Endlessly
背中から繋がって来て、押し当てられていたそれが、やっと入り込んで来る。どれだけ馴染んでも、喉元へせり上がって来る衝撃に近いその満たされ方に慣れることはなく、ぴたりと貼りあわせたような背中と胸よりも近く、粘膜が絡み合っている。
躯の中から、きしむ音がして、それが耳に届くよりも早く体は受け入れる姿勢を取って、それはただ少しでも楽になりたいと言う気持ちの表れだけれど、それだけではなく、躯を近寄せることが気持ちがいいからだと、キリコは喘ぐ声を殺し切れない合間に、空白になる頭の片隅で考えていた。
シャッコは、大きな体でキリコを押し潰さないように、それでも背や肩が重なれば硬い骨がこすれて痛む。重みが移動しながら、ところどころに軽く衝撃を残してゆく。
体の内側も外側も、自分のものではない肉体がこれ以上ないほど存在を主張して、自分をすべて飲み込むようなその大きさにけれど恐怖はなく、皮膚の上で混じり合う汗と一緒に、そこから自分と一体になってゆくような、押し込まれるたびに増える脳の空白の中心で、キリコはこれが誰で何かを忘れないために、喘ぐ声と一緒にシャッコの名を呼び続けていた。
声のほとんどは舌の上で消えた。喉から漏れるのはひび割れた、ごく軽い悲鳴だ。キリコ自身もそれだけ聞かされれば、苦痛の声と理解しそうな、今ではシャッコだけが聞き分けられる、キリコのその声だった。
躯に触れていれば、どちらの声か分かるのだろう。自分で強引に指を差し入れても届かない辺りに、シャッコが触れている。何度も何度もこすり上げられて、粘膜の滑る摩擦で生まれる熱が、シャッコにもっと──奥へ──注いでくれと煽る。キリコは、自分の躯がシャッコの動きにそんな風に応えているとは知らない。知れるはずもない。
筋肉の狭い入り口が、シャッコを受け入れて、けれど先を引き伸ばすようにそれの根元を締めつける。締めつけるうねりは内側へ移り、また戻って来る。
隙間もないようにシャッコを包み込んで、逃さずに、キリコが奥へ奥へと誘い込むのに、シャッコは息を短くして耐えながら、いつの間にかキリコの腰を、高く上げさせる形に、自分の方へ引き寄せていた。
正面から繋がっている時は、浅くした途端に、キリコの方が追いすがって来る。下から腰が揺れて、足首がシャッコの背中を蹴るように動きながら、上体が波打つようにうねる。それを下目に眺めて、それだけでもう果てそうになる。
背中が反る眺めは、そこまでは扇情的ではなく、それでも肩越しに時々見える横顔の、半開きの唇の間から舌先がちらちらと出入りするのが、別の感覚を思い出させて、結局勝てずに、シャッコはその唇へ自分の指を差し出してゆく。
熱く濡れた舌が、すぐに指の半ばまで絡みついて来る。まるでそれが指と言うだけではないように、横目にシャッコを見て、キリコは喉の奥を開いて、シャッコの長い指を丹念に舐めた。
濡れた音が聞こえるのは口元からだったけれど、キリコの内側も湿った音を立てていて、それはキリコの脳に背骨を伝わって直に響き、シャッコへは皮膚と粘膜を通して、血管の中で轟音に変わりつつあった。
熱が膨れ上がる。どれだけ締めつけられて引き止められても、もうそこへとどまることはできず、そろそろいいかと、指先の間にキリコの舌を引き出して、今は近々と寄った背中と胸をぴたりと合わせて、耳の傍で訊く。
舌を取られて、答えられるはずはない。けれど躯が、まだ、とすぐに伝えて来た。
これだけ貪ってまだ足りないのかと、呆れる気持ちが湧くのを内心の苦笑いに変えて、血管を直に舐め上げられたような気分になりながら、シャッコはキリコ──の躯──を黙らせるために、唇から指を引き抜き、体を再び起こしてまた腰へ両手を添えた。
傷めないように気は使って、最奥へ押し入る。浅く引いて、また押し込む。背骨の根へ打ちつけるように、シャッコはキリコを揺さぶった。
舌の上で消えていた声が、今ははっきりと漏れ出て、シーツを噛んでそれを殺す間も与えられず、キリコは叫び続けた。
悲鳴に聞こえても、それはシャッコを止める響きではなく、むしろそうされてもまだ奥へ引き入れるように、キリコの躯はシャッコに合わせて動いていた。
底なしにシャッコを求めて、躯の奥深くへ迎え入れても、さらにその奥があるとでも言うように、文字通りの意味で貪れるなら骨までしゃぶり尽くしそうに、声と一緒に舌が唇の間を出入りする。同じ律動で、シャッコがキリコの中へ出入りする。
シーツに押しつけられ、こすられている膝が、火傷を起こしかけている。その痛みすら、今は知覚の優先度は低く、脳に蜜色の靄を掛けて、キリコは何度も何度も喉を上下させた。
そろそろだと、果てる瞬間を感じ取ったシャッコから、それがキリコにも通じたのかどうか、キリコは不意に伏せていた上体を起こして、腹からねじった。
不自然な姿勢に、キリコの内側も軽くねじれて、シャッコはまた果てる先からわずかに遠ざかる。
そのまま上げた腕を、シャッコの首へ前から回すと、キリコはシャッコの胸に自分の背中を寄せて、わざとシャッコとは違うリズムで軽く動く。
片腕でキリコを支え、シャッコは大きく息を吐き出してから、キリコに合わせた動きに変えた。
キリコが導く。シャッコがそれに従う。半ば膝立ちで躯を繋げた形に、密着した皮膚がこすれ合って、キリコに誘われながら、シャッコはようやく終着点へたどり着く。
最奥へ果てて、熱が粘膜にまとわりつく。実るはずのない、交接のあかし。それはいずれ流れ出てキリコの腿へ滴るけれど、今はまだそこへとどまって、キリコ自身の上がった体温にさらにぬくめられていた。
また荒い息に背中を波打たせているキリコへ、半分だけ重なって体を横たえながら、シャッコはまだ名残り惜しげにキリコに触れ続けている。
もっとと、さっき言ったのはキリコだったのに、今はシャッコがもう少しと言って、キリコはシャッコの長い腕を引き寄せて、自分からその輪の中へ収まりながら、体を返してシャッコのあごへ額をこすりつけた。
顔の位置がずれて、唇がこすれる。また熱い舌の先と唇の裏が触れ合って、終わったばかりと言うことも忘れて、腕が互いの体の上で動き続けていた。
キリコはシャッコの上に乗り、腰をまたいで、汗に湿ったままの内腿の間で、シャッコのそれをこすり上げる。
首筋のまだらの赤が頬も染めて、無理矢理に喉を伸ばして、キリコはシャッコの唇を塞ぎに掛かる。唇の内側で舌先が触れ合った時、キリコの中からぬるりと、シャッコの吐き出した熱の残りが流れ出て、元来た場所へ戻るのだとでも言いたげに、再び勃ち上がり掛けているシャッコのそれへ滴り落ちた。
ぬめりの助けを借りて、躯が滑る。滑って、キリコの狭く秘められた場所へこすりつけて、わざとそれ以上は先へ進まない。
キリコが手を添え、上から繋がろうとするのをさり気なく避けて、自分が欲しいのを抑えながら、シャッコはキリコが言うのを待った。
欲しいと、唇が形を作り、音が声になってそれを表すまで──自分の意地の悪さに驚きながら、どちらがより欲しがっているのかキリコにはっきりと思い知らせたくて、それはつまり、シャッコ自身が欲しがっているのだと言うことを隠したいだけだとは気づかずに、シャッコはキリコを焦らして促し続けた。
シャッコ、とキリコの声がかすれる。そして、来てくれ、と低めた声が確かに続いた。
いつか聞いたことがある。まったく同じ言い方を、違う響きで聞いたことがある。
頭の隅で記憶をたどりながら、シャッコは体を起こしてキリコを抱きしめた。
たった今聞いたキリコの声を、脳の別の場所へ刻み込んで、また同じ場所へ同じ熱を注ぎ込むために、シャッコはゆっくりとキリコを自分の下へ組み敷いて行った。