限界Lovers - 青へ
「向こうの部屋に行こう。」ペールゼンがすでに出されていた紅茶を手に、やって来たばかりのキリコの背を押す。
書斎から玄関の方へ戻って、そこはごく親しい人間だけを招き入れる、小さな応接室だった。
いかにもくつろいだ風のソファに、無雑作に置かれた揃いの椅子、大きさの違うテーブルが2、3、そして右手に長いその部屋の奥には、ただの飾りのように、大きなピアノが置かれている。
この部屋には何度か入っているけれど、いつもドアの傍の椅子へ腰掛けて、それ以上動き回ったことはない。
3人掛けの、ざらりとした手触りのぶ厚い布地のソファは、キリコとペールゼンが一緒に腰を下ろしても、ぎしりとも音を立てない。
キリコが来ている時には一切誰も近づきはしないこのペールゼンの私邸内で、ふたりが立てる音は、一切聞こえないことになっているようだった。
ここへ来いと、わざわざ黒塗りの車──将校が運転手つきで乗る、防弾仕様のやつだ──を差し向けて、そうされてさすがに耐圧服で出掛けるには気が引けて、渋々引っ張り出して来たレッドショルダーの制服姿を、ペールゼンはちょっと感心したように眺めていた。
前髪のきちんとたくし込まれたキリコのベレー帽の角度を、妙に楽しげに自分の気に入るように直して、そうするペールゼンは完全にくつろぎ切った普段着だ。
整髪料の香りも今日はやや淡く、シャツの襟のボタンも上からふたつ外れている。
自分たちに支給される寒冷地用のセーターの重さと硬さを思い出しながら、ペールゼンの今着ているベージュのセーターは、さぞかし薄くて軽いのだろうと、ややあらわになっている首筋から視線をそらしながら、キリコは考えている。
ミラーグラスもない。自分を真っ直ぐ見つめるペールゼンの、ややオレンジみの強い濃い金色の瞳の、自分を眺める時にはひどく若々しく輝くのが、今ははっきりと見える。この色を知っているのは自分だけだろうと、キリコは自惚れるわけではなく思った。
ベレー帽と手袋を、いつ外そうかとタイミングを計りながら、キリコはまだ自分にはっきりとは触れて来ないペールゼンに少し焦れて、そのつもりなら自分もと、ペールゼンから距離を取るために部屋の奥へ体の向きを変える。
特に興味もないピアノへ、いかにも物珍しそうな表情を片頬へ浮かべて、キリコは手袋のままの手を伸ばしながら近づいた。
「──弾けるのか?」
音楽が好きなのは知っている。けれど楽器をたしなむと言うことは聞いたことがない。これはペールゼンの持ち物なのかどうか、探るようにキリコは遠回りに訊く。
「昔・・・子どもの頃に習ったが・・・それきりだ。それは私の祖母の物だ。」
ペールゼンが、懐かしげな声音を隠さずに答えた。ピアノの傍へ立ってこちらに向いているキリコの背を、普段の彼を知る者なら絶対に信じられないほど穏やかな表情で見つめる。キリコにはそれは見えず、だからこそペールゼンは安心して、キリコへひたすらいとおしげに目を凝らしていた。
どっしりと部屋の中へ据えられ、音を出す楽器だと言うのに、つややかに黒光りする外見からは静謐と言う印象しか浮かばず、キリコは恐る恐ると言う風にそっと手を伸ばし、曇りのひと筋も見当たらないその表面へかすかに触れる。
楽器にも音楽にも縁も興味もないキリコは、それでもこれがペールゼンの持ち物だと思うと、奇妙な親しみ──一種の、同類のような──が湧いて、音を出してみたいとふと思った。
「どうやって弾くんだ。」
自分を振り返ったキリコへ向かって、ペールゼンはようやく腰を上げ、よく磨かれた床を滑るようにやって来てキリコの背中へ張りつくように立った。
後ろから腕を伸ばして蓋を開ける。まぶしいほどの純白の鍵盤が現れ、そのひとつを、ペールゼンの指先が押し下げた。
ぽーんと、深い柔らかない音が響く。部屋の中へ円く広がり、音の縁は輪郭をぼやかせて、次第に消えてゆく。音の広がりをまるで追うように、キリコは天井へ軽く上向いた。
そのキリコの動きを、ペールゼンの唇が追って来る。指先は鍵盤を押し下げたまま、片腕でキリコを抱き寄せ、その掌へキリコの手が重なるのに目を細めて、その続きのように、ふたりは同時に目を閉じた。
口づけの間に、ペールゼンの指先は鍵盤の上をゆっくりと動き、まろやかな音を幾つか出して、時折掌いっぱいに音を重ねて、片手で出せる音階には限度があったけれど、どのみち今は曲など弾ける状態ではない。
ペールゼンが弾きたいのはピアノではなく、キリコの方だった。
正面から抱き合って、体を回したキリコの腰が鍵盤へ当たる。騒々しい不協和音に一瞬だけ口づけが途切れて、その後はまるでわざとのようにピアノへ体をぶつけて、キリコの掌と腰が、耳に突き刺さる高音を出し、ペールゼンの触れる辺りはそれよりは1オクターブ低い。
奇妙な連弾は、重なる呼吸と一緒に次第にリズムを合わせて、けれどずるりと足元を崩したキリコの、慌てて伸ばした腕が譜面台を叩いた音で不意に終わりを告げ、そこに置かれていた譜面の、ばさばさと床に落ちる音で再開した。
すまないと、ペールゼンの腕の中で崩れた姿勢を元に戻しながら、自分の失態をキリコが素直に詫びる。
散らばった譜面を踏みつけるのを気にして、ペールゼンから一度体を離し、キリコは床へしゃがみ込んだ。
やや黄ばみ始めた紙は指先にざらりと触れ、かき集めるそれはキリコには辺境の星の言葉以上に馴染みのない音符にまみれて、理解はできなくても物珍しさが先に立って、キリコは思わずそれをまじまじと見つめていた。
そして1枚、裏返った譜面の白紙のそこへ、音符ではなく手書きの文字を見つけて、キリコは音符を読もうとしていた続きで、それをぼそぼそと声に出して読んでしまった。
「渡るそよ風の、寂しく吹き通る野に一輪──」
立ったまま、苦笑と共にキリコを見下ろしていたペールゼンが、突然慌てた風にキリコの傍へしゃがみ込んで来る。
「──淋しげな様子はなく立つ花の、空の色を写して揺れる花びら・・・。」
キリコがさらに読み続けていると、ペールゼンはそれを取り上げようと紙の端を引っ張って来る。普段のこの男に似ない、ひどく子どもっぽい所作だった。
紙越しに、ふたりは目元だけで見つめ合った。目線の高さは同じなのに、キリコのすくい上げるような視線と、ペールゼンの思わず伏せた視線と、ぶつかった瞬間に、頬を染めたのはペールゼンの方だった。
「──おまえが、書いたのか。」
やや書き殴った風の、それでも読むのに苦労はない十分に美しい字には、見覚えがあった。書類で見る字とは少し違っても、文字の終わりの流れ方や跳ね方は同じだ。
少なくとも字はペールゼンのもので、けれどこの詩らしいものもそうなのかどうか、キリコは続きを平たい声で読んで、それを確かめようとした。
「仰向いて、降り落ちた空の破片のように、底のない蒼さが光を集める小さな花の──」
「やめてくれ、頼む。」
キリコの声を遮って、ペールゼンが首を振った。
本気で照れている。恥じらうペールゼンなど、誰が見たことがあるだろう。キリコは言われた通り手元から一応は視線を外し、代わりにじっとペールゼンを見た。
ペールゼンはキリコを見ないように、慎重に視線をずらし、キリコの手から紙の束を取り上げる。残りの譜面を拾う仕草で伏せた顔を隠し、キリコの読んでいた紙は半ばへ混ぜてもうどれか分からないようにした。
立ち上がって譜面台へ譜面を戻すペールゼンを、キリコはまるで不貞腐れたように床に坐り込んで見上げ、頬を染めたまま自分を見ようとしないペールゼンの、斜め下からの横顔へじっと視線を当てている。
詩になど興味はない。けれどペールゼンが書いたものなら話は別だ。この男が、一体どんな風な言葉を選んで、どんな風に自分の内側の世界を綴るのか、知りたいとキリコは思う。
実際的なことしか口にはしないペールゼンの、使う言葉は常に研ぎ澄まされて冷たく、考え抜いた末の言葉数の少なさとその言葉の確かさと、この男が足元で風に揺れる雑草の花に目を奪われる様など、キリコには想像もできなかった。
キリコはゆっくりと立ち上がり、まだ赤いペールゼンの頬へ手を伸ばした。体温よりはやや温度の低い、触れればかすかに冷たく感じられる手袋の指先が当たると、ペールゼンはぴくりとまぶたを震わせ、意外に長いまつ毛の陰で金色の瞳に、青い光が一瞬差したのが見えた。
「おまえが、書いたのか──?」
今はペールゼンの背中へ隠されてしまった譜面台の、紙の束へちらりと目をやり、キリコは確固とした口調で再び訊く。ペールゼンはあごを胸元へ引きつけながらキリコへ振り向き、
「──ただの、きまぐれの、書き散らしだ。」
この男がどれほど有能か、最初の一音で辺りを圧して示す声が、今はわずかに震えを帯びている。
キリコは、その声の震えに向かって思わず目を細め、自分の胸の内の、言葉にならないあれこれへ思いを巡らす。もしペールゼンがそうしたように、思いつける言葉たちがあるなら、自分も同じように勝手に滑るペンの先へ向かって、時々堰を切ったように溢れ出す想いを滴らせることができたろうか。滴らせ、目に見える形に表して、そうして、自分の表したものに驚くのだ。
何かふわふわとしてとらえどころのない、そんなものに形を与える術をキリコは持たず、ペールゼンの紡いだ言葉の意外な稚々(わかわか)しさと無垢さに、キリコはまるで自分の胸を切り裂かれその中身を取り出されたように、自分は確かにこの男に恋をしていて、この男も自分に恋しているのだと、痛みと一緒に思い知っている。
言葉は、武器ではない。ふたりが手にするのはほんものの、使えば人を殺せる武器だ。そして今ふたりは空手で、腕の中に互いを抱いている。
寡黙さと、言葉を知らないことは、決して同義ではない。知っていてい口には出さないペールゼンと、そもそも言葉を持たないキリコと、色も形もない想いを伝え合う術は互いに触れることを許すことだった。
ペールゼンの綴った言葉を、ペールゼンを愛しいと思うほどいとおしいと思って、キリコはこの男は恐らく自分に対しても同じような言葉を、胸の中でだけは使うのだろうと、そう思った。思って、その言葉を聞き取るために、自分から唇を近づけて行った。
制服の上から、ペールゼンがキリコに触れて来る。上向いて後ろへずれたベレー帽が、とんとんと軽い音を立てて、絨毯の上に落ちて転がった。やや乱れた青い髪へペールゼンは爪のきれいに整えられた長い指を差し入れ、今はふたりとも頬が赤い。
「・・・脱がせるのが、惜しい。」
唇の外れた一瞬に、喘ぐようにペールゼンがつぶやいた。
ベルトに手を掛けて、結局外しはしないままその手はキリコの腕へ向かい、手袋だけは外させて、ペールゼンはキリコの指先を握りしめた。
ピアノを弾き、詩を書くペールゼンの手が、兵士であるキリコの、何度も血にまみれ、死んでゆく仲間を抱いたその手を、静かな情熱をこめて握る。
ATの脚を取る泥沼も、体温を奪う冷たい雨も、積み重なる死体の山も、硝煙の匂いも、ここには届かない。せいぜいが将校たちの吸う葉巻と彼らの使う香料と、ペールゼンの身辺に漂うそれらを遠くに思い出しながら、キリコはペールゼンの柔らかなセーターの下へ、もう一方の手を滑り込ませた。
ピアノから少し離れた床へ、転がるように横たわる。上と下と、体の位置を何度か入れ替えるうちに、キリコのブーツの先がピアノの脚を蹴った。低い、縁の円い音が響いて、驚いたキリコが自分の上で一瞬動きを止めた隙に、ペールゼンは素早く高い襟をくつろげてそこへ指先を忍び込ませる。
「・・・脱がせるのが、惜しいんじゃなかったのか。」
「惜しいが、仕方がない。」
指の動きを止め、ペールゼンはキリコの制服姿をそのまままじまじと見つめた。特殊部隊として、それにふさわしい制服をと思った時に、キリコのことを真っ先に思い浮かべ、キリコに──だけ──似合うようにとそれしか頭になかったことは、キリコにすら告げられないペールゼンの奇妙に可愛らしい秘密だった。
キリコ自身が、ペールゼンの秘密だ。頬をなぶる風にも、ブーツの先に避けた草花にも、夜空の星にも、すべてにキリコを見、そしてそれを誰にも悟らせないペールゼンだった。
あんな詩まがいを自分で書き散らすほど、ペールゼンはキリコに心奪われ、挙句キリコにそれを見られてしまったら、自分は恐らく羞恥で死んでしまうと、自分の上へ身を伏せるキリコを下の方へ導きながら、ペールゼンは考える。
老いを刻み始めた体をキリコの前に晒すよりも、頭の片隅へ詰め込んだキリコへの想いを露わにされる方が、ペールゼンにとっては恐ろしかった。一体どこに隠れていたのか、少年のままのような心の弾みが、キリコへ向かって溢れてゆくのを止められない。自分は恋をしているのだと、自覚するのはひどく痛みを伴うものだ。
始まってしまった恋はいつか終わる。その終わりを恐怖して、ペールゼンは自分の秘めた想いを、どこかへ吐き出さずにはいられなかった。
ペールゼンが手に入れたいと願ったキリコは、ペールゼンをまるごと手に入れてしまっている。キリコはそれに気づいてはいない。ペールゼンがその足元へ伏せ、泥まみれのその爪先をかき抱き、どれほど不様に愛されることを切望しているか、キリコは知らない。
知らなくていい。あまりに惨めな自分の姿へ、その惨めさゆえにペールゼンは半ば酔ったように、自分の首筋を踏みつけるキリコの足裏の感触をはっきりと現実のように思い浮かべて、顔を伏せ唇を使うキリコを下目に盗み見た。
青い髪がペールゼンの上へ散る。薄赤い頬を寄せて、濡れた舌を絡みつかせるようにして、そそるようにペールゼンの手を取って制服をはだけさせるのを手伝わせた後で、上から躯を繋げに来る。
いつの間にそんなことを覚えたのか、焦らすように浅く腰を使い、ペールゼンが先を促すのを数度受け流してから、やっとゆっくりと全身を沈めて来て、馴染む粘膜の摩擦と圧迫でペールゼンを追い詰めようとする。
そこから先は、ペールゼンの方が少しだけ上手(うわて)だった。
わざとキリコのリズムを無視して、好き勝手に動いているように見せ掛けて、キリコが焦れるのを下から眺めて愉しんでいる。はだけた制服の裾が体にまつわりつき、ペールゼンの腹も時折撫でてゆく。その刺激すら耐え難いのか、キリコはもう声を殺す余裕もなく、真っ直ぐ伸ばした喉を何度か裂いた。
その声の何度目か、キリコは熱に浮かされて体のバランスを失い、よろりと傾いた上体をペールゼンが急いで支えようとするより先に、キリコが咄嗟に伸ばした腕がピアノへ触れた。何かを掴もうとした指先がそこにあった鍵盤を叩き、高音の不協和音が天井に突き立つ。調子の外れた音は、それでも円やかなまま、それ自体の美しさは決して失わずに、曲のなり損ねの即興の一節が、もう一度キリコの指先で奏でられた。
ペールゼンはキリコの体を支え、入り込んだ奥で、今度はキリコと呼吸を合わせて熱を重ねる。音はない、律動だけの即興曲が、そこから予想通りに展開しながら、それでも時折思い掛けないフレーズを生んで、快の戸惑いをふたりにもたらす。
キリコが鳴る。奏でるのはペールゼンだ。そしてペールゼンもキリコの手でかき鳴らされ、情熱が実際の熱に変えながら、ふたりの即興の演奏は延々と続いた。
自分の上で躯を揺するキリコを見上げ、ペールゼンは汗に湿る青い髪から目が離せない。自分を射殺(いころ)しそうな瞳の青さにも目を奪われ、キリコがまるで稀少な花のように、自分はその花の根の下ろす地面のように、自分の与える命がキリコを生かして、生き延びるチャンスを増やすだろうかと、次第に動きを激しくするキリコに翻弄されるのを、もうとどめる気もなく、全身をキリコへ向かって投げ掛けた。
最後のクレッシェンドが、同じ高さで伸び続けた。音程の確かさに、キリコの生命力の、自分など及びもつかない靭さをそこに見て、自分の命など必要としていないキリコの若さへ、嫉妬や羨望は感じずに、ペールゼンの胸に湧いたのはただ純粋な歓びだった。
キリコは、ただ前を向いて歩き続けるだろう。キリコを失うことを恐怖しながら、けれどペールゼンは、キリコが自分を喪って苦しむのだと言うことをなぜか考えもしなかった。そうして苦しむキリコの姿を、自分が見ることはないのだと知っているせいかもしれない。
キリコは生き続けるだろう。ひとりきりで。自分の後に、今こうしているように、他の誰かの手で触られ、鳴らされるのかもしれない。今とは違う音を立てて、奏でられながら、それでも自分を、自分と一緒に出した音を思い出すだろうかと、ペールゼンは熱に半ば融けた脳の片隅で考え続けた。
キリコが、荒げた息のままペールゼンの上へ倒れこんで来る。制服をまとわりつかせた体を抱き止めて、ペールゼンはキリコの髪へ唇を寄せる。ざりっと、唇の間で青い髪を噛み、その色が自分の唇へ移るように思えて、キリコの青へ、いずれ自分の全身が染まるのだと、埒もない空想へひと時ひたる。
キリコの鼓動を感じながら、譜面の裏へ書き殴った詩もどきへ、間遠な瞬きと同じゆるやかさで、架空の文字を加えて行った。
"空から分かたれたその青さ"
首をねじって窓の方を見た。残念ながら、もう空から青は失せている。またキリコの髪へ視線を戻し、ペールゼンはその髪を撫でた。
"果てのない青の深さへ溺れてゆく
溺れ果てて、青に染まる"
言葉を連ねながら、ペールゼンは視界を青く染めたままにした。
キリコが大きく息を吐く。その息で、部屋の空気すら青みを帯びたように見えた。
キリコの手がペールゼンの右肩に掛かり、そこから体を支えて、ねぎらいの口づけをねだる仕草で顔を近づけて来る。
レッドショルダーのATの赤い肩も右だと、思い出してペールゼンの瞳が翳る。けれどキリコは気づかずに、熱を浮かせた瞳をただ青く光らせて、そこにペールゼンを小さく映して閉じ込めた。
"そして血も青く染まる"
思いついた言葉の最後へ、弾けるようなピリオドを打って、まるで怯えたように先に目を閉じたペールゼンの瞳に、キリコは映り損ねたままだった。