僕だけに見せては、くれないのか2
湯川学×内海薫



「生憎、僕は君が思っているほど、我慢強くはない」

そんな薫の脚を開かせ、湯川は自分の体をその間に滑り込ませる。
かちゃ、とベルトの外れる音がした。

「――不思議だ、先程より濡れている」
「言わないで、ください……」

湯川の指先が、薫から溢れた蜜を掬うように動く。
その感覚に薫が身を震わせたのも束の間、彼女の下半身を、圧迫感と快楽が襲った。
湯川自身が、薫の胎内を満たしていく。

「あっ、ふ……ぁ、湯川、先生……っ」

ゆっくりでありながら力強い、湯川の腰の動き。
翻弄される薫は、湯川の体に腕を回し、必死で縋りつく。

「だめっ、あ、や……ん、変に、なっちゃ……」
「……なれば良い。存分に」
「やっ!ゆ、かわ、せんせぇっ」

体の芯から揺さ振られるような突き上げに、薫は首を横に振りながらも、身を任せていた。
否、そうするしかなかった、と言った方が近いかもしれない。
とにかく薫は、湯川から与えられる快楽の波間を、ただ漂っていた。

「他の誰にも見せられない、姿を」

湯川の息も、上がっていく。
それが段々と薫のものに追い付き、二人の呼吸までもが重なる。

「僕だけに見せては、くれないのか……」

何処か切なげに囁くと、湯川は薫の唇に口づけた。

「ん、んんっ……せんせ……!」

薫が苦しげな声を漏らしたので、湯川は唇を離す。
真っ赤な頬、濡れた唇、潤んだ瞳。
その艶かしさに、湯川の体はより熱くなった。

もう一度、思考回路の焼き切れるようなキスをする。
今度は、薫が苦しそうにしようとも、湯川は気に留めなかった。
貪る、という表現が相応しいそのキスに、暫し酔いしれる。
次に唇が離れたとき、二人は、銀の細い糸で繋がっていた。

「……さあ」
「ひ、あぅ、やぁあっ!」
「見せたまえ、“変になった”君、を」
「っ……せん、せえぇっ、あ」
「見せたまえ……」

まるで譫言のような、湯川の囁き。
暴走しそうな本能と独占欲を、何とか繋ぎとめる手段なのか。

「あ、あ…いや、」
「嫌……か」
「ぁあっ、違、せんせ……だめ、っ!」

湯川が腰を深く突き入れたとき、薫の体はがくがく震え、戦慄いた。
達したのか――と、湯川は穏やかな、しかし何処か悪戯な笑みを浮かべた。
まだ、湯川は満足出来ていないのだ。

目を瞑り、荒い呼吸を繰り返す、薫。
湯川は、快楽の中を揺蕩う彼女を暫しただ見下ろした後、ぐい、とその体を抱き寄せ、起こした。

「君は狡いな」
「……え……?」

未だはっきりしない意識の中、何とか聞き取れた湯川の言葉に、薫は怪訝な声を発した。
そして徐々に、現状を理解していく。

相変わらず、薫の胎内で存在を主張し続ける、湯川自身。
そして一つに繋がったままの、二人の体。
抱き起こされ、湯川の膝の上に腰掛けるような形の体位。

「先、生」
「幸い、夜はまだ長い。……一日分の仕置きだ」

ずん、と躊躇うことなく突き上げられ、薫は思わずのけ反った。
先程上り詰めたばかりの体に、容赦なく快楽が打ち付けられる。

「だめ……やぁあっ!待っ、て、せんせぇっ」
「待てない」
「わた、し、またおかしく……な、ぁああ!」

華奢な体を激しく揺さ振る、力強さと官能。
しかし、嫌ではない。
寧ろ薫は、幸福さえ感じていた。
今の二人ならば、体の芯まで溶けて混ざり合い、一つになれる。そんな心地さえした。

熱く匂い立つ、互いの香。
湯川の体に絡み付く、細い脚と腕。
そして迫り来る、己の限界。

「やっ、いや……せんせ、湯川先生!」
「内海君……っ」

強く抱き合うようにして、二人はほぼ同時に達した。
暫くの間、そのまま肌と鼓動を重ねていた。

薫は、湯川の腕の中で目覚めた。
二人して泥のように眠り、どれほどの時間が経ったのか――外はもう、白みはじめている。

「湯川先生?」

自分をしっかりと抱きしめている男を、薫は呼んでみた。
反応は、ない。
静かな寝息を立てながら、よく眠っている。

シャワー浴びたいんだけどな、と薫は思い、何とか湯川の腕の中を抜け出そうと、身を捩った。
だが、なかなか抜けられない。
抜けられそうもなかった。

「……君は何をしているんだ。落ち着きがない」

そのうち、薫の頭上から、不機嫌そうな――と言うよりは眠そう、と言うのが正しいかもしれな
い――低い声が降ってきた。
顔を上げると、そこには、まだ眠そうな湯川の表情があった。

「あ、すみません先生。起こしちゃいました?」
「いや、偶然だ――と、言ってあげたいところだが」
「……本当に、すみません」

あんなにぐっすり眠っていたのだ、妨害されて良い気などすまい。
怒っているのだろうか、未だ焦点の合わない目で、じっと薫を見つめている。

「先生、あの。お願いがあるんですけど」

湯川の視線から目を逸らすようにしながら、薫は呟いた。

「何だ」
「シャワー、浴びたいんです。離してくれませんか」

自身に絡まる湯川の腕に戸惑っている、薫。
そんな表情を間近で見せられて、悪戯心を刺激されない男が、果たしてこの世にいるだろうか。

「……断る」

いつの間にか緩みかけていた腕を、その華奢な体に、再び強く絡ませる。
どう抗っても、抜け出せないくらいに。

「ちょ、湯川先生っ」
「せっかく、良い部屋を取ったんだ。勿体無いと思わないか?」

薫を抱きしめていた湯川の手が、これまでとは明らかに違う意志を持って動きはじめた。
そっと、彼女の体の線をなぞっていく。

「もう少し、この部屋に居たって構わないだろう?」

ふと視線を合わせれば、腕の中の薫は、既に頬を上気させはじめている。
湯川は思わず、彼女の唇を奪った。

絡み合い一つになる、互いの熱っぽい眼差しと吐息。
二人は再び、溺れていく。


――薫が湯川の腕の中から、そしてホテルの一室から出ることを許されたのは、更に二時間ほど
後であった。






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