惚れた弱み(非エロ)
角松一郎×堤芯子


窓側に設置されているベッドの上で、この部屋の主である角松一郎は、背中にかかる冷気を感じて震えとともに目を覚ました。
冷たい空気を感じる背中とは反対側で、もぞもぞと動く暖かな存在は、つい数刻前までの行為のせいで疲れきっていた彼の眠気さえも一気に吹き飛ばす。
別に今夜が初めてという訳ではない。

…目を覚ました時、自分の腕の中で眠っている彼女、堤芯子に目を奪われるなんてことは。
けれど、何度経験してもこれっぽっちも慣れそうにはなかった。
自分が芯子とこういった関係になっている事実が、今だに信じられないというのも本音だったりするのだから、まあある程度は仕方ないのかもしれないけれど。
彼の身体にぴったりとくっつくように自分の身体を丸めて眠る癖がある彼女は、目を覚ましている角松の動きに合わせるように身体の位置を変えて、ちょうど収まりの良い場所を見つけると、またくうくうと寝息を立て始めた。
こんな些細なことであったとしても、角松の心臓はご丁寧に毎回毎回はね上がってくれる。

…これが惚れた弱みと言うやつか、なんてちょっと情けなくなるような自らの解答に、一人こっそり溜め息をついた。

「にしても、さみぃなぁ…。」

誰に聞かせる訳でもなくそう呟くと、角松は冷たい風を運んでくる窓の方へと顔を向けた。
中途半端に開いたままになっているカーテンの隙間から月明かりが射し込み、そのカーテンはすきま風に吹かれて静かにヒラヒラと波を打っているのが目に入る。
この季節には珍しい、風もあまりない穏やかな夜ではあるというものの、やはり冬の風は衣類を身に付けていない身体にはいささか堪えるものがあった。

「仕方ねぇか…」

まるで何か大きな事を一大決心でもしたかのようなリアクションで、芯子を抱き抱えていた両腕を離すと、下着一枚を身に付けただけの姿でベッドから抜け出す。
もっと窓から近い所にベッドを設置しておけば良かったな、なんて今更な後悔をしながら。

パタンと小さく音を立てて窓を閉め、鍵を確認した後で今度はきちんとカーテンを閉める。
角松がベッドに戻ろうとした時、人間毛布を失った芯子もまた、寒さで目を覚ました。

「…ちょっとシングルパー…、寒いっちゅーの…」

寝ぼけ眼の芯子の非難めいた声は、いつも以上に幼さを感じさせた。

「ちょっと待ってろ。今、もう一枚毛布取ってきてやるから。」
「ばぁか…。違うっちゅーの!」

一体どこにらそんな力があったのか不思議で仕方がないような力で突然腕を引っ張られた角松は、抵抗する間もなくベッドに倒されてしまう。

「うぉっ!ちょ、芯子…お前一体何しやがる!?」

角松のクルクルの頭に手を掛けて、引きずりこむようにしながらベッドに寝かせた芯子は、彼の頭をぐしゃぐしゃと散々撫で回した後、満足したのかそのまま彼にぎゅうっと抱き付いて、また気持ち良さそうに寝息を立て始めた。

それまで芯子にされるがままになっていたけれど、彼女の寝息でようやく我に返った角松は、抱き付かれたままの状態ではダイレクトに伝わる彼女の柔らかい身体に興奮を禁じ得ない。

「…そうは言ってもな…」

こんな気持ち良さそうに寝られたら、襲うに襲えねぇじゃねえか…
なんて言う自虐的な呟きは、誰に聞かれる訳でもなく暗闇へと消えていく。

それは、彼が自分の若さを知ったある冬の晩のこと。朝日が昇り、彼女が目覚めるまで後数時間。






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