角松一郎×堤芯子
![]() 結婚して、オレの妻になったコイツから聞かされた話は衝撃だった。 「このあたしがかーちゃんだってさ。世の中、何が起こるか分からんもんだねぇ」 照れ隠しなのか、わざとオレと視線を合わさないようにしながら、自分のお腹をそっと撫でるコイツは本当に綺麗で、気がついたら身体が動いていた。 「オ、オイ!ちょっといきなり何すんのさ。苦しいんだけど…」 コイツを抱き締める腕の力は、オレが思っていたよりずっと強かったらしく、苦し気な声をあげた芯子に驚いて、慌てて腕の力を緩めた。けれど、その背中に回した腕をほどくことはせず、そのまま彼女の後ろ髪をそっと撫でる。 「ありがとな」 好きだとかありがとうだとか、どうにもコイツ相手にはすんなり出てこなかったはずの言葉は、今日は何の恥ずかしさもなくすんなりとオレの口からこぼれ落ちた。 ヘヘッと笑いながら、オレの肩口に顔を埋めた芯子は、目を閉じて言葉を続ける。 「あたしさ…。」 「うん?」 「昔から、自分が男だったら良かったのに、って思ってたんだよね。中学の時にみぞれがいじめられた時もさ、あたしが男だったらもっとやり返せたかもしれないじゃんか。 女ってのは、どうしても体力的に不利なことが多いからねぇ。 …ま、結婚詐欺は男じゃ中々うまくいかねぇけど、な。」 「…オイ。」 「何ムキになってんの、ジョーダンだよ冗談。 でもさ、ここにあんたとの子どもがいるって聞かされてさ、今日初めて女に生まれて良かったって思ったよ。」 「そうか…」 オレもお前が女でいてくれて良かった、なんて口にするのは少し抵抗があるけれど。 それでも、何とも不思議な出会いと別れを繰り返してきた自分たちが、ようやくここまでこれたことには感謝せずにはいられない。 だから今日だけは、何度だって言ってやる。 これまでも、これからもオマエにだけしか言わないこの言葉を。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |