藍沢耕作×白石恵
「また不幸?藍沢また不幸なの〜?いいねいいね、飲も?ね?」 相変らずの絡み酒の白石が、相変らず一言も喋らず飲み続ける藍沢。 またかよ…という目で緋山と藤川がカウンターでうんざりした様子で 「4人揃って飲むなんてほんと暫く無いのに、またアレかよ〜」 「酒癖悪いコンビでほっとけばいいわよ。メリージェン、お会計。あの二人のは別で」 愚痴る藤川を余所に緋山は会計を済ませ帰り仕度をすると、藍沢と肩を組んで 上機嫌に不幸なのかとしつこく訊いてる白石の頭を軽く突いて 「ちょっと、私と藤川もう帰るけど、アンタたちどうするの?」 「帰っちゃうの?つまんない〜!付き合い悪くない?ねえっ」 「あーもう。めんどくさい。明日が午前休だからってあまり飲みすぎないでよね。 藍沢、アンタも。白石の事家まで送るくらいしてよ?一応男なんだし」 じろ、と緋山を見上げる藍沢。「あっちの人も一応まだ男なんだよね〜」と メリージェン洋子を指差しけたけたと笑う白石。結局二人はそのまま置いていかれる。 二人になっても白石はずっと「不幸?」「どうして不幸?」と嬉しそうに訊き続ける。 従業員二人も付き合いきれずにカウンターで飲み始めて完全に放置された状態になった時 ふと、白石は何か思いついたような様子で、グラスを煽ってから藍沢に詰め寄る 「ねえ藍沢、あんたはどーしたら、幸せなの?」 黙々と飲んでた藍沢の眉がぴく、と動き白石を見る。視線を合わせ何秒か無言で見詰め合う二人。 「…いま」 小さくぽつ、と呟くのを聞いて不満そうに白石が肩を叩きながら 「いま?何それ、藍沢飲みが足らないんじゃないの〜ちょっとぉ〜」 白石が勝手に藍沢のグラスに酒を注ぐとそれも氷の音をさせて一気に飲み干してから また繰り返す「いま」と。不満そうな顔のまま固まった白石がへら、と笑顔になって 「お酒?飲むの好き?いいね〜やっぱり藍沢いいわ〜。飲も?もっと飲もうよ〜」 はしゃいで言う白石の唇を、突然藍沢がキスで塞ぐ。数秒の沈黙、目を開いたままの白石は 持ってたグラスを落としてしまいグラスが割れる音と同時に藍沢が離れる。 「ちょっとー、大丈夫なの?アンタ達」 グラスの割れる音でメリージェン洋子が振り向くとスッと藍沢が立ち上がり「帰る」と一言。 なぜか一緒に勢いで白石は立ち上がると半分しか開いてない目で藍沢に一歩詰め寄ると 両手で藍沢の肩を掴み強く揺すりながら 「ちょっと今の何よ〜。藍沢なんなの?ねえっちょっとお〜」 「もー!何があったか知らないけどいい加減にしなさいよブス!もう今日は帰りなさい!」 結局は店まで追い出された二人。千鳥足でふらふらと怒った顔で歩く白石の横を なんとなくフラつきながら無表情で歩く藍沢。 酔った頭でも納得がいかないらしい。路地入った所でまた白石が腕を掴み絡みだす。 「ねー…さっき、ちゅー、したでしょ?何?なんか言いなさいよぉ〜」 「…何したら幸せって聞かれたから幸せだと思う事してみた」 ぽかん、とする白石から視線を逸らし支える程度、手を背中に添えると 「真っ直ぐ歩けてないだろ」 「あんたもでしょ〜、っていうかあ…幸せ、なの?…キス」 「…」 答えない藍沢の腕をまた掴むと塀に押さえつけるようにしてまた絡む 「じゃーあ、キスしたら私も幸せになれるかなぁ…」 白石が試すように背伸びをして自分からキスをする。藍沢は拒まずに白石の後頭部に手を回して引き寄せる。 酔いのせいか動きがゆっくりで、控えめに擽るように何度も触れるようなキスが受身としてはもどかしくて じれったい。我慢できずに藍沢から深く口付けると白石の舌を捕まえて軽く吸うと自身の咥内で 舌を味わうように絡ませる。塀に押さえつけてたはずの白石の手が、今は藍沢の背中にまわされている。 路地とはいっても人通りは少しあり、そんな二人の横を人が通る気配がして、白石が慌てて離れようとしても 藍沢に舌を捕まっているので離れられない。後頭部も押さえこまれている。人目を気にせずに藍沢は 没頭してしまっているらしく、離してくれる気配がない。背中を叩き、突き放すようにやっと離れると 勢いで自分もふらっと足元が覚束ない。 「路上で、とか…見られてたし…歩いてる人に」 「見られない場所ならいいんだ」 「…え?」 顔に全く出ないけど藍沢も相当酔っているらしい。白石の腕を掴むと引っ張って歩き出す。 「ちょっと、痛いっ、痛いってばー。藍沢離せーっ」 やっと手を離してもらえた場所は、24時間営業のファーストフード店の入り口。 ふわ、と一歩進むと自動ドアが開いて白石はハンバーガーの看板を見て 食べるよりお酒がいいと言った矢先にまた腕を捕まれて店の中を連れて行かれる。 進んでいくと男子トイレの個室の中へ押し込まれる。狭い個室に藍沢も入ってくると鍵を閉められる。 強引で不可解な行動に白石がまた不満そうに 「なんですかー…」 また喋ろうとした所で今度は最初から深い口付けで声が止まる。 酔い、覚めたかも…?いやまだかなり酔ってるかも…? そんな事を頭の隅で思いながら酸素が足らない感覚の中で、求め合うように舌を絡めあう。 藍沢の手が服の中へと入ってきて下着の上から胸を揉んでいく。 白石の白い手も、服の中で素肌の背中に触れていた。狭い密閉空間ですら酔いの材料になるらしい。 壁にもたれかかる白石の首筋に吸い付くように唇を押し付けて赤い跡をつけて…耳元へ舌を這わせると 白石が鼻先から我慢できなかった声を小さく漏らした。 「…幸せ?」 藍沢が耳元で聞くと、白石が暫く間が開いてから甘い声で答える 「…幸せ」 服をたくし上げてブラジャーをずらすとゆっくりと口に乳首を含み舌で転がす。白石の足元が かく、と膝が折れてふらつくと同時に、呼吸に声が混ざりだす。 「気持ちいい?」 「うん…」 藍沢の頭を抱えるように抱きしめると段々と立っているのがやっとになっている。それを気づいてか パンツスーツのファスナーを下げてパンツの中へ手を突っ込み下着越しに後ろから前へと指で探り 更に白石の足元が危うくなるのを楽しむよう。下着の端から指で直接そこを触れる 「気持ちいいんだ?」 「…藍沢先生」 潤んだ目で何か訴えるように名前を呼ぶ白石と視線を合わせると、蜜で濡れた指先を舐めて見せる。 その様子を見て白石が泣きそうな顔になる。舌全体を使って白石の唇をゆっくり舐めると――突然白石が 藍沢の身体を軽く突き飛ばす。「何」と短く聞く藍沢に、かなり深刻そうな顔で白石が告げる。 「……気持ち悪い」 「…気持ち悪い?」 と、次の瞬間には乱れた服装のまま藍沢を押しのけて便座の蓋を開けると「う」という声から始まり もどしはじめてしまう。不思議そうだった藍沢は眉間にシワを寄せて溜息をつくと、白石の背中を擦ってやる。 「で?昨日ちゃんと送ってもらったの?藍沢に」 「…多分」 緋山と白石がエレベーターで話していた。また二日酔いの頭痛、コメカミに指を当てて俯く白石。 ドアが開くと、白石と同じ仕草をしている藍沢が乗ってきた。 「お疲れ。藍沢もも二日酔いなんでしょ」 「…ああ。」 「っていうか二人ともほんっとタチ悪すぎでしょ。また覚えてないってどんだけ酒癖悪いのよ」 腕組みして呆れる緋山に白石が「所々は覚えてるんだけど…」と呟く。 目だけで白石を見る藍沢。それに気づかず緋山が聞く 「店で藤川とか藍沢に切り込んでたのは覚えてないんでしょ?家にどうやって帰ったとかは?」 「帰り道で…気分悪くなった時に、背中さすってくれたんだよね、藍沢先生…」 「…ああ。」 正直、お互いがどこまで覚えてるのかはお互い知らず、探り合うような空気になる。 勿論それに緋山は気づかず 「どんだけ酔っ払ってんのよそれ」 「でも…幸せって思った」 「幸せ?」 「うん。…幸せって思った」 「吐いてすっきりってこと?」 「…どうだろう、わからないけど」 女二人の微妙にかみ合わない話を聞きながら、藍沢は頭痛で不機嫌そうな顔になりながら自分の指を眺めた。 SS一覧に戻る メインページに戻る |