湯川学×内海薫
![]() 「生憎、僕は君が思っているほど、我慢強くはない」 そんな薫の脚を開かせ、湯川は自分の体をその間に滑り込ませる。 かちゃ、とベルトの外れる音がした。 「――不思議だ、先程より濡れている」 「言わないで、ください……」 湯川の指先が、薫から溢れた蜜を掬うように動く。 その感覚に薫が身を震わせたのも束の間、彼女の下半身を、圧迫感と快楽が襲った。 湯川自身が、薫の胎内を満たしていく。 「あっ、ふ……ぁ、湯川、先生……っ」 ゆっくりでありながら力強い、湯川の腰の動き。 翻弄される薫は、湯川の体に腕を回し、必死で縋りつく。 「だめっ、あ、や……ん、変に、なっちゃ……」 「……なれば良い。存分に」 「やっ!ゆ、かわ、せんせぇっ」 体の芯から揺さ振られるような突き上げに、薫は首を横に振りながらも、身を任せていた。 否、そうするしかなかった、と言った方が近いかもしれない。 とにかく薫は、湯川から与えられる快楽の波間を、ただ漂っていた。 「他の誰にも見せられない、姿を」 湯川の息も、上がっていく。 それが段々と薫のものに追い付き、二人の呼吸までもが重なる。 「僕だけに見せては、くれないのか……」 何処か切なげに囁くと、湯川は薫の唇に口づけた。 「ん、んんっ……せんせ……!」 薫が苦しげな声を漏らしたので、湯川は唇を離す。 真っ赤な頬、濡れた唇、潤んだ瞳。 その艶かしさに、湯川の体はより熱くなった。 もう一度、思考回路の焼き切れるようなキスをする。 今度は、薫が苦しそうにしようとも、湯川は気に留めなかった。 貪る、という表現が相応しいそのキスに、暫し酔いしれる。 次に唇が離れたとき、二人は、銀の細い糸で繋がっていた。 「……さあ」 「ひ、あぅ、やぁあっ!」 「見せたまえ、“変になった”君、を」 「っ……せん、せえぇっ、あ」 「見せたまえ……」 まるで譫言のような、湯川の囁き。 暴走しそうな本能と独占欲を、何とか繋ぎとめる手段なのか。 「あ、あ…いや、」 「嫌……か」 「ぁあっ、違、せんせ……だめ、っ!」 湯川が腰を深く突き入れたとき、薫の体はがくがく震え、戦慄いた。 達したのか――と、湯川は穏やかな、しかし何処か悪戯な笑みを浮かべた。 まだ、湯川は満足出来ていないのだ。 目を瞑り、荒い呼吸を繰り返す、薫。 湯川は、快楽の中を揺蕩う彼女を暫しただ見下ろした後、ぐい、とその体を抱き寄せ、起こした。 「君は狡いな」 「……え……?」 未だはっきりしない意識の中、何とか聞き取れた湯川の言葉に、薫は怪訝な声を発した。 そして徐々に、現状を理解していく。 相変わらず、薫の胎内で存在を主張し続ける、湯川自身。 そして一つに繋がったままの、二人の体。 抱き起こされ、湯川の膝の上に腰掛けるような形の体位。 「先、生」 「幸い、夜はまだ長い。……一日分の仕置きだ」 ずん、と躊躇うことなく突き上げられ、薫は思わずのけ反った。 先程上り詰めたばかりの体に、容赦なく快楽が打ち付けられる。 「だめ……やぁあっ!待っ、て、せんせぇっ」 「待てない」 「わた、し、またおかしく……な、ぁああ!」 華奢な体を激しく揺さ振る、力強さと官能。 しかし、嫌ではない。 寧ろ薫は、幸福さえ感じていた。 今の二人ならば、体の芯まで溶けて混ざり合い、一つになれる。そんな心地さえした。 熱く匂い立つ、互いの香。 湯川の体に絡み付く、細い脚と腕。 そして迫り来る、己の限界。 「やっ、いや……せんせ、湯川先生!」 「内海君……っ」 強く抱き合うようにして、二人はほぼ同時に達した。 暫くの間、そのまま肌と鼓動を重ねていた。 薫は、湯川の腕の中で目覚めた。 二人して泥のように眠り、どれほどの時間が経ったのか――外はもう、白みはじめている。 「湯川先生?」 自分をしっかりと抱きしめている男を、薫は呼んでみた。 反応は、ない。 静かな寝息を立てながら、よく眠っている。 シャワー浴びたいんだけどな、と薫は思い、何とか湯川の腕の中を抜け出そうと、身を捩った。 だが、なかなか抜けられない。 抜けられそうもなかった。 「……君は何をしているんだ。落ち着きがない」 そのうち、薫の頭上から、不機嫌そうな――と言うよりは眠そう、と言うのが正しいかもしれな い――低い声が降ってきた。 顔を上げると、そこには、まだ眠そうな湯川の表情があった。 「あ、すみません先生。起こしちゃいました?」 「いや、偶然だ――と、言ってあげたいところだが」 「……本当に、すみません」 あんなにぐっすり眠っていたのだ、妨害されて良い気などすまい。 怒っているのだろうか、未だ焦点の合わない目で、じっと薫を見つめている。 「先生、あの。お願いがあるんですけど」 湯川の視線から目を逸らすようにしながら、薫は呟いた。 「何だ」 「シャワー、浴びたいんです。離してくれませんか」 自身に絡まる湯川の腕に戸惑っている、薫。 そんな表情を間近で見せられて、悪戯心を刺激されない男が、果たしてこの世にいるだろうか。 「……断る」 いつの間にか緩みかけていた腕を、その華奢な体に、再び強く絡ませる。 どう抗っても、抜け出せないくらいに。 「ちょ、湯川先生っ」 「せっかく、良い部屋を取ったんだ。勿体無いと思わないか?」 薫を抱きしめていた湯川の手が、これまでとは明らかに違う意志を持って動きはじめた。 そっと、彼女の体の線をなぞっていく。 「もう少し、この部屋に居たって構わないだろう?」 ふと視線を合わせれば、腕の中の薫は、既に頬を上気させはじめている。 湯川は思わず、彼女の唇を奪った。 絡み合い一つになる、互いの熱っぽい眼差しと吐息。 二人は再び、溺れていく。 ――薫が湯川の腕の中から、そしてホテルの一室から出ることを許されたのは、更に二時間ほど 後であった。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |