初夜
村井茂×村井布美枝


戌井が辞去した後、部屋に戻るともう夜もだいぶ更けていた。
フミエがいつもの様に茶の間に布団を敷こうとした。
シュラバでも完徹はしない主義の茂は、いつの間にかとなりに来て
寝入っている、というのがこれまでの習慣だった。

「ひと組は仕事部屋に敷いてくれ。」

(・・・またお仕事かな?もう締め切りは済んだのに・・・。)

フミエの胸がチクッと痛んだ。

(資料でも見ながら寝るんかも知れん。お邪魔したらいけんね。)

布団を敷き終わると「おやすみなさい。」とさがるフミエ。

ズッコケる茂。

しかし、気を取り直して寝巻きに着替え、フスマをあけた。
フミエももう寝巻きに着替えて、髪をすいている。ちょっとドッキリする茂。

「ちょっこしこっちに来てくれんかね。」

何か手伝って欲しいことがあるのかといぶかりながら入ってくるフミエ。

フスマを閉める後姿を茂が抱きしめた。

「向こうだと、いつ間借り人が降りてくるかわからんけぇ。
 だからと言ってこっちにふた組は敷けんしな。」
「そげに震えんでもええよ。・・・何もこわいことはないけぇ。
 ほったらかしにしてスマンカッタなあ。
 ・・・泣くな!まだ何もしとらん!」
 
 
*****

初めての痛みに耐えながら、フミエは今、自分の中に茂がいることに
幸せを感じ、胸をいっぱいにしていた。

「痛いか?最初っから気持ちええいうわけにはいかんじゃろね。なるべく
早う終わらせるようにするけん、ちょっこし我慢してごしない。」

閉じていた目を開けると、遠慮がちに動き始めた茂の、何かをこらえて
いるような、せつなげな表情が目に入った。
なぜだかふいに、たまらないいとおしさを感じて、フミエは茂の肩に
手をまわした。茂は浴衣を着たままフミエを抱いていた。フミエは、
茂の裸を見たことがなかった。

「私は、大丈夫ですけん。」

フミエは、浴衣のえりをそっとすべらせると、茂の左腕の痕跡に、
やさしく触れた。
・・・瞬間、茂はフミエの中に放っていた。

*****


 終わった後、寝入ってしまった茂に苦心して寝巻きを着せ直し、布団を
かけてやると、フミエは自分も寝巻きを着て茂の隣にもぐり込んだ。
すきま風の吹き込むあばら家で、ストーブに入れる石油さえなくても、
こうして二人寄り添っていれば、こんなにも暖かいということを、
初めて知ったフミエであった。






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