俺の気持ち(非エロ)
野立信次郎×大澤絵里子


参事官室のソファで野立と絵里子は2週間後に東京で開かれる国際会議の警備について打ち合わせをしていた。
それが一段落したところで時計をみると21時前だ。

「うわ、もうこんな時間。いつものバーで飲んで帰ろっかな。でもあんたは今日も来ないんでしょ?」

と絵里子は野立に言う。
ここ3週間ほど二人でバーに行っていない。野立が何か理由を付けて断っているからだ。

「俺は野暮用があるから行けない。一人で楽しんでこい。」

野立の素っ気ない態度にカチンとくる絵里子。

「前はクラゲがいるいい店があるとか唐揚げがうまいとか言って無理矢理連れて行ったくせに、最近つきあいが悪いじゃない。」
「俺様はなぁ、参事官なんだぞ。おまえと違っていろいろと忙しいんだから仕方ないだろ。それともあれか、俺とデートできなくて寂しいのか?」

そう言いながら(原因はお前だよ。)と心の中で悪態をつく。
以前上司からの頼みで絵里子に勧めた見合い話。他の男にときめく絵里子をみて予想以上にうろたえる自分がいた。あいつに男がいた時でさえ自分をうまく抑えていたというのに。
それ以来、こいつを誰にも渡したくないという欲求と今の関係を壊したくないという感情にうまく折り合いをつけられず絵里子を避けている。
鈍感なこいつは全く俺の気持ちに気づいてないだろう。気持ちを伝えたらギクシャクするは目に見えている。かといって以前のように絵里子とたわいのない会話を楽しめる余裕は今はまだなかった。
気持ちに整理がつくまでもう少し時間がかかりそうだ。絵里子のことになるとどこまでも情けなくなってしまう自分を笑うしかない。

「なーに自惚れてんの。」

絵里子はいつもの調子で軽く受け流す。

「あ、そうだこないだのドタキャンメールあれ何よ!」

ポケットから携帯を取り出して野立が送ったメールの画面を表示させ隣に座っている野立に黄門様の印籠のごとく掲げる。

「”今日行けなくなった”ってこれだけ?ごめんの一言ぐらいあってもいいんじゃないの?」
「すまん、悪かったよ」

自分のメールひとつで怒っている絵里子が意外やら可愛いやらで野立は思わず笑っていた。

「なに笑ってんのよ。ほんっと訳わかんないわね、あんたは。」

ふてくされた表情のまま携帯を机の上に置き、少し間をあけて真面目な顔になって絵里子は続けた。

「でもこんなにつきあいが悪いのは初めてじゃない。何かあったの?」

絵里子が隣に座っている野立に顔を向けると目が合った。
野立は何か言わなければと思うがいい言葉が見つからない。そしてこんな至近距離で目を合わせ、絵里子にキスをしたいという衝動を抑えるのに必死だ。
無言のまま数秒見つめあっていただろうか、ふっと絵里子が笑顔になり

「まぁ言いたくないなら無理に聞かないわよ。懸案事項が片づいたらあんたの奢りで飲みに行きましょ。」

そう言い終らないうちに野立は絵里子の顔をひきよせキスをした。

唇を合わせるだけの軽いキス。

こいつの唇、本当やわらかいな。そんな事を思いつつ唇を離すと絵里子の平手打ちが野立の左頬に炸裂した。

「っ痛ぇ〜。お前少しは手加減しろよな。」
「何すんのよ、人がせっかく心配してるのにふざけるのもいい加減にしないさいよ!」

そう言った後立ち上がると、あんなヤツの心配した私がバカだった、とか、もう知らない、などと言いながら絵里子はと扉の方へ歩いていく。
まいったなぁと思いつつ野立は頭を掻く。

「絵里子」

ソファから立ち上がって声をかけると絵里子が振り返った。

「いきなりキスして悪かった。謝るよ。でもあれはふざけてやったんじゃない。俺はお前のことを......その....好きなんだ。」

予想通り絵里子は固まっている。俺の言っていることが理解できていないようだ。まぁ無理もないか。

「おまえが恋愛対象として俺のことを見ていないのは分かってる。でも俺はお前をそういう風にみてきた。今のままでも楽しいが、俺は先に進んでみたい。一度考えてみてくれないか?」

野立の真剣な眼差しを絵里子は受け止めきれないでいる。
いい大人のはずなのにまるで女の子のようにうろたえる絵里子がいとおしい。
おそらく1分ぐらいだったであろう沈黙の時間が1時間に感じられた。

「あぁ、うん、わかった。・・・おつかれ。」

とつぶやいて絵里子は放心状態のまま部屋を出た。

扉が閉まる音を聞くと野立はドサッとソファに倒れこみ深いため息をついた。
ついに、というか、やっと、というか。あいつに言ってしまった。
後悔が無いといえば嘘になるが行き場のない感情を抱えたままより一度振られて区切りをつけたほうがすっきりする。
そう思って顔を上げると机の上の携帯が目に入った。

( あいつ忘れて行きやがった。)

明日の朝渡せば大丈夫だろうと考えたところで明日が休日だったことに気づく。

「しょうがない、今夜あいつん家に届けてやるか」

そうつぶやいて野立は再び深いため息をついた。






SS一覧に戻る
メインページに戻る

各作品の著作権は執筆者に属します。
エロパロ&文章創作板まとめモバイル
花よりエロパロ