冬の交わり
* 即興小説 / 制限時間30分 / 1825字 *
毛布にくるまりながら、もう肌に粟が立っていた。二の腕を、大きくて厚い掌がこすり上げて来る。キリコは、お返しにシャッコの首筋へ掌を当てようとして、自分の手が冷たいだろうことに気づき、ためらったふた拍の間に、シャッコが躯を近寄せて来て、寒いと言う前に唇がかぶさって来る。
毛布を頭までかぶると、シャッコの足が下から出た。それを探って、キリコも冷たい空気に素足の爪先を晒し、躯を交える前にいつも感じずにはいられない照れを、そうやってごまかそうとする。
毛布にくるまれてできた薄闇の中で、互いの息に触れるうちに、そこでだけ空気があたたまり、互いの膚の冷たさも気にならなくなると、ふたりはもう少し大胆に、皮膚の柔らかな部分へ指先を伸ばした。
肌をこすり合わせて、それから、キリコは少しずつ体の位置をずらして、毛布の中へ手足もすべて引き寄せてしまうと、シャッコの長い脚の、膝の辺りへ掌を乗せ、そこから腿の内側へ指先を滑らせて行った。
顔を伏せ、這い上がるように、そうして触れる頃にはもう勃ち上がったそれが、目の前にある。張りつめた輪郭の、かすかに慄えているようにも見えるのは、キリコの舌と喉の奥の熱さと湿りを期待しているせいかと、思いながら、わずかに尖らせた唇の先でくるんだ歯列を軽く当てた。
毛布の中で、シャッコの顔は見えない。シャッコにはキリコが見えない。互いに、触れるその感覚だけで、後は呼吸の熱さを頼りに、先を急ぎ過ぎずに、キリコは唇を開いて、それを浅く飲み込んだ。
そうする時に、血の色の上がった頬と首筋の、それだけではなく、青い瞳が必ず熱っぽく潤んでいるのを、キリコ自身は知らない。
シャッコのそれを、近々と眺めて、意外なその形の美しさに時折息を飲むことがあるのを、もちろんシャッコには知らせない。
片手に扱うのには少々骨の折れるそれを、今は喉の奥いっぱいに食んで、キリコは精一杯舌を伸ばしていた。
唾液に濡れるうちに、それだけではなくなって、舌のどこかに感じる苦味が、今ではなければ物足りなくなっている。一度口から外して、わざと伸ばして残した舌の先に、唾液が細く糸を引いて、自分がこんなことを、望んでしていることにいまだ信じられない思いを抱きながら、キリコはまた熱っぽくそれに目を凝らしてから、唇を再び元の位置へ戻した。
シャッコが、胸と喉を伸ばしたのが分かる。上目に見るみぞおちの、筋肉の形がはっきりと現われるのに、シャッコの好むように舌を使って、少しだけ先を促す。促して、そしてすぐに引く。
開いた喉の奥へ当たるそれが、吐き気の手前へキリコを誘うけれど、それは決して不快ではなく、ごつごつと頬の裏側を打つ時には、不思議としびれるように、背骨の根の辺りがささやかに疼いた。
シャッコと同じように、キリコのそれも今は勃ち上がって、けれど自分でそれに触れることはせず、シャッコにもまだ知らせもせず触れさせもせず、どうと言う目的もなくただ放っておいて、今は目の前の、シャッコのそれにだけ神経を集中させていた。
毛布の外の空気の冷たさは、もうここへは届かない。どこか、亜熱帯の湿った空気を思い出させる、けだるげな気温が、今はふたりの体を十分に温めて、キリコの口の中の熱さに、そろそろシャッコも限界だった。
シャッコの手が伸びて来て、穏やかにキリコの頬とあごを撫で、それから唇を外させる。そこで果てることもできた──キリコはそれを拒まない──けれど、それよりはもう少し別のやり方でと、今はすでに汗に湿るキリコの躯を引き上げ、自分の下へ敷き込んで、シャッコはキリコの両膝の間へ自分の躯を滑り込ませて行った。
キリコが、促されるまま、平たく躯を開く。シャッコの腿へ手を添えて、引き寄せさえしながら、躯の繋がる数瞬だけは、息を止めて痛みを予想して、それでも、今では柔らかく押し開かれる躯の、むしろ受け入れながら引きずり込む自分の、その動きをキリコ自身は知る由もない。
下腹が重なり、胸が重なり、揃わない肩の位置が、それでも動きにつれ時々きれいに揃い、ふたりを覆っていた毛布は、いつの間にかずり落ちて、ふたりはもう冬の冷気など感じてはいない。
汗の吹き出す躯の、重なる間に忍び込む空気すらない、ふたりはまるでひとつのように、繋げた躯の奥で、混ぜる熱の爆ぜるまで、知らず息も重ねていた。
ここで、今だけは、冬は終わっていた。