誰かのために(非エロ)
湯川学×内海薫


がつん、ごっ、と鈍い金属音が続く。
その度に私の携帯は磨り減っていってるんだろう。
それと同時に、私の精神も少しずつ磨り減っていくような錯覚さえあった。
こうなると、自分の全てが間違っていたかのような気さえしてくる。
あの時素直に上に報告していれば。
やっぱり刑事になんて向いてなかったのかな。
っていうかそもそも生まれてこなければ良かった。
ああもういっそ人類が二足歩行さえ始めなければ!!
とんでもない規模で後悔した後は世界中に土下座し倒したい気分だった。そして

「ゆかわせんせいごめんなさい」

勝手に世界代表に認定して謝った。

「何故謝る」
「今日、ひどいことたくさんいいました。特盛で」
「特に気にしていない」

この人は本当に気にしていないのだろう。
私が言った論理的でないことは「論理的でない」という理由で颯爽と右から左へ受け流し、
今こうして携帯がボロボロになるまで(私のだが)投げ続けている。
失敗と挫折の繰り返し。
見ているこちらが挫けそうになる。
それでもこの人は投げ続ける。
きっとこのくらいの失敗も挫折も、慣れっこなのだ。
毎日一生懸命なんだきっと。

先生の一点を見つめる横顔が滲む。2度も泣くなんてかっこ悪い。

「せんせ、ごえんなさい・・・」
「わかったから泣くな」

泣き止むまで、いや、泣き止んでも携帯が響かせる金属音は続いた。

しばらくして、金属音が止まった。

携帯が壊れたか、一縷の望みが繋がったか。

教授がガタガタになった携帯電話を私の目の前にかざす。

後者だった。

「助かった・・・」

体中が安堵の脱力から重力に支配された。


倒れこんだ私の元に人影が近づいてくる。
ありがとうございますせんせい、
喉元から出掛かった言葉は空気を振動させることなくそのまま先生の口の中に吸い込まれた。

あっけにとられた私を見て、茶柱多津子の仕返しだと言わんばかりの表情で微笑む。

「これで証明が完了した」
「僕は誰かのために一生懸命になったことがある」

きみのためだよ、内海君。このくらいの論理なら分かるだろう。
そういう目でもう一度天才は笑った。






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