挑発したのは君だ2(非エロ)
湯川学×内海薫


湯川の腕は弛まない。

「えっと、まさか…もしかして、……先生の興味深い対象って……」

この状況でこうまで言われて理解できない程薫も鈍くはないが、予想外の展開に信じられない思いが
半信半疑の言葉となって、口から滑り落ちた。

途端に、湯川が遠慮なく呆れた表情を浮かべる。

「…まさかこれで分からないと言うつもりか、君は?」

う、と肩を強張らせて「でも」と呟いた薫が、小さく反論する。

「だって信じられません。
先生が…そもそも私を女性として分類していてくれた事でさえびっくりしてるのに」
「心外だな。せめて、僕の中で君が特別な存在だということくらいは伝わっていると思っていたが」

緩く首を振りながら溜め息混じりに湯川が呟いたのを耳にして、ムッとした様に薫が口を尖らせた。

「言わせてもらいますけど湯川先生の“特別扱い”なんて正直ちっとも感じませんでした!」
「こちらも言わせてもらえば度々捜査協力の依頼を持ち込んで研究の障害になる迷惑な人間を
本気で追い返すことなく時間を割いて付き合ってきたのだからそれは充分“特別扱い”に該当する。
悪いが僕は本当に意に添わないことならば、貴重な時間を無為に犠牲にするような愚行は犯さない」

お互いやや感情的に早口で言い合ってから、口では到底、この屁理屈ばかり述べる科学者には
勝てないと踏んだ薫が先に折れる形となった。

「そんなの、サインが難し過ぎますよ」

相変わらず頬の熱りは冷めないけれど、
湯川の腕から抜け出すのは諦めて彼の胸にぎこちなく顔を埋めて、甘えるように愚痴を呟く。

自分でも今現在どんな顔をしているのか分からないのだ。湯川には余計、見られたくなかった。
そうして、くぐもった声で囁く。

「私は先生みたいに頭が良くないんだからもっと分かり易くしてくれないと」
「そうか。ならば、最も伝わり易い手段を取るとしよう」

―――何を?どんな風に?

言うなり、湯川は疑問を疑問とも認識しないでいる薫の身体を抱き上げた。

「わっ!ぇ、え?」

細身で比較的体重の軽い薫の身体は易々と湯川の腕で抱えられ、研究室の奥へと進んでいく。


「ちょ、せんせっ…?」

唐突に、湯川の胸の中にいたのが地に足のつかない不安定な状態に晒され、訳も解らぬまま
薫は咄嗟に彼の胸にしがみつく。

そのうちに、彼は薫の肢体を研究室奥の黒い合皮ソファへ運び、
ゆっくりと、静かな動作でそこへ下ろした。
僅かにソファに身体が沈み込む感覚の中、薫は戸惑い湯川を見上げる。

「あの…湯川せんせ…?」

唇の端に笑みを浮かべた湯川の表情からは、その感情は読み取れない。
彼は元々内面が表に出にくい性質ではあるが、今は薫が通常より遥かに情緒不安定な状態であることも
おそらく、大きく影響を及ぼしている。

「僕は君が考えているほど淡白な人間ではないんだよ、内海くん」
「…へ?」
「一応、理性で抑えるよう努力したことは先に告げておく」
「な…な…何、を言っ…」

ソファへ仰向けになった薫の上へ湯川が伸し掛かり、その両手首をしっかり掴んで拘束した。
真っ赤な顔で目を潤ませ身を縮める薫に、実に楽しそうな表情で湯川が告げた。

「言葉で納得できないなら行動で示すしかないな。幸い、夜は始まったばかりだ。
君が理解するまで―――覚悟したまえ」
「せ、せん…せ…っ」
「挑発したのは君だ」






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