セラヴィー×どろしー
「あら、何かしらこれ?セラヴィーの忘れ物かしら…」 いつものように子供たちが学校へと向かい、セラヴィーは頼まれた仕事へと出掛けた後に一人残ったどろしーが、玄関近くで見つけたのは赤い何かが入った小さな瓶だった。 リボンで可愛らしくラッピングされたそれは、まるでプレゼントのようで―― そこまで観察して、眉間に皺が寄る。 まさか、今日仕事とか言って実は誰か女とでも会ってるんじゃ!? 「…まさかね、あの変態に限って。…でも」 中身が何かは、確かめるべきよね。うん。 勝手に納得し、するするとリボンをほどいて蓋を開けると、途端に広がる甘い香りに釣られ一舐め。中身はイチゴジャムだったようだ。 「なぁんだ」 拍子抜けした声をあげる。セラヴィーの手作りなのだろう、市販とは違う味がして、凄く美味しい。 早速、パンにつけてかぶりついた。 「全く、他の女にやるくらいなら、朝食にも出しなさいっての」 あっというまに食べ終えると、掃除の続きをしようと立ち上がりかけ。くらぁ、と一瞬感じためまいと脱力感。後ろに倒れるのは何とか防いだものの、段々と視界がボヤけ、耐えきれずに気を失ってしまった。 はっ、と気付くとセラヴィーが険しい表情で覗きこんでいた。 「…ぎゃあぁぁあぁあっ!?」 とっさに悲鳴を上げてしまう。見慣れたはずのその顔は、とにかくでかかった。 とっさにあげた悲鳴に一旦はその巨顔は離れたが。 ――これは夢よ、悪夢なのよ! 自身に言い聞かせていると、安心と怒りの混在する瞳でセラヴィーが言う。 「どろしーちゃん、無事で良かった…しかし…どうやら、僕が忘れた依頼品を勝手に開封した挙句に食べちゃったようですね?」 依頼品、の言葉にようやく現状を把握するどろしー。 「巨人さんに頼まれた小人になる薬…今日こそは、渡すつもりだったんですけどね」 前回、セラヴィー自身が薬の被害にあって大変な事になった。今回はどろしーの番となったわけだ。 「なんでそんな薬、玄関に置いとくのよ紛らわしいわね!」 「忘れただけです。それより、もしこれが毒だったりしたら、どうするんですか!無事だから良かったものの、目を醒ますまでは生きた心地がしなかったんですよ!?」 普段冷静な彼には珍しく、声を荒らげる様子に罪悪感を感じて、そっぽを向きながらどろしーは謝った。 「悪かったわよ、謝るからさっさと解毒薬渡して」 「嫌です」 にっこりと目が細められ、と同時にどろしーの体が鳥籠に閉じ込められる。 「ちょっと!?人が素直に謝ってるのに、何これ!」 「反省が感じられません。悪い事したらお仕置きは当然ですよね、どろしーちゃん?」 籠の隙間から指を入れ、指先に髪を絡ませようとしてくる。当然反対側へ逃げて拒否したが。 出入口のない鳥籠の中、ふざけるな!と魔法で壊そうとするも、何も起こらない。混乱する様子のどろしーに、楽しそうに鳥籠をそっと持ち上げ呟く。 「気付かなかったんですか?どろしーちゃん。髪、金髪に戻ってますよ」 「え。…ぃ、いやあああっ!!」 「さぁ、どろしーちゃん。子供たちが帰ってくるまで何をしましょうか、そうですね。まずは…お風呂がいいですよね?」 口調は疑問系だったが、有無を言わせない響きがあった。 「嫌よ変態!さっさと元に戻しなさいよ!」 「…やだなぁ。これはお仕置きですってば。諦めて下さいね」 くすくす、と愉しそうな笑い声と、小さな悲鳴が重なって風呂場へと消えていく。 SS一覧に戻る メインページに戻る |