中年男の嫉妬
黒田脩二×白石恵


どたどたどた...。

今日も忙しい医局内を医師、看護師が走り回る。
その中の一人に外科のエース、黒田もいた。
その表情はいつにも増して不機嫌だ(と言っても、彼は常に不機嫌な顔のため、誰も気付いていないが)。
その原因は、先程はからずして見てしまった光景である。
先程、スタッフルームに帰ろうとして待合室のカドを曲がった所で、なんと同期の西条とフェローの白石が抱き合っていたのだ。
二人は黒田には気付かずにすぐ離れたが、その光景はしっかり目に焼き付いてしまった。
西条は独身だし、何の問題もないことなのだが、黒田にとってはなんか面白くない。

―――全く、あいつらには命の現場にいるという自覚はないのか!?

暫くの間ずっと不機嫌だったが、ふとあの光景を思い出してみると、妙に寂しい様な、胸が痛い様な感覚を覚えた。

......きっと、西条も結婚するかと思うと頭に来ただけだろう。

と、無理矢理自分自身を納得させ、オペに備えることにした。

そして、夜。

今日の当直はよりにもよって白石と二人だった。ボードを見たとき一瞬ドキッとしてしまったが、西条との関係はどうであれ、自分にとってはただのフェローだと自分に言い聞かせてなんとかここまでこじつけた。

そして、今。
部屋には黒田が一人きりだ。
白石はどこかに行ってしまっている。

...コーヒーでも飲むか。

と思い立ち、机から離れたその時、

ドンドン、ダンッ!
キャー!!

何か派手な音と悲鳴が聞こえた。
あの声は......

「白石っ!!どうした!?」

慌てて声のした方に向かうと、そこは備品置場だった。
そして、ドアを開けると、段ボールの山に埋もれた白石がいた。

「...何をしている?」

黒田の声に白石は驚いた様に顔を上げ、ばつが悪そうに言う。

「すみませんっ!
包帯がなかったんで取りに来たら、手が引っ掛かってしまって...っ!」

白石が小さく悲鳴を上げる。
よく見ると、左手の指先が少し切れ、血が滲んでいた。
黒田は白石に歩み寄ると屈んだ。

「見せてみろ」

「あ、大丈夫です」

その言葉を無視し、左手を取る。
その手は思った以上に細く、白かった。
その頼りない手の先だけ赤く染まっている。

突如、黒田は日中の光景を思い出した。

―――あの時、この手が求めていたものは...?

―――あの時、この手に触れていたものは...?

黒田は白石の赤く染まった指先をおもむろに自らの口に含んだ。

「っ!黒田先生っ!?」

白石はまさにびっくり仰天で反射的に手を引っ込めようとする。
が、黒田はそれを許さない様に手首を掴み、ねっとりと舌を絡め、その細い指先を味わう様にゆっくりと飲み込んでいった。

「あ、ちょ、先生、止めて下さいっ」

と言う白石の訴えに、名残惜しげに舌を絡めながらぴちゃ、と口から出した。
そのまま黒田は、その左手を自分の右手で愛おしそうに包み込む。
そして、もう片方の手を白石の頭に持っていき、ぐい、と自分に引き寄せた。
その耳元に自分の口を寄せる。

「今日、西条と抱き合ってただろ」

「え?そんなこと......」

「俺は見てたんだよ」

そのまま耳を甘噛みする。

「ぁ、違ぅんです。あれは......」

白石は涙を浮かべて首を横に振る。
そんな様子を見て、黒田は激情にかられた。
別に何という理由もない。

―――ただ、白石の手が選んだ者が自分ではなく、年齢も医師として腕も同じな西条であることに、無性に腹が立った。

黒田はきっちり結われている白石の髪をほどく。

パサ......

と、髪の解き放たれる音とともに、黒田は白石の唇を塞いだ。

「ん!ぁ!?」

白石は一生懸命抵抗するが、黒田の舌は無理矢理その唇をわり、夢中で口内を犯しはじめる。
やがて、その歯列すらもわり、白石の舌を絡め取った。

「んんっ!んっ」

白石は黒田に捕らえられていない方の手で黒田の胸を弱々しく叩いて抵抗していたが、次第に甘い吐息混ざりはじめた。

黒田もそれに気付くと、ゆっくりと唇を離した。
名残を惜しむかの様に二人の唇から銀糸が伸び、やがてそれすらもプツッと切れた。
それを合図に、黒田は我慢の限界という感じで白石を床に押し倒す。
そのまま首筋に舌を這わせ、服に手をかけると、また白石が弱々しく抵抗してきた。

「ぁ、くろだ、せんせぇ、だめ、ですっ!人が...」

「西条は帰った」

黒田はぶっきらぼうに言った。
やはり、白石が選んだのは自分ではなく西条であるという事実を突き付けられ、胸が痛む。
それを振り払う様に白石の唇を自分の唇で塞ぎ、言葉を奪った。
そのまま着衣を奪い、下着すらも奪い取る。
その身体には、暫く抱いてもらっていないのか、西条の所有印はどこにもなかった。
それをいいことに、自らの着衣も取り去ると、白石の体温を肌で感じながら、首筋や鎖骨に舌を這わせ、至る所に自らの赤い印を残す。

「あ、せんせぇっ!ぁっ」

そのふくよかな片方の胸の先に舌を這わせ、もう片方を指で弄ると白石の身体が跳ねた。
そして、左手の指を遠慮がちに黒田の右手に絡めてきた。
その行動に少し驚き、しかし、確かに悦んでいる自分がいた。
やがて、右手はしっかりと白石の指を絡め、そして左手は白石の秘部へと持っていった。

無理矢理されていようが、身体は正直で、白石の秘部はもうしっとりと濡れていた。
まず、敏感になっているトコロを指で愛撫すると、好さそうに身体をガクガクと痙攣させ、その唇から嬌声を漏らした。

「淫乱だな。無理矢理されているのに」

わざと耳元で意地悪に囁くと、白石は目をふせ、だって...と呟いた。
今だけは、白石に快楽を与え、白石を支配しているのは西条ではなく自分だという悦びが胸を満たす。
そのまま、白石のナカへ指を挿れた。
少し動かし、白石が好さそうに声を上げるのを確認してから、もう一本増やしてナカを掻き回す。
その指に合わせて白石の身体もビクンッと震え、声も大きくなっていった。
もう我慢の限界だった黒田は白石から指を抜き、すっかり大きくなっている自身を取り出した。

そして、白石のソコへあてがうと、耳元で

「いいか?」

と聞いた。
白石は返事の代わりに黒田の手をぎゅっと握ると、もう片方の腕を黒田の首に回した。
白石の許可をとり、自身をナカへ挿れる。
白石のナカは思っていた以上にキツく、暖かかった。
始めは痛そうな顔をしていた白石も、黒田がある一点を点くと身体をガクガクさせ、嬌声を上げた。

「あ、ぃっ、ぁあっ、くろだ、せんせぇっ、すき、ですっ、あぁっ」

......それは、同情か、気遣いか。

そして、

「ああああああっ!!」

という今までで一番の嬌声の後、白石は一気に脱力して達した。
その締め付けで、黒田もナカに出したいのを我慢して一気に引き抜き、白石のお腹の上に出した。

暫く二人は肩で息をしていたが、黒田がふと立ち上がると、白石がひっくり返した段ボールの中からガーゼを取り出し、白石のお腹を拭いた。
そうしてるうちに、先程までは全く感じなかった罪悪感が溢れ出してきた。

―――つまらない中年男の嫉妬で傷つけてしまった。

謝罪のしようもない、と頭を抱えていると、

「あの、」

と白石が遠慮がちに声をかけてきた。
謝罪しなければならないのに

「なんだ?」

という素っ気ない言葉をかけてしまった自分が最高に嫌いだった。
白石は一瞬迷った様な顔をしたが、意を決した様に話しだした。

「あの、私は西条先生とは何の関係もありません。
今日のあれは私がよそ見していてぶつかってしまっただけです。
抱き合ってたわけではありません。
それで、あの......」

一回言葉を切ると伏し目がちに言い切った。

「私、黒田先生のことが...その、...すき、です」

黒田は一瞬、このことが現実だとは信じられなかった。
やがて、黒田は先程とは違い、優しく静かに抱きしめた。
白石もそれに応える様に背中に手を回した。
二人は抱き合い、暫くそのまま動かなかった。






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