Double jealousy
野立信次郎×大澤絵里子


「おい、聞いてないぞ」

不機嫌そうな声が参事官室に響く。

「あら、そうだった?」
「何も片桐じゃなくてもいいだろう」
「現場の人員配置を決めるのは室長であるこの私です。参事官は黙っていてください」
「今回の現場は危険すぎる」
「だから射撃の腕に一番見込みのある片桐を帯同するんじゃない」
「…SITの用意は?」
「要らない。そこまで大袈裟な捜査じゃない。向こうに気付かれたら元も子も無いのよ?」
「だがな、、」
「拳銃の携帯許可をお願いします。」

絵里子がこう言い出したら聞かないと分かっている野立は、止む無く承諾した。

---------------

「え…どうしてアンタがここに…って、なんで奈良橋さんまで?」

潜伏捜査に向かったパーティ会場で、絵里子の前に現れたのは同じ職場の2人。

「上からのお達しだ。捜査員も増やしてある。」
「関係者が増えることで、気付かれたらどうするのよ?」
「・・・これはこれは、お美しい御婦人方ですな」

こそこそと小突きあう2人+付き添いの2人の周りに、グラスを手にした御仁達が入れ替わり立ち代わりやってくる。
それもそのはず、ドレスコードのあるこの場所で、黒のタキシードを着こなした片桐の隣りには背中の大胆に開いた深紅のドレスを身に纏った絵里子。
そしてグレーに光るタキシードをびしっと着た野立の傍らには、淡いピンクのフェミニンなドレスで、これまた胸元から色気をふんだんに振り撒く奈良橋。
彼女の腰に腕を廻している野立に、得も言われぬ感情が絵里子の中に波立つ。

「…ス、…ボス?」
「…え?ああ、ごめん片桐、なんだっけ」
「岩井達からの情報ですと…、って、どうかしましたか?」
「ううんなんでもない。アイツのヘラヘラした顔みてたらちょっと腹立っただけ」
「…ボスでもヤキモチ妬くんですね」
「ば、馬鹿言わないで? 私がなんで野立なんかに嫉妬しなきゃいけないのよ」

ムキになる絵里子の様子に、片桐の顔に自然と笑みが零れる。

宴もたけなわ、となったところに突如銃声が響き渡った。
会場が一瞬にしてパニックに陥る。

「伏せろ!!」

麻薬密売の絡んだ暴力団同士の抗争。
ドレスの裾に隠し持っていた銃で絵里子が応戦する。

―バン!

鈍い音と共に絵里子が手を押さえてうずくまった。

「ボス!」
「大丈夫、銃はじかれただけっ」

そんな彼女の身を庇うように片桐が拳銃の引き金を引いた。
弾は相手の肩に命中し、慌てた仲間が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

「岩井、花形、入り口を封鎖しろ!」

無線で指示を出すと、片桐は絵里子の元に駆け寄った。

「ボス、大丈夫ですか?」
「大丈夫。ありがとう、よくやってくれたわ、片桐」

そんな二人の様子を、野立は自分の持ち場から離れることなく眺めていた。

---------------

事件が解決し、会場をあとにしようとした絵里子を野立が呼び止めた。

「怪我大丈夫か?」
「ああこれ?どってことないわよ」
「だから言っただろう。無茶するなって」
「してないわよ。それに解決したんだからいいでしょ」

強がる一方で、破れたドレスのスリットからみえる擦り傷が痛々しい。

「簡単に銃をはじかれるとはな。若い男にうつつを抜かしてるからだ」
「…なにその言い草。ていうか何よあんたこそ奈良橋さんにデレデレしちゃって」
「俺がいつデレデレしたんだよ」
「腰に手まわしちゃってさー。満更でもなさそうな顔しちゃって」
「そうでもしないと怪しまれるだろう?てかお前こそなんだよ、片桐の腕にずっと絡んでたくせに」
「あー、もう、、なんなのよ一体?!私先戻ってるから!」

苛立ちをあらわに脇をすり抜けようとした絵里子の腕を掴むと、野立は自分の腕の中にその体を引き寄せた。

「…ちょっ?」
「自分でもわかんねーんだよ・・・お前を護りたいのは俺だって同じなのに」
「のだて・・?」

野立の指が、絵里子の頬を撫ぜる。次いで、軽く唇が重ね合わされる。

「笑っちまうよな、この俺が部下に嫉妬するなんざ」

その素直な言葉に、先程の怒りはどこへやら、安堵したような気持ちが湧いてきて、思わず絵里子の体から力が抜けていく。

「…心配かけて、ごめん」

思わず出た一言に、野立が微笑んだ。

「無事ならいいんだ」

野立の掌が、スリットから覗く太腿に触れる。僅かに身じろぐ絵里子に、「痛むか?」と問う。
無言で首を振る彼女の腰に手を廻す。大きく開いた背中から、掌を滑り込ませる。
そのまま彼の手が、剥き出しの乳房に触れる。ドレスの作り上、絵里子はブラをつけていなかった。
てのひらが柔らかな胸をゆっくりと押しあげ、揉みしだく。得も言えぬ心地良さに、絵里子の理性も失われつつあった。

「…のだて」

潤んだ瞳で彼を見つめる。薄く開いた口元に、吸い寄せられるように野立が再び唇を重ねる。
首元で結わえられた紐をほどくと、形の良い、絵里子の白く透き通った乳房が露わになる。

「…これ、はずしていいか?」

野立から与えられる刺激で、絵里子の蕾はニップレス越しでもすでに勃ち上がっているのが見て取れる。
こくん、と力無く頷く絵里子の肌のいたるところに口付けを落としながら、舌先で優しく、舐めとる様に、野立はそれごと口に含んだ。

「…あっ…」

唾液で柔らかく溶かしながら、彼女を覆うものを器用に剥がしていく。軽く野立に歯を立てられ、思わず絵里子は嬌声をあげた。
その間にも野立の手のひらは絵里子の身体をくまなく愛していく。
自分の腰にその体を引き寄せながら、背部から下着に指を滑り込ませると、そこはすでに溢れていた。

「…もう濡れてる」

その言葉に恥じらうように絵里子は自分の手を野立の背に這わせた。彼の引き締まった筋肉を辿り、腰から、さらに彼自身へと手を延ばす。
スーツの上からでもはっきりとわかる、野立自身の滾り。絵里子はベルトに手を掛けると、中に手を滑り込ませた。
細い指先をそこに絡めれば、野立の口から小さな呻きが漏れる。脈打つ彼自身を優しく包み込み、ゆっくりと愛撫を始めた。

「っ、、…」

負けじと野立が絵里子の蜜壷に差し込む指を増やし、掻き回す。傍からみたらどんな風景だろうか。快楽に溺れていく二人。
このままひとつになれるなら、いっそどうなっても構わない。そんな思いがお互いを大胆にさせていく。
野立はわざと響くように空気を含ませて絵里子の中を掻き乱しながら、彼女の片脚を抱え上げた。よろめく絵里子の身体を支えながら、
ゆっくりと指を引き抜き、愛液にまみれたそれを彼女の目の前にかざす。
恥ずかしさに俯く彼女にお構いなしに、みせつけるようにその蜜を舐めとった。

「ん、絵里子の、、・・美味し」
「やめてよ、もう…」

そんな彼女の唇を強引に奪うと、野立は激しく舌を絡めていく。息が上がり、絵里子の口元から受け止め切れなくなった互いの唾液が零れていく。

「のだて…おねが、い…」

絶えず与え続けられる快楽に、意識が遠退き掛ける。絵里子の懇願に、お互い立ったままの状態で、野立は自身を一気に貫いた。

「んんっ、…っ!」

熱く脈打つ彼自身を最奥に感じ、絵里子は深く息を吐いた。甘い痺れが彼女を震わせ、さらに蜜を滴らせていく。

「…絵里子っ…」

もっと俺を感じろ。お前は俺のものなんだと思わせてくれ。そうだろう?

「…のだ、て、」

もっと私に触れて。その肌の温もりは私にだけ教えてくれればいいの。ちがう?

卑猥な水音が響き、荒い息遣いがこだまする。
野立の動きが一層激しくなると共に、絵里子の最奥に迸りを感じ―
二人は同時にその意識を手離した。

「…ごめん」
「何の、ゴメン?」
「いや、怪我してるのに無理矢理お前のこと抱いちまった。。」
「野立でも反省するんだ?」
「なんだよそれ」

野立の首に手を廻しながら、絵里子が笑う。

「私も、ごめん」
「何が?」
「野立が他のコと仲良くしてるだけで― なんか動揺した」
「玲子ちゃんのこと?同僚で、しかも人妻なのに?」

今度は野立が笑う。

「絵里子が妬いてくれるなんてなー。俺ちょっと嬉しいかも」
「やだ調子に乗らないでよ」


一方、車を出そうとしていた片桐。いつまで経ってもボスの姿が見えないため会場へ戻ろうとしたところ、どこからか現れた奈良橋に制される。
「あ、奈良橋さん…ボス見掛けませんでしたか?」
「今お取り込み中みたいだから放っておいてあげて」
「お取り込み…?」
「焼きもち妬くぐらいなら初めからあの2人で組めばよかったのに、ねえ?」

私たちも楽しんじゃう?
そう怪しく微笑んで奈良橋が片桐の首に両腕を絡める。

「な、な、奈良橋、、さん…?」
「なーんてね。私もう人妻だし〜。なにより木元に恨まれたくないから、もう帰るわ。お先に」






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