羽癒し編TIPS「綿流し祭のその後」
「これはこれは入江先生。ようこそおいでくださいました!」
大石は室内に入ってきた入江を招き入れると、入江は途端に渋い顔つきをした。
ここは興宮にある病院である。雛見沢にある病院よりも大きく、設備も大分整っている。
「大石さん、事件ですか?」
入江が訊ねると大石は友好的な顔つきから瞬時に仕事の顔つきになる。
「ええ、そうです。全身を焼かれて手、足、胴体を鉈か何かで潰されてます。
ホトケの身元などを調べた結果――――後原ひかりさんだと言うことがわかりました」
「なんですって・・・・・・?」
入江が死体を覆っていたシートの顔の部分だけめくった瞬間、驚愕に目を見開いた。
大石の台詞と、今自分が見ている遺体とを比べて、唸るような表情をする。
「本当に彼女なんですか?」
焼死体と言うのは普通の死体と違って身元の判別が難しい。
勿論、警察も歯型を調べての結果だろう。しかし、それでも入江は納得出来ないでいた。
「ええ。ホトケさんは間違い無く、後原ひかりさんです。歯型も一致しました。」
「・・・・・・・・・・・・・・・なんてことだ」
大石は今まで死体を目にして来た入江を見てきたが、ここまでショックを受けている彼を見るのは初めてだった。
「お知り合いでしたか、彼女と?」
「雛見沢の診療所で診察に来たんですよ。その時に知り合いました。礼儀正しくて良い子でしたよ。
――――けど、彼女はある病気を患っていたんです」
「ある病気ですか?」
「ええ、”感染性心内膜炎”と言う病です。彼女の治療のためにここの病院に預けたのですが・・・どうしてこんなことに」
病院内の個室が途端に静かになった。
「そう言えば、彼女の兄はどうしてます?」
入江は思い出したように、そして沈黙を破るかのように大石に訊ねた。妹が死んだことは警察か誰かから聞かされている筈なのだ。
「それがですな・・・・・・ホトケの兄・・・ああ、血は繋がってませんがね。後原浩二さんは綿流しの晩から行方不明なんですわ」
「なんですって?」
入江の表情がより一層険しくなる。
「綿流しの時は前原さんや園崎さんらと一緒にいる姿がも目撃されています。それが最後ですなぁ。勿論、ホトケである妹さんも一緒に。つまり、皆と別れたあ
とすぐに失踪したことになる」
「しかし、それはおかしくありませんか? それならどうしてその時一緒にいたひかりさんが、病院内で死んでいるのか」
「お兄さんと途中で別れ、妹さんはそのまま病院に戻った。その時にお兄さんは失踪し、妹さんは殺されたと考えるのが妥当でしょうな」
「なるほど・・・しかし、何故病院内で焼死体が・・・。しかし部屋は全く燃えていない・・・・・・」
「んんん・・・犯人は恐らくホトケをどこかで殺害した後死体を燃やし、ここに運んだってところですかねぇ。どーしてそんなまどろっこしいことするのかは謎
ですが。んっふっふっふ!」
「確かに妙ですね。しかし、綿流しの晩にこのようなことが・・・・・・」
「まるで、『オヤシロ様の崇り』ですなぁ」
大石が冗談混じりで言ったその言葉に、入江は苦笑するしか無かった。
「大石さん、私自身、もう一度遺体を調べてみます。偽装された死体と言う可能性もありますから」
入江がそう口にするも、大石は特に止める気は無かった。
「ええ、別に構いません。しかし、そちら側で結果が出るまで死体はあくまで『後原ひかりさん』として置きます。問題ありませんね?」
「仕方無いでしょう。ええ、構いません」
入江は静かにそう言うと、遺体となった「後原ひかり」らしき人物を見つめた。