呪い編
セラヴィー×どろしー


前の晩、セラヴィーとカードゲームをして、ないことに私が3連勝してしまった。ここぞとばかりに掛け金を吊り上げ、お財布を空にされて打ち震えるセラヴィーにバイトでもすれば?と捨て台詞を投げ捨て、機嫌よく眠りについた。
それがいけなかったらしい。
朝起きると、寝室の大きな姿見にはしいねちゃんやチャー子と変わらない年齢の金髪の少女が寝ぼけ眼で映っている。

「セラヴィー!あんた、き、汚いわよっ!小遣い巻き上げられた腹いせにこんな呪いかけるなんて」

キッチンで朝食の仕度をしているセラヴィーの元へ乗り込むと、割烹着姿で肩にエリザベスを乗せた彼が、楽しそうにこちらを見た。
「セラヴィー、何だか金髪くるくるのとびきりの美少女がこちらを見て怒ってるわ」
「お上手ね、セラヴィー。でも何だかお顔のわりに、品のない子ねえ」
「中身が鬼ババァですからね」
「エリザベスの方がずっとずっと美少女ですよ」
「な、何ですってー!!いでよ、ドラゴン」

大きく腕を振り上げて召還呪文を唱えたけれど、何事も起こらない。

「ま、まさか」
「最近のどろしーちゃんの劣化は甚だしいものがありますからね。僕が魔法を覚える以前の無垢な少女だった頃の身体に戻しておいてあげました」
「中身は流石のセラヴィーにもどうしようも出来なかったのね」

怒りに震えながら卓上にあったパン切り用ナイフを投げつけたけれど、片手で作ったバリアで易々とかわされてしまう。

「どうやったら解けるのよ?」
「知りたいですか?方法はただ一つ!今日中に男の人と愛の営みをすることです」
「セラヴィーったらお上品。要するにHよ、H。セックスをしろってことでしょう?でも、セラヴィー、どろしーちゃんにそんなお相手いるかしら?」
「いないでしょうねえ、ま、昨夜の掛け金を返してくれるなら、僕がお相手してあげてもいいですよ」

テーブルにあったもの、パンも調味料も箸立ても全て掴んでセラヴィーに向かって投げつける。かわされるとわかっていても、そうせずにはいられなかった。
セラヴィーを睨んでから、踵を返して台所を出ようとする。

「僕の他に誰がいるっていうんですか?」
「どろしーちゃん、もてないものねぇ。可哀想」
「エリザベス、しぃっ」
「あんたって人は…」

もう怒る気力もなくしていた。セラヴィーのことは知り尽くしている。あいつがそういうなら、本当にそういう呪いなのだろう。
タイムリミットは今日まで。
子供たちはまだ眠っている。

「チャー子、借りるわよ」

寝顔にそう告げて、ニャンコハウスのチャー子のクローゼットからワンピースを取り出し身に付けてから外へ出た。

それから街中を一人でうろついた。背が縮んだだけで、見慣れた街並みがどこかよそよそしく、心細いものに思えた。
あれからずっと考えてみたけど、確かに私はこんな事を頼める男の人なんて一人も知らなかった。
夕暮れの公園で一人ベンチに座っていると、

「おい、おまえ」

と聞き覚えのある声がした。振り向くとしいねちゃんの担任、ラスカルが通勤用自転車から降りてこちらを見ていた。

「見慣れないガキだが、うらら学園の子か?そろそろ家に帰る時間だぞ」
「あ、は、はい。帰ります、もう」
「そうか。なら後ろに乗せていってやろう。家はどのあたりだ?」
「え、いえ、自分で帰れますから」
「どうもおかしいぞ。見慣れないガキだけど、何組の生徒だ?」

ラスカルに眼に不信の色が出る。
まずい。

「あれー、ラスカル今帰り?」
「おお、バラバラマン、丁度よかった。おまえ、このガキのクラス…」

これ以上ややこしい事になる前に逃げようと走り出す。私を捕まえようと放たれたラスカルのムチが、ひゅんと傍をかすめる。それを辛うじてかわして走り続ける。

「な、なぜ逃げる?追え〜。最近ここらはロリコン親父が出没して危険なんだぞっ」

家に帰ってもロリコンの変態がいるから変わらないんです〜!心の中でそう叫びながら、全力で逃げる。

「お嬢ちゃん、こっちへおいで。おじさんが匿ってあげよう」

薄暗い路地から声がして、手をぐいっと引っ張られる。一瞬叫び声を上げそうになったけれど、ラスカルたちの声が聞こえて思い止まる。
知らぬ相手に手を引かれて、どこかの家の裏門をくぐる。庭に入り、裏門に鍵をかけると相手は振り向いて、私に微笑みかけた。40代後半程の、スーツを着た好色そうな中年男だった。

「もう安全だよ。お嬢ちゃん。実は今日一日ずっと君を見てたんだ。助けられて良かった。ここはおじさんの家なんだよ。ちょっと寄って行かないかい?」

その言葉に、こっくりと頷く。
さっき、ラスカルが言っていたロリコン親父ってこいつの事なのかも知れない。でももうそれでもいい。私は手をひかれて、そいつの一軒屋へと入って行った。

その男は私にココアを入れてくれ、居間のソファーに座り、満足そうに私を見ている。

「お嬢ちゃん、お名前は?」
「…エリザベス…」
「エリザベスちゃんっていうの?可愛い名前だねぇ。今日一日見ていたけど、学校にも行かないで、どうしたの?何か困ったことでもあるのかな」

何も言わない私の手を自分の手で包む。

「エリザベスちゃん、お小遣い欲しくない?」

男の眼には情欲が浮かんでいる。私が首を振ると、少しがっかりしたようだったが、すぐに気を取り直して、今度は私の横に腰を降ろして来る。金髪の髪をゆっくりの撫でながら、私の肩を抱く。

「エリザベスちゃん、おじさん君みたいな可愛い子をほうっておけないんだ。何か望みがあるなら、何でも聞いてあげるよ」

微かに頷いてみせる。男の顔が喜びに輝いた。

「お風呂に入りたいの」

男が息を呑むのがわかる。

「そんなこと、気にしなくていいのに。で、でもエリザベスちゃんがそう言うなら、ほら、あそこがシャワールームだよ」

熱いシャワーを浴びて、普段と違う子供の身体をまるで攻撃するようにタオルでごしごしと洗う。
ざまあみろだわ。
セラヴィー。あんたが大事にしているお人形の名前で、あの親父と寝てやる。
そして一生、あんたを許さないから。用意されていたバスローブを着ると、ひきずる位に長かった。あの男のものかと思うと、吐き気を催すのでなるべく考えないようにする。
バスルームを出ると、男が待ちきれないように駆け寄って来て、ぎゅっと抱き締められる。

「ああ、エリザベスちゃん…夢みたいだよ。こんなに美しい子を抱けるなんて」

男は私を抱え上げ、居間のソファーに寝かせた。バスローブの紐をとき、襟を寛げ露にする。

「綺麗だよ。まだ乳首が色づいてないね、陰毛も生えてない。全く穢れがない」
「…んっ…」

男の指で乳首を摘まれる。それから男は私に覆い被さり、ねっとりと耳朶を舐め上げた。

「大人の女なんて汚いよ。ああ、綺麗だ。エリザベス」
「お願いがあるの」
「なんだい?」
「ちゃんと最後までしてね?」

その言葉に、男の欲情は最高点に達したようだ。今までと明らかに目の色が変わる。

「…わかってるよ。わかってる。エリザベスちゃん」

その時、玄関のドアが焼け落ちた。

「な、なっ…」

男が恐怖に引きつった声を上げる。

「僕のエリザベスがどうかしましたか?」

そこには、彼自身がまるで青い炎になったかのようなセラヴィーが立っていた。玄関のドアを焼き落とすなんて、いつもと似合わぬ乱暴なやり口だった。セラヴィーならそんな手を使わなくても、簡単に中に入って来られるのに。

「な、なんだね、君はっ、あ、こ、この子の保護者か?!いや、これはお互い同意の上で、むしろこの子の方が進んで…」

愚かにも弁解しようと立ち上がり、セラヴィーの方に近づいた男に、表情を変えないまま片手を振り上げ、炎の塊を投げつける。

「ひ、ひいぃ…」

普段ならありえない事だけれど、それは男を僅かに反れて、絨毯を派手に焦がした。多分、床下まで穴が開いているだろう。

「運良くよけましたね?」

セラヴィーはもう一度片手をあげようとした。私は男の前に立ち塞がり、両手を広げた。

「どきなさい、どろしーちゃん」
「ひ、ひぃ、ひぃっ」
「こ、殺すことないんじゃない?」

セラヴィーの眼に、白いダブダブのガウンを肩にかけて、前をはだけさせながら両手を広げて立っている私が映っている。その眼からは、静かだけれども、全てを燃やしつくそうとするような怒り以外の何の感情も読み取れなかった。
一瞬、本気で殺されるかも知れないと思う。けれど、もう一度片手が振り上げられることはなかった。
その代わり、私に向かって軽く人差し指が振られる。一瞬にして、だぶだぶのバスローブ姿から、可愛らしいピンクのドレス姿になっていた。

「か、勝手なことしないでよ!」

何度かされたことはあったけれど、服を魔法で変えられるのは嫌なものだ。自分を抱きしめるようにして叫ぶ。

「あまりにみっともない格好で見るに耐えなかったんですよ」

そう言ったセラヴィーの声は、氷のように冷たかった。

「帰りますよ、どろしーちゃん。それともまだここに残ってそいつと続きをしたいと言うなら、もう止めませんけどね」

私は男を見つめた。すっかり正気を失っていて、少なくとも今晩は使い物になりそうになかった。
返事の変わりに、私は深いため息をつく。
ホウキに乗せられて家に帰る間、セラヴィーとは一言も口をきかなかった。

家に戻り自分の部屋のベッドに座る。小さなクシャミが連続して起こる。濡れ髪のまま夜風にさらされて、身体はすっかり冷えてしまっていた。

バスタブのノズルをひねり、お湯をためていると先ほどのあの男の家での出来事を思い出してしまう。
セラヴィーのあの氷のような眼差しも。

それを振り払おうとするように首を何度か振った時、ドアがノックされる。扉を開けるとセラヴィーが立っていった。

「……」

セラヴィーは何も言わずに部屋に入ってくる。

「ちょっと、セラヴィー?」

咎めるように声をかけると、セラヴィーが私の頬に手をかけて来る。
時計は夜の9時をさしていた。もう少しでタイムリミットだ。今夜のうちに、誰かに抱かれなければ呪いは解けない。わかってはいるけれど。

「触らないでっ!」

彼の手を振り払う。

「あなたって人は…。そんなに僕に抱かれるのが嫌か」

セラヴィーの顔が悔しそうに歪み、ベッドに小瓶が投げ捨てられる。
中には薄い桃色の液体が入っていた。

「これで元に戻りますよ…それと、謝りはしません…」

そう言って出て行こうとするセラヴィーを呼び止める。

「待ちなさいよっ」

彼の足元に、皮の小袋を投げつけてやる。

「…なんです?」
「薬のお代よ。昨夜のお金がそのまま入ってるわ。受け取りなさいよ」
「お代か。それは気づかなかった」
「…んっ!…」

そういうなり、力任せに私の腕をつかみ、ひきよせて唇を重ねる。腕を掴んだ時の乱暴さとは違い、キスは優しいもので、すぐに解放された。

「お代はこれでいいですよ。…意地を張らずに、薬は飲んで下さいね。ちょっと強力な呪いだったから、そうしないと僕の手にも負えなくなりますから」

そう言って、今度こそ部屋を出て行った。

「バカぁっ…!」

悔しくて小袋をドアに投げつける。小瓶も取り上げてそれに続けようとしたけれど、ぎりぎりで思い止まる。

これを飲まないと、あんたは一生この姿のままなのよ?そう自分に言い聞かせて、深呼吸をしてから蓋を開けて、中身を飲み干す。どんな味かと思えば、私の好きな桃の味だった。

一瞬、魔法薬独特の血液が炭酸になったような感覚がしゅわっと広がり、それが消えた時、鏡には長い黒髪の私が映っていた。セラヴィーに着せられたピンクのドレスは、魔法がかかっていたらしく元の姿に戻っても破れたりしなかったけれど、うんざりする位に似合わなかった。

急いで脱ぎ捨てて、使えるようになった魔法で瞬時に焼いてしまってから、バスルームへ向かう。
今日のことはもう全部忘れてしまおう。

湯につかりながら、そう決意する。それと同時に、先ほど感じた風邪の気配が全く消えていることにも気づいた。あの薬の中に、風邪にきく魔法薬も入っていたのかも知れない。
わからない。最初にひどいことをされたのは、私の方なのに。どうして、こんな気持ちにさせられるのか。
確かなことはただ一つ。
今日一日で、私たちはお互いをこれまでにない位にひどく傷つけあったという事だけだった。

「まさか、どろしーちゃん、セラヴィー先生を殺っちゃったんじゃ?!」

夕飯のカレーを前にしてもスプーンを握ろうとしないチャー子が、思いつめた顔で私に言う。

「ばっ…ばかなこと言わないでよ!!」
「そうですよ、チャチャさん、いくらお師匠様でも、そこまでは…ねえ?」

しいねちゃんまで心配そうに私の方を見る。

「だって、朝から一度もセラヴィー先生の顔見ないし、私がドアをノックしても返事してくれないのよっ!こんな事一度もなかったんだから!!」
「どろしー、セラヴィーのこと殺しちゃったのか?!」

空になったカレー皿をひっくり返しながら犬も大声を出す。

「そうよ、きっとそうなんだわ!ひどいわ、どろしーちゃん!うわぁぁぁん」

今日の朝、セラヴィーは部屋から出てこなかった。こんなことは初めてで、私は心配して騒ぎ出すチャー子たち宥め、自分の作った
下手な朝食を食べさせ、何とか学園に向かわせた。心配そうな顔で帰って来た子たちに、セラヴィーがまだ部屋から出て来ないことを
伝えると、朝からの不安が爆発したようだった。
ただでさえ思い込みの激しいこの子達がパニックになると、手がつけられない。

「ちょっと落ち着きなさ〜い!!もしそうなったら私が世界一の魔法使いになっているはずでしょ?シンちゃんの姿を見かけた?」
「あ、そっか…」

3人の動きがピタリと止まる。それに力を得て、言い聞かせるように喋る。

「あいつ何かスネてるだけなのよ。あとで私が様子見てくるから、あんたたちはさっさとご飯食べちゃいなさい」

泣きやんでやっともごもごとカレーに手をつける子供達を見て、そっとため息をつく。

確かにあいつとの決闘は日常茶飯事だったし、そう疑われても仕方ないのだけれど。この子たちとは、結構うまくやっていたつもりだったんだけどな。しいねちゃんにまで疑われるなんて。やっぱり、私はいつまでたっても意地悪魔女のままか。

そう思うと、悔しいけれど胸が少し痛んだ。

「セラヴィー?」

あの子たちと約束した手前、一応セラヴィーの部屋をノックしてみる。
返事はない。
ドアの前には、絵本を持たされたエリザベスがちょこんと座っていた。屈んで、縦ロールの髪をそっと撫でる。それは暗い廊下に光のように輝いていた。私の髪は暗闇にとけてしまっている。
エリザベスはつぶらな瞳でじっと私を見つめている。

「あいつは何をすねてるの?仕方ないじゃない。ねえ?私はもうこんななんだもの。あの金髪くりくりの子は私じゃないもの。そんな姿でセラヴィーに抱かれるなんて嫌。ライバルが昔の自分なんて悲しすぎる。そんな失恋したくなかったんだもの」

本当に本当に、自分でも聞こえない位の小声でエリザベスに呟く。

「こんなこと、あんたに言っても仕方ないんだけどね。そうだ。昨晩、名前借りちゃってごめんね」
「いいのよ」
「へ?」

ため息をついて立ち上がり引き上げようとした所に、人形の筈のエリザベスにぐいと腕を掴まれ、同時に開いたドアの中へと引きずりこまれてしまう。

「きゃあっ…」

バランスを失って、仰向けに倒れこんだ所を、男の手に抱きとめられた。

「セ…セラヴィー…っ?」
「こんな夜中に男の部屋を訪れて、そうやすやすと出て行けると思わないで下さい」

自分で引きずり込んでおいて、しゃあしゃあと言う。
大丈夫。今の状況では、セラヴィーは私に手を出さないわ。金髪、金髪にさえされなければいいのよ。

「もう、逃げられませんよ」
「セラヴィー…んっ…」

おかしい!どうして…っ…?
何を言う暇も与えられず、唇をふさがれる。顔を背けようにも、身体ごと彼の胸に抱きすくめられ、一方の手を腰に、もう一方の手は後頭部に回されているので身動きが取れない。
そのままベッドに押し倒されてしまう。
唇を吸われ、歯の隙間から進入して来た舌が口内をかき回す。息が出来なくなり、気が遠くなりそうになった時にやっと唇が離れた。
き、昨夜のキスと随分な違いじゃない。
空気を求めて荒い呼吸を繰り返す間にも、今度は首筋から胸へとゆっくりと舌が降りて行く。その感触に肌がぞくりと粟立った。

「やめて、セラ…」
「どろしーちゃん、もう素直になりましょう」

セラヴィーは私の頬を両手で挟み、上からじっと見下ろした。

「離して…」
「離しません。諦めて下さい」

両手が頬から首筋を撫でるように滑り、ゆっくりと胸元に降りて来る。寄席上げるように布地の上から揉みしだかれる。

「どろしーちゃんの胸、本当に大きいですね」

その言葉に泣きそうになる。仕方ないじゃない。薄かった胸は、ある時期を境目にどんどん形を変えるのだ。いつまでもいつまでも、華奢で薄い胸のままの少女ではいられない。
セラヴィーは胸を揉むのをやめない。私の胸は彼の愛撫の通りに形を変えた。

「うっ…う…もう、やめて…やめてよぉ」

恥ずかしさと悔しさに涙が溢れて止まらない。両手で顔を覆って隠すけれども、そこから幾筋もの涙が毀れてしまう。

「どうしてそんなに泣くんですか?こんなに素敵な胸なのに」
「嘘、嘘ばっかり…あっ…」
「ドレスの上からでも、ここが固くなっているのがわかりますよ」

そう言って、指の腹で二つのしこりを摘まれる。

「はぁっ…いや」

布の上から軽くそこを舐め上げられると、まるで電流が走ったかのように、弓なりに身体を反らせてしまう。

「気持ちいいんですね?どろしーちゃん」
「違…っ…これは」
「違うんですか?なら確認してみましょう」

ドレスの前ボタンに手をかけながら、セラヴィーが残酷な笑みを浮かべる。これよ、この顔。この顔をあの子たちに見せてやりたい!
「み、みないで、やめて、セラ…」
「流石どろしーちゃん。下着にも隙がない」

思春期から急激に大きくなったこの胸に合う、市販の可愛いデザインのブラはなかった。地味な大きなサイズのものをつけるのには抵抗があったから、下着はいつもオーダーメイドのデザインの凝ったものを身に付けていた。
見せる人もいないのにと自嘲的に思い、どこか後ろめたい思いを抱きながら、毎日繊細なレースのあしらわれた下着を身に付けていた。
それを見透かされて、揶揄されたように感じる。全身にカッと血が上り、抑えきれない感情が爆発してしまう。

「もうやめてー!嫌、嫌なの、こんなのは嫌なのっ!離して、離して、離してよーっ!」

からかわないで、秘密を暴かないで、ひどいことしないで。
私はセラヴィーの身体の下で狂ったように暴れ、身を捩って枕に顔をふせて声をあげて泣きじゃくった。

「どろしーちゃん…」

ふいに後ろ頭を撫でられる。
こんな時なのに、その感触は思わずうっとりする位に甘く気持ちがよかった。

「泣かないで、どろしーちゃん、ごめんね…」

セラヴィーは私に跨るのをやめてくれ、ただずっと頭を撫でてくれていた。高ぶっていた気持ちが次第に落ち着いて行くのがわかる。

「セ、セラ…お、お願い…」
「何ですか?」
「テ、ティッシュとって頂戴、あと、こっち見ないで…お化粧剥げて、ひ、ひど…顔し、してるから…」
「はいはい」

くすっと笑ってセラヴィーがポンと魔法でティッシュの箱を取り出して、差し出してくれる。涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭いて、鼻もかむ。使ったティッシュを丸めてごみ箱に捨ててから、セラヴィーの方を見ると、彼はすっかり毒気の抜けた表情をしていた。

「鼻の頭真っ赤ですよ、どろしーちゃん。全く、昨晩よりもずっと小さな女の子みたいですね」
「ほ、ほっといてよ…」

恥ずかしくてそっぽを向く。

「もう、落ち着いた?」

そう言ってセラヴィーはまた私の頭を撫で、一筋髪を掬い取り口付けをした。

「…落ち着いたわ。落ち着いたけど…離れてよ?」

それは良かったと言って、セラヴィーは私の背中に手を回し、そのままあっという間もなく、器用な手つきで下着を剥ぎ取った。

「セラヴィー?!…やっ…」

胸が露にされる。あんなに泣いた後だというのに、言い訳のしようもなく、ドレスの上から愛撫された胸の頂きは固くなっていた。

「やっぱり確かめてみて良かった」

両手首を頭の上に押さえつけられた状態で、ポスとベッドに押し倒される。すでに尖っている乳首を優しく摘まれて、また身体が反り返る。

「こんなに固くしているじゃないですか」
「はあ…っ…」
「どろしーちゃん、気持ちいいでしょう?」

固くなったそこを口に含まれ、舌で舐られる。もう一方の頂きは、空いた方の指で執拗につままれている。
やめてくれるかと一瞬でも希望を持った自分がバカだった。私はまた彼の手中に落ちていた。

「も、もう、も、許して…セラ…嫌なの、本当にやめて」
「じゃあまた別の所を確かめてみましょうか?」
「え?」

セラヴィーの指が腹を撫で、そこで止まらずもっと下へと降りて来る。その言葉の意味を悟って、私は殆ど半狂乱の声を上げた。

「いやっ…んむ…っ」

悲鳴を唇でふさがれる。そのうちに、指先はドレスの裾を捲り上げ、目的の場所へと辿り着いていた。一撫でするだけで、もう彼にはわかってしまっただろう。そこがどうなっているのか。

「どろしーちゃん…また僕に嘘をつくんですね。こんなになっているのに」
「ちが…」
「どこが違うんですか?」
「あんっ…」

下着の上から一番敏感な場所をひっかかれ、思わず声が出てしまう。今度は指の平で縦に撫でられる。気が狂いそうな快感が、そこから伝わって来る。抑えようとしても、腰をくねらすことをやめることができない。
このまま嬲られ続けられると、本当にどうにかなってしまいそうだった。

「…お願い…もう、もう許して…あぁっ…」
「気づかなかった、ごめんね、どろしーちゃん、こんな下着いつまでもつけていたら気持ち悪いよね?」
「え?ち、ちが…」

否定するよりも早く、上と同じレースに縁取られた下着はするりと足首まで引き降ろされてしまう。ついでにとばかりに辛うじて纏っていたドレスも器用に剥ぎ取られる。
今私は、一糸纏わぬ姿で、ベッドの上に横たえられていた。

「綺麗ですよ、どろしーちゃん」
「…嘘、嘘よぉ…」

消えてしまいたかった。彼が恋した少女と全く違う姿の私。彼から嬲られて、あられもなく乱れて。セラヴィーはどうしてこんなひどい事をするのだろう。
こうして辱めることが、あてつけの為に髪を黒くして、少女から女の身体になってしまった私への復讐なのだろうか。

「どうして信じてくれないのですか?…喋ると傷つけあうばかりですね、いつも」

そう言って私の両足を抱え上げる。今まで誰にも見られたことのない箇所が、彼の目の前に晒されていた。

「やぁっ…」
「あなたより、ここの方がずっと素直で可愛い」
「よくも…ああっ…」

それまで布地越しだった愛撫から、直接の刺激に変わる。誰にも触られた事がなかった核の部分を指の腹で軽く撫でられる。

「本当に素直ですね…こんなに尖ってしまって」

セラヴィーがくすっと笑う。私にではなく、その部分に話しかけるかのように。

「…ひぁっ…ああ…」

そのまま私の女性の部分に唇をつけ、襞を舐めあげ、核の部分を吸いたてる。死ぬ程恥ずかしい、悔しい、でも同時に眼も眩むような情欲の炎に飲み込まれていく自分がいた。腰全体が熱をもったように熱く、身体中を何度もうねるような快感が通り抜ける。

「…んぅ…」

舌でなめ上げられながら、指が入ったのがわかった。

「これだけ濡れていれば、指一本位簡単に飲み込みますね。でもやっぱり、ちょっときつい」

中指で抽送を繰り返しながら、親指の腹で核への刺激はやまない。上体を起こして汗と涙にまみれた私を覗き込み、濡れた頬を舐め上げる。

「どろしーちゃんの今の顔、いやらしくて最高に可愛いですよ…我慢しないで、逝っていいんですよ…」
「や…嘘…嘘ばか…り…ああっ…あああああ…」

もう恋していないのに、それなのに身体を征服しようとするなんて、ひどい。セラヴィー…大嫌い…
昨夜あんなに傷つけ合い、私を愛してもいない年下の男の手で絶頂を迎え、そのまま意識を手放していた。

朦朧とした意識の中、シュルという布の音が聞こえ、ぼんやりと頭を上げると、セラヴィーがローブを脱ぎ捨ててベッドサイドに立っていた。
瞬間的に起き上がろうとしたけれど、それより素早く裸の男に組み伏せられてしまう。

「言ったでしょう?もう逃げられないって。諦めの悪い人だな」
「だ、だめ」
「何がだめなの?」

必死で閉じ合わせた脚の間に、するりと指が入ってくる。

「ひっ」

先ほどの愛撫でまだ濡れそぼったままのそこは、指で刺激されるとすぐにまた甘い快感を腰全体に伝え始める。

「…あ…」

脚の間を割いてセラヴィーが身体を滑り込ませてきた。彼の怒張したものが、潤んだ私のそこへあてがわれたのがわかる。
嘘、嘘だわ。こんなこと、信じられない…。

「僕を信じて…どろしーちゃん」

呆然と上になったセラヴィーを見上げる私に、今まで見たこともないような、優しい顔と声でセラヴィーが言う。
もう一度、彼自身で入り口を擦られるとぐちゅりといういやらしい音がした。

「…はぁっ…セラヴィー…」

そして、それは入って来た。進行をとめるには、私のそこはあまりにも潤いすぎていのだろう。ぬるりという感覚と共に、最初の腰の動きだけで、彼自身の全てを受け入れてしまう。

瞬間、身体を内部から押し広げるような鈍い痛みに襲われる。その圧迫感で、息が出来ない。世界は音を消して、キーンという耳鳴りだけが響く。

どうしよう?これで動かれたらどうなってしまうの?
恐怖感に息がつまる。でもその想像した痛みはいつまでたっても訪れなかった。

眼は閉じていなかったのだけれど、その一瞬の間、周りの景色を認識することが出来なくなっていたらしい。焦点を合わせると、心配そうな眼でじっと私を覗き込んでいるセラヴィーがいた。

「どろしーちゃん…痛い?」

瞬間、答えていた。

「…い、痛くない!平気よ、こんなの」
「…でも」
「痛くなんてないって言ってるでしょ?!」

私の剣幕に一瞬セラヴィーは気負されたように黙った。そして次の瞬間、いつものあの意地の悪い笑いを見せた。

「本当に素直じゃないですね」
「…ああっ」

その動きは多分、決して乱暴なものではなかったのだろうけれど、肉が引き攣れる様な痛みが脚の付け根全体に走る。セラヴィーはもう容赦しないと決めたようだった。

「…んんっ…ああ…いゃ…」

気づけば自分の手の甲を噛んでいた。その痛みで、下半身の痛みを紛らわそうとするかのように。

「…んっ!…」

それに気づいたセラヴィーに手首を掴まれ引き離される。手の甲にはうっすらと血が滲んでいた。そこにそっと口付けをしてから、セラヴィーは私の腕を自分の背中に回させた。

「どろしーちゃん、自分を噛む位なら、僕の身体に痕を残して下さい」

そう言うと、一端止めていた腰の動きを、また容赦のないものに戻す。もう取り縋るものは、セラヴィーの身体しかなかった。私はセラヴィーの背中に爪を立て、セラヴィーの肩に噛み付く。

「どろしーちゃん、どろしーちゃん、どろしーちゃん」
「ああっ…セラヴィー…」

同じ位にお互いがお互いを強く抱きしめ合った時に、セラヴィーに絶頂が訪れたようだった。そうして私も痛みだけではない、何か別の感覚を、またも薄れ行く意識の中で感じていた。

「どうして私を抱けたの?」

それが覚醒して私が一番に発した言葉だった。
私の額の汗を冷たいタオルで拭いてくれていたセラヴィーが手を止めて答える。

「あれ?言いませんでしたっけ?どろしーちゃんを愛しているからですよ。どんな姿でも」

当たり前じゃないですか、と言わんばかりの表情で、セラヴィーはまた裸の胸に私を閉じ込めようとする。

「…う、嘘っ!」

それを振り払ってベッドから上体を起こす。

「…どろしーちゃんも僕が好きですよね?」
「誰がっ!あんたみたいな嘘つき男なんて…っ」

血液が頬に集中して、顔が真っ赤になってしまっているのがわかる。薄明かりの中で、それがばれていなければいいと思いながら、今度こそベッドから逃げ出そうとした。

「信じてくれるまで何度でも愛してあげますよ」

自分では鈍くない方のつもりなのだけれど、いつもいつも一瞬だけセラヴィーの方が素早いのだ。
手首を掴まれ、またもベッドの中へと引き戻される。

「ちょっと、なにす…んんっ…」
「夜はまだ始まったばかりのようね」

ちょこんとベッドサイドに座っていたエリザベスの楽しそうな声が、部屋の中に響いた。






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