セラヴィー×どろしー
12/23 「ポーちゃん、明日はクリスマスイヴだなぁ♪」 「そーだな(また多分ろくでも無いことを考えているな…)」 秘密基地の一室にて、平八とポピィは二人コーヒーを飲んでいた。平松は明日から、機械人形工学連盟のフェスタがあるから私は行かねばならない非常に残念だと、一週間の予定で外出していた。 「ポーちゃんそっけないなぁ。折角俺様がクリスマスプレゼントを用意したっていうのに」 「何を?」 ポピィはさっき以上に面倒臭気に答える。平八は構わず続けた。 「どろしーとのデート♪」 ぶっ…とポピィはコーヒーを吹き出してしまう。 「ゲホッゲホッ、平八冗談にも程があるぞ。だ、大体どろしーにはセラヴィーがいるし、何でオレが別に好きでもない人と…」 「好きでもない?」 「そ、そうだ。明らかにどろしーはずっと年上で、オレは子供みたいな…」 「ちっちっちっ、ポーちゃんよぉ、俺様が知らないと思ったら大間違いだぜ」 「なっ…何を」 「最近よく、どろしーの行きつけの店に、わざわざ介抱しに行っているだろう?」 「それは、なるとの事で世話になったから…」 「それに前々から思ってたけど、どろしーがいると明らかにぼーっとしてるじゃねぇか。まるで他のヤツがいないみたいに。寂しいんだぜぇ俺様♪。」 「それは平八の妄想だ。帰るぞ。」 「まぁ、待てよ。セラヴィーの兄貴にはた〜っぷり、魔王の仕事を押しつけてあるから、少なくとも年末年始は帰ってこれねぇよ。本人が帰ってきたくてもな。」 「お前…、一言忠告するが、アイツにそんな事して後でどうなっても知らんぞ」 「それが今回は望んで行っているみたいなんだよ。あの二人はポーちゃんもどろしーから聞いた通り、今喧嘩してお互い何だかんだ理由をつけて、距離を置きたいらしいよ〜。何も言わないけど解りやすいよなぁ、兄貴達は。」 「『蠱惑のステラ』の事か?」 「そう、それそれ。だから、コ・レ★」 そう言うと、平八はスキー場宿泊券を出した。 「残念ながら、俺様はバイトで行けないんだなぁ〜。どろしーは昨日会った時に、『しいねちゃん達もいないし、今年のX'masは寂しいものになりそう。』って言ってたぞ。誘って行ってこいよ。じゃ、俺は忙しいからこれで。」 「お、おいっ…」 言うが早いか平八は、マフラーを後ろに翻すとあっという間に窓から外へ飛び出して行った。 その前日、どろしーは仕事の依頼を受け、ある家を訪れていた。 「ここね…」 インターホンを鳴らすと、メイドがドアを開け、中に案内された。 「お待ちしておりました。」 依頼人の中年の女はある部屋を案内した。開けて二人が入ると、扉が閉められる。 「(ひどいわね…)」 部屋のベッドでは、若い女が点滴をされながら、手を胸と股に置き、まさぐっていた。「はぁ…はぁ…ぁん」顔をわずかに赤らめ、目は半開きで朦朧と空を見つめている。 ここ数日、魔法の国や周辺の国々のスキー場で男女連れだけが何組も失踪する事件が続いており、この女性は失踪して唯一、生還したカップルの片割れであった。男性は病院に入院しているらしい。 「施術を始めますので、部屋の外に出て下さい。」 母親の中年女性が部屋を出たのを確認すると、内側から、魔法で鍵をかけた。そして、蠱惑解呪のあらゆる方法を試した。 「魔界のモノの仕業の様ね…」 解呪の手応えが得られず、どろしーはそっと右上腕の腕輪に手を添えた。 それは、初めて魔界に行った日、セラヴィーに危ないからと無理矢理手渡された、魔王一族に伝わる全ての魔法を受け付けない腕輪だった。 「折角だから、使わないとね…」 どろしーは腕輪を外そうと、袖を捲りあげた。 『蠱惑のステラ』とは魔族の一人で、とある辺境を治めているが、他国と組み、反乱を繰り返しているため、セラヴィーは魔王軍を率いて平定しに行っていた。 『蠱惑のステラ』の使う術は非常に厄介な誘惑の術で、防ぐには魔王一族の宝をもってするしかないといわれており、平定はしたが、セラヴィーは何故かステラをとり逃していた。 彼は何も言わないが、誘惑されての事だろうと誰もが思っており、偶然にそれとなく平八から聞いたどろしーは、本人には聞かず、傷つき 腕輪を受けとった自分を責め続けていた。 どろしーは腕輪を外し、行為に夢中になっている女性の腕にそっとはめた。するとその女性を包む様に白く薄い輝きがあらわれた。 女性の目は大きく見開かれたと思うと、体全体が硬直し、次の瞬間気絶したようになった。 「終わったわね…」 どろしーは女性から腕輪を外し自分につけなおすと、 部屋を開け、もう大丈夫と告げて足早に屋敷を去り、片割れの男性のいる例の病院へ向かった。 券を受けとったポピィは、しばらく迷っていたが、秘密基地の戸締まりをすると、意を決して、どろしーの家へ向かった。 「いたら…、福引でもらったんだけど〜と言おう。…いたら、…言おう。」 「あら、ポピィ君。今日は仕事はお休みなの?」 少し、下から凛とした恋い焦がれるその人の声がした。突然のことにしどろもどろになるポピィ。 「ど、どろしー。き 今日というかしばらくは休みなんだ。去年も一昨年も仕事ばっかだったから、今年は休みを入れたんだ。」 「あら、よかったわね。なると君にもよろしく。はい、これ。」 どろしーは、ショルダーバックから小さな包みを二つ取り出し、ポピィに手渡した。 「中身は帰ってからのお・楽・し・み★」 「あ、ありがとう、どろしー」 「それじゃあ、私はこれで♪」 「ま、待ってくれっ」 自然に声が出た。けれど、それだけで心臓が高鳴って、次が続かない。 「なあに、ポピィ君。」 そんなこと言われてもと平八を恨みながら、ありったけの勇気を振り絞って言う。 「す、スキー場の券が手に入ったんだ。よかったら一緒に行かないか?」 (うわっ、不自然だ。これだと普通に誘っているみたいだっ) 言ってみて猛烈に後悔するポピィ。 「どれどれ…」 どろしーは券を覗き込み、場所を見た。それは昨日の依頼人の娘が発見されたスキー場だった。 「行くわ、ポピィ君。私もちょうど暇だし」 「え、本当に?いやでもセラ…」 どろしーはポピィの唇に人差し指と中指を当てて言った。 「セラヴィーは忙しそうだから い い の よ♪…明日のいつ頃待ち合わせがいい?」 こうして、ポピィとどろしーは次の日スキー場に行く事になった。 12/24 良く晴れて、雪もたくさん積もっており、絶好のスキー日和であった。例の事件があったスキー場だが、割と賑わっている。 ポピィとどろしーは、着替えを済ませ、リフトに向かった。 「行きましょ♪」 と、どろしーがポピィの手を取って歩きだすので、慌てて歩きだす。 「(どろしーも元気だし、来てよかった。)」 そんなことを思いながら、ポピィはリフトでどろしーの隣に座った。リフトはぐんぐん登っていく。 「それにしても ポピィ君、本当に背が伸びたわね。大人っぽくもなったし。好きな人でもできたでしょ?」 「いやっ…、いませんっけどっ」 ただでさえ隣にどろしーがいてポピィが背が高くなった分どろしーの顔が近かった。本人は年を気にしているらしいが、あの頃と変わらず本当に綺麗で、鼻を刺す様な冷気にまじる微かな香に心臓をバクバクさせながら、どろしーが呑気に話すのをポピィは聞いていた。 頂上が近づくと、どろしーは、上で手を振る2人に気がついた。 「あら、しいねちゃんの同期の人魚達だわ」 「人魚って…まさか。」 ポピィの不安にどろしーが気づく間もなく、感高い声がした。 「ポピィせんぱーい!ナミでーす!」 「あんたうるさいのよ。リーヤ君はリーヤ君っ」 どろしー達がリフトを降りると、ナミとマリンが駆け寄ってきた。 「ポピィ先輩、お久しぶりです。休みの日に先輩に会えるなんて…」 それをマリンが遮る。 「ちょっとぉ、なんでリーヤ君がいないのよお。あんたエガオンなんでしょ。何とかしなさいよ」 「お姉ちゃん、ポピィ君がエガオンなのは皆にひみつ…」 「そんなんバレバレでしょっ」 きっぱりと言うマリン。 「ごめんなさい。ポピィ先輩。」 「…、いいよ(汗)」 ポピィは顔の隣で力無く手を振った。 「…ポピィ君。折角だからナミちゃん達と滑りなさいな♪。わたしは用を思いだしたから行くわ。また夕方ね♪」 「は?え?」 ポピィは驚いて振り向いたが、 「じゃあ、あたしはこれでっ」 どろしーはポピィの肩をポンっと押すと、勢い良く滑り始めた。 薄いピンクのスキーウェアに一瞬、流れる様な黒い髪が映えて揺れたが、すぐに見えなくなった。 「しいねちゃんの師匠、うまいじゃなーい」 「ほんとだー」 「(あぁ、結局こうなってしまうのか。)」 ポピィはただ一人、天を呪った。 ある程度滑り下りると、箒に乗り換えて、低空飛行で別の方向に進む。しばらくすると『立入禁止』と黄色いテープが幾重にも張られたところに辿り着いた。 「ここか…」 微かに、魔界独特の匂いを感じて、どろしーは口を手で覆った。 テープの下を潜り、雪を慎重に踏む。辺りに人の気配は無く、自分自身の呼吸の音しか聞こえない。どろしーは慎重に違和感の元を探した。 「男女二人連れでないと、術は発動しない様ね…」 しばらくすると、どろしーはわずかに空気が揺れているところを見つけた。微かだか其処だけ魔界の匂いを強く感じる。 「見つけたわよ。さーて何かしらね。」 どろしーは静かに魔法のステッキを向けた。 「どろしー、何やってんだ?危ないんじゃないか?」 理由をつけてナミ達を振りきったポピィ君が黄色いテープを上げて入って来た。 「ポピィ君、来ちゃ駄目っ!」 どろしーは振り向いて駆け寄るが、術が低い唸りを上げて発動した。 「うわぁ――っ」 「きゃ―――っ」 気がつくと、ただっ広い氷の空間にいた。どこかの洞窟のようだ。 「いたっ…」 立とうとすると透明な天井に頭をぶつけた。ポピィはまだ、気を失って倒れていた。 「ポピィ君、ポピィ君。」どろしーはポピィの肩を揺すって呼びかけた。 「ど どろしー、ここは…」 「どこかの洞窟の様だけど、バリアが邪魔でわからないわ。怪我はない?ポピィ君。…巻き込んでしまってごめんね。」 「いや、オレこそ、…ごめん」 辺りをよく見回すと、あちこちに男女二人ずつ絡むようにしているのが見える。 「あの人達は…」 「多分、今まで拐(さら)われた人達だと思うわ。さあ早く、ここから脱出して、魔物を早く倒さないと。」 そう言うとどろしーはポケットからナイフと口紅を取り出し、口紅でナイフに魔法文字を書き始めた。 「この手のモノは、外側からなら指先一つで、壊せるんだけど。内側からは少し時間がかかるのよ。」 計5本のナイフに解除呪文を込めながら、ゆっくり、魔法文字を書きこんでいく。 しばらくすると、ポピィはめまいがして、体が熱くなるのを感じ、バリアにもたれかかった。 「おかしい…」 思わず目を閉じようと思ったが、滑らかに口紅を操る白い手から、目が離せない。 改めて目の前のどろしーを見た。 初恋のあの頃と変わらない、あの人がいた。 強くて優しい人。今も変わってない。意地っ張りで、うるさいけど、皆を一番、自分自身よりも愛してる。 いつだって、オレを守ろうとしてくれる。セラヴィーはわかってない。そんなどろしーがどんなに愛してるか知らない。 オレの方が寧ろよく解ってる。こんなに解ってるのにどうして―― その切那、無意識にポピィはどろしーを組み敷いていた。5本目のナイフと口紅は地面に無造作に転がった。 「ポピィ君…?」 「胸が苦しくて…体が熱いんだ…助けて」 「まさか…この香にやられてっ…」 初めはそっと、してからは強く、ポピィはかきまわす様に口づけた。もう自分で自分を止められなかった。 「(まいったわね…もう少し大丈夫かなと思ったのだけど…完璧に魔物の香にやられてるわね)」 両腕を押さえつけられており、腕輪は外せそうにない。何とかナイフに届かないかと手を動かす。5本のナイフはそろっている。後はバリアに打ち付けるだけだ。子供相手に余り手荒な事はしたくない。 「どろしー…」 ポピィの方は香のせいなのかそうでないのかはもう、わからなくなっていた。 「前からずっと、好きだったんだ…」 「ポピィ君…」 「胸が苦しいくらい、ずっと好きだった。助けてくれ…もう…どうすればいいかわからない」 『助けてくれ…』それを聞いたどろしーは、もう抵抗するのを止めて、腕の力を抜いた。 ポピィはどろしーの顔を両手で包むと、改めて深いキスをし、どろしーはそれに答えた。 唾液の絡む音だけが、暫く続いて音が二人を次第に狂わせていく。ポピィはキスの雨を降らせながら、スキーウェアのチャックに手を掛けた。 それを止めようと、反射的に胸元に来たどろしーの両手を両腕で抑えると、チャックはひとりでに降りていった。 「超能力って便利ね」 「そうか?」 そう言いながら、ポピィは下腹部の布の繋ぎ目を静電気で焼き切った。胸元から足の先まで、全身が現れる。 どろしーはウェアの下には薄手のボディスーツしか着ておらず、体のラインが露わになり、胸の先はすでに真上を向いていた。そこを指先で軽く撫で回す。 「ぁ…」 軽い電気が走り、どろしーは自分でもっと触りたい衝動にかられるが、それを察知したポピィに素早く両腕を押さえつけられた。 真剣さに気負されて戸惑う中、甘い刺激がどろしーを蕩かしていく。 なおも、ポピィは胸を揉みしだきながら、胸先を撫でまわした。その間にもう片方の手は下腹部の下のほうに伸び、黒い茂みを撫でながら、もう一つの突起を探していた。 どろしーはそれを止める事なく、思考が緩やかに霞んでいくのを感じながらまだ迷っていた。今はまた離れているが、最近ようやく恋人同士になれたセラヴィーの事が何度も頭をよぎった。 ただ、ポピィの様子が何となく、本当はセラヴィーを求めて苦しむ自分と似ている様に感じ、放っておけず受け入れてしまい、頭の中が白く霞んでいく。 早くポピィ君をこの香の毒から解放する為…といい聞かし、どろしーはポピィのスキーウェアを脱がし、胸板に手を触れた。お互いの甘美な刺激に二人の視線が合い、どちらからともなく舌を絡め、互いを昇りつめらせていく。 ポピィの余った手はどろしーの下腹部の泉が潤っているのを確かめ、襞を軽く撫で回す様に指の出し入れを繰り返した。 「…ポピィ君。来て…」 そう言いながら、どろしーは硬く反り立った棒を導き、自分自身に沈めた。 初めての感触に気が狂いながら、ポピィは恋い焦がれた愛しい人の名前を呼ぶ。 「どろしー…」 体が勝手に動き、注挿を繰り返すと、どろしーの顔も上気し、薄い桃色に染まる。 「どろしー…どろしー!」 「ポピィく…ん!」 「どろし―――」 二人が高みに達するその切那、 ザシュッ ――― どろしーは素早く左手にナイフを握り、ポピィに近づいた触手を突き刺した。触手は大きくくねると消え、バリアが壊れた。それに気づく間もなく、ポピィはどろしーの中で果てた。 「ど どろしー、何を…」 「エクスタシーの極みのエネルギーでも、取りに来た魔物を刺したの。まだ生きてるわ」 「エクスタシー…? って、わあぁあぁあ」 ポピィは我にかえって混乱した。 「気持よかったわ。いつまでも子供の様に思ってたけど、そうじゃないのね。」 そう言って、どろしーはポピィに軽く口づけた。そして、二人の服を素早く魔法で直した。 「(魔物のせいか…)」 結局、殆ど自分の気持が伝わってないことに、ポピィはほっとするとともに、胸の奥底で、見えない傷が痛んだ気がした。 どろしーがナイフを刺した事でついた、魔法文字を辿り、ポピィとどろしーは魔物を倒す事に成功した。魔物は大樹の様ないでたちをしており、自分を守る為にセラヴィーに似た人型を形作ろうとした為か、最後はどろしーに躊躇いもなく破壊された。 拐われた人達は、地上に戻り、ポピィが連絡した警察に無事救助された。後始末を切り上げた頃、日は落ち、ポピィ達はスキー宿泊場にとりあへず戻った。 「ポピィ君、どこ行ってたのよ!おかげで探すって聞かないナミに連れ回されて散々だったわ!どうしてくれるのよ!」 「姉さんやめて。ポピィ先輩だって大変だったんだから」 スキー宿泊場に戻るとナミやマリンと合流し、何だかんだと騒騒しい夕食になった。結局風呂も4人で行き、二人が部屋に帰る為、廊下を歩く頃は夜中になっていた。 ポピィはどろしーの方を向く度、浴衣の隙間から白い艶めかしい肌がちらつき、その度に、その肌に触れた事を思いだしてしまい困惑していた。どろしーが、あの絶頂の時、冷静に行動していたことが、よりポピィを苦しめた。 「どろしー、今日は仕事の邪魔してその上あんなこと…」 「謝るのは私よ。ポピィ君に何も言わずに、調査に行ってしまって。あんなことに巻き込んでしまって…。好きでもない上に知り合いの、しかも私となんて…辛かったでしょ?」 「そんなことないっ」 ポピィは強く反論した。どろしーは一瞬、驚いた様な顔をしたが、 「優しいのね、ポピィ君は。ありがとう、お休み」 と答え、微笑んだ。 そしてどろしーは部屋に入り扉を閉めた。 そこで初めて、窓の側に立っている誰かに気がつき、凍りついた。 「セラヴィー、どうしてここに…」 「少し時間が出来たので、久しぶりに来てみました。もしかして今、一番会いたくない人ですか?」 そう言うとセラヴィーはゆっくり、どろしーに歩み寄った。 どろしーは後退りをするが、すぐにドアに阻まれ動けなくなった。 ドアに背を貼りつかせて、わずかに震えるどろしーの顎を上げて、セラヴィーは無理矢理キスをした。「っ…やめてよっ」 どろしーの抵抗に、セラヴィーはあっさりと体を離した。 「誰もいませんし、どうして…、拒絶するんです?」 「拒絶なんてしてないわ。ただ突然だったから…」 そう答えて、少し顔を背けると、セラヴィーはどろしーの顔の両側に手をついた。 その衝撃だけでよろけそうになった体は、セラヴィーに両手で支えられ、どろしーは思わずセラヴィーを仰ぎ見た。エメラルド色の眼が真っ直ぐ、どろしーを射抜く様に見つめている。 「『拒絶なんてしてない』?おかしいですね。君がそんな事を言うなんて。いつも最初は拒否してばかりじゃないですか(笑)。本当は、どうしてですか?」 多分今まで言われたこともない『君』という言い方に、どろしーは声を失い、セラヴィーの視線から、目を離せなくなっていた。 震える声でどろしーは話す。 「…ポピィ君とスキーに来ただけよ。でもほとんどはは仕事だったわ…それだけよ。」 「それだけ?」 「それだけ。」 「じゃあ、仕事中、どろしーちゃんはポピィ君と何をしてたんですか。どうして相手がどろしーちゃんで謝らないといけないんですか?」 セラヴィーの口調が、思いもよらず強くなる。 「セラヴィ、…違うの。」 「何が?」 セラヴィーは片肘だけ壁につけると、少しずつ顔を近づけて、 「ポピィ君とこんなことでもしてたんですか?」 と、耳朶を甘噛みしながら囁いた。 どろしーはその度に噛みちぎられそうな恐怖に襲われながら、じっと耐えた。 「そこまではっ、してない…っ」 いつもなら、もの凄い反撃に遭ったものだが、今のどろしーは弱々しく、為されるまま。その様のどろしーにいつもと違うどうしようもない愛くるしさを感じて、セラヴィーのトーンが少し落ちた。これはこれで楽しいかなと思う。 でも、追求は緩めない。 「どこまで…したんですか?」 「……。」 答えることが出来ず、どろしーの顔が赤くなったり青くなったりする。 「セラヴィーのせいよ。あんな魔物捕り逃がすからこんなことになったんじゃない。」 「…でないと私がポピィ君と何かある訳が」 そう言いかけて、少し胸が痛んだ。ポピィ君の気持ちを知らない訳じゃない。 ただ私の心にはずっとセラヴィーがいて、本当は彼以外と付き合うことなんか全然考えられないほどセラヴィーの事が好きで、ポピィ君の気持ちは年が離れていたから知ってて知らないふりをしてただけだ。 自分の気持ちは既に知られている上でないがしろにされて傷ついているくせに、私はポピィ君の気持ちを知りながら、子供扱いしてないがしろにしている――。 そう気づいて何も話せないどろしーに、セラヴィーは幾らか気が晴れて、 「そうですね…。本当にどろしーちゃんは鈍感ですねー。鈍感で無神経なのに、どうしてこう、僕を惹きつけてやまないんでしょうね。」 と、クスッと笑った。セラヴィーが微笑ったのに、どろしーはほっとしたがすぐに反論した。 「何が鈍感よ!恋人同士なのに、魔界がどうとか言って私の事はほったらかしで、魔物とまでイチャついた噂まで流れて、挙句の果てに危ない時には助けに来ないで、全部終わってから会いに来るなんて。そんな人に言われたくないわよっ」 「あぁ、財政難で、裏で売る薬の開発の為に生かしてたけど逃がしてしまった『蠱惑のステラ』」 「『あぁ』じゃない!」 「実験中うっかり魔界の穴に逃がしてしまったんですが、魔界植物なので、こっちのしかも冬だと生きていられないから大丈夫か。と思って平八に連絡だけいれたのですが、いやまさか、意外な方法で生き延びていたものですね」 「おかげで魔法の国や他の国の人は散々な目にあったのよ!」 「僕も長年想い続けて最近やっとつき合いはじめた恋人を寝とられる散っ々な目に遭いました。」 「…恋人って誰よ。」 上目使いで聞くどろしー。膨れっ顔があまりにも可愛いらしくて、セラヴィはキスを浴びせながら囁く様に答えた。 「…どろしーちゃんですよ。」 「どう…だ……か」 自分の狂わすところを余すことなく犯すキスに、全身に微量の電気が走り下半身が熱くなった。 いつかまた遠ざかって自分が傷つくのが怖くて、感じているなんて知られたくないのに、体はどろしーの意思をあっさり裏切ってどんどん蕩けていく。 セラヴィーは滑らかな首筋から細くて白い肩、そして一番感じる鎖骨の間に、舌を這わせ、赤い印をつけていった。 「つけるのは…やめ…」 「別にいいじゃないですか。その方が気持ちいいでしょう?」 鎖骨の間に何かする度にどろしーの声が漏れた。 「ヒャン…だめ…」 その度に体が軽く痺れて力が抜けて、立っていられなくなる。そんなどろしーを全身でドアに固定して、胸をそっと触れる程度に包むとその先端だけ何度も擦りはじめた。 はじめは微量の電流に耐えていたどろしーだが堪えきれず、声がもれ、股の間から透明な液体が流れだして身をよじろうとした。 それはすぐに脚の間に片足をいれられ阻まれた。 「流れてますね」 「やめて…」 「いやです」 セラヴィーはそのまま手でClitorisを擦り当てると、ゆっくり丁寧に皮を剥いていった。 「んっ…なん…」 声が微妙に高くて甘い。暫く首筋に舌を這わせてClitorisを擦りながら、反応を楽しんでいた。 「どろしーちゃん、もっと力を抜いてくれないと入りませんよ。」 「え…」 「立ってシたことは誰ともないでしょう?だ か ら ね♪」 何がだ か ら ね♪なんだろうと思ったがその疑問は言葉にして紡がれることはなかった。 セラヴィーは弾むようなお尻を軽く円を描く様に撫で回しながら、再び口の中を犯していった。度重なる絶調で張りつめていた体が、それとはまた別格の快感で再び蕩けていく。 「ふぁら…」 豊かに濡れたそこは痛みを全く伴うことなく、セラヴィーを深く受け入れた。 「んぅ…」 それだけで軽く息がもれる。その吐息はセラヴィーの冷静さを痺れさせるほど艶めかしいものだった。 もう殆ど、目の前の彼女と全てを繋ぎたい想いで限界になりながら、どろしーを突き上げていった。 「はぁ…どろしーちゃん…」 「セ…ラ…ヴィー…」 甘く朧げに自分の名前を呼ぶどろしーの様子に、 本当にこの人にだけは、この先もずっと愛しくて狂わせられるんだなと、セラヴィーは、心のどこかで苦笑いをした。 けれど、ずっと離さず傍にいようと、強く想った。 セラヴィーの息が上がり、動きが激しくなるのを感じ、快感で薄れている意識のなかで少し優越感を感じてしまうどろしーだったが、同時にこの男でないと自分はダメなんだろうと心も体も降参していた。そのまま流されるままに溢れるままに男の名前を呼んで―― 気がつくとどろしーは座りこんでいて、同じく座りこんでいるセラヴィーに抱き締められていた。しばらくは互いに無言でいたが、もちなおして、どろしーは立とうとした。 「あれ…立てない…」 「そうですか?」 クスクス吹き出しながら、セラヴィーは言って、ひょいとそのままお姫様抱っこで抱き上げるとベッドにどろしーを運んで、自分もその中に潜りこんだ。 「まさか、まだスルつもりなの?」 「当たり前じゃあないですか♪♪他の男に二度と目もくれない様にね♪」 「なんっ…」 それは、色々違うっという抗議は唇に塞がれ官能の波に流れてしまい、その後意識を手放して深い眠りについた。セラヴィーは、どろしーを腕の中に抱いてずっと離さなかった。 そして、夜が明けた。 12/25 朝食の迎えに行ったポピィはどろしーの部屋でメッセージを発見した。 『用が出来たので、先に帰ります。後のことは大丈夫です。ポピィ君は皆と休日を楽しんでね』 筆跡が少し違う様な気がしたが、ナミ達に連れていかれ、そのまま、スキー(スノボー)をして過ごした。 ナミ達とランチを食べていると、平八が現れた。 「ポーちゃん、悪いがすぐに魔界に来てくれ。サンダル兄貴が呼んでるんだ」 平八の真剣な様子とどろしーがいない事にただならない気配を感じたポピィはすぐさま平八の城にテレポートし、魔界の城に入った。 魔界の城は、所々渦々しく、退廃的だったが、全体的に繊細で、優美、そして果てしなく広大だった。 「前に見た印象とは違う様な気がする。見る角度によって違うのか?平八?」 「いや、サンダルの兄貴が真面目に魔王の仕事をするもんだから、城もそれらしくって事で、タワシの兄貴が造り変えたんだ。結構スゲーだろ」 「あぁ、凄いな」 そう言いながら、ポピィはどろしーの姿を無意識に探した。 平八はある部屋に入ると、ポピィに黒と灰色で主に配色された礼装を渡した。 「急いでこれ着て議事堂に行かないといけねーんだ」 「疑わしいから、お前のを着る」 とポピィは平八が着ようとしていた礼装を取り上げて着た。 「まぁ、着てくれたからいいけどな。議事堂は安全の為に異界のものは、溶けてなくなっちまうからな。」 「そんな危ないとこなのかっ」 「それ着てたら大丈夫だから。じゃあ、急いで行くぞっ」 平八の後を追って中身は古今東西異界の様式がいりまじった迷路の様な城を走り回り、ある扉の前に着いた。 優雅で巨大な扉を開けると、 そこは広大で長い教会の様な吹き抜け構造になっており、その奥の奥、そびえ立つ様な講壇の傍らに、密かな想い人が立っているのが見えた。そしてその隣には…その人を求めて止まないもう一人の存在があった。 「…どうしてポピィ君まで来ているのよ?」 「あぁ、言い忘れてましたけど、ポピィ君にも用があるのです。」 そう言うとセラヴィーは二人に向かって歩きだした。 「あのさ、ポーちゃん。兄貴がさっきからずっとこっちを睨んでて怖いんだけど。もしかしてどろしーと、何かあったのか?」 「あぁ…。」 「(おいおい…結局誘えないに市松と賭けてたのにマジかよっ…)」 いつの間にかポピィが先頭を歩いていた。構わず、どんどん歩いていくポピィの後を平八は仕方なくついて行った。 「ポピィ君、平八、お久しぶりですね。」 「何でどろしーがここにいるんだ」 空気が一気に凍る。 セラヴィーが一瞬、殺気を含んだ眼で睨んだが、すぐ抑えた。 「私もセラヴィーに呼ばれて来たのよ。先に帰ってごめんね」 どろしーが口を挟むが、セラヴィーは更にそれを遮る様に話す。 「先日の事件では、迷惑かけましたね。ポピィ君」 ほぼ棒読みの話し方で。 「よりによってあんなメチャクチャなヤツ逃がすなんて、天才完璧主義者セラヴィーも失敗するんだな。」 二人に緊張感が走り、その瞬間、平八はポピィを擁い、どろしーはセラヴィーの僅かに光を帯びた右腕を止めた。 「――っ」 魔法弾一歩手前の状態に触れた為、どろしーの手袋と袖が弾け飛んだ。手と腕は無事で服と手袋もすぐ再生したが、一瞬 それ以前につけられた赤い斑点が何個も見えた。 「まさか、人間界の冬の時期に生き延びるとは思わなかったんですよ。平八にも捕獲する様に連絡を入れましたし。」 「えぇっ、オレ様??………あっ、今月初めの電話?」 「そうですよ。12/1にこっちの植物がそっちに逃げましたから、氷漬けにして捕まえてくださいねって」 「エガオンスペシャルで妖精の国に連れていかれていた頃か……あぁ、そういえばわざわざ連れてきた魔物の上で電話かけながら言ってたな。 『――(中略)――ふーん。そうなのか。よし、それはオレにまかせとけっ。じゃな』って…」 あの後打ち上げだかバイトだかで城も壊れてなかったことから、すっかり忘れてしまっていたことを思い出し、平八は思わず後ずさりした。 すると、すぐ後ろにセラヴィーによく似た女性が気配を全くみせずに現れた。 「はじめまして。この国の王太后です。本当に久しぶりね平八。大体のことは今聞いたわ」 「……」 平八の顔が本気で青くなる。 「平八。『自分の方が人間に似てるから、兄貴達に代わって、世界征服をしてやる』って言ってたわよね。だから魔法の国担当にしたのにこの為体(テイタラク)、どうしようかしら。」 母親の性格はわかっている(顔は忘れてたが)。この場合、どうするかなんてとっくの昔に決めている。 「…ど う す る ん で す か…?」 と平八は震えて聞いた。 「中途半端で関係ない事ばっかりして。本当なら弾劾裁判ものだけど、魔法の国に溶け込む事だけは成功している様だから、チャンスをあげるわ。 魔法の国で選挙が行われるよう仕向けたから、それに何が何でも当選しなさい。負けたら魔界に戻します。そして魔法の国どころか異界へ行く事を禁止します。」 「じゃあ立候補は代わりにポーちゃんが。」 「平八が立候補するように手を回してあるから、頑張ってね。」 「はぁ…orz」 平八はガックリ肩をおとした。 「で、オレは何で呼ばれたんだ?」 「貴方にも迷惑かけたし、平八と仲がいいから、平八が魔法の国の国王になったら傍で仕事ができるようにするわ」 「それはお断りします。」 「でも、仕事がないと困るでしょう?」 そう言って微笑む顔は、セラヴィーに本当によく似ていて、空恐ろしく感じた。 「ああそれと、そこの魔女」 「私?」 「そう。魔王がどうしても結婚したいっていうヒト」 「結婚?!別に付き合ってるってだけで別にまだ…結…婚っていうわけじゃ…」 『結婚』の二文字に、慌てふためくどろしーに、セラヴィーは呆れかえりながら思う。 「(『付き合っている』って認識ができているだけでもまだましですかね…)」 「そう。まあいいわ。嫁候補って前に貴女が見た他にも、他国の姫などたくさんいてね、彼女達を差し置いて、いきなり人間の貴女が王妃になると、色々面倒なのよ。個人的にはそれらを娶った後で、貴女も加える方が安全だし、2,3カ国滅ぼさずに済んだのに…」 「前にも何度も言いましたけど、僕の結婚相手はどろしーちゃんしかいませんっ。」 「なのよ。だから貴女を魔王と私専用の秘書として雇うわ。それだと一緒にいられるし、実力もつくだろうし。色々覚える事があるから、頑張ってね。よろしく」 「待って。魔法の国へは」 「帰りたい時に帰っていいわよ。私も初めはしょっちゅう帰ってたわ。まだ仕事があるから、これで戻るわね」 そう言うとセラヴィーそっくりの黒髪の女性は講壇に向かって歩いていき、最後には壁に吸い込まれるようにして消えた。 「いや、魔法の国国王になった方がましだぁっ!帰るぞ、ポーちゃん魔法の国へ!」 平八はガバッと起き上がり、ポピィの手を取って走り出した。ポピィも一緒に引っ張られながら走り出す。 どろしーの腕や手の赤い斑点。あれは昨日の夜、セラヴィーが来たんだ。そして何があったかもわかっている。 酒場で酔い潰れながら、アイツの名前を呼んでた事も知っているし、二人の間には何人たりとも割り入ることは出来ないのも、好きになった時には既にわかってた。 でも好きだった。どうしようもなくそれでも大好きだった。今別れたらしばらくは絶対に会えない。それどころか二度と会えないかもしれない――。 そう思うと、無意識に手を振り払い、立ち止まって振り返った。色々ありそうだけど、幸せそうな彼女の姿が目に入った。 「どろしー、セラヴィーと仲直り出来て良かったな。頑張れよーっ」 と、声だけ明るく叫ぶ。 「待って」 どろしーが駆け寄ってきた。でも、今の顔を見られたくなくて、踵を返して走り出した。 かつっ――― その手は捕られ、振り返ると背伸びして両手を回され抱きつかれた。 「っ――、」 「ポピィ君、私を好きになってくれてありがとう。本当に嬉しかった。ごめんね。セラヴィーの事が好きなの。だから」 「ずっと前から皆知ってます」 少し笑って、誰にも今の顔が見えない様にどろしーの小さな肩に顔を埋めて答えた。 「ポピィ君、貴方は素敵なひとよ。強いのにとても優しい人。しっかりしていて面倒見がよくて…。 ――世界にはきっと貴方の事を本当に思ってくれて、ポピィ君が好きになる素敵な人が必ずいるわ。いつか必ず出会うから、私に会ってもいつも通りにしてね。今度は、ポピィ君が幸せな恋をしてね。」 「そんな人が…もしできたら、一番にどろしーに言うよ。」 「…約束よ」 そう言うと、どろしーはもう一度だけ強く抱き締めて、そっと離れた。 「ポーちゃん!何やってんだ。行くぞ――っ 」 「あぁ、今行く。」 踵を返し、声の方に走った。扉を閉める時、セラヴィーがどろしーの肩を抱いて慰めているのが目に入った。それを穏やかな気持ちで受けとめると、そっとドアを閉め、再び、走り出した。 今度はもう、振り返らなかった。 数ヶ月後、チャチャ達の協力もあって、平八が国会議員に当選し、果ては国王になったり、どろしーの魔界の王妃の座争奪戦に、何故か巻き込まれたりしたのだが――、 それはまた、別の話。 SS一覧に戻る メインページに戻る |