湯川学×内海薫
「内海、お前をココに呼び出したのには訳があるんだ。・・・おちついて聞けよ?」 「・・・・はぁ、何でしょうか・・・・草薙さん。」 近所の喫茶店に呼ばれて、何を聞かれるのかと思えば・・・よっぽど凄い事らしい。 あの草薙さんが冷や汗。 私はそんな事を考えながらズズッとお茶をすする。 「・・・・湯川と、どこまでいったんだ?」 「ぶふっ!」 唐突にそんな事を聞かれて私は思わずお茶を噴き出す。 「い、いきなり何なんですか!つうか呼び出された理由ってそれですか!」 半分キレ混じりに私は言う。 口こそ何も物を言わないが、目と顔は「何が悪いんだ?」と物語っているかのようにも見える。 「・・・・・・帰っていいですか?」 「・・・いや、俺はお前に聞きたいんじゃなくてな、・・・・教えとこうと思ってな。」 頭にクエスチョンマークを浮かべる私を尻目に草薙さんは続ける。 「・・・・・ここだけの話な、・・・他の女に気をつけろよ。」 「・・・は?」 思わず真顔で草薙さんを見つめる。 ・・・まじ? ・・・・っていうか何で。 そ、そりゃ、・・・1、2ヵ月前に付き合い始めたのに何も変わっていないのは事実といえば事実だけど・・。 「・・・早くキスするなり何なりしたほうが良いぞ、どうせお前らの事だから手つなぐまでしか言ってないんだろうし。」 「・・・うっ。」 図星を突かれ、何も言えなくて赤くなる私を笑いながら草薙さんは見る。 「じゃあな、・・・精々頑張れよ。」 「なっ!・・・うるさいですよ!」 草薙さんは一言だけ言い残し、この場を去った。 ・・・と、同時に。 〜♪ 携帯の指定着うたが流れ出す。 嫌な予感がしつつも、慌てて取り出し、見てみると・・・。 「・・・やっぱり、湯川先生だし。」 ・・・。 何も言わずに私は仕方なく電話に出た。 「・・・もしもし、内海です。」 「湯川だが。」 「知ってますよその位。・・・どうしたんですか?」 「今から研究室に来てくれ。良いな?今すぐだぞ?」 「えっ?ちょっ!ちょっと待っ・・・!・・・切れちゃった。」 今すぐに、研究室。 反射的に時計を見る。 7時15分。 ・・・さっきも行ったのに、何の用事だろ。 そんな事を考えながら私は席を立った。 「湯川せんせ〜・・・?」 研究室に着いた私はゆっくりと扉を開ける。 ・・・が。 「・・・・あれ?」 いない。 ・・・学生さんが居る気配も全く無いし。 ・・・・おかしいなぁ。 そう思った私は先生を探しに行こうとドアを閉めて後ろを振り返ったその時だった。 ドンっ!!! 「きゃっ。」 「・・・っと。」 誰かと強く衝突した。 そして小さく言葉を発したのと同時に誰かに体を支えられる感覚。 ・・・この感覚、・・・まさか。 「・・・・君は、本当に危なっかしいな。」 「・・・っ!ゆ、湯川先生っ!」 私が探していた本人登場。 否、・・・この様子からすると先生が私を探していたに違いない、・・・そんな感じもした。 ・・・・あれ? そこで私は気付く。 先生が片手に大きな箱を持っている事を。 ・・・って事は、さっき片手で私を支えてたって事? ・・・・恥ずかしいかも。 「先生、・・・その箱見たいな物は何ですか?・・・・かなり大きいですけど・・・。」 「・・・・・秘密だ。」 「・・・そう言われると気になるのが刑事ですよ?先生っ。」 「・・・・研究室に入れ。」 「え?」 「いいから。」 押されるかのように、ほとんど無理やり状態で湯川先生と研究室に入る私。 え?な、なに? ドキドキとクラクラで何かもう、ほとんど何も考えられない。 ・・・プラス、草薙さんに言われたのを思い出して更に顔が熱くなる。 「・・・・さて。」 研究室に入った湯川先生は机の上に箱を置いてクルリとこっちを振り向く。 「・・・君は、本当に鈍感だな、・・・・今日は何月何日だ。」 口を開いたと思ったらいきなりこんな事を言われ、冷静になって考える。 ・・・今日は、夏真っ盛りの8月。 ・・・・・8月の・・・、あっ。 「・・そうだ、忘れてた。」 「・・・やっと思い出したか、今日は、君の・・・。」 「「誕生日」」 見事にハモる。 顔を見合わせて、いつの間にか私からも湯川先生からも笑みが零れていた。 「すっかり忘れてました・・・、今日で私も28かぁ。」 「・・・・おめでとう。」 ぼそっと湯川先生が呟いたその言葉に私は下を向いて顔が赤くなるのを感じる。 ・・・いつもそんな事言わないのに、 (・・・・・・・先生のばか。) 「・・・内海君、肩にゴミがついてる。」 「えっ?ど、どこですか?」 「・・じっとしてろ。」 先生の言われるがままに私は黙りこむ。 (・・わっ。) 先生の顔が直ぐ近くにある。 (うわっ、ど、どうしよ、・・・凄いドキドキしてる。) 私は思わず目を閉じる。 そして、先生の手が私の首元に触れる。 ・・・ん?首? 「ん、良いだろう。」 先生の声が聞こえたと同時に私は違和感のあった首元に手を触れる。 「・・・あっ。」 ・・・・首元にあった違和感に気付く。 ・・ネックレス・・・? 「・・・せっ、先生!あの、」 「受け取っておけ、・・・僕からの小さな贈り物だ。・・・愛してる。」 「・・・っ!?」 あい、・・・・し、・・・ ・・・・てる? 愛してる 確かに、・・・静かに、それは呟かれた。 ・・・・私の耳元で。 「・・・・つっ!!!」 事態を確認した途端私の顔は真っ赤に染まってゆく。 それを見た湯川先生は、ニヤリとする。 ・・・えーと、・・・。 「・・・・そうだ、君と一緒に食べようと思って貰って来たのを忘れてた。」 「え・・?えぇっ!?ま、まだあるんですか!っていうか、食べ・・・?」 そんな疑問を抱いていた私に湯川先生はさっき持ってきてた箱を私に見せつける。 「・・・何が入ってると思う?」 「え?」 「勘でいい、当ててみろ。」 「・・・・えーと、ケーキ、・・・とか?」 「正解だ。」 「ほらっ!刑事の勘・・・って!えぇぇ!?」 け、けけけ、ケーキ?? あの湯川先生が私のために・・・? ・・・嬉しいけど、びっくり。 あの先生がケーキ貰いにお菓子屋まで行くなんて想像がつかない。 ・・想像したら何か可愛いかも・・。 「・・・嬉しくないのか?」 「・・へ・・・?」 「・・・・変な顔してるから聞いてみただけだ、・・・・嬉しく、ないのか・・?」 うわ、そんな、いつもの先生じゃあり得ない顔しないでよ・・。 ・・・そんな顔で見つめられたら、また。 胸が、顔が、心が。 熱くなる。 「どうなんだ。」 初めて会ったとき並みに顔を近づけられて、目をそらすことしか私には出来ない。 「えっと・・・、違うんです、湯川先生。」 「・・・違う?」 「ビックリしたんです。・・・私の為にここまでしてくれて。」 「・・・・・。」 それを聞いた湯川先生は机の上に置きなおして、ケーキが入ってるであろう箱を見入るように見つめている。 「あの、湯川せんせ・・・?」 「・・・・初めて、なんだ。」 「え?」 「・・・・・恋というなの未知の感情に振り回されるのは。」 「こ・・・っ!」 その口から出た言葉を聞いて更に顔が赤くなる。 ・・・やだ、今の私の顔は絶対茹でたタコ状態だ。 ・・今日の先生は、ストレートすぎる。 「・・・そうだ、内海君。」 「はっ、はいっ!」 「コーヒー、入れてくれないか。」 「・・・へ?」 「・・食べようじゃないか、ケーキとやらを。」 「・・ええ、もちろん。」 私はそう言ってニコッと微笑む。 それを見た湯川先生も、いつもなら返してくれないのに私に微笑みを返してくれた。 ・・・何か、こういうの良いなぁとか思いつつ私はコーヒーを入れる。 見た目によらず、湯川先生が熱いのは苦手とか言うのも私しか知らないであろう。 「はい、先生。」 コトンという音を立てて私は先生の机にコーヒーを置く。 「・・・ありがとう。」 箱を近くに置きながら、何故か不満げな表情を見せる先生に私は、 「何でそんな顔してるんです?折角私が一緒に居るのに。」 「・・・さっきも言ったが、恋という感情に振り回されるのに僕は困っているんだ。・・・口づけの一つでもしたい何て考えてしまっている」 「くちづ・・・っ!?」 思わず私は自分の唇に手を当てる。 ・・・唇が熱い。 「・・・先生っ。」 座っている先生に声をかける。 「なんだ」 そう言いながらこっちを振り向いた、その瞬間を狙った。 ちゅっ 「・・・・!?」 「・・えへへ、しちゃいました。」 ・・・二人にとってのファーストキス。 不意打ちをやって正解だったのかな、・・・こんなに赤くなった先生を見れたし。 「・・・・前言撤回だ。」 「え?」 「・・・・ケーキを食べよう、と言ったが、先に君を頂こうとしよう。」 「・・・・・・・んなっ・・・!」 「・・・僕の理性が、・・・・限界だ。」 私の叫び声が響くのと、さっきよりも激しいキスが繰り広げられるのはこれの5分後ぐらいの別の話。 ・・・草薙さん、今日、私たちはかなり進展するみたいです。 「先生のばか・・・っ!」 二人の夜と一人の誕生日は、まだ始まったばかり、・・・みたい。 SS一覧に戻る メインページに戻る |