セラヴィー×どろしー
![]() 視界がゆれた。 背中が一瞬かあっと熱くなり、同時に腕がだるく、重くなる。指にかけ、今まさに最後のひとくちを飲み干さんと持ち上げようとしていた華奢なティーカップは、金の縁取りをあしらった揃いの皿の上でかちゃんかちゃんと高い音を立てた。 咄嗟に真正面にいる男を見据える。聡い男は、自分の急激な変化に明らかに気付いているだろうに、平時顔に張り付いた憎たらしい笑みが変わる事はない。それどころか、いつもよりも笑みが深まってはいないか。 「────あ、あんた……何か盛ったわね………!」 どろしーが考えるより先に反射的に発した言葉に対して、まず答えたのは甲高い声だった。 「どろしーちゃんたら、恐竜みたいな重そうな体をしてるわりに薬のまわりは早かったわねー。」 「それはそうですよエリザベス。この僕がわざわざどろしーちゃん用に、強力に調合したとっておきですから。」 セラヴィーはテーブルの上にちょこんと座った人形に顔を寄せ、楽しげに話しかける。相手は表情が変わることなどない、勿論手足が勝手に動くことなどない明かな人形だというのに、本当に2人は会話をしているように見えて、どろしーは頭がくらくらした。 ああ、油断した。少女時代、この男のせいでどれだけの恐怖と屈辱を味わったか忘れた訳ではなかったというのに。 油断をさせておいてから牙を剥く、狡猾なこの男らしいやり口じゃないか。 のんきに差し向かいでお茶など飲んでる場合ではなかったのだ、よりによって子供達はうらら学園のお泊まり会に出かけ、残されたのは自分とこの男と人形ひとつだなんて日に! 心の中でどれだけ悪態をついても、男が椅子から静かに立ち上がった瞬間、どろしーの肩は大きく揺れ、背中は固く強ばった。 「ここからはエリザベスには刺激が強いですから、ちょっとあっちを向いてましょうね」 「昼間っからお楽しみね、セラヴィー」 真っ青になって怒りに震えるどろしーなどお構いなしに、セラヴィーは一人で会話をしながら人形をキャビネットの上に置いた。人形は大人しく窓の外を見ている。 そしてこちらに目を向けたセラヴィーは、わざと、ゆっくりとどろしーに歩み寄る。磨かれた床は、こつん、こつん、と乾いた音を立てた。 呪文を呟き指をひと振りすればここから逃げ出せるのに。せめて立ち上がって駆け出す事ができれば、脚力には自信があるのに。それなのに、どろしーの手足はぴくりとも動かない。無駄な抵抗と半ば知りつつも、どろしーは怒鳴りつけた。 「セラヴィー!一体どういうつもり!?」 「やだなあ、どんなつもりなんて僕に言わせるんですか?どろしーちゃんのエッチ。」 口に笑みを象ったまま、セラヴィーは一歩、一歩と近づいてくる。 「あんたこんな事して楽しいの!?」 「世界一の魔法使いも長くやってると退屈なんですよ。どろしーちゃんもちょっと僕に付き合ってください。」 テーブルに向かい、きちんと椅子に腰掛けたままのどろしーの左側にセラヴィーは立った。頭を動かすことができないどろしーは、目線だけ左に向ける。しかしセラヴィーの表情を見る事はできなかった。 「……どろしーちゃん。」 セラヴィーがどろしーの背後にまわる。後ろから、緊張に体を強ばらせたどろしーの髪の毛を掬いあげた。 どろしーの視界に入った時、その一房の髪はきらきらと輝いていた。 「僕のどろしーちゃん。」 見えていないのに、そこに感覚など無いのに、髪に口づけられたのがわかった。 掬い上げられ、口づけられた髪がぱさりと音を立てて落ちるのと同時に、セラヴィーの両手は背後から、どろしーの首から胸元をゆっくりと滑った。そのまま大きく開いたドレスの襟刳り、繊細なレースがあしらわれた下着の中をくぐり、直に柔らかな乳房に触れる。 両手で包み込み、揉みしだくというよりも撫でまわすようなセラヴィーの手つきに、どろしーの肌は粟だった。 「僕のもの。」 首筋に触れたセラヴィーの唇がそう呟いた時、どろしーは観念したかのように目を閉じた。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |