片桐琢磨×木元真実
「木元、…この後用事あるか」 「…いえ、別にありませんけど」 こんな会話から1時間程経っただろうか、二人は居酒屋に居た。 二人でなんて飲みに行った事なんか無いし、いつもは盛り上げてくれる野立が居るが、今はどうも盛り上がる予兆さえ見えない。 「珍しいですね、片桐さんが私を誘うなんて」 「…いや、結構前から木元とはちゃんと話したいと思ってた」 「そうなんですか?…あ、でも私も、片桐さんと話したかったですよ」 手に持っている酒を飲むと、片桐は木元の方を向いた。 「…、何か…?」 自分を視線に捉えて離さない片桐に、不信感を抱きながらも問う。 「いや、…気にするな」 「…気にするなって…、言われても」 「考えてた、」 「え、…何をですか?」 木元が再び問いかけると、片桐は今度は視線を外す。 「…木元」 「あ、…はい」 「…じゃ、なくて。木元のこと」 木元が理解するまでに、多少の時間が掛かった。理解してからはまた沈黙が続く。 「…あ、の」 「……」 「私も、片桐さんのこと考えてますよ」 言った後で急に気恥ずかしくなったのか、僅かにぶつぶつと独り言を言っているが、片桐にとってはそんなことはどうでも良かった。 木元が、俺の事を考えている…? 「…いや、あの、…え…っと、片桐さんの、こと…考えちゃうんです」 「無意識に?」 「多分、」 きっと木元は恋愛なんて感情は無いだろう、勝手にそんなことを考えていた。いや、でも違う。気付いていないだけだ。 片桐は思わず木元の頬に自分の唇を触れさせた。 「っ…!」 突然の感触に固まる木元。 「今日は、これで」 いつか自分から俺の事を考えさせるから、と付け加えると再びグラスに口を付けた。 SS一覧に戻る メインページに戻る |