本能と理性の食い違い、か…実に、面白い
湯川学×内海薫


―たった一人の女性の為に全速力で走ったのは何時ぶりだろうか、…もしかすると初めてかもしれない…―

湯川からしてみれば、なかなかくだらない事を考えながらも薫がバスタブで寝こけている部屋へとたどり着き、
―ちなみにカードキーは既に弓削から引ったくり(?)済みなので部屋に入る事に難は無い。―
迷い無く部屋に備え付けの風呂場へと向かって、浴室のドアに手をかけた。
が、そこまでしてふと湯川に迷いが生じた。

弓削は一応女だし、裸で寝たまま動かすのは―と言っていた。
つまりそれは今薫にはその身体を隠すものをかけられても無い可能性がある訳であって、

其処まで考えて天才の思考がぶっつと途切れる。
顔の火照りもそうだが、自身の心中を渦巻く感情に湯川は自分自身に驚いた。

それを打ち払うかのように、湯川は勢いをつけて浴室へのドアを開けた。
一瞬だけバスタブを探して視線が泳ぐがすぐに見つけてそちらへと視線を向ける。
見れば薫がバスタブ内で「うにゃ」だか「ふにゃ」だか謎の寝言を上げながら心地よさそうに寝ていた。
それを見た湯川は先程までの自分を思い出し、随分とくだらない事を…と自分自身に呆れた。
先程までの躊躇いなどなかったかのように湯川はバスタオルを掴み、薫にかけ様とした。

だが真正面からの薫の白い肌は、今度こそ湯川の思考回路を、というか身体ごと硬直させる。

しばらくして我に返った湯川は一度体を反転させて上着を脱ぎ一番濡れなさそうな処に引っ掛けた。
少し迷ってワイシャツも脱ぎ同じところに引っ掛ける。そして、意を決したように薫に向き合った。
バスタブの中に腕を入れ薫の身体をお姫様抱っこの要領で抱え込み固く眼を閉じると少し遅れて薫の身体をバスタブから引き上げた。
引き上げた際に湯川の上半身は勿論スラックスも多少濡れたがそれを気にする事も無く、薫を近い壁へと寄りかからせる。
位置を覚えておいたバスタオルを掴み薫の身体にかけ、其処までしてやっと湯川は固く閉ざしていた眼を開いた。
バスタオルは薫の身体に上手くかかっていて隠されるべき処がきちんと隠れていた。
それを確認して、湯川から安堵の溜息が吐かれた。

ここら辺はやはり変人ガリレオも普通の男でしかない。
湯川はしゃがんで暫く薫の寝顔をぼんやりと見ていたがふと手を頬へと持っていった。


べちっ。


「起きるんだ内海君。」

起こそうとしているとは言え遠慮も減ったくれもなくべちべちと頬を叩くあたり、やはり変人は変人かもしれない。

「う、にゃ…ゆ、かわせんせ…そこはぁ、だめぇ…!」

薫の寝言。
それも大半は艶かしい声で自分を呼ばれて、再度湯川の身体が硬直した。
が、寝言の続きに湯川にしては本当に珍しく、肩をがっくりさせた。

「そこ…だ、め…。…格さんと助さんの偽者が先生に向かってプリンを…!」
「…一体どんな夢を見ているんだ!」

あまりにも突発な(しかも結構必死に)寝言に思わずツッコミの言葉が湯川の口をつく。
何となく腹立だしさを覚えた薫の頬を抓った。そこまでされてやっと薫は眠りから覚醒する。

「う、ぁ、しぇ、しぇんしぇ、い、いひゃい、いひゃい!いひゃい!!いひゃい!!!はにゃして!!はにゃして!!」

ギブギブとべちべち湯川の抓っている手を薫が叩くが暫く抓ってやっと湯川はやめた。

「い、痛いじゃないですか!」

抓られた頬を摩りながら薫は開口一番文句を湯川へと言い放つ。

「起きない君が悪い。風邪をひきたかったなのなら別だが。」
「…う…。」

屁理屈ではあるが正論なのでそれ以上薫は何も言えなくなる、がそれでも何か言いたそうに口をぱくぱくさせた。

―…取り合えず何時ものようなやり取りをしてはいるものの
湯川自身は、理性をフル稼働させ意識を薫の白い肌に持っていかれまいと常人には理解不能の数式を片っ端から掲げていた。

「だ、だけど…だからってあんなに強く抓らなくっても良いじゃないですか!」

そんな、湯川の心情を知ってか知らずか薫は身を乗り出して抗議する。
しかし、抓られた痛みのほうが先決していたのかバスタオルを抑えることは薫の頭中になかったらしく、
遵ってただかけていただけのバスタオルが重力に逆らうことなく落ちた。

「へ…?」

間の抜けた薫の声と共にふくよかな胸が、細い白い足が、綺麗なラインの身体が、全部湯川の前に曝け出され、


男として称賛ものの湯川の理性が、飛んだ。

「きゃああぁあっ?!せ、先生っみ、みみみみみない……んぅ?!」

騒ぐ薫の口を塞いで、湯川の舌先が薫の口内へと入り込む。

「ん、ふぅっ……。」

貪るように執拗な口付けに薫は頭の芯が溶かされていくような感覚に陥った。
その間にも、湯川の手は薫の胸を掴みやわやわと揉みしだく。

「んっ…!」

口付けから開放された薫は恥ずかしさでか身体を縮こまらせ、縋る様に湯川の腕を掴んだ。
そんな薫の様子を湯川は怪訝そうに眺めて疑問をそのまま薫にぶつけた。

「…抵抗しないんだな…。」
「…さすが、に、恥ずかしいです、けど、んっ…でも、」

―嫌な感じはしません。―

そう薫が途切れ途切れ応えると胸を弄んでいた手が離れた。

「…先生…?」

突然止められて困惑していると、床の上だったはずの身体が浮いて気づけば湯川に抱え上げられていた。

「へ?!あ、ちょ、湯川先生?!」

行き成りの事に驚きつつ薫は落ちまいと湯川の首へとしがみ付く。

「あ、あの…?」
「…あのまま浴室の床の上で性行為に及ぶと君の身体が冷えると思ったんだ。」
「せ、せい…あ、えと、あの、その……気遣ってもらってすみません……。」

しれっと言った湯川の言葉に、茹蛸、真っ赤な林檎、熟れたトマト、ポスト(?)etc...宜しく、
薫は耳元まで顔を真っ赤にさせながら小さな声で礼を言った。

そうこうしている間にも薫はベッドの上に優しく下ろされ、再度湯川が薫の身体の上に被さる。
また薫の胸を湯川の手が包み、柔らかいそれは湯川の思うように形をかえた。
そしてもう片方の手を身体のラインに合わせて陰部に滑らせるともう既に其処は触れて分かるほどに濡れていた。
ちゅくっと厭らしい音を立てながら、湯川の指が薫の肉壁へと侵入していく。

「あぁっ…!」
「あれだけの行為でもうこんなに濡れているのか…意外と淫乱なんだな…。」
「や、ん…ちが…!」
「なら感じやすいのか…?まぁ僕はどちらでも構わないんだが…。」

ふと、何を思ったのか唐突に湯川は指を引き抜き器用に仰向けだった薫をうつ伏せにさせた。

「はへ?」

薫からしてみれば天井が突然シーツになって、情中にも関わらず間抜けな声が出てしまう。

「あ、あの…湯川先生?」

体勢的には湯川に尻を突き出すような体勢なので薫からすればかなり恥ずかしい事この上ないが
状況に付いて行けてないせいか当人は自分の体制に気づかずに不安気に湯川を呼ぶ。
だが、湯川から返事は返ってこず変わりに―

「あぁ?!」

薫は下腹部からの圧迫感と先程とはまた違う快感に襲われた。

「ふ、ん…あっ…んぅ!…や、あ…。」
「ふむ…、ここが君の弱い処だな…?」
「あ、ふ…やぁ、ん!や、ゆかわ、せんせ、や、そこ、やんっ!」
「…嫌…か、だが身体は…君の此処は欲しいとヒクつかせている…。本能と理性の食い違い、か…実に、面白い…。」
「おも、しろくなん、かな、い…ぃあ、ひっ、や…!」

今まで焦らすようにゆっくり蠢いていた指が、薫の弱点を見つけたとたん本数を増やして其処を重点的に攻め始めた。
そして、ぐちゅぐちゅと湯川によってわざと大きく立てられる卑猥な音と、
その音を立てている箇所をじっくりと見られているという事を自覚した薫は羞恥心を煽られ感じやすくなっていた。

「ぁふ、は、あぁっ、んんっ!ぁ、な、に?!」

ふと、指の本数が減ったのも束の間、薫の身体に新しい快感が突き抜ける。
指が減った変わりに湯川の舌が薫の内部へと挿入れられたのだった。

「ひ、やぁん!だ、め…あ、や、…んぅっ!」

先程の口付けのように、貪るようにして肉壁を擦り、そして同時に薫の弱点を湯川の指が激しく突く。

「い、あ、やあぁん!!あ、ひぃっ、イ、イッちゃうぅ…!」
「…もう少し我慢してくれ。」
「ん、あぁっ…そ、んな…ぁ…。」

文句を言いながらも耐えようとする薫の様子に湯川は満足そうに笑った。
そして、更に乱暴なまでに激しく薫の中を指と舌が蠢いた。

「ひ、あぁぁ!?」

その間にも空いている指が陰核を探り当て、湯川の指と舌を求めて締め付ける肉壁を強く突き上げると同時に強く擦り上げた。

「あ…い、いやあぁあぁぁあ!!」

湯川の顎と手首をつたって薫の愛液がボタボタと滴り落ちて、シーツに小さな水溜りを作った。

「せん…せぇ……。」

未だ、肩で悩ましげに息を切る薫の頬を愛しそうに優しく撫でながらも、湯川は避妊具を手早く取り付けた。
そして、指で花弁を押し広げながら、薫を求め脈打つ湯川自身を宛がった。

「は、ぁ…んくぅ……!」

本能で望んでいたものを受け入れて、逃すまいと肉壁がひくつき湯川へと絡み付く。

「…っ…くっ…そう、焦るな…力を抜け…。」
「ふ…うぅ…そん、な、ことっ、言われてもぉ……。」

薫に誘われるまま激しく掻き回したい衝動を抑えながら、薫の力が抜けるように舌で全身を愛撫をした。

「ん……はぁん…ぁ…んんっ!」

愛撫の甲斐も有って薫の最奥まで到達する。
湯川は最奥まで到達すると今度は、ゆっくりと律動させた。

「あ…は……ん、ぁ、ゆ、ゆかわ、せ、んせの、いじわるぅ……。」

先程とは違いわざとゆっくり焦らすように律動させる湯川を薫は肩越しに睨み付けた。
睨み付けた―と言っても湯川から見れば物欲しそうに見つめたようにしか見えず大して効果は無かった。
それどころか、元々燻っていた湯川の加虐心に火をつけた。

「意地悪?僕が?何故そう思うんだ?」
「んんっ…わ、かってる…ぁん…くせにぃ…。」
「分からないな…分かるように説明してくれないか。」

湯川はそう言うと、ゆっくりとは言え律動させていた腰を止めた。

「せ、んせ…?」
「君がどうして欲しいのか説明するまで、僕は何もしない。」

サディスティックな笑みを浮かべながら、今の薫には死刑宣告にも等しい言葉を言い放つ。
もう既に薫の羞恥心と理性は快感に囚われ埋もれていた。

「……っ…ゆかわ、せん、せの……に、…肉棒で…私の、中を…掻き回して下さい……。」
「…なるほど、分かった。いいだろう。」

薫の求める言葉に満足そうな笑みを浮かべ、先程より激しく腰を律動させた。

「ひ、あぁん!あ、あぁっ…ん、やぁん!」

狭い薫の中を抉る様に激しい律動が繰り返される。
待ちわびていた刺激に何度も薫はイキそうになるが、そこは旨く湯川にかわされる。

「あ、んんっ、せん、せ…ゆか、わ、せんせぇ…!」

イケない苦しさからか、ただ単に生理的なものか。どちらにしろぽろぽろと涙を零しながら湯川を呼び、
快感を更に少しでも強く感じていようと湯川に柔らかい肉壁が絡みつく。
湯川自身も確実に限界へと近づいていた。

「ゆ、かぁせん、せっ、あ、も、だめっ…!」
「は……っ、…良い、ぞ…イけ…。」

湯川がそう言うと同時により強く突き上げ、腫上がった陰核をギリッと爪を立てて押し潰した。

「ひぁあぁぁあ?!」
「っく…う…!」

湯川を咥え込んでいたそこは強く締め付け、上り詰めた湯川は強く脈打ち白濁の液体を吐き出し、薫は意識を手放した。


「ん……。」

薫が眼を覚ますと、湯川はワイシャツを羽織っていて薫自身にはシーツが掛けられていた。

「起きたか。」

視線を薫に向けながらも避妊具を処理している辺り、薫が意識を手放してそんなに時間が経っていなかった。

「え、えぇっと……あの、湯川先生。」
「ん?」
「言い忘れてた上になんか、こう、今更なんですけど。」
「如何した。」

改めて湯川が薫の方を向くと薫は薫で耳元まで赤くさせて俯いている。
しかし、意を決したのか顔をばっと上げた。

「あの、えと、私、ゆ、湯川先生の事好きです!…よ?」

何故か最後が疑問系ではあるが、ずっと言いそびれていた事がいえて満足したのか薫はじっと湯川の言葉を待った。
が、肝心の湯川はまったくの無反応だった。

「え、あ、ちょ、ちょっと先生?」

見事なまでのスルーに薫は焦ったが、ふと、湯川が笑った。
最初こそは声を殺すように笑っていたがしだいに魔王宜しく声を立てて笑い出した。

「は、ははははは!!」
「は?え、あの先生?…ゆーかーわーせーんーせー。」

とうとう壊れたか、とかなり失礼な事を思いながらも突然笑い出したのに薫は戸惑っていた。

「…はっ…そうか、順番が逆だったな…。」

大分笑いが収まってそう湯川がつぶやき、やっと薫は合点がついた。
―つまり、事に及んでからお互いの気持ちを伝るという何ともまぁ早合点な事態だったことが目の前の変人のツボにはまったらしかった。

「なんだ、良かった…。」

―壊れたわけじゃなくて…―

「…何がだ。」

薫の呟きが聞こえたのか訝しげに眉に皺をよせながら湯川が問うた。

「いーえ。なんでもないです。それより、先生はどうなんです。」

はぐらかしながら、今度は薫が湯川に問うていた。

「……何がだ。」
「もぅ、分かってるでしょう!先生は如何思っているんですか?」
「………君は、僕が好きでもない女性を抱くような趣味だと思うのか?」
「……なんかずいぶん遠まわしですね…。」
「…分かったならもう寝たらどうだ。」

不満げに薫は湯川をじっと見つめていたが、それくらいで折れる湯川ではないのを知っているのでしぶしぶその肢体をベッドにしずめた。
が、妙な悔しさが燻って寝付く事が出来そうも無い。

「…せーんせ。」

ふと、一つ報復を思いついて湯川を呼んだ。
呼ばれて振り向いた湯川の唇に薫自身の唇を重ねる。

「なっ……。」

軽く狼狽する湯川に満足して再度薫はベッドにしずんだ。


この後の湯川の激しい報復があることもしらずに。



―次の日妙に機嫌の良い湯川と、明らかに寝不足で疲れも重なっているのかふらつくの薫が目撃されたとかされてなかたとか…。






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