音が虚しく響いてゆく。
今夜乾いた寝床は得られそうになく、濡れながら眠る夜に続く、また雨の朝。
終わらない一生(たび)の、ただのっぺらぼうの1日。
お題bot*@0daib0t | 2015/6/4
■ 思い出 / ペキリ
もう思い出ですらないと、言わなくてはならなかった。そうしなければ断ち切れない想いだった。
憎悪を通り越して、透明にすら思える自分の気持ちの、行き着く果てすら分からず、殺し殺される果ての、生き果てたように思える歩みがまた、ひとりきりの背に続く。
続く生の見えない果てが、今はただ遠い。
お題bot*@0daib0t | 2015/4/11
■ 小さな / ペキリ
小さな手、小さな体、不似合いに燃え上がる青い瞳から放たれる眼光のたたえる、その巨大な力。
己れの運命の大きさも重さもまだ知らず、怯みもせず前へ出す爪先の、残す足跡の小ささ。
砂漠に残ったそれは吹かれる風に消え、野辺の花の儚さを見せても、見つめる前方に浮かぶ未来は幻ではなかった。
お題bot*@0daib0t | 2015/4/11
■ ただ熱い / ペキリ
炎の嵐が空気を焼き、肺に入り込んで血液を焼く。巡る血管が膨れ上がり、体を内側から焼き焦がしてゆく。
炎の中で青い髪が逆立ち、そして瞳だけが、炎の激しさと赤さにも負けず、尚猛々しい力をたたえてすべてを睨みつけていた。
焼かれる子が、その瞳でこちらを焼き尽くす。ただ熱く、焼き尽くす。
お題bot*@0daib0t | 2015/4/11
■ 溺死 / ペキリ
溺れてゆく。水が肺に満ちるように、明け渡す呼吸の代わりに、恋の苦しさに全身が満ちる。
もがくように伸ばした指先に、触れるそのあたたかさを薄目に透かして、微風に揺れた髪の青さが、笑みのない瞳の昏さには勝てずに、魅かれてしまったのはその陰鬱さだったろうか。
報われずに、溺れる恋。
お題bot*@0daib0t | 2015/4/11
■ 砂時計 / ペキリ
注いだ湯の熱さから顔を背けて、カップの傍らの砂時計を引っくり返す。
大切な人のために、一緒に過ごす午後のために、熱い湯の中で開いて踊る葉を眺めて、穏やかにワイン色に変わるのは、湯の色だけではなく、カップの縁に寄せた唇が笑みにゆるむ様を思い浮かべて、思わず頬も同じ色に染まった。
お題bot*@0daib0t | 2015/4/11
■ 初恋 / ペキリ
空になった紅茶茶碗の、ゆるく波打つ縁に、触れたいと思った。
持ち上げてそこに置いたスプーンの、華奢な柄に触れたいと思った。
紅茶を飲む仕草のひとつびとつを目で追って、ゆるく上下する喉の波打ちから、なぜか目が離せなかった。
滅多と剥き出しにはしないその瞳に、直に映りたいと思った。
お題bot*@0daib0t | 2015/4/11
■ 拳銃 / ペキリ
サングラスを取る。軍帽を脱ぐ。拳銃を取り出して置く。そうしてすっかり無防備になってから、腕が伸びて来る。
どちらもいかにも上質の、コロンと整髪料の香り。体温にぬくもって立ち上がるその匂いの、けれど隠せはしない武器の本性。
すべてを忘れて追い払って、ただ抱き合う、人殺しのふたり。
お題bot*@0daib0t | 2015/4/11
■ 瞬き / ペキリ
吐き出し切れなかった熱のこもるふたつの躯の間で、誘う眠りの忍び寄る気配を感じながら、息の掛かる近さのまま見つめ合う。
腕や脚の絡まった、触れ合ったことのまだ信じられずに、瞬きもせずに互いを見つめている。
瞼の裏の薄闇に浮かぶ幻に成り果てそうな、それが恐ろしくて、眠ることができない
お題bot*@0daib0t | 2015/4/11
■ 置時計 / ペキリ
時計が時を刻む。立ち去る時間に、一刻一刻近づいてゆく。秒針を追って、投げて壊せば時間が止まると、本気で信じた愚に、気づきさえしなかった。
歩みを速める、一緒の時と、引き伸ばされた1秒の永遠のような、離れ離れの間と、時を重ねる平穏さなど望むべくもないと、最初から分かっていたのに。
お題bot*@0daib0t | 2015/4/11
■ 背中 / シャッキリ
抱きしめる背中が、腕の中で汗に滑る。背骨の凹凸を指先に探って、意味もなく数を数えた。
動いて、追い立てられて、揺すられながら反らした喉を裂きかける声を殺し、代わりに立てた歯の、肩口に残す痕の赤さ。
浅黒い膚に浮かぶその色に驚いて、甦る記憶の苦さに声が凍る。背中に冷たく汗が走った。
お題bot*@0daib0t | 2015/4/11
■ ニーチェ / シャッキリ
神は死んだ。
滅せられた神の、従うつもりなどないさまよえる子羊の、瞳が感情を浮かべずにただ青く光る。
神に背を向け、友たちを悼むための姿でひとり歩き出す先には、永らえた命の許された地がある。
赤子の泣く声。それを抱く長い腕。重過ぎる運命(さだめ)と共に、吹き寄せられて集まる肩先に、星明かり。
お題bot*@0daib0t | 2015/4/11
■ 白い / シャッキリ
掌に受けて、生温かさは同じでも、指の間を汚すそれは血とは似ても似つかず、思わず舌先に舐めて確かめた。
命そのままの爆ぜた熱は、混ざり合って互いの皮膚の間で白く乾く。
繋がることはなく、交わることもない、ただ重なるだけの熱の、行き着く先などなくても、腕を巻く互いの存在の確かさ。
お題bot*@0daib0t | 2015/4/11
■ 眠る前 / シャッキリ
躯を近寄せて、皮膚をこすり合わせて、汗と体温を交じり合わせても、皮膚は溶けはしないし、ふたつの体は別々のままだ。
丸い頭を寄せ合って眠っても、見る夢は別々のまま、それでも互いの夢の中へ入り込めるようにと、手足を絡め合うことはやめない。
悪夢すら分け合いたいように、増すいとおしさ。
お題bot*@0daib0t | 2015/4/11
■ 声は途切れて / ペキリ
おれは、と何か言い掛けて、そのまま言葉は消えた。
触れる間近さで見つめて来る青い瞳の、薄闇で煌く様が、告げないそれよりも雄弁に何かを語り掛けて来る。
隙なく整えられた髪に差し入れられる指先の若々しさに、飲み込まれそうになりながら、途切れた言葉を促そうとした唇に、荒っぽく降る接吻。
ペキリへのお題 by 小説用お題ったー | 2015/4/11
■ 死にたいわけじゃない / ペキリ
撃たれた胸の痕が、今では形見のように、あの首にも、締め上げた指の跡は残ったろうか。
憎しみではなく、それでも、断ち切らなければならない何かの横たわる、恐ろしいほど遠くて近いふたりの間に、優しさなど生まれはしなかった。
殺せず、死ねずに、荒んだ終わりの後を、またひとり歩き出す。
ペキリへのお題 by 小説用お題ったー | 2015/4/11
■ 泣き声は届かない / ペキリ
サンサに降る赤い雨が、鉄の棺桶を腐らせる。その雨に紛れて、親を失くした子が泣く。その泣き声の、いかにも幼な子めいて、それでも瞳に浮かぶ憎しみの色の、凄まじい青さが、雨の赤さを一瞬忘れさせた。
炎の中に焼かれ果てることを拒み、燃える青い瞳に、いずれ殺される自分の未来を予感した。
ペキリへのお題 by 小説用お題ったー | 2015/4/11
■ 筋書き通り / シャッキリ
赤子が微笑む。もう抱き上げることをためらわずに、これも恐らく仕掛けられたことだと思いながら、その小さな手を振り払う気にはなれなかった。
大切な人間の数がまた増える。地に足を着ける理由がある。赤子を抱くふた組の腕の、仮の家族のぬくもりは二倍ではなく二乗だと、踏みしめる地に今思い知る。
シャッキリの3つのお題 by 少し切ない3つの恋のお題 | 2015/4/11
■ 背中の爪痕 / シャッキリ
浴びて背中に染みる湯が、流れて傷の在り処を知らせて来る。
抱き寄せられた胸の間で、滑って流れた汗は、乾いてもう跡形もなく、けれど恐らく血の滲む爪跡の、その確かさに、殺した声の深さを思った。
逢わない間を埋める性急さの、痛みは妨げにはならず、増すだけのいとおしさが、今は恐ろしい。
シャッキリの3つのお題 by 少し切ない3つの恋のお題 | 2015/4/11
■ あいた右手、繋げない左手 / シャッキリ
赤ん坊を器用に抱いて、掴まれた指先を生えかけの歯に噛まれ、血の繋がらない父子は無邪気に見つめ合う。
肩越しにそれを覗き込んで、今だけはその両腕を赤子に譲る。赤子と自分と、分け合うことに決めたぬくもりの主の、そこに浮かぶ親の貌。気づかれず見つめて、今は空の手をひとり握り締めた。
シャッキリの3つのお題 by 少し切ない3つの恋のお題 | 2015/4/11
■ 紅茶はすっかり冷めていた。/ ウォペ
温室のあふれる花の香りの中で、紅茶が湯気を立てていた。
潤いのない声が、特異の人の名前を語る。その名を聞くだけで高鳴る胸を抑えられず、シャンパンの泡の消えるかすかな音に、耳をすませる振りをする。
音楽のように彼の名を聞き、彼について語り合う歓びの間に、紅茶はすっかり冷めていた。
【紅茶はすっかり冷めていた。】 で終わる140文字小説 | 2015/1/26
■ 紅茶はすっかり冷めていた。/ ペキリ
(ペキリ、現パラレル? キリコが甘党だったら、と言う話題から)
「ホワイトチョコレートモカフラペチーノのグランデ、追加でキャラメルソースヘーゼルナッツシロップチョコレートチップエキストラホイップのエスプレッソショット一杯」と一気に滑らかに言って、青い瞳はちらとも動かない。
うっかりその声に聞き惚れている間に、せっかく頼んだ紅茶はもう冷めていた
【紅茶はすっかり冷めていた。】 で終わる140文字小説 | 2015/1/26
■ 頬に伝う雫 / ペキリ
逢えない人のことを思う。時には我を忘れて、激情に身を任せたい時もある。
雨の中に立ち尽くして、曇った空の重々しい雲の向こうに姿を隠した陽に、彼の人の姿を重ねて、髪を濡らし額に滴り、頬から唇へ向かって流れてゆく雨粒に紛れて、伝う涙は誰にも見せない。
唇の奥には、雨音が覆う、嗚咽。
140文字で書くお題ったー | 2015/1/26
■ 最初から最後まで / バイムザ
伝えるべき言葉を、聞きもせずに目を閉じる。後でと言ったのに、それは果たされないままだった。
抱きしめて、束の間の別れを惜しむ間さえ許されず、最後の唯一の目的を果たしに、ひとり背を向けて走り出す。
大事な言葉を掴み損ねて来た、今は鉛色の右手にあるのは、さっき触れた最期のぬくもり。
140文字で書くお題ったー | 2015/1/26
■ 頑なに拒む両手 / カンポタ
共にゆこうと誓ったはずの、その道は別たれてしまった。
想うことと信じること、重ならないそれをもう見過ごすことはできず、変わらない想いだけは抱えたまま、ゆくのは右と左の道。
固い肩の線だけを晒して歩き出す。先で再び交わるまで、ひとりきり歩き続けるのだと、拳を握り締めて誓った。
140文字で書くお題ったー | 2015/1/26
■ 句読点の少ない台詞、または語り / キリコ
生きることと喪うことのまったく同じになってしまったこの30年間に変わったことと言えば人々の顔に倦怠の色の多少は失せたことだろうかと思いながら自分自身のそれにはいつも倦んだ色を思い浮かべてしまうのが変わらないのは一体どうしたことだろうと相変わらずうつむき加減にひとり歩き続けている。
2015/1/26
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